一章〜非望〜 五百七十話 夢の中での仮装大会
夢なんて、結構どころかかなりいい加減なのをアレルは思い出す。
それというのも、再度眠りに落ちたアレルは訳の解らない通常の夢を見ていたからだ。ただ、そんな事を思える時点でまたもや明晰夢に近いものなのだろう事も判る。
それでも、地球とラ・アトランディアとの光景が混じった不可思議な夢の世界はどこか新鮮で、電子マネーで買い物をしているなと思えば急に馬車を走らせている場面に切り替わったりと飽きが来ない。それもこれも、きっと記憶の整理の過程でそんな風に色々とごちゃ混ぜになっているのだろうとアレルは考える。
(でも、こうして夢の中で何かを思うのも不思議な感覚だな)
明晰夢に近いからか、考えた事が僅かに夢の世界に影響を与える。
例えば、日本の鉄板焼きの様な店を覗くと、中では女将風のタチアナが出迎える上にカウンターキッチンではジェームスが大角牛のステーキを焼いていて、ロナとダニーなんかは何故か夫婦でラーメン屋を営んでいる。かと思えば、ロバートはハインリヒと忍び装束を着て白羊の宿の前で争っていたり、レイナとジーナは女子大生みたいな格好で食べ歩きをしているし、その横の道路ではメッサーとジェシカがバイクの二人乗りで白バイに乗ったカタリナに追いかけられている。ラルフとカールなんて、SPみたいな姿で何故か鎧姿のエリオットを護衛している。
ただ、そんな中でアレルは行動を共にしているアリシア達以外でパメラの存在がない事に気が付く。しかし、そんな自身の思考が夢の内容に影響を与える事を失念していたアレルは即座にそれを後悔する。
『アレルちゃぁん、呼んだかしらぁ〜?』
ズドドドと、やけに低く重い声質のパメラの声が周囲に響くのと同時に、地面となっていた場所が急激に揺れ始め周りの建物や人が崩れ始める。それに、自身も逃げなければと思った瞬間、アレルは全身を巨大な手に掴まれて身動きが取れなくなってしまう。
そして、アレルを掴んだ巨大な手はそのままアレルを天高くへと持ち上げ、その際に下を見たアレルはそれまで自身が立っていた場所が自身を掴んでいる巨人の身体だった事に気付く。そこで、自身の過ちに気付いたアレルは自身を掴む巨人の正体にも気付いて辟易する。
『アレルちぁ〜ん、お久しぶりねぇ〜。しばらく見ない内にぃ〜、随分と可愛くなっちゃってぇ〜。取り敢えずぅ〜、潰さない様にしまっておくわねぇ〜』
と、パメラは以前そこから色々と物を取り出してみせた様に、その手に掴んだアレルを胸へと近づける──。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「──やめんかいッ!」
ガバッと、上掛けごと上半身をはね起こしたアレルは、夢の中のパメラへのツッコミを口にしながら目を覚ます。そして、それが夢だった事を思い出したアレルは、正しく悪夢だったと大きなため息を吐いた。
「えっ······えっと、その······すみませんでした?」
だが、その場には当然の事に同室のメリルがいる訳で、既に起床して身支度を整え終えていた様子のメリルは、そんなアレルに対して鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をしていた。
「······」
ただ、流石のアレルも、寝起きでは状況の理解に時間がかかるみたいで思考停止状態に陥る。なので、そこはそんなアレルの様子を察したみたいに、メリルが恐る恐る話を切り出してくれる。
「その、ですね······なんか、うなされてるみたいだったので起こそうかなと近づいたのですが······」
そこで、ようやく理解の追いついたアレルは、どこか余所余所しいメリルに直ぐ様謝る。
「いや、ごめん! ちょっと? いや、とんでもない悪夢を見ていて······それで、少し変な起き方をしちまった。メリルには、何の非もないから気にしないでくれ」
言いながら、パメラの方には本人に身に覚えはないだろうけれど、文句だけは言っておくからとアレルは心の中で贖罪を誓う。そんなアレルに対して、メリルはフッと力の抜けたみたいな笑顔を浮かべてくる。
「そうでしたか······てっきり、アタシはアレルさんに拒絶されたのかと思ってしまいました」
「いや、本当にごめん」
「あっ、もう大丈夫ですから······でも、一体どんな夢を見ていたんですか?」
その言葉に、アレルは夢の内容をそのまま伝えて良いものなのだろうかと悩む。
ただでさえ、結構複雑な内容の夢だった上に、最後のオチは話し方や伝え方を間違えるとメリルに変な誤解を与えかねない。最悪の場合、メリルにイヤらしいと蔑視されてしまえば、その誤解に落ち込む事は必至だ。
なので、アレルはハッキリと覚えているのだが、夢なんて覚えている人間の方が少ないとして惚ける事にした。
「えっと、だな······すまない、忘れた」
「そうですか、まあ仕方ないですね」
「ああ、悪いな」
やけにあっさりと引くメリルに、アレルは夢の内容なんて最初から聞けるとは期待していなかったのだろうと悟る。
すると、本当にアレルを起こそうとしていた様子のメリルは手の届く位置から離れて、自身のベッドの方へと足を向ける。そして、ベッドの手前でくるりとアレルの方へ振り返る。
「そういえば、朝食を食べたら直ぐに出発するんですよね? 荷物も、纏めておいた方が良いですよね?」
「ああ、そうだな。じゃあ、俺は顔でも洗ってくるよ」
「はい、アタシは自分の荷物を纏めています」
メリルの返事を聞いて、アレルは上掛けをどかしてベッド横に置いてあるブーツを足先に引っ掛ける。続けて、軽くベッド周りを直した後で、朝の身支度に必要な着替えなどを持って浴室へと向かう。
そうして、バシャバシャと顔を洗いながらアレルは改めて自身の中で引っ掛かっている言葉について考える。マガイモノ、現状でその言葉が示すものが自身の中にあるとするなら、アマデウスの事しかないと冷静になったアレルは考える。何故なら、そうやって自身が本物のアマデウスではなかったと仮定すると、マスラオ達が貸してくれる能力を十全に扱えない事にも説明がつく。
そして、何より自身の中にいるアマデウスの一人だと考えられる不気味な声の主が言っているのだ。その推測は、当たらずとも遠からずといった所だろうとアレルは思う。
(······でも、紛い物だからって何だって言うんだ? マスラオ達には助けられているけれど、俺だって好きでこうなっている訳じゃない。それを──)
そこでアレルは、バシャバシャと顔を洗う事で頭に血が上りそうだったの防ぐ。
「······フゥ」
呼吸を整え、再び冷静になれたアレルは一先ず不気味な声の主の事は考えない様にしようと心に決める。
そうして、顔を洗い終えたアレルは着替えを済まして、昨夜メリルが干しておいてくれたタオルを回収する。続けて、今日もしっかり出来る様にと頭を切り替えて、忘れ物がないかを確認してからアレルは浴室を後にした。




