一章〜非望〜 四百六十二話 公国の騎士団
アリシアから与えられた新たな情報、アエシュドゥスという街と公国騎士団長ヴォルフラムという人物。アレルは、この二つについて判らない部分の洗い出しを始める。
まずは街の方、これが公都の一つ手前の街と言っていたがその理由には見当がつく。例え、最終的には公都へ入るにしても、公都の検閲は厳重にしなければ国としての威厳が保てない。表向き、お尋ね者となっているアリシア達がそんな所へのこのこと姿を現せば、公国側としては捕らえなければならないしルクスタニア側に引き渡す必要も出てくるかもしれない。それ故に、検閲に引っ掛からせずに公都へ保護する為に一つ手前の街なのだろうとアレルは考える。
次に騎士団長の方、こちらは逆に判らない事だらけだ。アリシアの話では、面識があるのがガルシアだけの様だったし、話の中では容姿についての事も出てこなかった。つまり、例え偽物が近づいて来てヴォルフラムだと名乗っても、こちらには確認する術がない。その危険性故に、アレルは取り敢えずアリシアへいくつか質問を投げ掛ける事にする。
「なあアリシア、少し訊いても良いか?」
「うん、良いよ」
「その、公国の騎士団長ヴォルフラムって奴について何か知ってる事はないか? 面識があるのがガルシアだけだとすると、こちらからは確認する事が出来ないからさ」
そのアレルの言葉に、アリシアはそれまで気にしてなかったのか、たった今その危険性に気付いたみたいな驚き方をする。
「あっ!? ······そうだ、向こうが私達を知っていれば大丈夫だと思っていたけど、本人だって確認出来ないと危ないよね」
「まあ、こっちの杞憂で済んでくれるのが一番だけどな」
「うん······ちょっと待ってね、今何かないか思い出すから」
アリシアはそう言うと、アレルから視線を外して自身の記憶を探るみたいに片手でこめかみの辺りに触れる。
その姿に、アレルは少しでも情報が出てくれば良いなと願う。そもそも、ガルシアならば迎えに来いと合図を送る手段もあったのだろうが、現状その手段を知らないので迎えが来るかどうかすら怪しい。
ただ、その辺りの問題は大公がクリムエーラへの依頼者だという話なので、朱羽根を使えばどうにかなりそうだなとはアレルも思う。
(でも、公国側にもビットーリオ派の者が紛れ込んでいないとも限らない。幸いにして、到着するまでまだ何日もかかる。その間に、可能な限り情報を集めないとな)
押し黙るアリシアの向かいで、アレルはそんな事を思うもその前に国境を越えなければならないという事も忘れる事は出来ない。
リバッジでは、運が悪ければエリオットが待ち構えており、しかもアレルの予想通りならば扱いの難しいサリーなる人物までおまけで付いてくる。ただ、そちらはどうとでも出来るとして、細工樽とエリオットの念書と引き換えに得られる許可証、この二つをどう使うかも未だ決めてはいない。
そんな次から次に、問題が山積みになる状況にアレルは頭を悩ませる。しかし、厨房でタチアナに対して腹を括れよと言った手前、自身も腹を括るしかないなとアレルは気持ちを切り替える。
「ねえアレル、少しだけ関係ないかもしれないけれど思い出した事があるんだけど、それでも良い?」
すると、何かを思い出したがあまり判断材料になるものではなかった様子のアリシアが、どこか遠慮がちに声を掛けてくる。
「ああ、どんな小さな事でも構わない。何が役に立つかすら、判らないんだからさ」
アレルがそう言うと、アリシアはフニャっと表情を緩ませて安堵した様子を見せてくれる。そして、それじゃあと思い出した事を話し出す。
「まずは、騎士団全体の特徴からね。ヴァンハート公国では、ほとんどの騎士が盾騎士って呼ばれていて、その騎士団の特徴として守る事にに長けているの。だからね、公国の騎士団はどんな団員も必ず盾を手にしていて、その盾を主武装として用いた戦い方を得意としているの」
「盾が、武器······」
そう聞いて、アレルはゲーム等でよく聞くシールドバッシュが頭に浮かぶ。ただ、それはあくまで片手剣を主武装とした戦い方で、盾を主武装として扱うなどアレルは聞いた事がなかった。
それ故に、どの様な戦い方をするのかとアレルは思考を巡らせ始めようとするも、丁度その瞬間にアリシアに話を続けられてしまう。
