一章〜非望〜 四百五十六話 その終わりはゆっくりと
餡を寝かせ終えたアレル達は、手作りの皮を使ってその餡を包み始める。それなりに数があるので、最初にアレルが餃子も焼売も手本を見せてから各々で包んでもらう様にする。
まずは焼き餃子の方で、皮の真ん中に餡を乗せ皮のふちに水をつける。次に、右端を摘んで左手の人差し指でひだを作って右手の人差し指で閉じる。これを最後までやったら、湾曲を作る様にひだの形を整えて底を作れば一つ出来る。
続いて、蒸し餃子と水餃子の方は同様に餡を乗せたら、ふちに水をつけて半分に折り畳む。そしたら、片方の端に水をつけて円を作るみたいにもう片方の端を引き寄せてくっつける。
「取り敢えず、餃子の方はこの二つの包み方で。焼き餃子と水餃子、それから焼売とあるから使う皮を間違えるなよ」
「オ〜ウ、任せて下サ〜イ!」
などと、ジェームスからは少々不安になる返事が返ってくるも、料理人としての腕は確かなのでアレルは無視して次の説明に入る。ところが、そこに申し訳なさそうにしながら、メモを手にしたタチアナが声を掛けてくる。
「あの、蒸したギョウザも作ると聞きましたが、それはどうするのですか?」
餡を寝かせていた間、談笑している中でアレルが漏らした言葉を覚えていたのだろう。タチアナは、そんな事を訊ねてくる。
「ああ、悪い。言ってなかったけど、水餃子のものを蒸し餃子の方でも使うから今教えたので大丈夫だ」
「そうでしたか、ありがとうございました」
疑問が晴れたからか、タチアナは笑みで返してくれる。しかし、アレルはその笑みを見て、可能ならば蒸し餃子の具材は海老にでもしたかったとつくづく思う。ただ、海産物は手に入りづらい事情もあるので仕方ないと諦める。
「じゃあ、次は焼売の包み方な」
まず、スプーン山盛り一杯分を皮に乗せて餡にスプーンを浅く差して裏返す。そのスプーンの周囲を軽く握って、スプーンを抜き餡を整えてから底を作れば焼売が一つ包み終える。
「こんな感じだ。まあ、取り敢えず使う皮と餡と包み方さえ間違えなければ良いから、一通り好きにやってみろよ」
アレルがそう言うと、ジェームス達はそれぞれで餡を皮で包み始める。そこには、メモをしまったタチアナも加わり、アレルも適当に手の足りない所を補う。
ただ、単純作業なので慣れてくればふざけるヤツも出てくるかとアレルは思ったが、そこはやはり料理人なので全員真剣に作業に没頭していた。なんなら、一番真剣味に欠けていたのはアレル自身といってもいい程だった。
そうして、餡も皮も過不足なく包み終えたので、アレルはそれぞれを火にかける事にした。
「えっと、じゃあ最初は焼売と蒸し餃子からだな」
言いながら、アレルは蒸し器の前に包んだ焼売と蒸し餃子を持って行くが、クッキングシートなんて便利な物は無いので簀子に油を塗ってから焼売と餃子を並べていく。この際に、焼売同士餃子同士がくっつかない様に隙間を空けて並べる。あとは、蒸し器の下部に水を張ってしばらく蒸せば完成するので、アレルはそのまま蒸し器を火にかけておく。
次に、アレルは水餃子の方へ取り掛かる。まず、鍋で湯を沸かしてからその中へ水餃子を入れ、再び沸騰してから三分少し茹でる。
「これで、水餃子は完成だ。······出来立てを食いたいヤツはいるか?」
すると、メモを取っているタチアナを含めた全員が挙手をして期待に満ちた眼差しをアレルへ向けてくる。そんな視線に辟易しつつも、アレルは手早く醤油代替塩水とビネガーと手作り辣油を混ぜてタレを作り皆の前に差し出す。
「さあ、そのまま食うなりタレにつけて食うなり好きにしてくれ」
アレルの言葉を合図に、つまみ食い戦隊は本領を発揮して水餃子へと群がる。まずは、全員がタレをつけずにそのまま一つ食べて、そのまま何も言わずに二つ目を今度はタレをつけて口に運ぶ。
(何なんだ、コイツ等······)
そのあまりにも揃った動きに、アレルは焼き餃子の準備で持っていたフライパンを落としそうになる程の脱力感を覚える。しかし、何とか堪えたアレルは、蒸し焼きにする際の湯を別に沸かし始める。
「オ〜ウ、そのままでもいけますが、タレの塩味と酸味と僅かな辛味が後を引く美味しさを演出してますね」
「それに、皮の食感もモチモチしていて面白いです。この為に、焼く方とでは皮の大きさや厚みが違ったんですね」
そんなアレルの傍ら、ジェームスが餃子の味に感嘆しタチアナが自らの分析をメモしていく。加えて、グリーンとイエローもそれぞれに感想を言い合っているが、ブルーだけは近くに置いてある手作り辣油を警戒するみたいな視線の動かし方をしていた。
それを見て、アレルはそんなに警戒しなくても良いのにと思うと、火にかけていた湯が沸く。なので、アレルは焼き餃子を作り始める為に戦隊に声を掛ける。
「じゃあ、そろそろ焼き餃子も作るぞ〜」
すると、再びバッと戦隊の五名はアレルの周りに集結してくる。アレルは、そうやって凝視されるとやりづらいんだよなと思いつつも、仕方ないと諦めて作業を始める。
まずは、フライパンには樹脂加工なんてされていないので、しっかりと油を引く。それから、皮のくっつきを防止する為に隙間を充分に空けて、皮に付いている打ち粉を払ってから並べる。そうして、フライパンに接している面が焼けてきたところで、先程沸かした湯を底が僅かに浸るぐらい注いで蓋をする。
そこで、アレルは蒸し焼きにしている間暇なので、ジェームス達にちょっとした質問を投げ掛けてみる。
「なあ、今蒸し焼きにしているけれど、何で水ではなくお湯を注いだか解るか?」
「フッフッフッ〜、あまり見くびってもらっては困りますね、アレルさん! 水では、蒸気を出すまでの時間で皮が水を吸ってしまうからではありませんか?」
「その通りだ。流石は、料理人だな」
どうだと言わんばかりに、言い当てたジェームスは誇らしげにするも、フライパンから聞こえてくる音が変わった事でアレルは蓋を取る。すると、しっかり餃子の皮が透明になっていたので、アレルはそのまま残っている水分を飛ばしていく。
そして、最後の仕上げにアレルは少量の油をフライパンのふちから回し入れる。それから、フライパンを少し揺すって全体に油を行き渡らせて、餃子に綺麗な焼き色が付いたらそれを皿に盛る。
「これで、焼き餃子も完成だ。あと、蒸し器の方ももう出来上がっている頃合いだろう」
アレルは言いながら、蒸し器の蓋を取って中身を確認すると、ボワっと白い湯気に包まれた焼売と餃子が姿を現す。どちらも、程よく蒸されていて上手く仕上がっているみたいだった。
これで、もう終わりなんだと肩の荷が下りた様に安堵する一方で、アレルはこのどこか愉快で満たされていた時間もこれで最後かと僅かな侘しさも感じる。ただ、そんな個人的な感傷で待たせてはいけないと、アレルは出来上がったものを手早く皿に盛っていく。
「さあ、これで完成だ。焼き餃子用のはまだ残っているけど、それは後で自分達で焼いてみてくれ。という訳で、取り敢えず食べようか」
その言葉で、アレルは厨房での楽しいひと時に終わりと別れを告げるのであった。




