表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
543/1052

一章〜非望〜 五百四十三話 闘牛士の様にはいかない

 改めて対峙すると、その大きさがまじまじと理解出来てくる。体高は約百八十cm、全長は三m強といったところで、その前方に向かって大きく湾曲した角は丸太の様な太さがある。

 そんな大角牛(ホーンブル)が、その足を地につけて動きを止めると、アレルの方も長剣を右手で持ち左手では外套(がいとう)を摘んで広げる。その姿は、さながら闘牛士(マタドール)のそれに(なら)うみたいに。

 しかし、アレルの外套(がいとう)漆黒(しっこく)で赤くはない。それで、対峙する大角牛(ホーンブル)が食い付いてくれるかは判らない。それでも、目眩(めくら)まし程度にはなるだろうと、アレルは広げた外套(がいとう)をヒラヒラと揺らして大角牛(ホーンブル)の突進を誘う。


 ──ブモォォォォ!!


 すると、大角牛(ホーンブル)は自身が挑発(ちょうはつ)されてると解ったのか、雄叫(おたけ)びをあげながらアレルへと突進を繰り出してくる。それに、アレルはヒラリと広げていた外套(がいとう)を背中へ(ひるがえ)すと同時に、サッと大角牛(ホーンブル)の向かって右側へ移動して突進を(かわ)す。その際に、長剣で胴体を斬りつけるが、筋肉が分厚くてあくまで表皮を削る程度の傷を付けるに留まってしまう。


(手応えが、まるでゴムタイヤでも斬りつけたみたいだ。これだと、身体強化で斬撃力を増しても然程(さほど)結果は変わらないだろうな)


 そう感じたアレルは、狙いを筋肉の付いていない関節へと変更する。しかし、相手は人間ではなく四足獣(しそくじゅう)である為に、狙うべき関節はどれも正面からでは狙いづらい位置に存在している。

 加えて、しっかり狙おうと棒立ちでもしようものなら、周りの木々を()(たお)す様な勢いで放たれる突進の餌食(えじき)になりかねない。更に言えば、その突進は威力(いりょく)だけでなく分厚い筋肉の(よろい)(まと)っていて、生半可(なまはんか)な攻撃では足を止めさせる事すら出来はしない。よって、投げナイフでの牽制(けんせい)も役に立たないとアレルは判断する。

 ただ、幸いな事に分厚い筋肉はそれなりに重いのか、突進の速度は決して遅くなくともアレルにも対応可能な速度に留まってくれている。それに、未だ攻撃を喰らってない事もあり体力も充分に残っている。それならば、幾度(いくど)か攻防を繰り返す内に好機も訪れるだろうと、アレルは先程と同様に外套(がいとう)を左手で広げる。


 ──ブモォォォォ!!


 雄叫(おたけ)びと共に、その紅い目でアレルを捉えた大角牛(ホーンブル)は再び真っ直ぐにアレルへ突進してくる。

 それに、今度は身を(かが)めて角を(かわ)したアレルは、そのまま前脚を見逃して(かが)んだ状態から伸び上がる様にして後ろ脚の付け根を斬り上げる。続けて、斬り上げの動きを利用してくるりと大角牛(ホーンブル)から離れる様に身体を横に回転させる。

 すると、流石(さすが)に関節に筋肉が付かないのは魔物でも同じだったのか、アレルの手にする長剣の刀身にはベッタリとドス黒い血液が(したた)っていた。しかし、それでも魔物であるせいか、振り返ったアレルが見た大角牛(ホーンブル)はそれがどうしたと言わんばかりに平然としているみたいに見えた。


(それぐらい、大した事ありませんってか? フザケてやがるな······それでも、何度か繰り返して斬り落とされても同じ様にしてられるかな?)


 手応えを感じたアレルは、そうして再び長剣を構えるも大角牛(ホーンブル)がやけに大人しい事に違和感を感じる。そして、その違和感は以前にもどこかで似た様なものを感じた気がすると思った瞬間、大角牛(ホーンブル)が上体を起こすと共に両前脚を高らかと掲げる。

 そこで、アレルはアリシアと出会った時に戦った影獣(シャドウビースト)が魔法を使ってきた際の事を思い出す。


不味(まず)ッ──」


 アレルは、即座に構えていた長剣を防御に回すも、反応が遅れた事で先手を許してしまう。


 ──ズドンッ!!


