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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百八十四話 新たな気持ちで

 部屋の鍵を手に、アレルは扉の前で最後に一度だけ部屋の中を振り返る。思えば、アリシアに秘密を打ち明けられたりして距離が縮まったのも、何処(どこ)にも居場所がないと嘆き自身がアリシア達にその不安を(さら)け出したのもこの部屋だった。

 更に言えば、初めてアリシアとの口喧嘩らしい口喧嘩をしたのもこの部屋だよなと、アレルは未だに不安定な二人の距離感に笑みをこぼす。


「アレル?」


 そこに、そんなアレルのこぼした笑みを不思議に思ったのか、隣で同様に部屋の中を振り返っていたアリシアがアレルの顔を覗き込んでくる。ただ、アレルはそれには応えずにそのまま部屋の中を見渡す。

 ここに来るまでは、正直不安と緊張感しかなかった。それでも、ここでの短くも濃密な様々な経験が少しはアレルを成長させてくれたのか、今のアレルの胸にはそれ以外のものが確かにある。

 懸念はある、不安も消えてはくれてない。それでも、今のアレルには未知への好奇心や妙な高揚感なんかも感じられる。それはきっと、ここで新たに築けた関係性のお陰で、多少は自身を肯定出来るようになったからだろうとアレルは考える。


「······有難うございました」


 何故か、自然と頭を下げたアレルは不意に口から感謝の言葉を紡ぎだす。それは、僅かな日数でも自身の帰る場所となってくれた事に対する感謝だったのかもしれない。

 ただ、そんな事は判るはずもないのに、隣のアリシアも同様に頭を下げて、瑠璃も外套のフードから出て来る。


「ありがとうございました」


 ──ありがとうございました。


 その声に顔を上げると、これで良いのという表情で目を合わせてくるアリシアと、アレルの視界の中でパタパタと元気に浮遊する瑠璃と、アレルは自然と笑い合う。


「じゃあ、行くかっ!」


「うんっ!」


 ──はい!


 そうして、アレルはアリシアと瑠璃の二人と共に、新たな地へと旅立つ為にその部屋を後にした。

 それから、部屋をしっかりと施錠した三人は、未だ姿を現さないメリルとミリアに声を掛ける為に二人の部屋の前までやって来る。こちらは、早めにアリシアへ荷物を纏める様に言っていたからそれ程時間が掛からなかったが、メリル達には言い忘れていたので時間が掛かっているのかもしれないとアレルは考える。

 そして、アレルは声を掛ける前に鍵を持ったままの右手でメリル達の部屋の扉をノックする。


「お〜い、そろそろ出発するぞ! イバレラもクリスも、準備は出来たか?」


 そこで、アレルは隣のアリシアに外套の端を引っ張られる。


「ねえ、何でそっちの名前なの?」


「ああ、ここには長居したから安全だって判ってなあなあにしてたけど、ここから出たら気を引き締め直さないといけないからな」


「うん、そうだよね······私も、気を付けるね」


 と、アリシアは改めて気を引き締めたのか、力強く頷いてみせる。その直後、部屋の中から扉の方へ人の気配が近づいてくる。


 ──主様、出て来るみたいなので少し下がった方が良いかもしれません。


(ああ、分かった)


 フードの中の瑠璃に言われ、アレルは隣のアリシアにも促して一歩半程後ろに下がる。すると、程なくして内開きの扉が開かれて最初にメリルが姿を現す。


「あっ、二人共おはようございます。······ルリさんは、フードの中ですか?」


「おはよう、イバレラ。瑠璃なら、この通り」


 アレルがそう言うのに合わせ、瑠璃はフードの中からひょこっと顔を出す。そんな瑠璃に、メリルはニコッと微笑みかける。


「ルリさんも、おはようございます」


 ──はい、おはようございます。


 そうして、二人が挨拶を交わすのを見届けた後に、アレルが姿を現さないもう一人を気に掛けるも、アリシアが先にそれを訊ねてしまう。


「おはよう、イバレラ。それで、クリスはどうしたの?」


「えっ? クリスなら、すぐ後ろにいますよ」


 そう言ったメリルは、扉から出て廊下に出るとその背後にミリアの姿が見える様になる。だが、その姿にアリシアはどこか唖然としてしまい、一方でその姿を知っていたメリルは苦笑する。


