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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百九十二話 後処理に追われる

 アリシアの笑顔を目にして、心底ホッとするアレルではあったが、やはり甘かったのではないかと自身の行動を反省する。そこで、アリシアに気付かれずに会話が出来る瑠璃にアレルは意見を求める。


(なあ、俺ってやっぱり甘いのかな?)


 ──ルリは、主様のしたいようになさるのが一番だと思います!


 その言葉に、アレルは瑠璃こそが自身に対して激甘だったのを思い出す。そうして、少し頭が痛くなったアレルは額に指先を当てると、そこへアリシアが声を掛けてくる。


「アレル、どうかしたの?」


「いや······何でもない。それより、馬車に乗って出発しよう。いつまでも、こうしてる訳にもいかないし」


「うん、そうだねっ」


 アリシアは、明るい表情で声を弾ませながら、くるりと後ろ手で両手を組みながら馬車の方へ向き直る。その、どこか鼻唄まで口ずさみそうな軽やかな足取りに、アレルは本当は不安を隠そうと無理に明るくしているのではないかと疑う。


 ──主様、もしかして何か変な事を考えてはいませんか?


 そこへ、肩に止まっている瑠璃からアレルに声が掛けられる。


(いや······アリシアは、感じている不安を隠そうと無理に明るく振る舞っているんじゃないかって思ってさ)


 ──それなら、ご心配には及びません。今までのアリシア様は、ご自分の不安がどういったものか解っておらず、そのモヤモヤが与える影響で心が不安定になっていました。でも、今はその不安の原因も解っておいでですし、何よりその原因の主様から無理はしなくて良いと言われているのです。それなりに、安定はしていますよ。


(要は、今までは原因も判らない不安のせいで余計に不安定だったけど、今はそれを自覚出来ているから感情の制御もしやすいと?)


 ──まあ、そんなところです。でも、アリシア様は自制心でどうにか出来る方ですけど、お一人どうにも出来ない程に溜め込まれてしまう方がいますからね。


 その言葉に、アレルはメリルの存在を思い出す。更に不味(まず)い事に、先程メリルはアリシアと何やら衝突していた。

 その結果次第では、茫然自失(ぼうぜんじしつ)状態で戻ったミリアとで荷台の中は二重災害の様になってしまう。そう思ったアレルは、取り敢えずアリシアに事の顛末(てんまつ)を訊ねる事にした。


「なあ······アンネ、さっきイバレラと言い合いみたいになってたと思うけど、あれってどうなったんだ?」


「えっ? あれなら······大丈夫、心配しなくて良いよ」


 足を止めて、くるりとアレルを振り返ったアリシアはニコッと微笑む。それに、アレルは単なる杞憂(きゆう)で終わってくれたかと安堵するが、続く言葉で絶句してしまう。


「私、ちゃんとイバレラを言い負かして、アレルのやる事に口出ししない様に約束してきたから」


「······」


 最悪だった。


(なあ瑠璃、俺の世界では天は乗り越えられる試練しか与えないなんて言われるんだけど、嘘だよな)


 ただでさえ、メリルは自らの感情を溜め込みやすい性格をしているのに、その()け口すらアリシアによって塞がれてしまった。

 更に言えば、アレルが荷台から下りる前のやり取りから察するに、メリルはアリシアに言い返された事など無かったのだろう。その驚きに加えて、アリシアに言い負かされたのであれば、メリルの自尊心(プライド)にもヒビが入っているはずだ。

 そう考えると、目眩(めまい)のするアレルだったが、そっちも元はと言えば自身が起因(きいん)となっている為に、心の手当て(ケア)はアリシアと同様に行わなければならないと決意する。


 ──メリル様も、ああ見えて気位(きぐらい)の高いところがありますからね。


(まあ、貴族の血筋なのか姉としての矜持(きょうじ)なのかってところだろ)


 ──ですね〜。


 と、瑠璃がわざわざ和む様な言い方を返してくれてると、そこにしばらく黙っているのを不思議がったのかアリシアがアレルの顔を覗き込んでくる。


「アレル? 大丈夫?」


「あっ······ああ、平気平気、大丈夫。ただ、そんな結果だったら狭い荷台に一緒にいるのも気不味(きまず)いだろ? だから、始めの内はイバレラは御者台の方に乗ってもらおうかと考えていたんだ」


