表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
481/1056

一章〜非望〜 四百八十一話 無自覚な想いと秘する者

 その言葉に、一覧表を書く為の紙を用意して満足していたアレルは、すっかりそれを失念していた事を思い出す。

 更に言えば、揺れる馬車の中で一覧を書けというのも酷な話で、この場で書いてもらうのが一番だとアレルは考える。それ故に、アレルはアリシアへ返事をする前に残り僅かだった朝食を急いで口の中に押し込む。


「アレル!?」


 ──主様、大丈夫ですかっ?


 と、それを見ていた二人には心配されてしまうが、少々説明も長くなるだろうし自身が見ていた方がアリシアも安心するだろうと考えたアレルは、早々に朝食を食べ終える必要があった。


「大丈夫だ、食いながらだと少し面倒だったから······」


 言いながら、アレルは席を立ちアリシアの隣へ移動する。そして、アリシアの前に置かれた裏にした地図を横ではなく縦長になる様に置き直す。

 続けて、アレルはその左端を一文字余り分空けた上で、自らの指先でそこを指す。


「アリシア、ここに『あ』の公用文字を書いてくれるか?」


「えっ、あっ······うん」


 アリシアは、戸惑いながらも言われた通りに文字を書いてくれる。それを見て、アレルは確かに自身で書いた文字よりも均衡の取れた綺麗な文字だと感じる。

 ただ、それに関して感想を口にするよりも先に、アレルはアリシアが文字を書いた隣を指差す。


「次は、ここに『い』を頼めるか?」


「うん」


 アレルに従い、アリシアは言われた通りに地図の裏面に公用文字を書いていく。『い』が終われば『う』を、『う』の次は『え』を、そうして横一列に『あいうえお』とアレルは公用文字で書いてもらう。


「それじゃあ、次は『あ』の下に『か』って書いてもらえるか?」


「うん······あっ!? 解った、これって下に同じ文字を使うのを並べていくんでしょ?」


 ねっ、とアリシアは隣から指示を出すアレルへ顔を向けて無邪気な笑みを浮かべてくる。アレルは、それに軽く戸惑いつつも変に間を作らない様に言葉よりも先に頷いてみせる。


「ああ、五十音順っていう俺の故郷で一番最初に習うやつなんだ。ちなみに、公用文字も外来語ではあるけどローマ字っていう似た法則で書く文字があったから、それを元にしてるだけなんだけどな」


「でも、凄く見やすいと思うのに、どうしてアレルはそんなに気が引けてるの?」


 アリシアは、アレルが無意識にそれの説明を嫌がっているのに気付いたのか、そんな事を訊ねてくる。

 それでアレルは、料理の時とは異なる忌避感が自身の中にある事に気が付く。料理ならば、レシピはあくまで調理という技法が確立した上での、それらを利用した思いつきの延長線上と考える事が出来る。しかし、今度ばかりはそこへ至る道が無い所から、突如として別の理屈で考えられた結果を持ってきてしまっている。そう感じる事で、アレルは自身の忌避感が刺激されているのだろうと考える。

 人によっては、それぐらい大した違いではないだろと言うかもしれないが、アレルにとっては大きな違いだった。それ故に、アレルは自身のそういった気持ちを整理しながらアリシアへの言葉を選んでいく。


「なんていうかさ、あまり元の世界のものをこちらに持ち込みたくなくてな。料理なんかは、あくまでこっちの世界にある物を使っているから、そこまで忌避感がなかったんだけど······今回のこれは、学問に関わる分野だから後の影響とかを考えると少しな」


「······それって、アレルの世界では当たり前の事で何も問題の無い事でも、その当たり前のないラ・アトランディアでは何が起こるか判らないって事?」


「そうだな······アリシアにも解りやすく言うなら、ルクスタニアのど真ん中にいきなり帝国が転移してくる感じかな?」


「それっ、凄く困る!」


 バッと、アレルの例えに激しく反応したアリシアは隣に立つアレルを下から見上げてくる。ただ、アレルはそっとそんなアリシアの視線から軽く目を逸らす。


「そうだろ、凄く困るんだよ。今の例え話の中の帝国が俺で、ルクスタニアがこの世界なんだ。だから、この世界にとって俺は凄く困る存在だって事だな」


 ──主様······。


 そんな、どこか空虚(くうきょ)な話をしたせいか、瑠璃はアリシアの肩から離れて再びアレルの肩に止まりに来る。


(大丈夫だよ、だからって自分を(ないがし)ろに扱おうなんて思ってないから)


