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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
523/1053

一章〜非望〜 五百二十三話 届かぬ星に手を伸ばして

注)

一応、拷問描写があります

苦手な方は、ひし形の区切りがある部分は読み飛ばして下さい

 メッサーとジェシカの二人と別れて、アレルは左手に投げナイフの入ったポーチを持ちながらアリシア達のいる馬車へと歩く。しかし、アリシアと瑠璃との別れ際の事が頭を()ぎり、アレルは不意に足を止めてしまう。

 別れ際、アレルは瑠璃の忠告を聞き入れず、アリシアには自らの事を誤魔化(ごまか)す事で傷付けてしまった。自身の弱音を他者へ吐露(とろ)出来ない、それが自身の欠陥だからこそアレルは誰かに甘える事が出来ないのだと思い込んでいた。でも、それはやはり思い違いで、メッサー達との話の中でロバートとのやり取りを思い出したアレルは、ロバートにはそんな自らの弱音を吐いていた事も思い出していた。

 それでは、アリシアと瑠璃はロバートと何が違うのか? そんな疑問が、アレルの頭の中を駆け巡る。


(違いなんて、三人それぞれの色んな所にあり過ぎる。むしろ、共通点の方を()げた方が早いぐらいだ。······だから、たぶん三人の違いに何かあるんじゃなくて、きっと俺の気持ちの方に問題があるんだ)


 そう思った時、不意に少し冷えた夜風が(ほお)()でていき、その冷たさに意識を内から外へと向けさせられたアレルは思わず空を見上げる。

 木立(こだち)すらなく、(さえぎ)るものの一切が存在しない夜空は視界を越えて拡がっていく。(まば)らな雲は悠然(ゆうぜん)(ただよ)い、合間から覗く星々の(またた)きをより一層輝かせる。その果てのない広大さと、絶え間なく輝く星々の美しさが持つ引き込まれる様な感覚に、まるで空に落ちて行くのでないかという錯覚(さっかく)すら覚える。

 そんな中に、雲の切れ間から小さくとも周囲の星々よりも強い輝きを放つ星を見つける。一等星なのだろうか、暗い夜空の中でも煌々(こうこう)と輝き続ける小さな星に、何故かアリシアの姿が重なって見える。

 何も知らない世界の中で最初に出会い、国を家を家族すらも奪われながらそれでも屈する事なく笑顔を忘れずに前を向いて行動している。そんなアリシアに対する印象と、小さいながらも真っ暗な夜空の中で最も強い輝きを放つ星の姿が、どこか似ている様にアレルには感じられる。なんせ、無意識に伸ばした手が届かないところなんかも同じなのだから。


(······そっか、俺は見栄(みえ)を張っていたんだな。少しでもアリシアに良い所を見せたくて、だから情けない所なんか見せたくなくて弱音なんかも吐けないんだ)


 分不相応(ぶんふそうおう)なのなんて解っている。それでも、少しでも良いから近くにいたくて必死に手を伸ばし続けている。

 そんな自身の想いと、夜空の星に手を伸ばしている現在の姿とが重なった事でアレルは唐突(とうとつ)に自身の事を理解する。ただ、そうして自身の想いを自覚した瞬間に手を伸ばしていた星に暗雲が迫ったので、アレルは思わず星が覆われてしまう前に自身の拳を握ってそれを胸の前に引き寄せる。

 そんな事に、何の意味もない事は解っていても、何故かそうせずにはいられなかった。きっと、これは恋慕(れんぼ)などではない。それでも、この世界にとって異物でしかない自分に居場所を作ってあげたいと思ってくれたアリシアを失いたくはない。そんな、どこか執着めいた気持ちが混じっているのだから、この想いは純粋なものではないとアレルは自身の拳を見詰めながら思う。


(それでも······それでも、例え俺の想いが不遜(ふそん)の極みであったとしても、この旅の間は俺がアリシアを守り通してみせる。······絶対に)


 決意と共に固く握りしめた拳を下ろし見上げた空には、暗雲が過ぎ去った場所で一段と輝きを増して銀光を放つ小さな星が(またた)いていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ──再び、ルクスタニア国内某所。