「おい、アレルッ! 貴様の服は、この通り私が借りる事にしたからなッ! 考えろと言ったのは貴様なのだから、文句はないよな?」


 そう言って、アレルに人差し指の先端を向けてくるミリアは、昨日貸していたアレルの服を着て男装をしている。ただ、宣言した後でバツが悪くなったのか、フンッとミリアは顔を背けて腕組みをしてしまう。

 そんなミリアに、アレルは昨日言った事が多少は効果があったみたいだなと、内心安堵する。確かに、ミリアが男装をしている事で女性の三人組に注視している連中の目は止まりづらくなる。ミリアにしては、よく考えた方だなとアレルは素直に感心する。

 ただ、そんなミリアに対してゴゴゴゴと憤りにその身を焦がす者がいた。


 ──主様、アイツ主様の服を奪っておきながら、態度がデカくありませんか?


(まあまあ、俺の記憶にある限り初めて名前を呼んだ事に免じて許してやれよ)


 アレルは、そう言って瑠璃を宥めつつ、羽を使わずにフードを這い上っていたのを戻る様に手で促す。


「別に、文句なんてないよ。それに、そっちは俺が袖を通した事も無いからついでにくれてやる。上手く使ってくれ」


「フンッ」


 未だに、お互い歩み寄りは出来ていないものの、これで協力体制の承諾だけは取れたものとしてアレルは安堵する。

 よく見れば、ミリアは女性顔でしかないのだが、目付きが鋭い分フードでも被れば男にしか見えないだろう。それに、男装時は堂々と腰に舶刀(カットラス)を装備出来る。この物騒な世界においても、流石に腰に剣を下げている女性はそう多くないので、これまでと同じ格好をしていたならミリアは非武装でいるしかなかった。

 なので、それだけの違いでもこの先を進むのには大きな助けになるだろうとアレルは考える。だが、そこでアレルはジャケットの袖が引っ張られたので、そちらに視線を向ける。


「ねえアレル、私もクリスみたいに男装した方が良いかな?」


 と、アリシアが小首を傾げて訊いてくるので、アレルは愛想笑いを浮かべながらアリシアの質問に答える。


「え〜っとだな、それをするとイバレラが男三人を(はべ)らせるみたいな形になって、逆に人目を引いてしまうかな······。だから、そのクリスが男装するぐらいで丁度いいんだよ」


「そう······だよね、うん解った」


 そうは言うものの、アリシアはどこか元気が無さそうな笑みを浮かべる。それに、アレルは首を傾げるも理由が解らず、アリシアは衣装選びが好きな様に見えたのでもしかして男装に興味があるのかもしれないと考える。

 なので、アレルはそんな適当な推測から、一つの妥協案をアリシアに提示する。


「あのさ、男装に興味あるなら次の宿で俺の服を着てみるか? たぶん、俺はしばらく普段着は着ないだろうし」


「えっ······良いの?」


「ああ、何なら俺と二人なら町中を少し歩く程度大丈夫だと思うし」


 すると、まさかのアレルの推測が当たっていたのか、アリシアは嬉しそうにはにかむ。


「それなら、約束ねっ」


「ああ、まあ良いけど······町中歩くってのは、状況次第でって事で頼むな」


「うん、それくらい解ってるから大丈夫だよ」


 という訳で、何故か男装したアリシアと町中を歩く約束をする羽目になったのだが、フードの中の瑠璃からはどこか呆れた気配が感じられる。


(瑠璃、どうかしたのか?)


 ──いえ、何でもありませんよ。ほら、主様がアリシア様と話している間に、忘れ物の確認を一人でしていたメリル様が戻って来ますよ。


 そう言われ、視線を扉の方へ戻すとその中から瑠璃の言う通りメリルが出て来る。その瑠璃の、どこか白々しい反応は少し気になったが、アレルは出てきたメリルに声を掛ける。


「忘れ物はなかったか?」


「えっ? はい、ありませんでした······けど、さっき断りを入れた時は聞いていない様に見えたのですが?」


「ああ、今瑠璃に聞いたんだ。それじゃ、忘れ物がないなら馬車に向かうか?」


 アレルは、そう言って四人に最後の確認を取る。


「うん」


 ──ルリは、いつでも大丈夫です。


「はい、行きましょう」


 ここで、ミリアが返事を返さないのはお約束になりつつあるので、アレルはミリアに限って返事が無い事を返事として受け取る。そうして、アレルは全員で馬車のある中庭を目指して階段へと歩き始めた。



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