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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 五百三十一話 風雲急を告げる

 元黒羽根の失踪(しっそう)──なのかはまだ判らないが、これまで他の黒羽根と接してきたアレルには、どうにもそれが不自然な気がしてならない。何故かは判らないが、アレルはその予期せぬ事態に(みょう)胸騒(むなさわ)ぎを感じている。

 その為、そんな胸騒(むなさわ)ぎを(しず)めようとするアレルは、自身を少しでも安心させる為に事の真相の尻尾(しっぽ)ぐらいは掴んでやると意気込(いきご)む。


「じゃあ、まずは辞めた人間に対する商会側の対処はどうしているんだ? さっきの感じだと、監視ぐらいはしてるのか?」


「いえ、そこまでは······ただ、定期的に連絡は取れる様にしています。それで、向こうからの連絡が無かったので今回の事が発覚したんです」


「そういう事なら、さっきの現状に不満がみたいなのは、その定時連絡自体が監視されてるみたいに感じていたって事なのか?」


「それは······ウチなら、面倒かななんて思ってたので」


 つまり、ジェシカ個人の感想で本人がそう思っていたかは判らない。そして、もし定時連絡が面倒だと思っておらず不満が無ければ、家族を連れての失踪(しっそう)とは考えづらくなる。

 これで、失踪(しっそう)や夜逃げを疑った動機の一つが消えた。なのでアレルは、次に逆の何者かに襲われる理由の方を探る。


「ソイツ、誰かから(うら)みを買っていたりしなかったか?」


「そういうのは、無かったと思います。あの人、黒羽根の中でも人当たりの良い(ほう)でしたし」


「······なら、辞める前に携わっていた仕事は?」


 その質問に、ジェシカは更に声を(ひそ)めて応える。


「あの(かた)の、逃亡計画の立案です。実際に事が起こる前からクーデターの兆候があったので、アレル様の支払いをツケているとある御方(おかた)に依頼されて色々と準備していたんです。でも、実際はこちらの予想よりも王都での動きの方が早かったですし、その時にはもうその人は黒羽根を辞めてましたし、その人の計画はアレル様が関わった事で大幅に変更されてます」


「それは······素直にすまん」


 アレルは、前もっての準備を知らなかったとはいえ、不意にしてしまった事に対して()びる。しかし、ジェシカは穏やかな表情で首を横に振る。


「いいえ、こういう事態ですから、逆にアレル様が関わってくれて良かったです」


 その言葉から、アレルはジェシカも(くだん)の元黒羽根が何者かにアリシアの情報欲しさに(さら)われた可能性を考えていると知る。ただ、計画が変更になっているとは知らず、直前まで元黒羽根がアリシアの逃亡計画に関わっていた事を知っていれば、その知っている何者かに(さら)われた可能性は充分にある。

 そこで、アレルは別の切り口からの理詰めを(こころ)みる。


「じゃあ質問を変えて、家族についてだけど······任務の為の家族で何の(じょう)も持っていないとかはあるのか?」


「いえ、そういう家族ではなく普通に結婚をされてます。辞める前も、随分(ずいぶん)とお子さんを可愛がっていたそうですよ」


 そうなると、自ら家族を手にかけて逃げたとも考えられないし、共に逃げるにしても家族の生活を考えれば金銭や貴重品を残していくとは考えづらい。

 ただ、そういった物を持ち出せない程余裕が無かったと考えると残されていても不思議ではないかもしれない。しかし、ジェシカの話を聞いた限り家の中が荒らされていた感じはしなかったので、家の中で突発的(とっぱつてき)に何かに巻き込まれた訳でもなさそうだ。

 そこまで考えたアレルは、いくつか考えられる推測から最も可能性の高いものを自らの推測としてジェシカに伝える。


「ジェシカ、あくまで推測だけど聞いてくれるか?」


「はい、お願いします」


「まず、その元黒羽根はいなくなった時に家へは帰ってないと思う。同様に、その奥さんと娘も家からどこかへ行ったって事でもなさそうだ。これは、家の中が荒らされてなかった上に金品が残されていた事から、何かに追い立てられていた訳でもなく家にいる時に襲撃(しゅうげき)された訳でもないって判る」


