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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 八話 分水嶺

「「えっ!?」」


 アレルの、思いもしなかった行動に、姉妹は揃って驚きの声を上げた。

 そして、後頭部を強打された騎士は、白目を剥いてその場に倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。


 その結果に、アレルは少し焦って慌てて騎士の頸動脈に指を当てる。


「ヤバッ······よし、ちゃんと生きてるな。変な倒れ方するから、マジで殺っちまったかと思った」


 脈を確かめ安心したアレルは、騎士がミリアを縛る為に出したロープを拾い、気絶している騎士の両手をしっかり縛り上げる。


「オイッ、貴様ァ······一体何が目的だッ!?」


 そこに、アレルの行動の意図が解らず、警戒を強めるミリアが叫ぶ。

 アレルは、自分が本当に盗賊だったら、それは逆効果じゃないかと思う。


 そうして、ミリアを無視しつつ、髪や身形を整えたアレルは、茂みに向かって手を上げる。


「おーい、もう出てきても大丈夫だ」


「はい、分かりましたぁ。今、そちらに行きますぅ」


「今の声は!?」


 聞き覚えのある声に、咄嗟に反応したミリアを他所に、ガサガサと茂みを掻き分けてアリシアが姿を現す。


「「アリシア」様ッ!?」


「メリル、ミリア、二人共大丈夫だった?」


「私達の事より、アリシア様は?」


「私は、彼に······アレルに助けてもらったから」


 二人の元に、駆け寄ったアリシアは姉妹と互いの無事を確認しあっていたが、アリシアの言葉で三人の視線がアレルに集まる。


「えっ······と、あの方は盗賊ではないのですか?」


「アリシア様、姉さん、下がって下さい。アイツは、私が斬り伏せます」


 何故か、助けたはずの二人からのあまりの言い様に、アレルは肩を落とす。

 そして、奇策の一環とはいえ、本気で盗賊を演じた事を後悔する。


「······なあアリシア、俺は二人を助けなかった方が良かったのか?」


 縛られたままの二人の、自身に対する扱いがあんまりだと感じたアレルは、アリシアに救いを求める。

 ただ、内心では二人にとって自分の認識は、未だ盗賊だろうから仕方ないかとも思う。


「い、いえ!? 助けて頂いて、とても感謝しています。メリルもミリアも、アレルに──」


 アリシアの弁明中、アレルはおもむろに騎士剣を抜きながら、縛られたままの姉妹に近づく。


「危ないッ!?」


「クッ!?」


「?」


 メリル、ミリア、アリシアと、三者三様の反応を見せながらも、アレルはそれらを無視して騎士剣で姉妹を縛るロープを切った。


(目を瞑ったり、諦めたりって反応はともかく······頼むから、アリシアは少しぐらい警戒してくれよ)


