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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 五百十九話 万全とはいかないまでも

 ビットーリオ側の真の狙い、それが判るのと判らないのとでは今後の対応が変わってくる。そして、今考えられる材料はシープヒルでの一件についてだけだ。

 シープヒルでアレルが考えた通り、アンデッドを用いた(さく)が辺境伯の命を狙った本命のものであるなら、それは辺境伯の行った情報戦で狙いは外されてしまった。だが、先程口にした仮定が正しかった場合、ビットーリオ側に辺境伯殺害の意思がある以上シープヒルの時よりも大掛かりな(さく)やより確実性の高い本命の策が既に用意されている可能性がある。

 もし、それにより辺境伯が殺害されてしまえば、王都から公国への防波堤の役割を果たしているブルックス領が意味を成さなくなる。すると、アリシアの逃亡先である公国へビットーリオの手勢(てぜい)が簡単に部隊を送れる様になり、大公もアリシアを(かくま)う事が難しくなる。


(一応、エリオットっていう後継ぎもいるけど、ビットーリオ側の間者(かんじゃ)の疑いのある人物に籠絡(ろうらく)されてるんじゃな······力不足だよな)


 そう思うアレルは、やはりビットーリオ側を牽制(けんせい)するには辺境伯の存命が必須だと考える。その為に、シープヒルでのアンデッドを用いた策が本命かそうでないかで、辺境伯へ促す注意も内容が変わってくる。

 故に、アレルはビットーリオ側の間者(かんじゃ)である可能性が高まったテレサの存在を重要視している。


「いや······でも、どうやってテレサから情報を引き出すんですか? ジェシカは顔を知られているし、俺はそういった事は苦手ですし······誰か得意な人は──」


「俺が、直接会って調べるよ」


「──へ?」


 話を聞いて、何やら人選を始めたメッサーに対して自身で調べると言ったアレルに、メッサーは間抜けな声と共に唖然(あぜん)とした表情を浮かべる。そして、そのまま思考停止(しこうていし)してしまったのか、固まってしまったメッサーに代わりジェシカがアレルに訊ねてくる。


「あの〜、それってアレル様がダリアの娼館(しょうかん)に行くという事でしょうか? その、流石(さすが)にお連れ様と一緒には······」


「いや待て。言いたい事は解るが、俺が行かなくても向こうから俺の所にやって来るんだ」


 アレルは、ジェシカがおそらくアリシア達の安全面と場所を踏まえて訊ねてきたのだろうと察し、ちゃんと勘違いが起きない様に説明する。

 ただ、それこそ意味が解らないとばかりにジェシカは首を(かし)げてしまう。


「ちゃんと説明すると、エリオットからサリーって名前が出てきた時に色々あってな、その時近くにいたロバートの計らいでエリオットがテレサをリバッジまで連れて来る事になっているんだ」


「あの〜、それこそテレサが間者(かんじゃ)をしていた場合に良くないのでは?」


「そういう心配は解るけど、たぶん大丈夫だろうとは思う。そもそもが、俺一人で会う約束だしエリオットには俺の連れの詳細は話していない。それに、エリオットには国境通過の許可証も頼んであるけど、人数分なら四枚で良いところを俺はその時五枚頼んだんだ。だから、もしエリオットがテレサにその事を話していても、第六感でも働かない限り気付きはしないだろ」


 テレサの雇い主も同様に、とアレルは最後に付け加える。すると、ようやく我に返った様子のメッサーが話に加わってくる。


「じ、じゃあ、アレル様はそうなる事を見越して、(あらかじ)め余分に頼んでいたんですね。流石(さすが)、筆頭が認められた──」


「いや、そん時は身体もズタボロで余裕なかったから、普通に手違いだったな」


「──か······た、でぇ?」


 しかし、アレルを()める事でどうにか調子を取り戻そうとしたメッサーに、アレルがそれを(さえぎ)るみたいに真実を告げると再び面白い表情のままメッサーは固まってしまう。

 そんなメッサーに代わり、ジェシカが話の続きを引き継ぐ。


「そういう事なら、アレル様が直接探りを入れるという事なんですね」


「ああ、あくまでも友人の婚約者の顔を見るっていう(てい)でな。それで、何か気を付ける事だったり助言みたいなものはあるか?」


 そう訊ねると、ジェシカはそうですねと視線を上に向ける。


「······ウチでしたら、同業者相手に探りを入れる時は相手に探ってると気付かれない様に気を付けますね。でないと、相手に何を知りたいか悟られた場合に、(にせ)の情報を掴まされる事もあるので」


 ジェシカが言う事は、要するに相手が知りたいと思っている事が判れば、意図的に誤情報を流して相手側を混乱させようという目論見(もくろみ)がある可能性を示唆(しさ)している。確かに、それは辺境伯もシープヒルでの一件で行なっており、こういった情報戦では常日頃(つねひごろ)行われている事なのだろうとアレルは考える。

 なので、アレルはテレサから情報を引き出すのと同時に、その情報の真偽にも注意を向けなければならないと心に(きざ)む。


「他には······アイツの雰囲気に(だま)されない事でしょうか? アイツ、一人称が『(わたくし)』なんて上品ぶってる上にゆっくり話すから(だま)されやすいですが、その実頭の回転は速い方だと思います。それというのも、店の中で私物を盗った盗ってないの言い争いが起きた事があるんですが、テレサは争っていた二人の話を聞くだけでその私物の在処(ありか)を探し当てた事があったんです」


「自作自演の可能性は?」


「無いですね。詳細は省きますが、ウチ達みたいなのは基本的に無駄な事はしません。なので、店の人間の揉め事を自ら起こして解決する事に何の意味も無いので、テレサが動いたという事はないと思います。······先程のアレル様の言葉を踏まえるならば、決め付けは良くありませんが」


 ヘラっと、ジェシカは困ったような笑みを浮かべてくる。そうやって、直ぐに生かしてくれるのは有り難いのだが、気にさせてしまっている様でアレルは心が痛む。

 ただ、それとは別にテレサが行っていると思わしき事は、敢えて頭が悪いように周りが誤解する立ち振る舞いをしているという事だとアレルは思う。例えるなら、外国人が辿々(たどたど)しい日本語を話していると何故か自身よりも劣っていると錯覚(さっかく)を起こすのと同じで、何故か言葉を流暢(りゅうちょう)に話せないだけでその頭脳さえも劣っている判断してしまう現象がある。そういうのを利用して、他とは違う口調にゆっくりとした話し方を組み合わせる事で、それと同様の効果をテレサは得ていると考えられる。

 つまり、ただでさえ男には女の嘘を見抜けないし、男の嘘は女の目には直ぐ判るなどと言われ不利な中、アレルは頭の回転が速く自身よりも場慣れした人物を相手にしなければならないという事だった。


(変に安請(やすう)け合いするんじゃなかったかな······)


 こうして、テレサについてはある程度の事は聞けたアレルだったが、事の厄介さも判ってしまった為に思わず天を仰ぐ。


(まあ、正道(せいどう)太刀打(たちう)ち出来なければ邪道でいくだけだし、邪道でも駄目なら奇策を(ろう)するだけだ。何とかなる······というより、何とかするしかないんだよな)


 アレルは、満天の星空を眺めながら自らの手札を確認し、まだ見ぬ敵に備えるのであった。



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