「グッ······──ッ!? フゥッ──ッツ!」


「ねえ、そろそろ(わたくし)の話にも耳を傾けてくれないかしらぁ? でないと──」


 ブスッと、耳の軟骨ごと男の耳を針の様な物が貫いて、またもそれまでとは違う種類の激痛が男を苦しめる。


「ア゛ア゛ァァッ!?」


「──こうして、(わたくし)の声が聴こえやすくなる様に、穴だらけにしてしまいますわよ?」


 声の主は、これまでもそうして目隠しをしている男に対して全身の至る所に針を突き刺している。

 その目的は、男を傷付ける為でなく単に痛みを与える為だけに行われている。感覚の鈍い所から敏感な場所を、次は丁度そのどちらでもない場所をと決して与える痛みが同じにならない様にジワジワと追い詰める。針自体も、そこまでの太さはなく抜き差しでの出血も少ない。そうやって、まだ序の口と言わんばかりに肉体への損傷を最小限に、決して痛みに慣れさせない様に傷付けていく。

 そんな事を、拘束されている男は数時間程声の主の気まぐれで繰り返されている。それこそ、まるでやる気が起きないからと片手間で(もてあそ)ぶかの様に。


「あら? 嫌だわぁ、思ったよりも血が出てしまいましたわ。おじ様、少し待って下さいねぇ」


 声の主は、何やらガサゴソと何かを(あさ)る様な音を立てると、カツカツと再び男の下へと近づいてくる。


「はぁ〜い、お口を開けて下さいまし······はい、これで頑張って耐えて下さいねぇ」


 声の主は、男の(あご)を片手で鷲掴(わしづか)みにして無理矢理口を開けさせると、丸めた布の様な物を男の口へ押し込んでくる。男は抵抗を(こころ)みたが、声の主の力が凄まじく男の抵抗は意味を成さなかった。

 次の瞬間、声の主はガッと先程男の耳に開けた穴を広げると、そこに先を火で(あぶ)った針を当ててくる。


「ム゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛!!」


 ジュ〜ッと、気を失いそうな程の激しい痛みと共に、男の鼻腔(びくう)には肉が()げる匂いが届く。しかし、そんな事までしておきながらも、声の主は何の抑揚(よくよう)もない声で語り掛けてくる。


「丁度、穴の大きさに合うものがあって良かったですわぁ。それよりぃ、こうして手当てまでして差し上げてるのですから、そろそろ教えて下さらないかしらぁ? 確かぁ、コルトに立ち寄った事は確実らしいのですが、その後の足取りが全然掴めませんの。本当に、困ったわぁ」


 言い終わると同時に、男の叫び声が急に止んでガクッとその首が力を失って折れ、少し遅れてボチャっと形が(いびつ)になった布が男の口からこぼれ落ちる。それで、男が気を失った事を察した声の主はスッと男の耳から針を抜く。


「······ふり、ではありませんわね。まあ、今日はこれぐらいで良いでしょう。(わたくし)も疲れましたし、夜更かしはお肌にも悪いですから······それでは、おやすみなさいお人形さん(おじ様)


 声の主は、気を失った男には目もくれずにそう口にすると、手にしていた針をその辺に投げ捨ててフッと部屋唯一の明かりである蝋燭(ろうそく)の火を吹き消した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ──同時刻、黒羽根の補給地点。


 自らの想いを自覚したアレルは、決意と覚悟を胸の奥にしまい込み何食わぬ顔で馬車へと戻る。

 こんな、どこか醜悪(しゅうあく)とも言える様な想いを元にした決意も覚悟も誰にも知られたくない。そう思うアレルは、こうして言えない事ばかりが増えていくなと、自身の見栄(みえ)の張り方に辟易(へきえき)する。それでも、出来る事なら今回の旅が終わった後もせめてアリシアが王城(おうじょう)に戻れる様になるまでは近くで見守りたいと思う。

 ただ、果たして自身はそこまで望んで良いものかと、身の程を(わきま)えて大人しく去るべきではないかとアレルの心はどっちのつかずの感情の狭間(はざま)を揺らいでいる。


(何か一つ、片付いたと思ったらまた直ぐにこれだ。アリシアには、望んでくれる限りはなんて言っておきながら、本当に情けないな······俺は)


 そうして、自らを(けな)す事で一旦気持ちに区切りをつけたアレルは、その視界の先に()き火の火を見つける。その周囲には、アレルがメッサー達の所へ向かう前に夜番(よばん)で使う物を置いた木箱以外なく、人影の一つも見当たらなかった。

 それに、四人共先に寝たのかと思ったアレルは、こうして最後には一人になるのが当たり前なんだと改めて自らに言い聞かせるのであった。



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