 そこで一旦、アレルは話を区切るもののジェシカは黙って聞いているので、結論まで黙って聞くつもりなのだろうとアレルはそのまま続ける。


「そして、家族と一緒ならば金品が残されているのは少しおかしい。その元黒羽根が、家族を大切にしていたなら尚更(なおさら)な。つまり、元黒羽根とその家族は共にはいないけれど、同時に失踪したという事になる」


「つまり、アレル様が言いたいのは今回のものが(あらかじ)めその人に計画されたものならば、金品の持ち出しがされているはずだとお考えなんですね」


「ああ、でもどこかに隠し財産がある場合も考えられるし、一概(いちがい)にそうだとは言い切れないけどな。ただ、ここで気になるのはソイツがいなくなったって日が三日前で、丁度俺がシープヒルでアンデッドと戦った日なんだよ。だからって、変に結びつけるのも馬鹿らしいといえば馬鹿らしいんだけど、その混乱の余波(よは)で──って、そういえば元黒羽根の住んでいた所ってどこなんだ?」


 話の途中、アレルはそういえばそれを訊いていなかったと改めてジェシカに訊ねる。すると、ジェシカはどこかその表情に暗い影を落とす。


「······ダリアです。その、家族で暮らすなら生活しやすくて安全な街が良いからと」


 ダリア、それは辺境伯の私邸(してい)がある街で、元黒羽根がいなくなった日はエリオットが私軍の一部と共にシープヒルへ(おもむ)いていて、辺境伯も自身の暗殺計画へ(にら)みを利かせていたはずだ。それならば、街中への警戒が多少は緩んでいてもおかしくはなかったかもしれない。


「······なあジェシカ」


 アレルの呼びかけに、ジェシカもアレルと同様の結論に達したみたいに(うなず)く。


「はい、少し人選を変えなければならないかもしれません。あの、アレル様からは何か他にありますか?」


 (たず)ねられたアレルは、軽い推測という考えを捨てて、人の命がかかっているものと考えを改める。


「そうだな······先に、奥さんと娘の方を探した方が良いかもしれない。拉致(らち)されたとみるなら、元黒羽根から何かを訊き出す為の交渉材料にされてるかもしれない。だとするなら、情報を吐くまで元黒羽根は殺されないだろうが、その家族の方は判らない。最悪、既に殺されているかもしれないし、奴隷(どれい)として売られているなんて事もあり得なくはない」


奴隷(どれい)······そうなると、帝国まで行かないと······いや、急げばティエルナ辺りで追いつくかもしれない。けど、ウチ達だけじゃ手が足りないかも」


 アレルの返答に、ジェシカはブツブツと呟きながら僅かに下唇を噛む。その仕草から、ジェシカの心理状態を察したアレルは、その肩にそっと触れて落ち着かせる。


「大丈夫か?」


「えっ? あっ······はい、すみません」


(あせ)るな、まずは落ち着けって。まだ、起きた事実だけを重ねて冷静に対処すべき段階だ。今は、単純に状況証拠から拉致(らち)された可能性が高いってだけで、何もそれが確定した訳じゃない。まずは、ダリアに行って何かしら痕跡(こんせき)を探す所からだ。拉致(らち)されたなら、そのままダリアへ留まっているとも考えづらいし、人を運んだなら何かしらの証拠(しょうこ)が残っているはずだ」


 そう、それで何もなければ単なる失踪で片付けられる。だが、逆にこれがビットーリオ側の策略(さくりゃく)だった場合、あまり大袈裟(おおげさ)に動けないのも事実だ。


「すみません、その······アレル様の方も落ち着かないはずなのに、ウチの方が取り乱してしまって」


「気にしなくて良い。それよりも、こっちの動きを気取られない様にも注意しろよ。そうして、他の黒羽根を(おび)き出すのが目的かもしれないからな」


「······はい、もう大丈夫です。とにかく、拉致(らち)した後もそう遠くまで運ぶとは考えづらいので、ダリア近辺を当たってみます。それと、一応ウチ達よりも上の人達にも(うかが)いを立てておきます」


 そう言いながら、ジェシカは肩に触れているアレルの手に自らの手を重ねて、肩から下ろさせてくるのであった。



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