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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 五百七十七話 責任の所在

 馬達に負担を()いてまで、先を急いだというのに結局は思い通りにならず時間を使ってしまう。これも、独りよがりな考えで行動を決めている事から生じる弊害(へいがい)かと、アレルは自らの浅慮(せんりょ)を反省する。

 瑠璃の話では、馬達も体力や身体的負担という意味では問題無いらしいのだが、走るなら走った分の水分と活力を補充しなければキツイとの事だった。それに、アリシアは寝ていたみたいなのだが、メリルとミリアにしてもずっと荷台で座りっぱなしでは心理的負荷(ストレス)にもなるだろう。

 焦るあまり配慮(はいりょ)が足りてなかった、自分の頭の中だけで考えるから自分にとって都合の良い事しか考えつかなかったと、アレルは立ち尽くしたまま自責の念に駆られる。


(······だからって、このまま塞ぎ込むのなんてもっと駄目だ! 考えろ、今いる全員に負担を掛けない行程が二日半掛けて分岐路へ行く事だ。その上で、俺に出来る対策って何だ? もしかしたら、セドリックは居なくても他の王都兵がいる可能性だってある。その場合は、どうする? 街道を行くなら、クレイル領もセプルスも勿論(もちろん)リバッジだって分岐路だけは通らなければいけない。細工樽だけで、果たして誤魔化(ごまか)し切れるのか?)


 アレルは、直前の誤った判断の後悔からか、一体何を考えれば良いのかすら判らない程に判断力が鈍っていた。

 本来なら、優先順位や予測される状況などから最適な手段や奇策を練るのだが、その優先順位を見失っている現状のアレルでは思考の取っ掛かりが無いに等しい。そして、その優先順位で迷っているのが、アリシア達の体調と安全な道行きとでアレルは悩んでいる。

 出来る事なら、その両者を並び立たせられるのが最も望ましいのだが、現状それは難しい事がたった今アレルの目の前で証明されてしまっている。それに、いくら安全に公国まで辿り着いたとしてもアリシア達が体調を崩していたら、それで最後まで護衛出来たと言えるのかという問題もある。


「······ままならねえな」


 不意に、アレルは(そら)を見上げてそう呟きながら肩の力を抜いていく。


 ──考え過ぎている。


 そう感じたアレルは、一旦(いったん)思考を放棄して頭の中を(から)にしてみる。煮詰まった思考を、その目に映る(そら)に放り投げるみたいにしてみるとアレルは自身が身軽になるのを僅かに感じる。

 そうして、(から)っぽになった頭で改めてこれからの事を考え始めた所で、アレルは声を掛けられる。


「アレル······少し、良いかな?」


 声のした方へ振り向くと、そこにいたのはフードを被ったアリシアで、アレルは寝ていたんじゃないかと驚く。


「えっ? その······寝ていたんじゃなかったのか?」


「あっ、うん······そうだったんだけど、ミ──クリスがね、何かゴソゴソやっている音で起きちゃって」


 フードの中の首筋を手で触れながら言うアリシアに、アレルはまたもやミリアがその辺ガサツだったのを失念(しつねん)していたと再度反省する。


「ごめん、俺がクリスにやらせたせいだ」


「えっ!? ち、違うの! その事は······別に良いの。でも······私の方こそゴメンね」


「へ?」


「私が寝ていたせいで、何かアレルが考えていた事の邪魔をしちゃったんじゃないかって······その、クリスがアレルの顔が少し曇ってたって言ってたから」


 アリシアは、身を(ちぢ)こませた上で両手を合わせて、申し訳なさそうに(うつむ)きながら話す。しかし、その事についてはアレル自身も反省する点があった為に、フッと笑みを返してアリシアの緊張を()こうと(こころ)みる。


「別に、謝らなくても良いよ。俺も、焦ってるからって周りに無理を押し付けようとしていたから、それに気付けて丁度良かったよ」


「でも、それだって私達の為にしようとした事でしょ? ······なのに、いつも迷惑かけてばかりで私······」


 アリシアは、自身が寝ていた事を過失と捉えているのか、中々顔を上げてはくれない。なので、どうしたものかとアレルは考えていると、アリシアが話をしたいと言っていた事を思い出す。


「なあ、さっきはアンネが寝ているって聞いたからやらずにいたけど、今から昼食の準備をするから手伝ってくれないか? 確か、話したい事もあるって言ってたし、ちゃんと聞くからさ」


「······うん」


 未だ、どこか申し訳なさそうにしているものの、一応動き始めてくれた事にアレルは僅かに安堵(あんど)する。そうやって、(うつむ)きがちなアリシアを連れてアレルは荷台へ上がったが、そこでは正座の様な体勢で小さくなるミリアを(にら)みつけているメリルの姿があった。


 ──主様、ここはルリに任せて下さい!


