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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 八十三話 要のアイテム

 暗殺者──この場合、想定は『蜃気楼』だろうかと、アレルは考える。


(さっきの話で、手斧と暗器を使うって言ってたよな。だとすると、手斧の打撃にも耐えられて、不意をつく暗器にも反射で対応可能な取り回しの良さ。それから、ソードクラッシャーと一緒に使う事を考えると、長さも同程度のものか······)


 そうして、不意に視線を泳がせたアレルは、ロナが何かを伝えようと身振り手振りしているのに気が付く。

 それによると、並べられたものの右から三番目がロナのオススメの様であった。

 そして、視界にはロナに対抗してか、その横でセクシーポーズを披露しているパメラが見えるが、アレルはそれを意識から除外する。


「じゃあ、これで」


 睨みを凄ませる事で、急かしてくるダニーに、アレルはロナのオススメを指差す。

 すると、ダニーは素早くそれを手に取るとそのままアレルに差し出す。


「ほら」


「ああ、ありがとう」


 礼を口にしながら、アレルはダニーから一振りのダガーを受け取る。

 鞘から抜くと、身幅は厚く両刃造りのダガーで、順手でも逆手でも扱いやすい形になっていた。重さは少々軽いが、長さはソードクラッシャーとほぼ同じで、二振り同時に扱ってもそれ程違和感を感じなさそうだとアレルは感じた。

 そうして、アレルはダガーを鞘に戻すが、いつの間にかダニーは短剣類を纏めて荷車の方へ戻っていた。それから、再びアレルの前に戻って来たダニーの手には、二台のクロスボウとボルトが入っているだろう矢筒を三つ程抱えてくる。


「走行中の馬車で襲われた時は、これを使え。クロスボウなら、手綱を握りながらでもボルトは装填出来るだろ」


 ダニーはそれだけ言うと、アレルが砥石と羊毛が入った道具袋を樽の上に置いていた様に、隣の樽に一台のクロスボウと矢筒を置いて馬車の方へ歩いていく。

 その手には、もう一台のクロスボウの他に何やら工具の様な物が握られている。

 気のせいか、説明も無しにツカツカと早足で動くダニーが、アレルにはどこか焦っているみたいに見える。


「なあ、ダニーにはこの後に急ぎの用でもあるのか?」


 不意に溢した、アレルの素朴な疑問に、ロナはプッと吹き出す。


「いや、違うんだよ。ダニーは、パメラが苦手だから早いところ帰りたいのさ。それで、まだここでやる事があるのに、限界が近いからああなってるだけだよ」


「全くぅ、こんなに可愛いパメラちゃんのどこがそんなに嫌なのか、解らないわよねぇ」


 そう言いつつ、パメラはアレルの顔を覗き込む様にして、同意を求めてくる。

 しかし、アレルはそれに冷たい眼差しを返す。


(どうせ、可愛い妹を取られた腹いせに何かしたんだろ)


 そう思うアレルは、ため息と共に言葉も漏らしてしまう。


「······ダニーに同情する」


「なんでよぉ!?」


「まあ、人には得手不得手があるっていうけど、パメラの場合不得手に偏りがちだからね」


「ロナまでぇ!? もう、二人して酷いわよぉ!」


 むぅ、と判りやすくわざとむくれているポーズを取るパメラ。それは、付き合いの長いロナにも筒抜けなのか、アレルと共に長めのため息を吐く。

 だが、アレルは知っている。カーペンターという、ある種熱狂的なパメラファンが集まる店の存在を。


(パメラって、肉体労働系とか体育会系にモテるのかな? まあ、いいや。ダニーの事を考えると、俺は加工樽の出来を確認しておいた方がいいだろう。三分ではないにしろ、制限時間を過ぎると異世界恐竜パメラは、魔法特捜隊に任せるしかなくなる)


