一章〜非望〜 四百五十五話 真心を込めて
最初、生地作りからやるか辣油作りから始めるかを迷ったアレルだったが、やはり生地は寝かせる必要もあるのでそちらが先だろうと考える。かといって、全てが元の世界の様に用意出来ている訳ではないので、足りないものや出来ない部分は臨機応変に対応するしかない。
ただ、ジェームス達も本物の料理人だ。調理法を教えた後で、何かしら過不足があれば自分達で手を加えていくだろうとアレルは考える。なので、アレルは今ここで教えられる事を可能な範囲でやればいいのだと割り切る。
「じゃあ、まずはぬるま湯より少し熱い湯を沸かしてくれ。あとは、ボウルを二つ用意してそこに小麦粉と塩を入れて混ぜてくれ。片方を餃子、もう片方を焼売で使うが途中までは一緒だから同時に作る」
アレルがそう言うと、グリーンが湯を沸かしに行き、ブルーがボウルを二つ用意して、ジェームスとイエローがボウルへ小麦粉と塩を入れて混ぜる。メモ魔なタチアナは、一連の作業のメモを取っている。
その団結力に感心するアレルだったが、自身ではやる事がなくなってしまった為に暇を持て余す。最早、指示だけ出して一人で辣油でも作っていようかと思ったが、一応見せておかないと面倒だなと感じて止める。
「お湯、沸きました」
そうこうしている内に、グリーンが沸いた湯をどうするか訊ねてくる。なので、アレルはそれを二つに分けさせて、それぞれ一つのボウルを担当しているジェームスとイエローの近くに置かせる。
それから、グリーンにはそのまま、それと手の空いているブルーで二つのボウルに二回に分けて湯を加えさせ、ジェームスとイエローにそれぞれを混ぜさせる。続けて、水が生地に馴染み纏まってきたら、今度はアレルが片方を使って見本を見せてジェームスに真似させる。
掌の付け根に体重を乗せながら押し出す様に捏ねて、それを半分に折って再び捏ねる。これを繰り返して、表面が滑らかになったらラップなどは無いので、仕方なしにそのまま生地を寝かせる。
「それじゃあ、生地を寝かせてる間にこっちで辣油を作るから興味あるヤツは来てくれ」
と、アレルが言い方を間違えたせいで、アレルの周りに戦隊が集結してしまう。しかし、雰囲気に呑まれてなるものかと、アレルは作業に徹する。
まずは、ブルーの用意した蓋のない方のフライパンへ油を投入して、そこへ長ネギの青い部分と生姜と潰したにんにく、それと手で千切った鷹の爪も種ごと入れて火にかける。この際、一度煮立たせてから弱火にする。そして、そのまま焦がさずに黒ずむぐらいまで香りを油に移した後で、網で具材を取り出してから再度煮立たせる。
「お前ら、離れてないと酷い事になるぞ〜」
言いながら、アレルは火を使う前に焦げない様にと水を微量含ませたレッドペッパーを入れたボウルに、フライパンで沸いている油を流し入れる。その瞬間、煮えた油が音を立ててレッドペッパーの臭気を周囲へ拡散させる。
「くぉっ!? 目ぇ、目ぇがぁ〜ッ!」
他の四人は言われた通りに離れたのだが、何故かブルーはアレルよりもボウルの近くにいたのでレッドペッパーの臭気に目をやられる。その姿は、さながら目潰しとして有名な滅びの呪文を喰らった有名アニメ映画のキャラクターの様だった。
それに、言わんこっちゃないと思いながら、アレルは柄の長いヘラで油とレッドペッパーを軽く混ぜ合わせる。
(まあ、確か催涙スプレーかなんかにも使われるみたいな話あったしな)
「一応言っとくけど、痛いからって目を擦るなよ。余計に痛みが増すから。もし駄目そうなら、擦らないで冷水ですすぐ様に洗い流せよ」
アレルは、やらかしたブルーに対してそう言うも、ブルー自身では水場へ歩く事も困難な状況になっていた。そこへ、イエローがブルーの手を取り水場へと引っ張っていく。
「もぉ、貸しにしといてあげるから、ちゃんと後で返しなさいよ」
「うぅ、すまん······」