 心配そうにしてくる瑠璃に、アレルはそう言って(なだ)めるがその瞬間にギュッとアレルの手が掴まれる。

 それに、驚いたアレルが掴む手の先を目で辿ると、そこには憤りとも哀しみとも取れる表情をしたアリシアの顔があった。


「アレルは帝国なんかじゃないよ! だって、私達を助けてくれてるもん。それに、これだって私とルリちゃんで秘密にしてれば何の問題だって起きないよ。だから、その······アレルはここにいても良いんだからね」


 言いながら、まるで逃さないからといった感じでアリシアが握る手に更に力が加えられる。

 その様子に、アレルはもしかしたら昨日からアリシアには怒られてばかりで、自身はもう必要ないのかと心のどこかで感じていたのかもしれないと考える。だからこそ、今の様に言って欲しくて、無意識に欲しい言葉を貰える様な話し方をしたのかもしれないとアレルはそんな風に感じる自身が情けなくなってしまう。

 ただアレルは、こんな話でもちゃんと踏み込んできてくれたアリシアに対して、真摯でありたいと自らの恥部を晒す事にする。


「えっと、その······取り敢えずありがとな。それと、我ながら情けないと思うけど、たぶん俺アリシアに今みたいに言って欲しくて変な話し方をしたのかもしれないんだ。その理由も情けなくて、一昨日ぐらいから俺ってアリシアを怒らせてばかりで、何度もバカバカ言われるし······もう俺って要らねえのかなって感じていたのかもしれない」


 すると、アリシアは慌ててアレルの手を掴むのを止めて、そのまま言い訳めいた事を口にし始める。


「ご、ごめんねっ! 私、そんなつもりはなくて、その······というよりも、私そんなにアレルへキツく言ってたの?」


「えっ、あ〜······それは駄目だとか、そこを直せとかは割と言われたかな? たぶん、無意識にアリシアの事を苛つかせていたんだろうな」


 アレルがそう答えると、アリシアはアレルへ言った自身の発言を思い出したのか、被っていたフードの端を両手で掴んでそのまま顔を隠すみたいに身を縮こませてしまう。


「う〜、本当だ······私、何でそんなにアレルへキツく言ってたんだろ? なんで? どうしてか解らないけど······なんか恥ずかしい······」


 ──······無自覚ですからね。


 と、自分の言動を省みて恥ずかしがるアリシアを横目に、アレルの肩に止まる瑠璃はそんな事を口にしてくる。


(何だ? 瑠璃は、理由が解るのか?)


 ──いえ、世の中にはお気付きになられるまで、他者は口にしない方が良い事もあるんですよ、主様。


(秘するが花って事か?)


 ──何ですか、それ?


(えっと、確か隠し事は良くないけれど隠していた方が良い事もあって、そうする事自体がものの価値を定めている事もあるって考えかな。だから、知られるとその価値が無くなるとか?)


 アレルは、うろ覚えながらも言葉の意味を伝えると、瑠璃からはどこか嬉々とした感情が伝わってくる。


 ──まさに、それです! 主様、良い言葉ですね。


 パタタタと、羽を素早く動かして瑠璃は喜ぶものの、一方で恥ずかしがったままのアリシアをそのままにはしておけないとアレルは考える。何故なら、今日はシープヒルを出立する日で、今は本来なら纏めた荷物を手に宿を出る支度をする時間だ。

 ただ、アレルはそれを口にしてアリシアを焦らせるのも嫌だったので、それとなく自然に振る舞う。


「アリシア、そろそろ一覧書きに戻らないか? 一応、それも出立準備みたいなものだし······何なら、俺が書こうか?」


「えっ!? あっ、うん······そうだね。······でも、アレルはもう少し文字を書く練習をしようね」


 我に返った様子のアリシアは、アハハと苦笑いを浮かべながらやんわりとアレルの申し出を断る。それも、先程の事があったからかとアレルは思うも、アリシアが口を開くよりも先に筆記用具を確保した事に対してはコノヤロウと思う。

 しかし、そうのんびりもしていられないのも確かなので、アレルは何かを口にする事も無くアリシアと一覧表作りを再開させる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