 自身を全く疑わないアリシアに、脱力させられたアレルは深いため息を吐く。


「「えっ!?」」


「ほら、これで自由に動けるだろ? 俺が引き受けたのは、ここまでだ。······あと、ついでに言っておくと、デジルって騎士は林道の方で縛って捨ててある」


 言いながら、アレルは騎士剣を鞘に納めると、アリシア達に背を向ける。

 それに、メリルは申し訳無さそうにして、ミリアは面白くなさそうに鼻を鳴らす。


「えっと······ありがとうございます?」


「······私は、礼など言わないからな」


「ああ、別に構わない」


 どうせもう会う事もないだろうと、アレルは振り返る事なく林の奥へと歩く。

 たがそこへ、アリシアが待ったをかける。


「ねえ、アレル······どこ行くの? ······どこに、行かれるのですか?」


 わざわざ言い直したアリシアに、違和感を感じたアレルだったが、それでも止まる事なく応える。


「頼まれたのは、二人を助けるところまでだったからな。騎士が乗ってきたっていう馬を貰って、コルトって街にでも行こうと思ってさ」


「行っちゃ······行ってしまうのですか?」


「へ?」


 声を震わせるアリシアに、思わずアレルは足を止めて振り返る。

 すると、どこか不安げな表情で、無意識にヨタヨタと力無く自身に近づくアリシアに、アレルは反応に困って言葉を失う。


「どうしてなのですか?」


「どうしてって、約束したのは二人を助けるところまでだったろ?」


 まるで、追い縋るように問い掛けるアリシアに、アレルは狼狽える。

 しかし、アレルの方もこれ以上は情が移って、引き返す事が難しくなるのも解っている。


 そんな、自身の今後を決定づける分水嶺に、アレルはただ呆然と立ち尽くしてしまう。


 そんなアレルの事情は知る由もなく、ミリアがアリシアに駆け寄る。


「アリシア様······」


「······」


 そんなミリアの気遣いも、今のアリシアには届かず、アリシアはじっとアレルの眼を見詰めたまま動こうとはしない。

 アレルの方も、そんなアリシアに掛ける言葉が見つからずに、ただただ困惑してしまう。


 ──パンッ!!


 そんな膠着した状況に、突如両手を叩く乾いた音が鳴り響く。

 音の出処は、それまでアリシアの様子を観察していたメリルだった。


「まずは、自己紹介でもしませんか? アタシは、メリル二十歳です。それから、医術師をやってます。次は、ミリア?」


 メリルは、戸惑う一行を無視して強引に自身の紹介を済ませて、主導権を掻っ攫う。その流れで、最も御しやすいミリアに話を振る。

 そんな事より、アリシアの様子が気になるミリアは抵抗を試みるが、ミリアにはメリルに抗う術がなかった。


「姉さん······クッ、ミリアだ」


 歯噛みしながら、渋々応えるミリアに、メリルはため息を吐く。


「もうっ、ミリアったら······まあ、いいわ。この娘は、一応アリシアと同じ十七歳です。それでは、次は貴方にお願いしますね?」


 そうして、流れるようにアレルへと話を振るメリルに、アレルは首を横に振る。


「悪いが、俺はもう──」


「せっかく助けて頂いたのに、恩人の名前すら知らないなんて悲しいです」


 この場で別れるからと、紹介を断ろうとするアレルに、メリルは全てを言われる前に口を挟んで、涙を拭くような仕草をする。


「······アレルだ。まあ、とはいえ記憶喪失だから、名付け親はアリシアだけどな」


 決して、自分からは折れない頑なさを感じさせるメリルに、アレルは諦めてため息混じりで渋々応じる。

 しかし、『記憶喪失』という言葉に、メリルは目を光らせる。


「記憶喪失!? それは、大変ですね。でも、それでしたらお一人だと不都合なども、おありになるのではありませんか?」


「うっ······ああ、まあ······な」


 ただでさえ記憶喪失の上に、今いる場所は異世界だ。

 地理は勿論の事、常識すらまともに知らないアレルは、その不安を見抜かれてしまう。


「でしたら、私達と共に行きませんか?」


「姉さんッ!!」


 どこか、アレルを毛嫌いするミリアが抗議の声を上げる。

 だが、それはメリルの無言の視線によって却下される。


「······ふぅ、これでも私は魔法に詳しい人物を知っています。その方なら、魔法で記憶を呼び覚ます事も出来るかもしれませんよ」


「······ソイツとは、どこで会える?」


「教えたところで、お一人で行けますか? 記憶喪失なのに?」


 そう言って、メリルはにこやかな笑顔でアレルの逃げ道を塞ぐ。

 その強かな笑顔に、アレルは抵抗する事を諦める。


「······もういい。手っ取り早く条件を言ってくれ」


「あら、いいのですか? それなら、目的地まで私達を護衛してくれませんか?」


 口では遠慮しておきながら、満面の笑みでメリルは勝ち誇るみたいに要求する。

 やり手のメリルに、アレルは最早白旗を揚げる事しか出来なかった。


「要求は理解した。でも、魔法なんて使わずとも、俺の記憶が戻った場合はどうなる?」


「それなら、何か別の形で報います。まあ、直ぐに出来ることは道案内ぐらいでしょうか? 街までの道も、分かりませんよね?」


(まあ、言う通りで反論のしようもないな。しかし、護衛か······逆賊と呼ばれながら、騎士から逃げる高位貴族のアリシア。果たして、俺程度で護衛なんて務まるのか?)


 アレルは、要求を受け入れる覚悟をするが、自身の実力に不安を感じる。



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