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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 五百九十四話 秘めた想いを伝える時は決まっていて

 一矢報(いっしむく)いた、そんな話ではなくアレルはミゲルの後ろ姿に何とも言えないモヤモヤとした気持ちを感じてしまう。こんな、どんな結果に落ち着く事になったとしてもスッキリしない問題なんかに首を突っ込みたくなかった、それがアレルの本音だった。

 そんな風に、苦虫を()み潰した様な気分でいたアレルだったが、そのアレル以上に暗い表情をしているアリシアにアレルは声を掛ける。


「なあ、大丈夫か?」


「えっ!? あっ······うん、なんかね······やっぱり、帝国人って事で身構えていたのを悟られちゃってたんだなって······ね」


「仕方ねえだろ······これまで、帝国がやらかした色々を知ってるんだから身構えて当然だろ? それ以外に、アイツの事で知ってる事が無いならそうするのが普通で、そうしなくて済むのは何も知らない俺みたいな奴だけだよ」


 既知(きち)無知(むち)の差、アレルは自身とアリシアの態度の違いをそうやって説明する。しかし、アリシアはゆるゆるとしながらもしっかりと首を横に振ってアレルの言葉を否定してくる。


「違うよ······他の人はそうでも、アレルだけは違うと私は思うよ」


 いや、それは流石(さすが)に持ち上げ過ぎだと、アリシアのそうであって欲しいという願望が含まれているんじゃないかとアレルはアリシアの顔を見る。すると、アリシアは先程までの暗い表情から一転アレルへ微笑みを向けてくる。


「アレルはね、いつも肩書(かたがき)や他の事なんか気にしないで、私を私自身として見てくれてるから」


「······買いかぶり過ぎだよ」


 アレルは、顔をアリシアから背けて下を向くが、その正面に回り込みしゃがんだアリシアにその顔を(のぞ)き込まれてしまう。


「ううん、私の事を知った後でも、アレルは態度を変えないでしょ?」


「······その様な事、私が何時(なんどき)致しましたでしょうか?」


「もうッ、馬鹿!」


 わざと(うやうや)しい態度で接したアレルに、アリシアはバシッとアレルの膝を叩いて立ち上がってしまう。それに対して、アレルはこのままアリシアの怒りを買っているのも嫌だなと思い、直ぐ様火消しに取り掛かる。


「でもさ、アリシアの場合は色々とあったから、他者を疑ってかかるしかないって仕方がない部分だってあるだろ? それなのに、俺に対してはそこまで警戒なんてしてないから、俺は同じ様に接しているだけだ」


「もう······また、そうやって私の事を言い訳にするんだから」


「いや、別に言い訳してる訳じゃなくてさ······」


 ジトッと、アリシアに不服そうな視線でにらまれたアレルはまたしても視線を()らしてしまう。しかし、今度のアリシアは自身の両手を胸の下辺りで合わせて、どこか恥ずかしそうにする。


「あのね······私が、アレルの事を信じられるのは上手く説明出来ないけれど、私アレルの事なら解るよ」


「俺の事?」


「うん、だってアレルはいつも最初はなんだかんだで警戒してるけど、相手が直ぐにはどうこうしないって判ると変な先入観とか無しに接し始めるでしょ? だからきっとね、ここに来るまでアレルに協力してくれた人達もそんなアレルだったから助けてくれたし、たぶん今だってアレルの事を心配してるんじゃないかな?」


 果たして、アリシアの言う様な事を自身はやってきたのかのかと、アレルは疑問に思う。

 確かに、ここまで色んな人達に助けてもらってきたが、そのほとんどはパメラが貸してくれた朱羽根がきっかけになっている。それを知らないアリシアだからこそ、そんな風に自身の事が見えているのではないかとアレルは考えてしまう。何故なら、アレルは自分がそこまで他者とのかかわり方が上手い方ではないという自覚がある。

 それは、自身の失った記憶の中で唯一ヘドロの様に残り続けるたった一言(ひとこと)の言葉、お前なんか死んじまえという少年の言葉が何よりの証拠(しょうこ)となっている。もしも、自身がアリシアの言う通りの人物ならば、そんな事を言われる事はなかっただろうとアレルは思う。


