一章〜非望〜 六百九十一話 魂を同じにする者
ベイトが二人、パッと見ではそう思ってしまっても仕方がない程にそっくりな人物が勝手口を出た所で立っている。そんな想像もしていなかった状況に、アレルは他に考えるべき事もあるはずなのにも関わらず、目の前の不可思議な状況の事以外考えられなくなる。
姿形をそっくりに真似る魔物か、それともその様な効果を齎す魔法道具なのか。はたまた、それこそ姿を消す魔法があるぐらいなのだから、姿を変える魔法かもしれないと考えてしまう。ただ、そこまで考えたところで不意に双子かと、何故かアレルは最後に最も常識的な考えが頭に浮かぶ。そのせいか、アレルは少し異世界に毒されてきているなと感じてしまう。
しかし、双子だと思ってしまえばベイトの魂が繋がっているという発言にも納得が出来る。元の世界でも、双子は何となく互いの思っている事が解り合ったり、生まれて直ぐに別の家に引き取られた双子が大人になって偶然再会しそこに至るまで似たような人生を歩んでいたなんて話も聞く。魔法なんてものがない元の世界でそうなのだから、魔法があるこちらの世界では本当に魂が繋がっていても不思議ではないとアレルは思う。
「あん? ベイト、お前顔を傷付けられたのか?」
アレルがそんな事を考えていると、ベイトの兄の方がベイトの負傷に気が付く。それに、何故かベイトはビクッと身体を震わせて怯えるみたいな反応を返す。
「ち、違うんだよっ! コレは、アイツが妙な動きを──」
「ベイト、言い訳は要らねえ。事実だけを話せ」
「──ッ!? あ、ああ······アイツに、やられたんだ」
ベイトの言葉に、ベイトの兄はアレルを睨みつけながら、ゆっくりと勝手口から離れてベイトへ近づいていく。そして、ベイトの前まで行くとベイトが顔を押さえる手を掴んで顔から離させる。
「ベイトぉ、お前どうして顔を狙われたか判るか?」
「へ? え、えっと······それは、アイツがオレを殺そうとしたからじゃ?」
そうベイトが返した瞬間、ベイトの兄は掴んでいたベイトの手を離し、その手で今度はベイトの首を絞める様な勢いで掴み上げる。
「違えよ、この馬鹿野郎ッ! テメェが防具なんて着込んでいるから、顔なんて狙われるんだろうがっ! ああッ?」
「ウグッ──ご、ごめんよ······兄ぎぃッ!」
顔の傷をそこまで責めるなんて、アイドルか何かかとアレルは思うが普通に考えて双子の入れ替えで何かをしてきていたんだろうと思い直す。ただ、アレルはこれをベイト達に冷静さを欠かせる好機と捉え、火に油を注ぐ事にする。
「なあ、俺の考えた通りの事でキレてんなら、お怒りのお兄様の顔にも同じ傷を付けてやろうか? 同じに見えれば、問題なくなるだろ? あっ、でも手元が狂って逆になったらごめんな。俺としては、見分けが出来た方が楽だからさ」
「あ゛ぁ゛?」
ピキピキと、アレルの挑発に青筋を立てるベイトの兄は自然とその手に力が入ったのか、ベイトがより苦しそうな顔をして首から兄の手を外そうと藻掻く。その為か、無造作にベイトの首から手を離したベイトの兄は、解放されて咳き込むベイトへ視線を向ける事なく一言だけ口にする。
「オイ」
「ゴフッ、ガッ······ああ゛、解ってる······ッフ!」
そうして、アレルへ向き合うベイトは再び流星錘を回し始め、ベイトの兄はベイトの腰からダガーを抜いて構えてくる。おそらく、ベイトの兄の言葉は二人で殺るぞとでもいう意味だったのだろう。
しかし、アレルは一対二という不利な状況の今こそが逆に好機だと考える。何故なら、流星錘の様な武器は味方がいる所では巻き込む危険がある為に、これまでの様に自由自在に振り回す訳にはいかなくなる。つまり、未だベイトの兄がどんな戦い方をするのか判らないが、厄介だった流星錘の攻略の難度はぐっと下がる事が期待出来るとアレルは考える。
「まったく、二人掛かりなんて過大評価もいいところだよ」
言いながら、アレルは二人を相手にするならばと鞘へ納めたソードクラッシャーを再び手にする。
そこへ、ベイトの兄がダガーを持っていない左手の掌をアレルへ向けてくる。それに、一体何の意味があるのかとアレルが不思議に思っていると、その直後にベイトの兄が何かを呟く。
「······風掌」
瞬間、ベイトの兄の手から風の塊がアレルに向かって射出されたのがアレルの目には映る。風なんて、基本的には不可視のはずなのにおかしいなとアレルは思うものの、どうせ使いっぱなしになっている風詠が何か作用しているんだろうと軽く流す。
それよりも、思考を風の塊の迎撃に向けたアレルは、結果がどうなるか判らないが取り敢えずソードクラッシャーで風の塊を縦に裂く。すると、風の塊は割と呆気なく左右に割れて露見してしまう。
しかし、アレルを襲う脅威は終わらずに、その後ろからベイトの兄がダガーを構えて迫ってきていた。それに、アレルが両手の武器を交差させて受けの構えを取ると、突然ベイトの兄は何もせずに横跳びで進路を変えてしまう。
「もらったぁ!」
直後に、そのベイトの兄が背中で隠していたベイトの流星錘が、アレルの不意を突く形でアレルの目前へと迫ってくる。ただ、風詠でベイトの兄の背後からの飛翔物の接近に気付いていたアレルは、眼前の錘に驚く様な事もなくダガーで叩き落としてしまう。
ただ、問題はその後で進路を変えたベイトの兄が、アレルの側面から接近してその手のダガーを振り上げてくる。
「させません!」
瞬間、その声と共に放たれた投げナイフがベイトの兄へと飛んできて、それでアレルへの攻撃を即座に取り止めたベイトの兄はベイトの近くへと速やかに退いていく。
そうして、仕切り直しの様な空気に落ち着いたのを見計らって、アレルは投げナイフの出処を視線で追っていく。すると、それは勝手口からで、そこでは何故か薄汚れた状態のルチアーノが肩で息をしていた。
「ルチアーノ?」
アレルがそう口にすると、勝手口の前に立っていたルチアーノは投げナイフを片手に、ベイト達を警戒しながらアレルへと駆け寄ってくる。
「すみません、遅れました」
「いや······大丈夫か? なんか、服装が大分アレな感じだけど」
「問題ありません。それよりも、間者はガロンという者でした。依頼者は王都で、内容は公国側へ逃げている気配のする者を殺せという漠然としたものでした。······どうやら、ここに来る道中でアレル様が妙に鋭い反応をするから狙われたらしいですよ」
そんなルチアーノからの報告に、アレルはよくそんなに聞き出したなと思いつつも最後の皮肉に顔を歪める。
「へえ······ボロボロになった甲斐はあったって事だな。つうか、それだけ話すって事はこっちを生かしておく気は無いって事だよな」
──ドンッ!
そこへ、突如として地面を強く踏みつける音がアレル達の耳に届く。なので、その音の出処であるベイト達へ意識を向けると、二人は声も出さずに口論をしているみたいな動きをしていた。
それに対して、サイレント映画みたいだなと思いつつ、アレルはこれまでのベイト達の不可思議な点について考え始めるのであった。




