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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 四十六話 パメラ

 初めて見るパメラの反応に、思わずアレルは身構えてしまう。

 これは、踏んではならない地雷を踏み抜いたかと、アレルは退路の確保をし始めた。


 ──その瞬間だった。


「もぉ〜ッ、私が敵な訳ないじゃなぁいッ! ここまで親身になってあげてるのにぃ、アレルちゃんってば酷すぎぃ〜。お姉さん、泣いちゃうぞぉ!」


 と、パメラは火がついたみたいに憤慨する。


「······いや、あのさ」


(いや、俺もここまでしてもらって、どうかなとは思ったさ。でも、ここまでの反応をするとは思わないだろ?)


 憤慨するパメラのあまりの勢いに、アレルは呆気に取られる。

 その様は、まさに駄々をこねる子供のそれに近く、演技などではなく本心からアレルの言葉に怒りを感じているというのが解る程だった。


「で、でも、パメラだって俺にまだ隠し事があるよな?」


「ええ、あるわよぉ。でもぉ! 今は教えられないってだけでぇ、いずれは話してあげるわよぉ。······それでもぉ、私を信じられないならぁ、代わりにパメラちゃんのスリーサイズを──」


「解った! 信じるから、いらん事を喋るなッ!」


 冷静になり、感情的になったのを恥じたのか、パメラはアレルが初心なのを利用してアレルの言質を取る。

 ただ、興が乗ったのかパメラはそれでは止まらずに、その笑みを悪戯的に歪ませる。


「えっとねぇ、上から九──」


「や・め・ろッ!」


 そうして、暴露を続けようとするパメラを、アレルはそれ以上言わせるかと青筋を立てながら止める。

 そんなアレルに、パメラは満足したのかニンマリと笑うと、人差し指を下唇に付けて小首を傾げながらアレルを見詰める。


「じゃあ、ちゃんとアレルちゃんの口からぁ、パメラちゃんを信じるって言ってぇ」


 そんな意趣返しを食らって、アレルは苦虫を噛み潰したような表情をする。


(クソッ、コイツ調子を取り戻したと思ったら、人の弱点を的確についてきやがる。······まあ、バッジの事といい今のといい、パメラを傷つけたのは俺の方だし、責任だけは取らなきゃな)


 そうアレルは覚悟するが、そんな自身を見ながら頭を左右に振って待っているパメラを見て、アレルは辟易する。

 そこで、アレルはある事を思い出す。


「そういや、さっきパメラは俺の言う事何でも聞くって言ってたよな?」


「えっ!? ······えっとぉ、どうだったかしら······ねぇ」


 ギクッ、とあからさまな反応をしておきながら、パメラは覚えていないふりをする。

 そして、ここは狙い目だとアレルは攻勢を強める。


「それよりも前に、信用がどうとか言ってた商人様は、どこに行ったんだろうな?」


「ウッ······」


 ここに来て、初めてアレルの一言がパメラの急所に突き刺さる。

 すると、目に見えてパメラが狼狽え始める。


「どうした?」


「う〜、────あぁ、もうッ! そうよ、言ったわよぉ! これで満足ぅ? もう、アレルちゃんの好きにすればいいじゃなぁい!」


 フンッ、とパメラは破れかぶれのヤケクソ気味に、アレルに対して初めて白旗を揚げる。

 そんなパメラに、アレルは実に満足気に笑う。


「いや、言う事きく云々はもう良いよ。満足したし」


「······本当にぃ?」


 パメラは、してやられたせいか、アレルに恨みがましい視線を向ける。


「ああ、それとパメラの事は信じるよ。ここまで、色々やってようやくかって思うかもしれないけどさ」


 そう言って、その満足感からアレルは一瞬だけ少年の様な笑顔をパメラに向ける。

 それを意外に感じたのか、パメラはキョトンとした表情を晒してしまう。しかし、パメラは直ぐにアレルの言葉の中の違和感を口にする。


「ちょっと待ってぇ。私『は』ってぇ、どういう意味なのぉ?」


「ああ、それか。パメラの事は信じられる。でも、このバッジは別だって話だよ。これを使って接触してくるヤツ、パメラは全員の顔を把握しているかもしれないけど、俺は知らない。だから、商会と関係ないヤツが近づいてきたとしても判らない」


 その言葉に、ハッとしたパメラは申し訳なさそうな表情をする。


「ゴメンねぇ······私、当たり前過ぎてそこまで考えていなかったわぁ。······ねぇ、アレルちゃん? アレルちゃんが、そこまで嫌ならぁ、それは返しても良いのよぉ」


 そう自らの失念を詫びて、空の手を差し出すパメラに、アレルは首を左右に振る。


「確かに、使用には慎重にならざる得ないけどさ、これがパメラにとって大事な物なのは変わらないだろ? それを預けられるって事は、信頼を預かるって事と同義だと思うんだ。俺は、その信頼までも突き返す様な恥知らずにはなりたくない。だから、これはパメラがそうしてきた様に、もしくはそれ以上に大事に預からせてもらうよ」


「アレルちゃん······」


 アレルの言葉が、琴線にでも触れたのかパメラは両手を口に当てる。

 そんなパメラを横目に、アレルはなくさない様にバッジを外套の内側に取り付ける。


(街にいる間なら、これで大丈夫だよな)