 と、大角牛(ホーンブル)の前脚が地面を叩いた瞬間、アレルの足元の地面がグラグラと立っていられない程に揺れる。この時、影獣(シャドウビースト)の時の様に何かが飛んでくる事に備えていたアレルは不意を突かれ、完全に体勢を崩されるも咄嗟(とっさ)に地面に突き立てた長剣のお陰で何とか転ばずに済んでる状態になってしまう。

 そんな所へ、大角牛(ホーンブル)は容赦なく突進を繰り出してくる。その突進前に叫んだ雄叫(おたけ)びは、まるで策に()まったアレルを嘲笑(あざわら)うみたいに高らかだった。


(不味(まず)い、このままだと突進をまともに喰らっちまう。こうなったら、一か八かやってみるかッ)


 覚悟を決めたアレルは、近づいてくる大角牛(ホーンブル)に対して左手でナイフ帯からナイフを一本手にし、下手投げで回転させる形にして大角牛(ホーンブル)の片目を狙って投擲(とうてき)する。

 当たるかどうか判らない、ましてや刺さるとも思えない。それでも、現状ではどうにかして突進を阻害してその威力(いりょく)(けず)るか進路を曲げさせる他に手はない。

 そうして、放たれたナイフはクルクルクルクルと回転しながら大角牛(ホーンブル)へと迫り、突進中は頭を動かす事が出来ないのか徐々にその片目へと向かっていく。向かってくる大角牛(ホーンブル)と、飛翔するナイフ。その二つがまさに交差した瞬間、けたたましい叫び声が上がる。


 ──ブモォォォォン!?


 運が良かったのか、アレルの投げたナイフは大角牛(ホーンブル)の片目に突き刺さる。しかし、それでも大角牛(ホーンブル)の突進は乱れる事なくアレルへと向かってくる。


「クソッ!?」


 間に合うかどうかは判らない。それでも、アレルは足元の揺れが止まった瞬間に長剣を抜いて横に跳ぶ。すると、寸での所でギリギリ(かわ)せるはずの位置までどうにか移動出来た。

 それなのに、片目を潰された執念(しゅうねん)だったのか、大角牛(ホーンブル)は体勢を崩して倒れ込むのも覚悟で回避したアレルの身体に丸太の様な角を()いできた。


「──グッ!?」


 反射的に、アレルは長剣を自身と角との間に差し込んで防御するも、突進の勢いも乗っていたのか長剣だけでは受け切れなかったアレルは角にふっ飛ばされてしまう。だが、アレルはきちんと受け身を取る事で、その衝撃を受け流して即座に立ち上がる。


「──痛ッ」


 瞬間、アレルの脇腹に痛みが走る。ただ、魔神のアンデッドとの戦いの経験から、骨が折れている程の痛みではなくあくまで打ち身程度のものだろうとアレルは考える。

 それよりも、深刻なのは防御に使用した長剣の方で、こちらも魔神のアンデッド戦にて曲げられた部分で受けてしまった為か再び曲がってしまっている。でも、剣が使えなくなるのを気にして重症を負った時よりかは多少マシになったかなとアレルは思う。

 ズドドッズドドッと、その一方ではナイフで片目を(えぐ)られた大角牛(ホーンブル)が地面を叩き鳴らしながら、その痛みにのたうち回る。その姿を眺めながら、アレルは斬撃に期待が出来なくなった長剣でどう戦うかを考える。


(歪んだ刀身では、何度も関節を斬りつけて脚を斬り落とすのも難しい。かといって、ダガーを使った所で難しさはそう変わらない様に感じる。それに、打ち身とはいえ、この痛みは戦いが長引けば身体の動きにも影響が出る······さて、どうするかな)


 そうして、アレルが打てる手段を考えていると、痛みに慣れたのか大角牛(ホーンブル)が鼻息を荒くしてアレルを(にら)み付けてくる。その眼光(がんこう)に、(にら)み付けてんじゃねえよとアレルは(にら)み返す。そして、次の攻防で決着をつけてやると心に決めるのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