表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
474/1055

一章〜非望〜 四百七十四話 僅かな違和感

 上体を起こしたアレルは、改めてアリシアの姿を確認する。見ると、今日のアリシアはパンツスタイルで簡素なブラウスを合わせている。それに、流石のアリシアも今日は緊張しているのか、動きやすい服装を選んでいるなとアレルは思う。

 ただ、そうしてマジマジとアリシアを見ていると、アレルは夢の中での言葉を思い出す。マスラオは、他の誰かの伝言でアリシアを守り通せと伝えてきた。アレルとしては、言われずともやり通すと宣言したが、こうしてアリシアと対面しているとその気持ちがより一層強くなる。


「アレル······寝ぼけているの? 少し、私の事を見過ぎだよ」


 言いながら、アリシアはアレルから半歩離れて恥ずかしそうに右手で左肩を抱く。


「へ? あ、ああっ······悪い、確かに少し寝ぼけているのかもしれないな。顔を洗うついでに、着替えてくるよ」


 アリシアの指摘に、ドキッとしたアレルは取り繕うようにして着替えを手にそそくさとブーツを履いて、そのまま浴室へと向かう。その背中で、もうバカなんだからと、アリシアの呟きを聞きながらアレルは浴室の扉を開けて中へと逃げ込む。


(はぁ〜、クソ······マスラオの奴が変な言伝を伝えてくるからだ。まったく)


 アレルは、そうして自らの落ち度をマスラオのせいにして取り敢えずの平静を取り戻す。

 それから、アレルは手早く洗顔などの身支度を整え、着替えも済ましてしまう。その最中、アレルはロバートが補強したレザージャケットの着心地を確かめる。


(うん、革を厚くしたとか言っていたからどうかと思ったけど、軽く圧迫感を感じるかなって程度でほとんど気にはならない。流石、ロバートって感じの仕上がりだな)


 アンデッドの爪に裂かれた部分を重点的に、他もそれに追随する形で補強されたジャケットは、ナイフ程度の斬撃では身体まで届きそうもない程に強化がされていた。これに加えて、ロバートがくれた籠手を装備すれば、かなりの防御力向上が見込める。

 更に言えば、今のアレルには中距離牽制の為の投げナイフもある。これらだけで、それなりに戦闘力が向上したのではないかと思える程の頼もしさをアレルは実感する。

 ただ、それもこの先に待ち受けているだろう困難を前にしてしまえば心許ない様にも思える。それでも、無理だろうと無茶だろうと必要な事は何でもしてアリシア達を送り届けなければならないとアレルは思う。


(やり通すと口にしたんだ。口に出した以上、それを違える訳にはいかないからな)


 パンッと、そう思い直したアレルは両手で顔を挟むみたいにして両頬を叩く。そうやって、自らに喝を入れたアレルは浴室から出る。

 すると、アレルは部屋の中を軽く見渡してから、ベッドの方で荷物を纏めているアリシアに訊ねる。


「なあ、瑠璃はどこにいるんだ?」


 言いながらも、瑠璃の気配を探っていたアレルはアリシアの近くにそれを感じ取る。


「ん? ああ、ルリちゃんならまだこの中だよ」


 アレルへ振り向いたアリシアは、瑠璃の寝床となっている小物入れを持ってアレルに見える様に掲げる。それにアレルは、瑠璃の気配を更に注意深く探ると、どうやらまだ寝ているらしい事が感じられた。


「······珍しく、まだ寝ているみたいだな」


「そうなの?」


 寝ていると聞いたアリシアは、掲げていた小物入れを優しくそっと下ろす。


「ああ、いつもなら俺より早く起きているんだけどな」


 そう口にしながらも、アレルはそもそも瑠璃にとっての睡眠が人のそれとは違う意味を持つのではないかと考え始める。

 人にとっての睡眠は、休息が第一ではあるが他にも記憶の整理や、短時間ならば集中力や作業効率の向上を目的とする場合もある。変わって、瑠璃の場合は人ではなく妖精というアレルの知識では測れない存在だ。加えて、瑠璃には瘴気や気配を感じ取ったり人の心を読んだりする他、人を眠らせたり怪我の治療をするなんて力も持っている。

 その事から、それらの力を行使する為の何かを蓄える為に、瑠璃は睡眠を必要としているのではないかとアレルは考える。だとすると、こうして眠り続けているのも瑠璃なりのやる気の表れなのかもしれない。


