一章〜拠り所〜 八十話 忍び寄る影
「別に構わないけど、どうしたんだ? そんな神妙な顔してさ」
アレルは、自身の緊張を紛らわせる為に敢えて軽い態度でロナに応える。
しかし、ロナの表情は険しさを増していく。
「まず、アレルさんには訊きたい事があるんだ。アレルさんの腰の剣、前の持ち主は『騎士狂い』のデジルで間違いないかい?」
「······ああ、その騎士狂いってのは知らないが、デジルって名前は聞き覚えがある」
アレルは、林で聞いた傭兵の名前を思い出して頷く。
すると、ロナはアレルから視線を外すと吐き捨てるみたいな舌打ちをする。
「一応、用意してきたからいいけどさ······パメラッ! アンタも、もっと早く言いなよっ!」
「ロナぁ、ゴメンねぇ。私もぉ、昨日今日でだったからぁ。これでもぉ、今までで最速で伝えたのよぉ」
まるで、怒鳴りつけるみたいにパメラを叱責するロナに、パメラは手を合わせて平謝りする。
しかし、そのやり取りに状況が飲み込めないアレルは、ただただ呆然とする。
「なあ、どういう事なんだ? アイツ等が殺されたっていうのと、何か関係があるのか?」
そんな困惑を顕にするアレルの横で、ダニーは荷車の荷解きに取り掛かる。
一方で、アレルの声にハッとしたロナが、表情を柔らかくしてアレルに向き直る。
「あっ、アレルさんゴメンね! というか、パメラのヤツから何も聞いていないのかい?」
「いや、デジルとビクスンっていう······まあ、俺と一悶着あった傭兵が殺されたとは聞かされたけど」
アレルがそう答えると、ロナは深いため息を吐いてパメラを睨みつける。
「ったく、アンタは本当に説明がいつも足りないんだよ! アタイの時も、代わりの長剣を用意しろって結論だけ伝えてきたと思ったら、アンタの所の人間が描いた人相書きを見ろだとか、全部理解するのに随分と手間が掛かったんだからッ」
「え〜!? でもぉ、アレルちゃんはもう理解出来たでしょぉ?」
パメラに対してロナは憤慨するが、パメラは飄々とした態度でアレルの方へ視線を傾ける。
それに、アレルは反射的にここまでの会話を振り返る為に、視線を上に向ける。
「······ああ、成る程。殺された傭兵が見つかった時点で、俺が関わった傭兵だって気付いたのがたぶん昨日の夜。それから、パメラが俺の騎士剣を交換する必要性に気付いて、ロナに代わりの長剣を頼むついでに傭兵二人の素性を確認させた······ってところで、合ってるか?」
「概ね、その通りよぉ。さすがぁ、アレルちゃんねぇ」
パチパチ、と両手を叩いてアレルを褒めるパメラに対して、ロナは驚きのあまり開いた口が塞がらなくなっている。
「なんで、これだけで判るんだい?」
「さあ······勘かな?」
「アレルちゃんってこういう人だからぁ、会話が楽で良いのよねぇ」
フフフ、とどこか自慢気なパメラに、ロナは混乱しつつも呆然としてしまう。
しかし、まだ伝えていない事があるのか、ロナは頭を振って気持ちを切り替える。
「いやいや······驚いてる場合じゃないんだよ。あくまで、商会のヤツから話を聞いただけだから確信は持てないんだけど、騎士狂い達はほとんど抵抗出来ないまま殺されていたみたいなんだよ。二人共、首筋を一撃で斬り裂かれたらしくて、ほぼ同時に殺られたんじゃないかって。身ぐるみが剥がされていない事からも、手練れの暗殺者の可能性が高いよ」
やっと話せた、とロナは一息つく。それを、アレルはそこまでがパメラに頼まれた事だったんだろうと考える。
だが、そこへ当のパメラが口を挟む。
「ねぇ、ロナの見立てだとどんな人物だと思うのぉ?」
その遠慮のないタイミングに、ロナは表情を歪ませるも、律儀に答える。
「実際に見てないからアレだけど、聞いた限りの状況じゃ手練れの暗殺者。それも、二人をほぼ同時に殺れる凄腕か、二人の油断を誘える顔見知りかってところだね。まあ、実際に死体を見ていればもっと言えた事もあったかもしれないけど」
ロナは、パメラに対して嫌味代わりの悪態をつき、やれやれと肩を竦める。
ただ、ロナの話に引っ掛かりを感じたアレルは一人考え込むが、それを他所にパメラはロナに微笑む。
「仕方ないわよぉ、さすがにウチでも殺害された遺体なんて押さえておけないしぃ、殺された状況を伝えられただけでも感謝して欲しいわぁ」
「そうは言ってもね──」
「なあ、暗殺者が女って可能性はないか?」
突然、ロナがパメラに反論しようとしたのを遮り、アレルが根本を崩す様な一言を言い放つ。
それに、ハッとしたのはロナの方、片やパメラは少し呆れた反応を返してくる。
「アレルちゃん、さっきも言ったけどぉ、この国では暗殺者が蔑視されているのよぉ。それなのにぃ、わざわざ女の子が暗殺者になる事なんてないわよぉ」
「いや、でも女が暗殺者なら大概の男は油断するし、今のパメラみたいにその考えすらないなら疑いも掛けられづらいんじゃないか?」
その考えに、パメラは難色を示すが、それまで黙っていたロナが口を挟む。
「待って。······アタイに、一人だけ心当たりがあるのを思い出したんだ。昔、一人だけやり合った事があるんだ。女の暗殺者と」
「ロナッ!? 本当なのぉ?」
表情を重くするロナに、そのロナの発言に心底驚いた様子のパメラ。
そんな二人を見ながら、アレルは続くロナの言葉に身構えるのであった。