 などと、不意を突かれたアレルは咄嗟に考えていた事を口にして誤魔化す。すると、今度はアリシアが少しだけ不服そうにする。


「······やっぱり、そういうのは私じゃ駄目なんだ」


「いや、いくらフードを被ってるとはいえ、人目に晒すのは危ないから」


「うん、解ってるよ。でも······それなら、色々と落ち着いたらで良いから私もアレルの隣に乗せてね」


 ニコッと、アリシアは笑顔を向けてくるが、アレルには目の奥が笑っていない様に感じられる。そんな無言の圧力に、無力なアレルは従わない訳にはいかず、ここで新たな約束を積み重ねる事になってしまった。


「······色々と、片付いたらな」


「うんっ、約束だよ!」


 今度こそ、ニッコリと微笑むアリシアにアレルはアハハと乾いた笑いを返す。その様子を見ながらも、瑠璃がサッとアレルの外套のフードへ身を隠す。


 ──主様も大変だと思いますが、誰か宿の中から出てきますよ。


 瑠璃に言われ、反射的にアレルも感知の範囲を拡げようするも、宿の中に警戒すべき人物はいないと思って止める。

 すると、直ぐにタッタッタッとどこか慌てた様子で小走りしてくる様な音がアレルの耳に届く。


「アレルさぁ〜ん! 良かった······まだ、いらしてくれて」


 そうして、通用口から顔を出したのはタチアナで、息を切らしながらもその手にそれなりの大きさの籠を持って駆け寄ってくる。それから、タチアナはアレルとアリシアが立つ所の少し前で一旦立ち止まり、呼吸を整えてから一歩だけアレル達へ近づく。

 その直前、アリシアはなるべく自然な動きでアレルを盾にするみたいにタチアナから遠ざかる。


「······はぁ、すぅ······あの、すみません。お時間は取らせないので、これだけ受け取って頂けますか?」


 タチアナは、そう言って手にしていた籠をアレルへ差し出してくる。それを、アレルはタチアナが相手なので何の警戒もなく受け取る。


「これは?」


「私達、厨房からの感謝の気持ちです。お昼にでも食べて頂こうと作り始めたんですが、その······妥協(だきょう)の出来ない人達なので時間が掛かってしまって」


 言われて、アレルは取っ手の部分を持つのではなく籠を抱きかかえるみたいにして持つと、確かに未だにほんのりと温かさが感じられる。その温かさに、賑やかな厨房の光景が脳裏を(よぎ)ったアレルはフッと笑みを浮かべる。


「いや、ありがとな。それと、今朝は顔を出せなくてごめんな」


「いえ、それで良かったんです。その······あの人が、少し迷惑を掛けていたかもしれないので」


 アハハと、気不味(きまず)そうに苦笑いを浮かべるタチアナを見て、そんなジェームスを説得した上でタチアナが来てくれたのだろうとアレルは察する。ただ、そんなジェームスの通常運転っぷりに、アレルはいい感じに肩の力を抜かされてしまう。


「本当に、厄介なのと知り合っちまったな」


「すみません······」


 そう言って、申し訳無さそうにするタチアナの姿も、これで見納めなんだなとアレルは後ろ髪を引かれる思いをここで断ち切る。


「まあ、ジェームスにもだけどタチアナにも世話になったな。他の連中にも、ありがとうって伝えておいてくれ。これは、有り難く食わせてもらうから」


「はい。······あっ、それとその籠なんですが、お客様に渡す為の物として用意してあるものなので、返したり代金の支払いは必要ありません。そう、さっきロバートさんに説明しておきなさいと言われてしまったので」


 最後の最後で、そんな自身が気にしそうな事を先回りするロバートの気遣いに、アレルは心底呆れてしまう。


「まあ、解った······それじゃ、そろそろ行くよ」


「はい、私も仕事に戻らないといけないので失礼します。あの、道中お気を付けて」


「ああ、そっちも······ジェームスと仲良くな。あっ、元気でなだよな? こういう時は」


 そうやって、アレルが最後にからかい混じりで言うと、タチアナはその髪の色と同じ位顔を赤くして、それでも文句を返す事なく頭を下げてくる。


「そ、そちらも、お元気でっ!」


 それだけ言い残して、顔を赤くしたままのタチアナが走り去る後ろ姿を、アレルは見えなくなるまで見送った。



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