一章〜非望〜 四百八十五話 綾なす思い
五人で階段へ向かいながら、アレルは朱羽根の入ったロケットがサイドポシェットに入れたままなのを思い出す。なので、不意に失くしたりしたらパメラにも、ロバートにも、更にはディミトリスにも悪いと思ったアレルは、アリシア達に気付かれない様にこっそりと最後尾になる様に歩く速度を落とす。
そして、気付かれない様にサイドポシェットからロケットを取り出すと、それを首から下げて着替えの際に下げていたアミュレットの上に重ねる。
「ねえ、何してるの?」
ビクッ、とそのアリシアの声に思わず身体が反応してしまったアレルは、どうしたものかと考えを巡らせる。そうして、変な反応をしてしまった為に、何かを隠している事は悟られていると考えた方が良い。
故に、アレルは取れる選択肢は二つだと考える。一つは、アミュレットの方を首から出して、失くさない様に位置を整えていたと言う事。もう一つは、ロケットを首から出して明確な事は口にせず、その役割だけをやんわりと伝える事だ。
ただ、アリシアは嘘をつかれたり何かを隠されたりするのを嫌う傾向がある。なので、どちらにしろ怒られる可能性に気付いたアレルは、どちらでも怒られるなら正直に言った方が幾分心が軽くなるかとロケットの方を首から出す。
「これを、首から下げていたんだ。一応、これで協力してくれてる商会から知りたい情報を引き出せるんだけど、よくよく話を聞いたらロバートの恩人の形見らしくてな。失くす訳にはいかないから、こうして首から下げたんだよ」
そう言うと、アリシアは何とも言えない表情になり、どこか申し訳無さそうにアレルの隣に並びに来る。
「ねえ、もしかしてその話って、出来れば私に話したくなかった話だったりするの?」
「いや、そんな事はないよ。ここまで来たら、あまり俺一人だけが知ってるって事も少ない方が良い様な気もするし」
そう、ここから先は何が起こっても不思議ではないし、何かがあった場合に別行動を取る事だってあり得ない話ではない。だからこそ、出来る範囲での情報共有はある程度必要だとアレルは考える。
それはきっとアリシアにも伝わっていて、それ故かアリシアはキュッと唇を結んで右手を胸の辺りに置く。
「それって······ううん、何でもない。それより、私のあげたやつもちゃんと着けてくれてる?」
「ああ、ほらここに」
言いながら、アレルはロケットを戻す代わりにアリシアから貰ったアミュレットの方を首から出す。ただ、アレルは直前にアリシアがどこか怯えの様なものを感じさせた事の方が気になる。
「そう······なら、良いの。ほら、イバレラ達はもう階段を下り始めてる。私達も行こっ」
スタスタと、アリシアはそう言って少し距離の空いたメリル達へ向かって小走りする。しかし、その直前の反応は明らかに何かを堪えているもので、アレルはそれを口にしなかった事でアリシアが無理をしているのではないかと考える。
ただ、今はゆっくり話が出来る様な時でもないので、アレルは仕方なくアリシアの事を気に掛けるだけに留める。
(これなら、まだ文句を言ってくれた方がマシだな)
──主様を手本にされているのではありませんか?
と、アレルのふとした心の呟きに瑠璃が言葉を返してくる。それに、アレルはアミュレットとロケットの位置を整え直しながら答える。
(俺を手本にって、どういう事だ?)
──そのままの意味です。主様は、例えご自身が不安であってもルリ達にそれを吐露なさる事はないではありませんか? おそらく、アリシア様は少しでも主様の心に近づきたくて、主様と同じ様に感じている不安を押し殺そうとなさっているのでは?
