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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百七十一話 明日に備えて

 浴室に入ったアレルは、服を脱いで手早く汗を流す。そうしている間に、少しアリシアの事を考える。

 先程の話を終えた時、アリシアはどこか呆然とした表情を浮かべていた。それに、少し色々と話し過ぎたのかもしれないとアレルは反省するも、その行い自体は決して間違っていなかったと自負する。

 何故なら、話をするに至った理由にアリシア自身の意思がある上、いくら立場のある人とはいえアリシアも意思を持った一個人だ。そんな事まで知る事はないと、一方的に情報を遮断する事はどこかの部屋に監禁している行為と大差ない。そう考えるからこそ、アレルは自身の裁量で話せる事なら可能な範囲でアリシアに話そうと今は思っている。


(まあ、それでも内容とアリシアの様子を鑑みて、ちゃんとアリシアが受け止められるだけに留めないと駄目だったんだけどな······)


 今回は、少し情報量が多過ぎたのかもしれないとアレルは反省する。そもそも、アリシア自身どこか感情の揺れ動きが激しかった様に見えた。

 そこを考慮して、もう少し話し方を工夫すべきだった。それにも関わらず、勢いのままに語ってしまったのは、アレル自身も自覚しつつあるアリシアの信頼を失いたくないという想いがあるからかもしれないとアレルは考える。

 何故、そんな事を思うのかは解らない。ただ、アリシアから向けられる信頼はどこか心地良く失い難く感じる。だからといって、信頼に応える為にアリシアへ負担を強いてどうすると、アレルは雑に顔を洗って自身に喝を入れる。


(本当に、これからしっかりしないとな)


 一応、人の手を借りる事も覚えたアレルではあるものの、それとこれとは別問題だと自身を叱責する。人の手を借りるという事は、決して他者に寄り掛かって良いという事と同義ではないとアレルは自らを律する。

 ただ、アリシアに向けて話している中でもいくつか一人では気付けなかった事も確かにあった。まずは旧道の事、それからアリシアが気落ちしない様にと記憶を探り色々と考えた結果、アリシア達の情報に懸賞金が懸けられている事と待ち伏せしているだろう連中の精神状態にまで考えが及ぶ事になった。

 そうして、アレルは待ち伏せしている連中にも隙があると思える様になったし、旧道でも油断が出来ない事が判った。アレル一人で考えていると、その思考はどこか最悪を想定した悪い方向へ向かい思考も小さく纏まりがちになってしまう。しかし、そこにアリシアの存在が関わる事で、アレルの思考は前向きな事を探さなければと広がりを見せる様になる。

 その結果、明日からの行動においても多少は心の余裕が出来てしまうのだから、アレルとしてはやってられない。本当に、どちらが助けられているんだかと、アレルは自身の状況を自嘲する。


(······でも、これがアリシアの言っていた分け合うって事になるのかな? ······少し、違うか)


 そうは思うも、現状こうしてアリシアは宣言した通りに、自身を一人にはさせてくれないんだなとアレルは思う。それでも、それをアレルは疎ましく感じる事などなく、無意識に笑みをこぼしてしまう。


(さて、いつまでも物思いに(ふけ)ってる場合じゃないよな)


 そう思ったアレルは、諸々を手早く済ませて浴室内でする事を全て終わらせる。そうして、寝る時の簡素な服に着替えたアレルは浴室を出ていく。

 すると、部屋の明かりは落ちていなくとも、アリシアは既にベッドの中で横になっていた。だが、アレルの方へ背中を向けている為に本当に寝ているかは判らなかったが、念の為音を殺して自身のベッドへと近づき浴室で使用した物を片付ける。

 それから、アレルは音を立てない様にロバートから教わった身体の柔らかさを向上させる柔軟を行い、その後でやる事も無くなったので自身も寝ようと、枕元に首から下げていたアミュレットを置いてから明かりを落としに行く。そして、手探りで自身のベッドへと辿り着いたアレルはブーツを脱いで、ベッドの中へと潜り込む。


「······ねえアレル、寝る前に少し良いかな?」


 そこへ、眠ってはいなかったアリシアが、横になったばかりのアレルへ話し掛けてくる。


「別に構わないけど、起きていたのか?」


「うん······寝なくちゃって思う程、なんか眠れなくなっちゃってね」


「まあ、そんな風に思っていると逆に頭は冴えてしまうなんて、よくある事だしな」


 そこで、布と布とが擦れる音と共に、壁へ向けられていたアリシアの声がアレルの方へ向けられて発せられる。


「アレルも、そうだったりするの?」


「まあ、な。野営の時なんかは、逆に寝たくても眠れないけどな」


 アレルは、そんな皮肉を口にするもそこはミリアの変化に期待かなと、夕食前に色々と言った事が頭を(よぎ)る。ただ、今はミリアの事よりもアリシアへ集中しようと、アレルはアリシアの言葉に耳を傾ける。