「それは、違う······そうなったのは、他の要因が既にあったからなんだ。今は、アリシアに話せない事なんだけど」


「違くなんてないよ。だって、さっきの人も言ってたもん。アレルは不思議な人だって」


「は?」


「アレルが起きる前、アレルがどこまで聞いていたかは判らないけど、あの人アレルの言った事には共感出来ないけどアレルが優しい人なのだけは理解出来たって言ってたの。それだけは、他の要因なんて関係なくアレル自身のものなんだって私は思うから」


 アレルがアリシアの顔を見ると、僅かに(うる)んで宝石の様に輝く氷青の(まなこ)が真っ直ぐにアレルを見詰めていた。その美しさに、どこか気圧(けお)されたみたいになったアレルは反論の言葉を失ってしまう。


「私もね、最初はその場だけ助けて直ぐに去ろうとしてたから勘違いしてたけど、あの時のアレルってそれ以上関わったら放っておけなくなるのが判っていたから、私から離れようとしてたでしょ?」


「······さてね」


 アレルは顔を背けて(とぼ)けるも、目の前のアリシアにはクスッと笑われてしまう。


「そんな事を言っても、結局私の事を見捨てられないで助けてくれたでしょ? アレルだって、自分の事で大変なはずなのに」


「あん時は······アリシアが、割と強引に頼み込んできたんじゃなかったか?」


「そうだったかな? 忘れちゃった」


 テヘヘと、アリシアは先程の意趣返(いしゅがえ)しとばかりに(とぼ)けてくる。そんなアリシアに、今度はアレルの方がジト目を向けるもアリシアはそのまま続ける。


「でもね、私本当は知ってたんだ。あの林の中で、捕まった二人を助けた後メリルに何か言われてたでしょ? けれど、アレルにはそんなのを無視して、そのまま私達と離れる事も出来た。それでも、アレルはちゃんと私達の前に戻って来てくれた。······いい加減な所もあるし、分からず屋で独りよがりの所も(たま)にあるけど、それでも困ってる人に対しては自分を後回しにして出来るだけの事をしようとしてくれる。私ね、あそこで会えたのがそんなアレルで本当に良かったって思ってるの」


「それは······──ッ」


 自分の方だと、異世界から来たなんて到底信じ難い事を信じてもらって、本当なら今の自分がいる場所はもっと強い人物がいるべきなのにそれでも頼りにしてくれて、その事が自身の精神的支柱となっている。そう言いかけて、それをアリシア本人に伝えてしまって良いのかと思い留まり、アレルは言葉を詰まらせる。

 現状のアリシアは、既に色々な責任や事情なんかを背負っている。それなのに、こんな中途半端な自身の想いまで背負わせる訳にはいかないと、アレルは()り上がってきた想いに固く蓋をする。


 そう、こんな気持ちなんて伝えるのは最後に別れる時で充分なのだからと。


「アレル?」


「いや、ごめん······気にしないでくれ」


 アレルがそう言うと、アリシアはどこか戸惑いつつも話を続ける。


「うん······えっと、それでね······だから、私アレルと出会えた事を後悔したくないんだ。それで、その······約束して。私が後悔しない様に、アレルは無理や無茶を重ねないって······出来る範囲で良いから、私の前から急にいなくなったりしないって」


 言い終わり、アリシアは遠慮がちに()()ずと右手の小指だけを立ててアレルの方へ伸ばしてくる。

 そんな不安そうな姿に、感謝を返す事が出来ないアレルは代わりに自らも右手の小指を立てて差し出す。


「なんか、前にも言った様な気がするけど、いなくなる時は別れの挨拶(あいさつ)ぐらいはしていくよ」


「それはッ······アレルが、危なかっしいからでしょ? だから、何度も言っちゃうのはアレルのせいなんだもん」


 確かに、言われてみれば自身の不甲斐(ふがい)なさで随分(ずいぶん)と心配させているかもしれないとアレルは(みょう)に納得してしまう。


「それに関しては、素直にごめん」


「うん······破ったら、嫌だよ」


 そうして、アレルとアリシアは互いにどこか照れ臭そうにしながらも、お互いの小指を絡ませて指切りを()わすのであった。



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