 ましてや、EXとかハイパーになったら大変だと頭の中で冗談を呟きつつ、手にしていたダガーを道具袋横に置いたアレルは、唯一上に何も乗っていない樽に手を掛ける。

 まずは、普通に蓋を開けると、底が浅くて上部の箍までしか上からでは入らない事が判る。それを確認すると、アレルはゆっくりと蓋を閉める。

 そこへ、アレルに声が掛けられる。


「アレルさん、何やっているんだい?」


「いや、さっきダニーも確認しろって言ってたからな。早く帰りたいって言うなら、少しは協力してやろうかなって」


「ウチの人の為に、なんかすまないね」


「別に構わないよ」


 申し訳無さそうにするロナの横で、『ねぇ、私は私はぁ?』と主張するパメラを無視して、アレルは樽の確認を再開させる。


 次に、アレルは樽の上部を両手で挟む様にして横に回す。すると、特に引っ掛かりを感じる事も無くスムーズにそれは回っていく。

 そして、数回回すと上部は外れ、その下の空洞が姿を現す。外した上部を見ると、外から見えていた箍は上部に付いており、接合溝を覆い隠す為か下半分に余分がある。

 その余分の意味はそれだけではなく、下部を留めている隠し箍にピッタリと隙間なく重なる様になっていて、外見では二つに分かれるとは想像も出来ない見た目を実現している。


「想像以上の出来だな」


 アレルは、外した上部の樽の内側に当たる部分に、取っ手がある事も確認しながら呟く。

 それから、アレルは先程から構われ足りないのか、主張が激しくなっているパメラを見る。


「パメラ、少しいいか?」


「はぁ〜い、今なら何でも答えるわよぉ」


 と、パメラは勢いよく手を上げながら、そのままの勢いで一回転する。そんなパメラに、ロナは額に手を当てて、肩を落としながらため息を吐く。

 しかし、アレルは敢えて何も反応せずに、開いたままの細工樽を指差す。


「パメラ、一回この中入ってみてくれないか?」


「えっ? 別にぃ、良いけれどぉ」


 一瞬驚いた様子のパメラだったが、直ぐにアレルの意図を理解したみたいでトコトコとアレルの隣までやって来る。

 そのパメラを、いきなりアレルはお姫様抱っこの様な形で抱きかかえる。


「ア、アレルちゃん!? 何してるの!?」


「ああ、悪い。パメラの格好だと入りづらいと思ってさ」


 パメラは、脛ほどまである丈のスカートを履いており、そのままでは踏み台も無しに樽の中に入るのは無理だろうとアレルは判断した。

 それ故に、アレルは断りも入れずに抱きかかえたのだが、パメラからは意外な反応が返ってきてしまった。


「じゃあ、下ろすぞ」


「うん」


 そうして、何事も無かったかの様に行動するアレルに、樽の中に下ろされたパメラはジト目を向ける。


「ん? どうかしたか?」


「別にぃ、アレルちゃんってそういう所があるのねぇ」


「は?」


 フンッ、とパメラは、意味が解らず首を傾げるアレルを無視して、外した上部を持って樽の中に引っ込んでしまう。


(······やっぱ、断り入れなかったのがマズかったのかな?)


 アレルは、バツの悪さから片手で後頭部を軽く掻きながらも、樽の蓋代わりの上部が閉まり切るのを確認する。

 そして、中のパメラに声を掛ける。


「なあ、狭かったりしないか?」


「大丈夫よぉ。さすがに、一時間とかは無理だけどぉ、三十分ぐらいなら大丈夫かしらぁ」


 くぐもった声で、パメラはアレルに応える。

 その声には、無理している様な様子はなく充分余裕があるみたいだった。


(身長は、パメラより高いのがミリアだけだよな。まあ、その身長の差もパメラには埋められるものがあるし、概ね問題はないだろう)


 そう感じたアレルは、樽に関しては問題無いと判断する。


「パメラ、ありがとう。もう出てきて大丈夫だ」


「そう、分かったわぁ」


 そう返事すると、内側から樽の上部がクルクルと回される。そうして、樽が開くと中からパメラが、さながらマジックショーのパフォーマーの様に出てくる。


「イッエ〜イ!」


 勢いよく出てきたパメラは、頭の上に掲げた樽の上部を横に置くと、アレルに両手を差し出す。

 更に、ニコニコと笑みを向けてくるパメラに、アレルは首を傾げる。


「えっ······と」


「出させてぇ」


 早くぅ、と身体を揺らすパメラに、そういう事かとアレルはため息を吐く。


「解った」


 そう言うと、アレルは速やかにパメラを抱きかかえるが、パメラの方はやたらと身体を密着させてくる。

 それが、先程の意趣返しだと理解したアレルは、嫌がりながらも早くパメラを下ろそうと素早く行動する。


「ほら、下りろよ」


「えぇ〜、もう少しこのままでもいいじゃなぁ〜い?」


 そう言って、駄々を捏ねるパメラの背後に忍び寄る影がある。

 その影がアレルに目配せしてくるので、アレルはやってくれと頷く。

 すると──


 ──パッカァーン!!


「痛ぁ〜いッ!」


「アンタは、アレルさんに迷惑掛けるんじゃないよッ!」


 ロナ愛用のミニパンで頭を叩かれたパメラは、咄嗟に頭を抑える。その隙に、アレルはそっとパメラを下に下ろす。

 そのままへたり込むパメラを見ながら、自分にも悪い所があったなとアレルは反省するのだった。



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