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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百九十四話 尾を引くわだかまり

 アリシアと約束を交わしたアレルは、アリシアと一緒に馬車へと急ぐ。とはいえ、走ったりはせずに少し歩く速度を速める程度だ。それというのも、急げば安全なのかといえばそうでもなく、既にビットーリオ配下による監視網が敷かれていた場合焦りを気取られると逆に危険を招いてしまう。

 それ故に、アレルは平静を保てる様に基本的に焦らず急がずで行こうと思っている。


(瑠璃、一応訊くけど町の中に追手はいないな?)


 ──はい、それらしき悪意は感じられません。


 その答え方に、自身も感知を覚えたアレルは、その感じ方の違いで見分ける方法に興味が湧いてくる。なので、アレルは参考までに訊ねてみる。


(なあ、その悪意って例えばどんな感じなんだ? もし、俺にも出来るなら、身につけておきたいと思ってさ)


 ──う〜ん、それは少し難しいかもしれません。ルリ達は、元々人に限らず心の揺らぎに敏感です。これは、魂を偽れないのと同じで簡単には(だま)す事が出来ません。


(まあ、心を偽るなんて真似をしたら、精神分裂を引き起こしかねないからな)


 アレルは、虐待などの環境下で心を守る為に、辛い目にあっているのは自分ではないと思い込む事で、辛い記憶を押し付ける人格を生み出す事があるという記憶を引っ張り出す。そして、その人格は稀に自己防衛の意識が強くなり過ぎて攻撃的な人格になる事もある。

 そういった知識を思い起こしたアレルは、やはりアリシアやメリルの心の手当て(ケア)は重要だと考える。


「アレル、それどうする? 私が、荷台に持っていこうか?」


 そんな事を考えてる内に、馬車の前まで来てしまっていたアレルは、バゲットサンドの入った籠をどうするかアリシアに訊ねられる。そこで、瑠璃には悪いが話を中断して、アレルはアリシアの方へ意識を向ける。


(瑠璃、悪い)


「そうだな······イバレラを誘わなきゃならないし、籠の事までアンネに頼む訳にはいかないから俺がこのまま中に運ぶよ。ありがとな」


「ううん、何か出来る事があったら言ってね」


「ああ」


 にこやかに返してくるアリシアに、アレルは自身も薄く笑みを返す。こうして見ると、アリシアの方はだいぶ安定している様に見える。

 しかし、今はメリルの事の方が安心出来ない状態かもしれないので、アレルは改めて気を引き締める。


 ──主様、続きを聞きたくなったらいつでも言って下さい!


 と、一方的に話を中断したにも関わらず、瑠璃はアレルの気持ちを察してかそんな事を言ってくれる。


(ありがとな、瑠璃)


 そうして、瑠璃へ感謝を伝えつつアレルは荷台の幌を捲ってその中へと入る。すると、中は地獄絵図(じごくえず)なんて事はなく、むしろ静まり返っていて不気味な程であった。

 まず目に入ったのは、適当な木箱に腰掛けたミリアなのだが、これが表情を無くし虚ろな目で一点だけをじっと見詰めている。そのせいで、かなりの重症の様にも見えるが、ミリアは打たれ弱い分回復も早い。更に言えば、アリシアに任せておけば立ち直りも早まる可能性すらある。

 問題は、その奥の敷物の上でペタンと座っているメリルの方だ。その表情は、どこか伏し目がちで覇気がない上に、いつもはピシッとしている姿勢もどこか力の入っていない姿勢になっている。そんなメリルは、ハァっと軽くため息を吐いた後でようやくアレルの存在に気が付く。


「アレルさん? ······出発するんですか?」


 その声も、どこか吐息混じりで人によっては妙な色気すら感じる事もありそうだった。しかし、アレルにしてみればそんなのはメリルの本当の魅力などではなく、少し口うるさいながらも気遣いを忘れない慈愛(じあい)を感じる姿こそがメリルだった。

 それ故に、アレルは毅然(きぜん)とした態度でそんなメリルに返事を返す。


「ああ、出発をするにはするんだが、イバレラは御者台の方へ来てみないか?」


「えっ······?」


 その一瞬、不意にいつものメリルの表情が戻る。


「流石に、俺以外の三人がいつも荷台の中ってのは不自然だし、アンネとクリスは外に出してると危ないかもしれないのは話しただろ? だから、イバレラだけでも出てみないかと思ってな。気晴らしにもなるだろうし」


 メリルの反応は薄い。それでも、一瞬だけ戻った表情に賭けてアレルはメリルの返事を黙って待つ。すると、メリルは俯いていた顔をスッと上げてアレルの顔を見上げてくる。


「あの、アタシで──」


「アレル、どうなったかな?」


 そこへ、間が悪くしびれを切らしたアリシアが、幌を捲って声を掛けてくる。そのせいか、メリルは再び口を(つぐ)んで俯いてしまう。


「えっと······だな」


 どこか気不味(きまず)い空気に、アレルは籠を持っていない方の手で軽く頭を()きながらも場繋ぎの言葉を口にする。流石に、そんなアレルの反応を見ればアリシアも間が悪かった事を悟り、どこかバツの悪そうな表情を浮かべる。

 すると、メリルがそそくさと脱いでいた履き物を履き始め、それが終わるとスッと立ち上がり荷台の後方へ歩いてくる。


「······アタシは、外で待ってます」


「あっ、ああ」


 すれ違いざまに、メリルはアレルにボソリと伝えるとアリシアへは一瞥(いちべつ)もしないまま荷台を降りていく。

 その反応に、少なからず傷付いた様子のアリシアを見て、アレルは声を出さずにアリシアへ手招きする。そうして、荷台へ上がってきたアリシアへヒソヒソと耳打ちする。


「感じ的に、少し()ねて意地悪してるだけだから心配するなよ」


 ──はい、ルリもそんな感じがしました。


 アレルの感覚を後押しするみたいに、瑠璃がメリルから感じた事を伝えてくれる。


「瑠璃も、そうだって言ってくれてる。メリルの事は俺が何とかするから、アリシアはミリアの方を頼むな。······俺じゃ、ミリアの相手をするには力不足だからさ」


 などと、最後は少し冗談めかしてアレルは言ってみる。すると、アリシアもアレルの気遣いを察したのか軽く笑みを浮かべる。


「それ、アレルが相手をしたくないだけでしょ?」


「バレたか。······まあ、適材適所って言葉もあるしお互いに出来る事で頑張るって感じで良いんじゃないか?」


「うん、それならミリアの事は私に任せてっ」


 アリシアは、気を持ち直したのかそう言ってニコッと微笑んでくる。そんなアリシアに、アレルは持っていた籠を手渡す。


「ほら、最悪一本ぐらい食わせても良いから。そしたら、流石に元に戻るだろ? 単純だし」


「もうっ、ミリアだって結構繊細な所もあるんだからね。······でも、分かった。それじゃあ、メリルの方はお願いね」


「ああ、任された」


 そう言って、アリシアに不敵な笑みを返したアレルは、荷台から降りて先に行ったメリルを追うのであった。



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