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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百六十八話 経路を考えて

 ──浴室にアリシアを見送った後の部屋。


 アリシアの様子に、どこか理不尽なものを感じて悶々としていたアレルだったが、いつまでもそうしている訳にはいかないと待ってる間に出来る事を探す。すると、刀剣類の手入れがまだだった事を思い出して手入れ道具へ手を伸ばす。

 そうして、手入れを始めたアレルではあったものの、数日繰り返し行っているせいか要領を掴んだお陰であまり時間を掛けずに手入れが出来る様になっていた。長剣に始まり、ソードクラッシャーにダガー、あとは購入からほとんど使っていないブーツの隠しナイフも暇潰しに手入れをする。

 それらが終わり、未だ開く事のない浴室の扉を見た後で、アレルは視線を投げナイフへ向ける。これらも、刃物という点では手入れをするべきなのだが、どちらかといえば回収出来るかも判らない使い捨ての側面がある武装だ。なので、アレルは刃こぼれが無いかだけを確認して、問題が無かったので手入れ道具を片付ける。


(······本当に、歯磨きだけなのか? まあ、良いか)


 未だ、うんともすんとも言わない浴室の扉を一瞥したアレルは、次に荷物の中からレイラに貰った地図を取り出す。アエシュドゥス、アリシアが口にしたその街の位置と距離の確認、続けてシープヒルを出てからリバッジまでどんな経路で行くかを考える為にアレルは地図をテーブルの上で広げる。


(へ〜っと、コルトがここで······少し街道を進んだ先で、僅かに逸れたここがシープヒル。それで、西の方にある川沿いの南の街がリバッジか)


 アレルは、地図上を指先でなぞりながらここまでの道行きを確認し、その後で一先ずの目的地を逆の手の指先で指し示す。ここまでの距離と移動に使った日数から逆算すると、シープヒルからリバッジまでは直線距離で馬車なら三日から五日弱程であった。

 しかし、それはあくまで直線距離であって実際にはそう上手くはいかない事はアレルも解っている。昨日、盗賊騒ぎの際にアレルは西門から町の外へ出たが、丘の上に作られたシープヒルの周囲は大小の起伏がある丘陵地帯になっている。それ故に、実際に馬車を走らせれば地図で見るよりも時間が掛かるのは明らかだった。


(さて、それなら一度シープヒルに入る時に通った道を引き返して街道に戻るのも一つの手だけど、昨日の騒ぎにかこつけて辺境伯領でも近くの街道はビットーリオの手下が監視を強化している可能性もある。だとすると、西門から出発して丘陵地帯を突っ切るしかなくなるんだけど、それはそれで人の通りが少ない場所は警備も手薄で魔物も間引きがされていないから遭遇する確率が高い。移動に加えて、そんなので逐一足止めされるのも面白くはないんだよな)


 そう考えるアレルは、道中の他の町の所在も確認する。それというのも、アリシア達の要望と体調を鑑みて可能な限り大きな町で宿を取る為であった。

 アリシア達の要望で、汗を流したいというのもあった為にアレルはおそらく我慢出来て一日、最悪二日程が限界なのだろうと考える。それ故に、アレルは浴室完備の宿がありそうな町に立ち寄りながらの道程も考えなくてはいけなかった。


(一応、この世界には共同浴場みたいなものがあるみたいだから、そういう習慣があるのも解る。ただ、そういうものを利用するのは何日かに一度くらいだと思うんだよな。······それを出来れば毎日ってあたり、やっぱり王族と貴族なんだろな)


 そんな感想を抱きながらも、アレルはリバッジまでの道行きで立ち寄れそうで尚且つ条件に合いそうな町のいくつかに目星をつけておく。すると、全ての考えを総括した結果、西門から出発してしばらく街道を外れたまま行った後に再び街道へ入るのが一番だという考えに至った。

 それで、リバッジまでは良しとしたアレルは、次に国境を越えて川の向こうへ渡った後の事に目を向ける。

 地図上で、公国は大陸から突き出た半島の様な国土を持っているので、アレルは海底火山か地殻変動で出来た土地なのだろうと思う。そうなると、やはり平坦な道は少なく馬車の足が遅くなる事を覚悟する。そうでなくとも、リバッジから直線距離で馬車では三日ないし四日弱程の位置に(くだん)のアエシュドゥスがある為に、公国へ入った後もそれなりの長旅になりそうだなとアレルは軽く息を吐く。