話しぶりから、アリシアは先程の会話で何かしらの不安を抱いたみたいなのだが、その後の反応に関しては瑠璃も推測でしか言えないらしい。
ただ、いつまでもそこで立ち止まっている訳にもいかないアレルは、先に行ったアリシアの背を追いつつ瑠璃へ返す。
(いや、俺だって不安を吐露する事ぐらいあるぞ。瑠璃が見てないだけで、アリシアの前で口にした事もあるし)
──それなら、尚更主様が不安を抱えながらもそれを感じさせない様に接しているので、アリシア様も迷惑かけない様にとお思いになるのではありませんか?
(いや、俺がそうしているからといって、アリシアがそれをしなくても良いと思うんだけど)
アレルのそんな返しに、瑠璃はまるで解ってませんねと、ため息の様なものを伝えてきてそのまま黙ってしまう。なので、アレルはどこかスッキリしない気持ちを抱えながらも、一階への階段を下りていく。
見れば、メリルとミリアは既に階段を下り終えて一階の廊下を歩き始めている。それに、遅れてはならないなと、アレルも少し足早に階段を下りようとするもアリシアを焦らすのも悪いなと速度をアリシアに合わせる。
ただ、そうして先にアリシアが一階まで下りると、そこで一旦立ち止まり視線をアレルへ向けて待つ様な素振りをみせる。
「どうした?」
「うん、あのね······昨日の夜に、これからの事を話してくれたでしょ? でも、イバレラ達は知らないだろうから、私から話しておいた方が良いかなって思ったんだけど······」
言われた後で、一階まで下りたアレルは直ぐに返事をせず、少し考え込む。
確かに、予め説明は必要かもしれないが、二人共リバッジを目指す事は知っているはずだし、その経路までとやかく口を出してくる性格でもない。だが、こうしてわざわざ伺いを立ててきてくれたアリシアの気持ちを無碍にもしたくない。
そう考えたアレルは、アリシアの気持ちを大事にしつつ、折衷案の様なものを提案する。
「そうだな、確かに俺は馬車を動かすから話している余裕はないし、アンネがしてくれるなら助かるよ」
「本当に?」
パァッと、アリシアは自信なさ気だったからか、アレルの言葉に表情を明るくさせる。
「ああ、本当に。でも、話すなら馬車の中で町から離れてからにしてもらえると良いかな」
「うんっ、誰が聞き耳を立ててるか、判らないからね」
「じゃあ、行こう。二人を待たせているかもしれないから」
「うん」
アリシアは、返事を返すと共にアレルの隣を歩き始める。その、どこか軽い足取りに先程の不安は霧散した様にも見え、アレルは一先ず安堵する。
──こういう所は、アリシア様もルリと変わりませんね。
(まあ、ただ護られているだけなのは嫌ってのもあるんだろ?)
──······そうですね。
何やら、含みのある間を持たせた瑠璃だったが、そこを訊ねると再びそっぽを向かれてしまう気がしたアレルはそのまま聞き流す。そうして、一階廊下を歩いてカウンターが見える所まで来ると、先にメリルが部屋の鍵をクラウスへ返していた。
「あっ、お客様」
すると、アレルの姿に気付いたクラウスが声を掛けてきたので、何か問題があったのかとアレルはアリシアと共に足早にカウンターへと近づく。
「何かあったのか?」
「いえ、その······お客様に、少々私的なお話がありまして」
どこか申し訳無さそうに言うクラウスに、アレルはロバートの事かと思うも、他に支払いや厨房の事なども思い当たってしまう。なので、アレルはアリシア達へ一度視線を向ける。
「そういう訳だから、先に馬車の方へ行っててくれないか?」
「はい、分かりました」
「うん、それなら先に行ってるね」
メリル、アリシアと返事を返した後で、ミリアだけがフンッと鼻を鳴らし二人の先を歩いていく。それに、アレルがなんだかなと思っていると、フードの中の瑠璃が声を伝えてくる。
──ルリは、このままいても良いんですか?
(まあ、問題ないだろ)
「それで、話って?」
人払いという言い方が正しいのか判らないが、アリシア達が中庭へ向かったところでアレルは鍵を返却しつつクラウスに訊ねた。