 そうして、落ちたり外れたりしないかを確かめるアレルに、パメラが申し訳なさそうにしてくる。


「ねぇ、アレルちゃん······そこまでしてくれるのは嬉しいけどぉ、どうしようもない時は気にしないでねぇ」


「ああ、そうする。けど、そうなった時は、その後で土下座で謝るよ」


「······けどぉ、本当にゴメンねぇ。私、気付けなくてぇ」


「それこそ、違う視点が必要だったって事だろ? 早速、役に立ったじゃねぇか」


 気にするパメラに、落ち込ませる気がなかったアレルは、皮肉で元気付けようとする。

 そんなアレルに、パメラは一瞬ムッとしたが直ぐに小悪魔的に微笑む。


「アレルちゃん、チューしていい?」


「や・め・ろッ! なんでパメラは、何の脈絡もなく突拍子もない言葉を口にするんだよ?」


「エヘヘェ······でもねぇ、アレルちゃんには感謝もしてるしぃ、それぐらいしても良いかなって思ってるのは本当よぉ」


 言いながら、パメラは笑顔の仮面とは趣の違う微笑みをアレルに向ける。

 そのどこか本心を滲ませた笑顔に、アレルは戸惑って僅かに顔を赤くする。


「あ〜、アレルちゃんってばぁ、赤くなってるぅ。可愛いぃ」


「うっせぇ!」


 からかうパメラに、それ以外思いつかなかったアレルは、怒鳴る事で必死の抵抗を試みる。

 だが、そのせいかアレルの身体は体力の減少に従い、別の訴えをしてくる。


 ──グウゥ


「あらぁ? アレルちゃん、お腹ペコペコなのぉ?」


 不意に、腹を鳴らしたアレルに、パメラはまるで小さな子供に訊ねるみたいに問い掛ける。

 それに対して、アレルは自らの腹に手を当てる。


「ああ、昼に食べたのが少し酷くてな」


「酷いぃ? それって、『エージェ』っていうお店でぇ、昔この辺りで食べられていた食事を再現したとかいう所じゃなぁい?」


「いや、······たぶんそうかも」


 アレルは、パメラの言葉に昼食に食べたものを思い浮かべる。


「じゃあ、少し待っててぇ」


 すると、パメラは変な顔をするアレルを他所に、サラサラとメモになにかを走り書きしていく。

 それが書き終わると、パメラはその走り書きしたメモをアレルに手渡す。


「はい、これあげるぅ」


「これは?」


 何の抵抗もせずに、メモを受け取ったアレルがそれに目を落とすと、そこには地図の様なものが描かれていて、その中の丸印の横に何やら文字が書かれていた。


「『カーペンター』って、工業区の方にあるお店よぉ。普段はぁ、工業区の職人さん達が利用する店なんだけどぉ、夜なら職人じゃない人でも大丈夫なのぉ。職人相手のお店だからぁ、早くてぇ、安くてぇ、美味しい上に量も多いって評判なのよぉ」


「へぇ、期待できそうだな」


「うん、それに夜なら空いてるからぁ、取っておきの穴場よぉ」


 そう言って、パメラはアレルに対してウインクする。

 そんなパメラに、無反応を貫くアレルだったが、再び鳴りそうになった腹に力を入れて堪える。


「グッ······」


「フフッ、そんなにお腹が空いてるならぁ、今から行けば丁度良い時間になるんじゃなぁい? アレルちゃんからの依頼もぉ、私の方でちゃんとやっておくから大丈夫よぉ」


 だいぶ余裕のパメラは、後ろ手で手を組んでアレルの顔を下から覗き込む。

 その仕草に、何とも言えない敗北感を感じさせられたアレルは不貞腐れる。


「······解った。じゃあ、依頼の方はよろしくな」


 しかし、空腹には勝てないアレルは、素直に負けを認めて少し早い夕食に向かう事にする。


「はぁい、また明日の夕方ぐらいにねぇ」


 勝者の余裕を見せるパメラに、どこかやられっぱなしでは終わらせられないと感じたアレルは、去り際に一つだけ思っていた事を口にする。


「なあ、パメラはどう思っているか判らないが、ロナがフライパンで叩くのって基本的にダニーだけのはずなんだ。だけど、パメラの事も叩いた。何でだと思う?」


「えっ?」


 不意をつかれたせいか、パメラは狼狽える。だが、アレルは黙らない。


「ロナがフライパンで叩くのは、夫であるダニーみたいに極めて近しい人物だけ──つまりロナは、パメラの事も身内みたい感じているんだと思う。本人に自覚があるか判らないが、パメラの事をそれこそ『姉』のように感じているんじゃないか」


 アレルの言葉に、パメラは両手で胸を抑えるようにして、しばし瞑目する。

 そして──


「そうね······そうだと嬉しいわね」


 そう言って、パメラは泣きそうな顔で、それでいてとても嬉しそうに微笑んだ。

 アレルは、そんなパメラの表情を見届けて、前を向きながら片手を振って商会を後にした。



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― 新着の感想 ―
パメラが途中からオネェにしか見えなくなってきた どっちでもいいんだけどさ
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