そんなこんなで、イエローとブルーが一時離脱する中、辣油の方は冷ますだけになったのでアレルは再び皮作りの方に作業を戻す。
まずは餃子の方から、打ち粉を振ったまな板に寝かしていた生地を置いて、再び少しの間捏ねてから二等分にして棒状に伸ばす。そしたら、それを両方ともそれぞれである程度の大きさで等分に切っていき打ち粉をまぶす。
次に、切り口を上にして形を丸く整えた後で、めん棒を使い生地を回しながら更に伸ばして、焼き餃子の生地に対して水餃子の方は二回り程小さく作る。そうして、出来上がった生地にまたも打ち粉を振って置いておく。
「これが、餃子の皮ですか?」
「ああ、それで餡を包んで作るんだ。ほら、次は焼売の方をやるぞ」
ほほうと、感心するジェームスに一言言って、アレルは続いて焼売の方の皮作りを始める。
こちらは、寝かしていた生地を打ち粉したまな板の上でひたすらに伸ばす。そして、可能な限り無駄を減らす為に四角く、少し指が透けて見えるぐらいまで薄く伸ばしていく。
そしたら、最後はそれをある程度の大きさの正方形に切り出していけば、焼売の皮も完成する。
「次は、皮で包む具材の餡を作る。これは、材料の違いだけで作り方は一緒だから餃子と焼売で班分けするぞ」
アレルはそう言いつつ、餃子班をジェームスとタチアナに、焼売班を他の三人に任せる。人数に違いがあるが、未だ目をパチクリさせているブルーは戦力外と判断して、アレルはこういう分け方をした。
まず、餃子の方ではキャベツとニラとねぎ、それから生姜とにんにくも全てみじん切りで刻んでもらう。その際、刻んだ具材には塩もみをして水分を出させる作業も忘れずに頼む。同様に焼売の方も、玉ねぎと生姜をみじん切りで刻んでもらう。
その間、アレルは醤油の代替品として水大さじ一杯に対して塩を小さじ半分の割合で混ぜた塩水を、調味料としてとタレとしての両方を兼ねる分量を作る。更に、後で説明しながらやるのが面倒だったアレルは、餃子の方は代替醤油と酒と塩と水を、焼売の方は代替醤油と塩と砂糖と酒を混ぜた調味液を作っておく。尚、この調味液の作り方は目聡いタチアナがしっかりメモを取っていた。
「じゃあ、俺がそれぞれに作った調味液を使って挽き肉と具材を混ぜてくれ」
そう言うと、餃子の方はジェームスが、焼売の方はグリーンがそれぞれ混ぜていく。そうして、粘りが出るまで混ぜさせた餡を少しの間寝かせる。
そして、ジェームスとグリーンは手を洗い始めたのだが、ネバネバを落とすのに苦労していたのでアレルは一言助言する。
「それ、砂糖を使うと落ちるらしいぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、俺も聞いただけだから本当かどうかは知らないけれど」
すると、ジェームスはタチアナに、グリーンはイエローにそれぞれ砂糖を掌に取ってもらい手を洗い始める。最初は二人共半信半疑ではあったが、手を擦る内に段々と効果を実感出来たのか表情が明るくなってくる。
「オ〜ウ、これは凄いです! あれだけ落ちなかった粘りが、綺麗に落ちていきます!」
「ええ、確かに。あの、これは一体どこでお聞きになった事なのでしょうか?」
興奮するジェームスを他所に、冷静なグリーンがアレルへその情報の出所を訊ねてくる。それには、正直に元の世界の知識だとは言えないアレルだったので、咄嗟に適当な嘘をつく事にする。
「さあ······旅している間に、どこかで小耳に挟んだだけだからな。正確にどこでなんて、覚えてないな」
「そうでしたか、別にこちらも正確に知りたい訳ではないのでお気になさらないで下さい」
この辺り、グリーンはジェームスよりも礼儀正しいなとアレルは感じる。ただ、餡を寝かせている間は何もする事がないので、ブルーの回復も兼ねてその間アレルはジェームスとタチアナを含めた戦隊各員と談笑する事となった。




