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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 五百四十五話 事後処理に惑う

 戦闘は終わった。そのはずなのに、何故かアレルの中ではくっきりと分別する事の出来ない不確かな感情が渦巻いている。そこで、ズキッと打ち身になっている脇腹が痛みを(うった)えてきた事で、その渦巻いていたあやふやな感情に溜め込まれたものがアレルの悔しさへと流れてしまう。

 こんな呆気(あっけ)ない終わりを迎える魔物相手に、ここまで梃子摺(てこず)って何をやっているんだと、あまつさえ使い方を洗練していかなくてはならない身体強化まで臆して使えない。ましてや、負傷までするなんて目も当てられないと、アレルはその悔しさから拳を握り締める。


「クソッ!」


 ガンッと、近くの木の(みき)を殴りつけるも、先程の大角牛(ホーンブル)がぶつかった時とは違い数枚の木の葉しか落ちては来ない。その事が、比べる事ではないと解っていても、不思議とアレルの悔しさや情けなさを加速させる。

 本当なら、最後の攻防でも相手の油断を誘うみたいな小細工を(ろう)さず、正面から堂々と打ち倒せば良かった。でも、それを長剣が曲がり他の武器では困難だからと、負傷した身体では危険なんだと自らに言い訳をして逃げてしまった。

 そんな現状にも関わらず、アレルは身の程も知らずに強くなりたいと願い、真意は別にあると解っていてもその願いを否定しているみたいに聞こえたアリシアの言葉に苛立(いらだ)ってしまった。そうした後悔や悔しさや情けなさやらが、グルグルとアレルの中で渦巻いてグチャグチャに混合されたものが底の方にポタポタと溜まっていく。

 アレルは、そういった感情の()け口代わりにもう一発、木の(みき)を殴りつける。しかし、その拳には力が入っておらず軌道もガタガタだった為に、先程の様な音を立てる事もなくただアレルの拳へと痛みを返すだけのものだった。


「······クソ──ッ!」


 それでも、いつまでもそうして(ひた)っている訳にもいかないアレルは、歯を食いしばって頭を切り替える。それから、アレルは精神感知を最大まで広げて使用して、瑠璃へと話し掛ける。


(瑠璃、聞こえるか? 今、どこにいる?)


 ──あっ!? 主様っ、終わったのですか? 怪我はされてませんか?


 すると、意外と近くにいたのか、瑠璃はアレルの質問をそっちのけにアレルの身を案じた質問を返してくる。そんな瑠璃の反応に、ささくれ立っていたアレルの心は僅かに(いや)される。


(······ああ、多少梃子摺(てこず)ったけど少し前に終わったし、怪我もしてないよ。それより、俺の位置とか判るか? 感じ的に、そこまで離れてはなさそうなんだけど······)


 ──はい、こちらは主様が降りた後数分馬車を走らせた所で停車してます。あの、ルリから伝えて迎えに行きましょうか?


 怪我はないと言ったのを信じたのか、どこか安堵した様子の声で瑠璃は受け答えしてくる。その反応に、アレルは下手な嘘をつくんじゃなかったと後悔する。


(いや、数分なら迎えはいらないから待っててくれるか? あと······さっきは、怪我してないって言ったけど、実は脇腹を少しやっている。嘘ついてごめんな)


 ──いえ、そうだろうなと思っていたので謝らなくても大丈夫です。主様の事なので、ルリは直ぐに治療が必要な怪我はないという意味だと思ってましたから。


 と、瑠璃の方が数枚上手だった事実にアレルは少々唖然(あぜん)としてしまうも、一つだけアレルでは判らない事を(たず)ねる。


(······あっ、それなら他に一つだけ()きたいんだけど、コイツの死体の処理ってどうすれば良いか、メリルかミリアに()いてみてくれないか?)