「だからね、そのヴォルフラムって人も迎えに来るのに騎士団の格好はして来ないと思うけど、使い慣れた盾を利き手で持ってくると思うんだけど······どうかな?」
「そうだな······そういう話なら、盾一つで戦える時点で攻防一体を体現している。それなら、かなりの軽装で来たとしても盾は使い慣れたものを手にしている可能性が高いだろうな」
「私、役に立てた?」
「ああ、勿論だ」
アレルがそう答えると、アリシアは僅かに下を向いた顔の前で両手の指先を合わせて、どこか嬉しそうでありながらもはにかんだように微笑む。しかし、その反対に表情には出さないがアレルの心は晴れやかなものにはなっていない。
それというのも、欲を言えばヴォルフラムに関しては少しでも容姿についての情報が欲しかったからだ。それも、可能な限りごく身近な人物しか知り得ない身体的特徴である事が望ましかった。
正直な話、容姿に関してだけなら騎士団長なんて公国に住んでいる者に訊けば噂程度には判るだろう。しかし、そんな広く知られた特徴などでは、会った事の無い自身達が見ても本当に本人かどうかが判断出来ないとアレルは考える。
(こういう時、変に知られている人間だと面倒なんだよな。一般に知られている容姿だけだと、それぐらいは偽物でもある程度は変装で寄せてくるだろうし、変装は······ロバートのせいで本人の白黒反転までやってのける事が判ってるからな)
と、アレルはロバートの完成度とは別の方向にいっている質の高さに考えを乱される。しかし、あそこまで出来る人間もそうはいないはずだと思い直し、再び何か対策出来る事はないかと考える。
(小学生探偵や伝説的な大怪盗三代目の漫画じゃあるまいし、顔の皮をベリッてやれば解ける変装でもないだろう。······というか、偽物を炙り出す方法よりも本人を特定する方法を考えた方が早いか)
そう考えたアレルは、思考が一周してヴォルフラムの戦い方に着目し始める。
戦い方なんて、一朝一夕で身につく様なものではないのはアレルが今一番実感している事だ。ましてや、盾という本来身を守る為のものを主武装として戦うのならば尚更だ。つまり、それを一時的な変装などで偽装する事はほぼ不可能だ。
「なあアリシア、知っていれば構わないんだけど、その盾騎士ってやつの戦い方に何か特徴みたいなものはないかな?」
その考えに行き着いたアレルは、そんな質問をアリシアへと投げ掛ける。すると、それに顔を上げたアリシアは小首を傾げながらも、少し遅れて応えてくれる。
「う〜んと、私も聞いた話だけで見た事はないんだけど、それでも大丈夫?」
「ああ、平気だ」
「じゃあ話すけど、盾騎士の盾は特別硬く作られているらしいのね。それというのも、その盾には魔力を魔術的な防壁に変換する術式が仕込まれているかららしいの」
魔術と聞き、アレルは今日の午後にロバートから聞いた話を思い出す。魔術とは、何かしらの物体を介して魔力を形とするもので、その効力は魔法に劣るのが常識だとアレルは聞いている。
それ故に、個人でそんな弱い防壁を張るぐらいなら、無駄に魔力を消費せずに盾を二枚並べた方が効果的ではないかと思う。
「······防壁って、自分一人を守るならそんな魔法に劣る魔術なんて頼らずに、もう一枚盾を増やした方が早いんじゃないか?」
「あっ、ううん違うの。その防壁は自分を守る為じゃなくてね、例えば敵から広範囲魔法とかが放たれた時に、それを防ぐ為に盾騎士数人で発動させた防壁を重ね合わせて魔法攻撃を防ぐんだって、リー姉が言ってたよ」
「そういう······成る程ね」
防壁一枚が、どれ程の範囲に展開させられるのか判らないが、魔法に劣る防壁を何枚か重ね合わせる事で強度と範囲を補強している。随分と、良く考えられている策だとアレルは感じる。
だが、その一方でその成り立ちがつい最近であるはずの公国にそんな騎士団が存在している事に対しては、大きな疑問が残ってしまう。そこにはまるで、今回のクーデターの様な事態を予め想定していたかのような周到さが感じられる。
その事に、アレルは何故そこまでするのだろうかと思考を巡らせようとするも、それよりもアレルには即刻ツッコミを入れたい言葉が一つあった。
(······リー姉って、誰だよ?)
ただ、そうしてアリシアの言葉の端から変な疑問を抱えてしまうも、アレルはどうやらアリシアには公国の内情に詳しい誰かがいるらしいという事だけは察するのであった。