 と、一瞬そこへ踏み入れるのを躊躇(ためら)ったアレルに代わって、いつの間にかフードの中へ戻っていた瑠璃がヒュンと飛び出していく。続けて、瑠璃はメリルの顔の前をヒラヒラと飛んで注意を引く。


「えっ、ルリさん!? それじゃあ──」


「よっ、取り込み中悪いんだけど、昼食の準備をしても良いか?」


 瑠璃によって、バッと瞬時にアレルへ視線を向けてきたメリルに対して、アレルは片手を軽く上げて苦笑する。しかし、メリルはそれに答える前に慌てて言い訳をし始める。


「ち、違うんですッ! これは、ミリアがアリ──」


「待った! 名前、気を付けてくれ」


「──ッ!? す、すみません!」


 今、馬車を停めているのは離れているとはいえ街道の近くには違いない。そんな、誰が聞き耳を立ててくるか判らない所で、アリシア達の名前を出すのは好ましくない。

 ただ、アレルは別にそれについて(とが)めたい訳ではなく、目の前のメリルとミリアがどういう状況なのかを知りたいだけだった。


「いや、そこまで(かしこ)まる必要は······それより、一体何をしていたんだ?」


「それは······この()が、野菜を探すんだとアンネが寝ているのにガタゴトと物音を立てたせいでアンネが起きてしまったので、それで······」


 話を聞いて、まあそれしかないよなとは思いつつも、自身の決めつけだけで判断しない様に一応確かめたアレルは、視線を今度はアリシアへと向ける。


「それで、アンネは起こされてクリスに対して何かしてやろうとか思ったりしてるのか?」


「ううん、私はどちらかといえばアレルに悪いかなって思ってたから、クリスに対しては別に······」


 と、起こされた本人が怒ってないのに、ミリアを(しか)る必要はあるのかとアレルはメリルへ視線で問い掛ける。すると、メリルはハァとため息を吐いて項垂(うなだ)れる。


「結局、アタシが先走ったのが悪いって事なんですね」


「いや、そもそもクリスに頼んだのは俺だし、悪いのは配慮(はいりょ)の足りなかった俺だよ。三人共、ごめんな」


 そう言って、頭を下げるアレルにそれまで四人の間を浮遊していた瑠璃がアレルの肩へ止まりに来る。


 ──別に、主様は悪くないと思います。アイツが、ガサツなのが一番悪いのではありませんか?


(瑠〜璃〜、それを言い出すと話が(こじ)れるから止めてくれ)


 ──主様がそう言うのならば、ルリからは何も言いません。


 瑠璃はそう伝えてくると、顔を上げたアレルの肩へと止まる。ただ、そのままでは誰も動き出せない気不味(きまず)さがあるなと感じたアレルは、野菜の入ってる木箱から人参を二本取り出し正座で小さくなっているミリアへ投げ渡す。


「クリス」


「うっ!? わっとっと······貴様ッ、いきなり物を投げるな!」


 文句は言いつつも、二本の人参を落とさず受け取ったミリアにアレルは馬車の前方を指差す。


「大丈夫だったろ? そんじゃ、さっき頼んだ馬の世話を頼む。俺は、昼食の準備を始めるからさ」


 しかし、ミリアは直ぐには(うなず)かず、チラリとメリルの顔色(がんしょく)(うかが)う。対するメリルは、仕方ないといった感じでため息を吐いて顔を背ける。

 それで、ようやく立ち上がったミリアは人参を手に荷台を後にする為、アレルとアリシアを避けて荷台の後ろへ行く。だが、荷台を降りる直前に首だけでアレルの方へ振り返る。


「アレル、その······助かった、一応それだけは言っておく」


 それだけ言い残すと、アレルの返事も聞かずにミリアは逃げるみたいに荷台から降りてしまう。そこへ、メリルの口から一言ミリアへの文句が漏らされる。


「まったく、感謝するなら素直にありがとうくらい言いなさいよ、あの娘ったら······」


「まあ、以前だったら感謝する事すら無かったと思うし、別に良いんじゃないか?」


「良くありませんよ! ······それより、これから昼食の準備をするならアタシも手伝いましょうか?」


 ミリアに憤慨(ふんがい)するメリルだったが、それはそうとという感じでアレルへ(たず)ねてくる。しかし、その瞬間にメリルから見えない位置でアリシアが外套(がいとう)の端を掴んだのに気付いたアレルは、両者に良い顔は出来ないなと先約を優先する事にした。


「悪いな、先にアンネに手伝ってもらう約束をしててさ、手なら足りてるんだ」


「そうですか······それなら、アタシは外の空気でも吸ってきます。ずっと馬車の中というのも、息が詰まりますからね」


 そう言いながら、メリルはアレルとアリシアの横を抜けて荷台から降りていく。そして、荷台にはアレルとアリシアに、それから瑠璃が残される事になった。



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