 ──はい、少し待っていて下さい。


 その返事に、ちゃんとした返答は少し時間が掛かるだろうと判断したアレルは、(かたわ)らに横たわる大角牛(ホーンブル)の死体の目から刺さったままの投げナイフを抜いてみる。すると、思いの(ほか)力を入れなくても簡単に抜けた事からあまり深く刺さっていなかった事をアレルは知る。


(これって、回転させてると飛距離が伸びる分刺さり方が甘くなって、回転させないと飛距離が短くなる分深く刺さるって事なのか?)


 アレルは、一瞬そんな風に考えてしまうもロバートからはそんな事を言われていないので、この結果は自身の未熟さ故だろうと結論付ける。その事に、どんな所にも未熟さが付いて回るなとアレルは辟易する。

 そうして、再び自身の内側へ感情を向けてはいけないとアレルは頭を振って後ろ向きな感情を追い出す。それから、大角牛(ホーンブル)の処理は瑠璃が訊いてくれてるから良いとして、アレルはもう一本の投げナイフの回収はどうするかを考え始める。予備のナイフには余裕があるが、むざむざ一回使用しただけのナイフを捨て置くのも勿体(もったい)ないとアレルは思う。


(拾ってくるか······)


 そう思ったアレルは、(おもむ)ろに弾かれたナイフの行方(ゆくえ)を探しに歩く。そうして歩きながら、アレルは手にしているナイフを布の切れ端で(ぬぐ)ってナイフ帯に戻す。

 投げた角度は覚えているものの、アレルは投げたナイフが弾かれた場面を見てはいなかった。そのせいで、ナイフを回収しようにも探す範囲が割と広い。なので、アレルは瑠璃からの返答が返ってくるまでの時間制限を(もう)けて探す事にした。

 ただ、それで逃げるふりをする前に大角牛(ホーンブル)がいた辺りを中心に探すも、やはり簡単に見つかってくれない。せめて、下に叩き落としてくれていれば面倒はなかったのにと、アレルは一向に見つからないナイフに最早諦めても良いかなと思い始める。


 ──主様? お待たせしました。あの、本来なら聖水をかけて瘴気を散らすのが良いらしいのですが、この辺りは普通の人は通らない場所なので自然と瘴気が散らされるまで放って置いても問題はないと言ってました。


(なあ、散らすとか言ってるけど散らなかったらどうなるんだ?)


 アレルは、瑠璃からの返事が来たので予定通りにナイフ探しを切り上げる。そして、生じた疑問を(たず)ねながら一応最後に周囲を見渡すも、やはりナイフは見つからないので諦める事にした。


 ──そうですね、その瘴気に誘われて別の魔物が寄ってきたり、条件が揃えばアンデッドとして(よみがえ)ったりするとかですね。


(······それ、結構不味(まず)いんじゃないか?)


 ──でも、この辺りは日も差しますので、時間が掛かっても瘴気は散りますしアンデッド化はしないと思います。それに、元々周囲には魔物の気配も少ないですし、今回に限ってはあの()れ者の言う事に従って良いと思いますよ。


 瑠璃の言い方から、放置で構わないと言っているのはミリアだとアレルは悟る。ただ、アンデッドにはあまり良い思い出のないアレルは、瑠璃が口にした条件の方が気になってしまう。


(なあ、さっき条件が(そろ)えばって言ってたけど、どんな条件なんだ?)


 ──えっと、そうですね······まず、奴等(・・・)が常にいる程に瘴気が濃い土地だったり、あとは日中でも日が差し込まない場所であったり、何かしらの魔術や呪具(じゅぐ)などで汚染された土地に埋葬(まいそう)されたりすると自然にアンデッドとなる事があります。あとは、死霊術で無理矢理とか人間であるなら生前に強い未練を残していたりするとそれらの条件を無視してアンデッド化しますね。


 つまり、この土地が汚染されてるかも判らないのに、下手な仏心(ほとけごころ)埋葬(まいそう)するのも良くないのかと、アレルは大角牛(ホーンブル)の死体を眺めながら博識(はくしき)な瑠璃に感心する。

 ただ、魔光蛾(まこうが)の事を奴等(・・・)と毛嫌いしているところは相変わらずなんだなと、どこか瑠璃らしいところにアレルは安堵するのであった。



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