一章〜非望〜 五百八十四話 招かれざる者達
列に並び始めて、それなりの時間が経ってはいるものの中々門までは行けない。止まっている分、馬達もそれ程疲れてはいなさそうだが降り続ける雨を鬱陶しそうにしている。
ただ、前方の様子はそれなりに見える様になってきていて、不思議なのが普段なら門兵が二人であるはずなのだが見たところ三人いるみたいだった。それに加えて、やはりというかアレルの当たって欲しくない推測通りに、門兵達とは装備の違う者が二人程門の付近を彷徨いている。装備自体は、門兵達と同様の軽装備なのだが、物は明らかに二人組の方が上質な物だと判る。
おそらく、あの二人が王都からやって来ている兵士という事なのだろうとアレルは考える。シープヒルの一件で、警備強化の名目で新たに送られた王都兵はエリオットが止めているはずだが、それ以前に国境へ派遣された兵士達の一部が、ここの様に主要な街などに出張っているのかもしれない。そう感じたアレルは、精神感知を使って瑠璃へ注意を伝える。
(瑠璃、門の近くに王都兵みたいな奴がいる。アリシア達に、一応隠れる準備と注意する様に伝えてくれるか?)
──はい、少しだけお待ち下さい。
瑠璃はそう返してくると、しばらくアレルは暇になる。なので、アレルはフードを目深に被って視線を読まれない様にしつつ、前方にいる王都兵の動きに注視する。
王都兵は、何をするでもなしに街へと入る人々を眺めている。だが、そうして観察していると、街へ入る人々の中に女性の姿を見つけると門兵達とは別に声を掛けているみたいだった。
(······例え一人でも、それが女性なら声を掛けている様な状態だな。つまり、連中は既にアリシアが単独行動している事も考えている訳か······そうなると、こっちも少し対応した方が良いな)
アレルは、瑠璃の邪魔をしない様に精神感知を切って考えを纏めていたが、具体的な対応が決まった為に再度精神感知を使う。
(瑠璃、今大丈夫か?)
──はい、丁度アリシア様へ伝え終わったところです。
(それなら、追加で俺が瑠璃に合図を送るから、それでアリシアだけが樽に隠れる様に伝えてくれるか?)
──アリシア様だけで、よろしいんですか?
瑠璃は、隠れるならメリル達も一緒の方が良いんじゃないかという感じに訊き返してくる。それに、列の順番がまだ先なのでアレルは丁寧に説明をする。
(瑠璃、王都兵がいる事はアリシア達にも伝えたんだよな?)
──はい。
(その王都兵なんだが、アリシア達全員を探しているなら、女性の三人組に確認をするはずだろ? それが、女性一人に対しても確認をしているから、アリシアが単独で動いている事も想定した探し方をしてるんだ。だから、アリシアがそこにいるとフードを取れって言われるはずだから、アリシアは隠れていないと危ないんだ)
──あの、アイツは良いとしてメリル様はよろしいのですか?
未だに、瑠璃はミリアを嫌悪しているみたいで今の様な場面でも邪険に扱うが、メリルの事は気になるらしく確認をしてくる。
(メリルは、あまり顔を知られていないって話だからな。顔を見せろって言われても、大丈夫な可能性が高い。一応、ミリアの方の事を話すとミリアは男装をしているから、声を低くして喋れって伝えておいてくれ)
──······は〜い、解りました!
その返事に、何か含みを感じたアレルはどこか嫌そうにしているのだけは解って一度精神感知を切る。
ただ、目前に無視出来ない事柄が迫っている為に、アレルは瑠璃のそんな部分に気を緩めてなどいられない。門の前に並ぶ列には、徒歩の人だけでなく馬車も数台待たされている。そして、丁度今その内の一台が門兵達の前に躍り出る。
総勢五名、その内一名が街の入口に立ち塞がり他の四名が馬車に乗る人と積み荷の確認に動く。積み荷の方が門兵の二名、人の方の確認には王都兵の二名が担当し、それぞれの仕事には口出しをしないという取り決めがあるみたいな動き方をしている。ある意味、そういった連携が取れないのは当たり前ではあるのだが、アレルはその理由に関して何か引っ掛かる事があってそれが何かを思い出そうとする。
(王都兵と門兵が、そこまで仲の悪い理由······少し前に、何かを聞いた様な気がしてるんだけど何だったかな? コルトではなかっただろうし、シープヒルでは······そうだッ! シープヒルで聞いたんだ。守備隊の報酬が、確か辺境伯の私軍を通して支払われているとかで、所属自体は辺境伯の私軍扱いになるとか言っていたんだ)
その話から、アレルは同じブルックス領のミッテドゥルムの門兵達もそうであるなら、国境で王都兵を追い返したという辺境伯の領地で上手く連携なんて出来る訳がないと考える。
まず、門兵達は辺境伯の配下である訳なのだから、主が自領には不要と判断している王都兵と仲良く出来る訳がない。一方で、王都兵の方も自分達を良く思ってない連中と協力なんて出来るはずもなく、そんな中で任務を優先するなら第一目標だけでもと思うのは当然の流れだとアレルは思う。
(それでも、荷物の方を門兵達が担当してるのは何でなんだ? ······まあ、その辺は王都兵がかなり横暴に見えるからな。荷物を駄目にされた場合、その不満が領主の辺境伯へ向かいかねないってのがあるからか)
見ていると、王都兵は調べている人に対してかなり横柄な態度を取っている様で、雨音で聞こえづらいが調べられている人が声を荒げているのが判る。その反対に、荷物を調べている門兵達はとても丁寧に一つ一つの荷物を扱っている。
その光景を見て、アレルは妙に納得してしまう。だからこそ、門兵は三人目が入口で立ち塞がっているのかと。
(ああする事で、同じ軽装備でも一目で両者の違いが判る為に、街の入口を守る方が元々街の防衛に当たっている者達だって判る。それに、王都兵が権力を笠に好き勝手やっているなら、抵抗された時に王からの勅命だとか言ってそうだ。そうなれば、並んでいる人々の悪感情は王都へと向かう)
そう思ったアレルは、そういう対応の出来る者が門兵の中にいるなら、自身が注意を払うべきは王都兵だけに絞れると僅かに心の重荷が軽くなる。
そして、列もすこしずつだが進むにつれて、徐々に王都兵の横暴な態度も耳に届く様になってくる。そのせいか、共に並ぶ人達の中にも、あれは無いんじゃないかという声が上がり始める。ただ、それにも王都兵は剣の柄に手を掛ける事で、そんな声も黙らせる。
任務で頭が一杯なのか、それとも人の感情を無視してしまう程に横柄なのかは判らない。しかし、そんな目の前の事にしか意識の向かない単純な連中ならば、割と簡単にあしらえそうだとアレルは僅かに安堵する。
(瑠璃、そろそろアリシアに隠れる様に伝えてくれ)
──はい、ルリもアリシア様と一緒にいれば良いんですよね?
(ああ、そうしてくれると助かる)
──解りました、ルリに任せて下さい!
と、自分達の順番が迫ってきた事で、精神感知を用いて瑠璃と短いやり取りをアレルは行う。そうして、精神感知を切って目の前の事に集中しだしたところに、瑠璃からアリシアと共に隠れ終えたとの言葉が伝えられる。
「では、次の者達」
そう言われ、アレル達の馬車の前にいた徒歩の二人組が前に出る。それに、次が自分達だとアレルはフードを直すふりして呼吸を整える。