「それなら、今日のルリちゃんはお寝坊さんなんだね。······ねえ、これってやっぱりアレルがルリちゃんに負担掛けているせいなんじゃない?」


「へ?」


 反射的に、疑問の言葉を返すもアレルには思い当たる事が多過ぎて反論が出来ない。そのせいなのか、アリシアは好機とばかりにアレルを責め立てる。


「ほら、アレルは普段からルリちゃんに警戒を頼んでいるし、野営の時だってルリちゃんの方が長く起きているんでしょ? それに、怪我をした時だって治してもらっているんだから尚更じゃない?」


 言いながら、アリシアは朝食の配膳が近いのを警戒したのか壁際に掛けていたローブを着始める。そんなアリシアの言葉に、御尤(ごもっと)もで御座いますとアレルは心の中で平伏する。

 すると、そこへアレルの味方がようやくその姿を現してくれる。


 ──主様は、何も悪くはありません。全部、ルリの力不足が原因なのです。


「いや、瑠璃は頑張ってくれてるんだから、そんな言い方は止めてくれ。······それより、おはよう瑠璃」


 ──はい、おはようございます主様!


 瑠璃は、少し前からアリシアとの会話を聞いていたのか、そんな受け答えをしながらスッと小物入れから出て来てアレルの前まで飛んでくる。ただ、そのやり取りで不満気な表情をするのは、瑠璃の声が伝わらないアリシアだった。


「ねえ、ルリちゃんはなんて言ってるの?」


「ああ、全部自分の力不足が原因って言ってるから、そんな悲しい事は言わないでくれって頼んだんだ。聞いてないけど、少し前から会話を聞いていたんじゃないか?」


 アレルがそう言うと、瑠璃はコクンと頷くみたいに上下に揺れる。その直後、瑠璃を見ていたアリシアにもその意図は伝わったらしく、アリシアは次第にオロオロし始める。


「あ、あのねっ、違うの。私······その、ルリちゃんを責めたかった訳じゃなくて······私は──」


 と、アリシアが弁明を始めるも、何故かそれをアリシアの前まで飛んでいった瑠璃が途中でその身を左右に動かす事で遮ってみせる。しかし、瑠璃は一向に言葉を伝えてはこずに、アリシアに対して羽を明滅させている。


「ル、ルリちゃん!? ねえ、アレル······」


 ただ、当のアリシアが瑠璃の意思を汲み取りきれない為に助けを求めてくるも、アレルは言葉を伝えてこない瑠璃の意図を読み解く。


「なあ、もしかしてアリシアがさっき瑠璃に言い訳しようとしていた理由に、俺に聞かれたら嫌だとか思う事があったんじゃないか? たぶんだけど、瑠璃はそれが俺に伝わらない様に、そうやって言葉を使わずにアリシアへ何とか伝えようとしてるんじゃないのか?」


「そう······なの?」


 アリシアが、そう言って瑠璃に訊ねると瑠璃は再び頷くみたいに上下に揺れる。


 ──その通りです。流石は主様です。


 その言葉は、流石にアリシアへ通訳しなくても良いだろうと、アレルは黙って自身のベッドへ近づく。


「まあ、そういう事なら俺はこっちで自分の荷物を纏めているから、好きにやっていてくれ。それと、瑠璃の寝床は基本的にアリシアが管理する様にしてくれないか? 瑠璃が、俺といる時はたぶん外套のフードに入るだろうし、昨日みたいにアリシアが何かする時は瑠璃はその中でアリシアと一緒にいてもらうからさ」


「うんっ、任せて!」


 ──はい、アリシア様の事は瑠璃にお任せ下さい!


 などと、どちらがどちらを任されたのか判らない返事を返すので、アレルは笑い出しそうになるのを必死に堪える。


(まあ、似た者同士で相性が良いって事だろ)


 アレルは、そう心の中だけで思ったのだが、それに何故か瑠璃が不思議な反応を示す。


 ──あの、主様? 今、少しだけ······いえ、ルリの気のせいかもしれません。


 それは、一体どういう事なのだろうか。瑠璃の反応を見るに、瑠璃は明らかにアレルが心の中で思った事に対して反応を示していた。

 その事にアレルはまさかとは思うが、もしかしたら瑠璃と相互的な精神感応が可能になったのでは考えてしまう。そこで、アレルがふと思い出すのは夢の中でのマスラオからの言伝だった。

 マスラオは、双剣術の男が精霊や妖精関係で何かしらの細工を施したと言っていた。アレルは、それが今の瑠璃の反応に繋がっているのではと睨む。なので、アレルは少しだけ試してみる。


(お〜い、瑠璃聞こえているか?)


 と、アレルは心の中で呼びかけてみるが、今度は瑠璃からの反応は何もない。その事から、瑠璃もそう言っていた様に、単なる気のせいだったんだろうなとこの件についてはアレルもさして気にしない事にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