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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 五百七十六話 想像通りにはならない現実

 休憩無しで馬車を走らせること数時間、そろそろ昼食を食べる頃合いだなとアレルは瑠璃に()いて手頃な場所を探す。馬達は、流石(さすが)のルビー種との混血と言える能力を発揮してくれてるものの、そこから予測されるルビー種の能力にアレルの懸念(けねん)は強まってしまう。

 ただ、その一方で馬達がここまで出来たなら、もっと早くにこうしていれば追い詰められる事もなかったのにと、アレルは後悔に(さいな)む。ここにきて、ハインリヒの皮肉が骨身に染みる。


 ──主様、この辺りが周辺で一番瘴気(しょうき)が薄いです。


(ああ、解った。ありがとな、瑠璃)


 ──いえいえ。


 と、アレルが自責の念に囚われる前に、瑠璃が声を掛けてきてくれた事でアレルは瞬時に思考を切り替える。それから、アレルは荷台のアリシア達へ声を掛ける。


「そろそろ昼にするから、馬車を停車させる。少し、揺れる事もあるから気を付けてくれ」


 言いながら、アレルは街道から外れて見通しが良くも、街道からはそれなりに距離を取った所で馬車を停車させる。続けて、御者台から降りたアレルは馬車の正面に回って馬達を気遣う。


「お前等、本当に大丈夫なんだよな?」


 その問い掛けに、二頭共がブルルルッと応えると同時に、ドドンと前脚で地面を叩いてみせる。


 ──みくびらねぇで下せぇ旦那、って言ってます。


「······」


 受け答えはともかく、言葉遣いにおいてそんな事は口にしてないだろうとアレルは思うも、馬達からは感情だけ伝わって来ていて瑠璃はその感情に適した言葉遣いを選んでいるだけかもしれないと思い直す。なので、このまま何も返さずにいるのは瑠璃に悪いと感じて、アレルは言葉を返す。


(瑠璃も、通訳してくれてありがとな)


 ──いえ、主様のお役に立てて何よりです!


 そう、こんな風に言ってくれる瑠璃がわざと言葉遣いで遊んでいるなんて気の所為(せい)だと、例えわざとだとしても何か理由があるんだとアレルは自身に言い聞かせる。しかし、その直後に瑠璃から衝撃の一言が伝わってくる。


 ──なんか、主様が思い悩んでいたご様子だったので、馬達の言葉を瑠璃なりに面白くした甲斐がありました。


(······)


 アレルは、その衝撃で反射的に精神感知を切って心の中だけで自身を立て直す。


(ま、まあ······瑠璃だって、俺を気遣っての事な訳だし、変な嗜好(しこう)に目覚めたって話じゃない······よな?)


 そうして、一旦(いったん)平静を取り戻してからアレルは再び精神感知を使用する。


(馬達が大丈夫なら、そろそろ昼食にしようか?)


 ──はい、一晩ぶりに主様の作ったものが食べられますね!


 言いながら、瑠璃はフードの中からアレルの右肩へと出て来て止まる。その言葉に、別にアリシアが作ったものと大差ないはずなんだけどなと思いつつ、アレルはそこまで言うなら作ってやるしかないなと気合を入れる。

 そして、アレルはアリシア達へ昼食にすると声を掛ける為に馬車の後方へと回る。


「お〜い、三人共昼にするぞ〜」


 すると、バッと荷台の(ほろ)(まく)ってミリアが飛び出して来る。


「この馬鹿ッ! 静かにしろっ」


 し〜っと、血相を変えたミリアがアレルを押し退()けて馬車から遠ざけさせてくる。だが、そんなミリアへすかさず瑠璃がその額へ体当たりをお見舞いする。


 ──馬鹿はお前の方ですッ!


 ビシッと、瑠璃がぶつかった額を押さえながらも、ミリアは大声を出さない様にただ瑠璃を(にら)みつける。そんなミリアに対して、一歩も引く気のない瑠璃も浮遊したままミリアへ再度体当たりする機会を(うかが)う。

 そんな二人の様子に、このままでは(らち)が明かないと感じたアレルは、自身が動かないと駄目だと一先(ひとま)ず状況を理解するところから始める。


「瑠璃、手を出すのは野蛮だから一度だけにしとけ。それと、クリスは何でそんなに慌てているだよ?」


 アレルがそう言うと、は〜いと返事をしてアレルの肩へと戻る瑠璃に対して、ミリアはどこか言いづらそうに口をモゴモゴとさせ始める。しかし、ミリアの様子と今朝に聞いた話から推測して、アレルはミリアが言いづらそうにしている事を先んじて口にする。


「どうせ、寝不足のアンネが寝ているとかだろ?」


「うっ······うむ、だからその、もう少しだけ······な?」


 珍しく狼狽(うろた)えるミリアの様子に、アレルはその理由にミリアがアリシアの寝不足の原因を担っているだけでなく、多少無理をして先を急ぐ理由も察しているからなのだろうと感じる。その上で、アリシアの為に少しでも時間を()けないかとミリアは言っている。

 正直、アリシアの為だと言うなら休ませてやるのも(やぶさ)かではない。だが、ここまで頑張ってくれた馬達の走りを無為(むい)にもしたくない。なので、アレルはそのどちらも立てる為に酷い要求を考える。


(瑠璃、馬達にこのまま休憩無しで走れるか()いてくれるか?)


 ──はい······一応大丈夫だと言ってますが、水と食料を求めています。


(······だよな。というか、一応ってのはどういう意味なんだ?)


 ──体力や身体の事は問題無いという意味で、ある程度走ったら水だけでも飲ませて欲しいという意味だそうです。


 それを聞き、アレルは飲まず食わずでは既に限界だった事を知る。ただ、話を聞くに水だけでも飲めば走れるとの事だが、今日はこれ以上の無理はさせられないと考える。

 アレルは、馬達が大丈夫ならばアリシアが起きるまで、再び距離を(かせ)ごうと考えていたのだがそれを断念(だんねん)する。こうなったら、馬達には水と食料を与えた上で休んでもらい、その間にアリシアが目覚める事を祈ろうとアレルは方針転換する。


(寝ているアリシアの横で、バタバタと飯の準備する訳にもいかないし、もしもの時に馬達が全力で走れないのも困るし······仕方ないよな)


「クリス、馬への水と餌やりを頼んでも良いか? それと、荷台から人参とかキャベツなんかの馬が好きそうな野菜も食わせてやってくれ」


「う、うむ。しかし······良いのか?」


 流石(さすが)に、詳しくは知らないだろうが休憩無しでここまで来たのはミリアだって知っている。そして、その理由も察しているのか、ミリアはどこか神妙(しんみょう)な面持ちで(たず)ねてくる。


「良いも何も、アンネの体調優先だ。寝不足で何か他の不調を誘発されたら、そっちの方がどうにもならない」


「そうか······すまん」


「謝んな」


 言いながら、アレルはシッシッとミリアを追い払う様に手を動かし、早く馬達に水と餌を与えてやれと無言で(うなが)す。すると、ミリアも自責の念を感じているのか、文句の一つも返さずに速やかに動き始める。

 ただ、アレルは本当にこの判断で良かったのかと、その場で自問自答するのであった。



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