(まあ、それでも公国に入ってさえしまえば、追手の追撃もその勢いが弱まるはずだし何とかならない事もないだろう。そうなると、やはり危険なのはリバッジの辺りだな)


 アレルは、色々と考えた末にやはり直近で最も危険なのはリバッジ付近だと判断する。

 追手の方も、アリシア達が公国へ入ったという決定的な情報が入らない限り、現状辺境伯の領地であるブルックス領に留まっているはずだ。そうして留まる理由も、昨日の盗賊騒ぎに便乗すれば警戒強化への協力という形を取れる。

 そう考えると、本来は辺境伯殺害を狙った行動ではあったものの、例え失敗しても別の目的に流用出来る策としていたのかもしれないとアレルは思う。もしそうなら、昨日の敵側の策に関して影で糸を引く宮廷魔法師なる人物は相当に頭の切れる人物且つ厄介な存在だとアレルは認識する。


(まあ、そっちは現状放っておくしかないとして、待ち伏せに関しては取り敢えず選択肢が三つあるだけ分散はしてくれるだろうな)


 一つはリバッジ、二つ目にセプルス、そして最後にクレイル領を抜ける経路。この三つの経路が考えられる為に、追手の方も確定的な情報が掴めない限り人員を集中させる事が出来ない。

 だが、逆に考えると少しでもアリシア達らしき情報が伝わってしまえば、リバッジ周辺で待ち伏せされる危険性が高まる。それ故に、明日からの道中はほんの僅かな気の緩みも許されないとアレルは考える。


(相手だって、絵に描いた様な馬鹿ではない。普通に考えれば、公都への最短経路であるリバッジへ人員を集中させるだろうが、その裏をかいてアリシア達がセプルスかクレイル領を通る可能性も考えるだろう。かといって、リバッジをまるっきしのガラ空きにする事もないはずだから、どんなに注意しても追手とはどこかで遭遇してしまう。ならば、その際の誤魔化し方を考えるべきなのか?)


 現在、突発的に追手と遭遇してしまった場合、バレない様に誤魔化す為の対策は細工樽しかない。欲を言えば、何かしらもっと有効な対策がいくつか欲しい所ではあるが、準備する時間も無いし、何より何かを造る必要があった場合にダニーの様に口の堅い職人が運良くいるとも限らない。


(そう考えると、現状のままでどうにかするしかないんだよな······)


 すると、そこでようやくガチャリと浴室の扉が開けられる。その扉から、半身と顔だけを遠慮がちに覗かせたアリシアが声を掛けてくる。


「······えっと、ごめんね。待たせちゃって」


「いや、気にしなくて大丈夫だ。丁度、色々と考える事があったから」


 アレルがそう答えると、アリシアは完全に浴室から出て来てテーブルの上に視線を向けてくる。


「······地図? もしかして、アエシュドゥスの場所を探していたの?」


「ん? あっ、そういえば言ってなかったかもしれないけど、俺って不思議とルクスタニア文字だけは読めるから場所は見ただけで判ったよ」


「じゃあ、何をしていたの?」


 アリシアは言いながら、スススとテーブルへと近づいて、アレルが広げている地図を覗き込んでくる。それに、身体が密着しそうだった事から、アレルは気持ち半歩だけアリシアから離れる。


「······」


「······どうかしたか?」


 しかし、その不自然な距離の取り方は当然アリシアにも気付かれるものであり、ジーッと目を合わせられてしまう。ただ、そうして目を逸らさずにいると、不意にアリシアはその口角をスッと上げる。


「ううん、何でもないよ」


 そんな、何かを確信して安堵したみたいな様子のアリシアにアレルは首を傾げながらも、アリシアにされた質問に答え始める。


「あ〜······んで、少し追手側の気持ちになってアリシア達を追い詰めるならどうするかなって考えていたんだ。それで、今シープヒルに追手が殺到してないところをみるに、アリシアの現在の所在を掴めていないと仮定して考えた場合、やはりリバッジ、セプルス、クレイル領の三箇所での待ち伏せに作戦を切り替えてるだろうなって思っていたんだ」


「ふ〜ん、アレルってそういう事は判るのに、変に鈍い所もあるよね」


 ただ、ちゃんと説明したのにも関わらず、アリシアから返ってきた反応はどこか棘を感じるものだった。それに、さっきからアリシアには振り回されっぱなしのアレルは、何かアリシアの不興を買う様な事をしてしまったのだろうかと頭を悩ませる。



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