「それっ、アレルが無理して寝ない様にしてるだけじゃない!」


「大丈夫だよ、無理が過ぎると瑠璃に強制的に眠らされるから」


 まだ一度しかないが、後は自分が警戒してるからと不思議な能力で野営の時に眠らされた事をアレルは思い出す。昨日の死にかけた時といい、野営時の事といい、瑠璃には何か魔法的な能力があるのかもしれない。

 そうアレルが考えていると、何やらアリシアのいる方から不満気な気配が感じられてくる。


「······アレルって、ルリちゃんには気を許している所あるよね?」


「ああ、そうだな。偶に、アリシア達との接し方に関して叱られたりもするし、もしかしたら俺達の中で一番年上なのかもしれないな」


「そうなの!?」


「訊いた事はないけど、妖精なんだから人より長く生きていても不思議ではないだろ?」


「そう······だよね。私、それなのにちゃん付けで呼んじゃってるけど、良いのかな?」


「良いんじゃないか? 瑠璃が気にしてる様子もないし、むしろアリシアからそう呼ばれるのを喜んでる感じもあるし」


 アリシアとは反対に、さん付けで呼んでいるメリルとは変な距離感があるあたり、瑠璃としてはそうなのだろうとアレルは判断する。ただ、そこでアリシアは思い詰めた気配のする吐息を漏らす。


「アリシア?」


「ううん······ちょっと、ルリちゃんの事を考えていたらね、私だけアレルに何もしてあげられてないなって······」


「は?」


 何を言っているんだ、そう反射的に返しそうになったアレルだったが、感情的にならない様に言葉を選び始めたせいでアリシアに先を譲ってしまう。


「だって、ルリちゃんはいつもアレルを助けているし、メリルは怪我の治療だってしてる。ミリアも、アレルに剣術を教えたりしてるじゃない? ほら······私だけ、何も······それどころか、いつもアレルには迷惑ばかり掛けているよね。だって──」


「あのなぁ、勝手に俺の気持ちまで決めつけるのはやめてくれないか?」


 最早、これ以上黙って聞いている事の出来なくなったアレルは、言葉選びを中断して不機嫌を声に滲ませてしまいながらもアリシアの言葉を遮る。そして、相手の話の途中で言葉を重ねるのが嫌いな為に、更に苛立ちを感じるアレルはそのまま自身の想いをアリシアへぶつける。


「俺が、いつアリシアの事が迷惑だなんて言ったんだよ? それに、何他と比べて勝手に落ち込んでくれてんだ? そもそもが、出来る事も出来ない事も全く違う奴と自分とを比べる意味なんてないだろう? ······それに、アリシアは充分過ぎる程に俺の助けになってんだろ」


「えっ?」


「えっ、じゃねえよ。ったく······一応言っとくけど、アリシアが自分も傷付くかもしれないのに、勇気を出して俺の欠点とか駄目な所を正面からぶつかって指摘してくれたから、俺だって前向きになれたり新しい目標を持ったり出来ているんだ。だから、俺がアリシアに対して色々するのだって恩返しみたいなもんで、今だって凄え感謝してるんだ。······つう訳で、どんな理由があろうと自分を卑下して何も出来てないなんて口にするヤツは、例えそれがアリシア本人だとしても俺は怒るからな!」


 どうにか、感情的にならず且つ簡潔に自身の気持ちを言葉に出来たとアレルは思う。その証拠に、言葉を失っていたアリシアからはホゥとどこか安堵したみたいな吐息が聞こえる。


「アレル······ねえ、私に感謝してるって本当っ?」


 しかし、アレルの言葉は効果があり過ぎたのか、アリシアはどこか声を弾ませて訊ねてくる。ただ、それはどこか先程弱音を吐いた事を上書きしようとしてる様にも感じられた。


「本当だよ。だから、いつまでも馬鹿な事を言ってないで寝ろよ。起きてるから、色々と変な事まで考えちまうんだろ?」


 それ故に、アレルはそんなアリシアの気持ちに気付かないふりをしつつ就寝を促す。それに、アリシアはクスッと笑い声を返す。


「はぁ〜い、おやすみアレル」


「ああ、おやすみ」


 そう応えて、アレルはもう取り合わないぞという意味で、アリシアへ背中を向ける様に寝返りを打つ。だが、そんなアレルの背中になのか単なる独り言なのか、アリシアは最後にポツリと呟く。


「······ありがとね」


 それには、アレルも何も返さない。ただ、あれで良かったのかと不安があったアレルは、さの呟きに安堵して穏やかな眠りへと誘われていった。



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