表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
506/1053

一章〜非望〜 五百六話 黒羽根の秘する心

 愕然(がくぜん)とするメッサーに、アレルはしまったと言い過ぎた事を後悔する。何故なら、ここは異世界で元の世界の様に多種多様な考え方が(たっと)ばれる訳ではないからだ。

 そもそも、この世界は封建(ほうけん)社会全盛の世界で、上意下達(じょういかたつ)が当たり前の社会基盤が存在している。そんな中に、下意上達(かいじょうたつ)みたく周りに支えてもらうという考え方は、社会の在り方を揺るがす毒になりかねない。それはある意味、料理などの文化的侵略よりも思想への侵略へと成り得るものであり、より悪辣(あくらつ)な改変かもしれないとアレルは考える。


(そうなんだよな、だからこそ元の世界の方でも上下関係が絶対の中世代にあってアーサー王伝説の円卓が特別視されてる訳で、こういう思想的なものは宗教とも関わりが深い。下手すると、異端者扱いで審問官に追い回される事になりかねない)


 アレルは、記憶に残っている漫画か何かで見た正確には審問官ではなかったはずの、ペストマスクに拷問器具を持った様な人物に追いかけ回されるのだけは勘弁して欲しいと思う。なので、メッサーに今言った事は忘れてくれと言おうとしたところで、伝令の内容変更を伝えに行ったジェシカが帰ってくる。


「伝えてきたわよ〜······って、どうしたんです?」


 と、ジェシカは反応のないメッサーと苦笑いを浮かべるアレルを交互に見ながら訊ねてくる。


「いや、それがさ──」


 アレルは、思想への侵略などの自身の悩みは話さずに、メッサーに言った言葉と事の経緯を大まかに伝える。すると、何故かジェシカはよくぞ言ってくれましたといった感じでニンマリとした笑みを返してくる。


「全くもってその通りなんですよ〜。ウチ等······あの、話しやすい口調でも構いませんか?」


「好きにしてくれ。俺も、朱羽根を持ってるってだけで持ち上げられてウンザリしてるんだ」


 アレルは、冗談めかして肩を(すく)めてみせるが、ジェシカはこの人本気(マジ)でそんな事思ってるのと若干(じゃっかん)引いた視線を向けてくる。


「あ〜······じゃあ、そういう事なら遠慮なく······それで、ウチ等は黒羽根の中でも若手でロバートさんが職務を離れる為の交換条件だったんですよ」


「交換条件?」


 アレルは、当のロバートからは何も聞いていなかったので反射的に言葉をそのまま返してしまう。


「ええ、パ······スパッと縁切りしたいなら、後進を育てろ〜みたいな事を上の人に言われたらしくて、それでウチ等みたいなのを集めて黒羽根の訓練を受けさせたんです。ねっ?」


 と、ジェシカは何かを口走りそうになったのを誤魔化(ごまか)す為に、言いながらメッサーの肩を揺らす。メッサーは、それを鬱陶(うっとう)しそうに払いながら、自らも話し始める。


「まあ、そん中でも優秀なのは単独で任務をしてたりするんですよ。レイラやジーナみたく、表の羽根も取得しながら······」


「あのねぇ、あの二人は直弟子(じきでし)みたいになってたんだからそれぐらい当たり前でしょ? それでも、ロバートさんには及ばないって事で二人で組まされたり、ロバートさんも未だに籍だけは商会に残す事になってるんじゃない。あなた、少し劣等感が過ぎるんじゃないの?」


「うるせえな、俺なんて何の取り柄もない凡人(ぼんじん)なんだよ。それなのに、(まと)め役なんてやらされて······知ってんだよ、裏で力不足なんじゃないかとかって言われてんのはッ!」


「また、そうやっていじけちゃって情けない。知ってるなら、少しは言い返したらどうなのよ? この意気地(いくじ)なしッ!」


 何故か、話の流れがメッサーとジェシカの口喧嘩(くちげんか)みたくなってしまい、アレルは口を挟む機会を失ってしまう。しかし、白熱してきた口喧嘩(くちげんか)も意気地なしと言われたメッサーが歯噛みして下を向いた事で変な間が生じる。

 割って入るならここしかないとアレルは思い、意を決して二人に声を掛けようとする。


「あの──」


「またそうやって(だんま)りなんだ? いつまでもウダウダウジウジしてて、いい加減覚悟くらい決めたらどうなの? ねえ、何とか言ったらどうなの? ウチにまでこんな風に言われて、悔しくないわけぇ? ああ、悔しい訳ないか〜。模擬戦でレイラに負けた時にも、おめでとうだなんて笑顔で言えちゃうんだもんねぇ〜」


「······うるせぇ」


 しかし、アレルの声をかき消すみたくジェシカはメッサーを(あお)り始め、それに対してメッサーはボソリと聞こえない程の小さな声で反論する。

 だが、ジェシカの(あお)りは留まるところを知らないのか、ジェシカはメッサーの方へ手を添えた耳を向ける。


「何言ってんの? 聞こえないんですけどぉ〜」


「うるせぇって言ってんだよッ! そもそも、オマエこそ何なんだよッ? いつもいつも、人の事を馬鹿にしてきて、いい加減鬱陶(うっとう)しいんだよッ」


「それだって、あなたの尻拭(しりぬぐ)いをしてあげてるからでしょ? 本当に、一人じゃ何も出来ないし直ぐに落ち込むし、その上本当の事を指摘されたら癇癪(かんしゃく)を起こすなんて······ただのクソガキじゃない」


 ジェシカは、最後の一言だけをまるで冷たく突き放すみたいに無感情で口にする。それには、流石(さすが)にメッサーも(こた)えたのかグッと言葉を詰まらせる。


「······ガキで悪いのかよ? そうだよッ、俺はガキだよ! ガキの頃、筆頭に助けられて以来ずっと筆頭みたくなりたくて、それでもなれなくてッ······それでも、諦めきれなくてしがみつくのがガキだって言うなら俺はガキのままだよ、悪いかッ!」


「別に、それ自体は悪くないわよ。······ハァ、ようやく言えたじゃない自分の気持ち」


 そのジェシカの一言で、ようやく聞く事しか出来なかったアレルもジェシカの言動に合点(がてん)がいく。つまりは、ジェシカは何かあると一人で黙り込んでしまうメッサーの気持ちを引き出す為に、わざと怒らせる様な態度でメッサーを(あお)っていたのだ。


「アンタねえ、皆は別にアンタの事を馬鹿にしていた訳じゃなくて心配していたの、解る? そんなになるまで、一人で抱え込んでるのにそうする理由も誰にも話さなくて······同じ苦労をしてきたんだもの、皆だって心配するわよ。······でもね、一つだけ言わせてもらうけど、ロバートさんと同じになるのは無理よ。あの人は、ある意味で人の(ことわり)を外れている人だから」


「うっ······それは、憧れている俺が一番解っているよ」


 なんか酷い言われようだなと、アレルは二人の会話を側で聞きながら思うが、ロバートの方も大概なので仕方ないかと口出しはしない。

 すると、ジェシカは笑みを浮かべながら(うつむ)くメッサーに自らの手を差し伸べる。


「だけど、アンタにはウチ等がいるんだから、アレル様が言ったみたいに頼りなさいよ。アンタは、ウチ等の上役(うわやく)なんかじゃなくて苦楽を共にした仲間なんだからね」


「そう······だったな。いつの間にか、自分が上になった気分に(ひた)って一人で苦労を背負っている気になっていた。話したところで、どうせ解ってくれないって決めつけて······でも、そうじゃなかったんだよな」


 そう言って、顔を上げたメッサーはどこかスッキリとした様な晴れやかな表情でジェシカの手を取る。

 そうして、いい感じに話が(まと)まった訳なんだが、ずっと横にいたアレルは一体何を見せられていたんだと首を傾げる。本来は、訊きたい事があってメッサーに話し掛けたはずなのだが、メッサーの問題解決に一役買わされた形になってしまった。

 ただ、どこかいい雰囲気にも見える二人の邪魔をするのもなんだからと、アレルは機会を改めようとその場を後にしようとする。


「アレル様? 何か、メッサーに訊きたい事があるんじゃありませんでしたか?」


 が、そんなアレルの動きに気付いたジェシカに呼び止められてしまう。


「いや、なんか邪魔したら悪いし、後でも良いかな〜なんて」


 すると、メッサーとジェシカはサッと同時に繋いでいた手を離してアレルへ向き直る。


「な、何を言ってますですか? あの、何でも答えるですので好きに訊いて下さいませ」


 と、メッサーが言うのだが、言葉遣いが滅茶苦茶(めちゃくちゃ)だし表情もどこかチグハグになっている。それには、隣のジェシカも手で顔を覆い隠してため息を吐く。

 それを見るに、どうやらメッサーは動揺が言葉遣いに出るらしいとアレルは結論づける。


「まあ、そう言うなら遠慮なく訊くけど良いか?」


 それでも、これでようやく本題に入れるとアレルは頭の中で訊くべき事を列挙(れっきょ)していく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