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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百五十三話 待ち構えていた者

 ロバートと別れたアレルは、一人一階の廊下を歩いて厨房へと向かう。最初、随分と間が良くロバートが姿を現したから何か用でもあったのかと思っていたアレルだったが、そのまま仕事に戻った事から本当にただの偶然であった事を知る。

 それでも、また何か自身が思い悩みそうに見えたからこそ、あそこで声を掛けてきたのだとアレルは思う。なので、アレルはこれからは一人でもしっかりしなくてはいけないなと思う。明日からは、アリシアにメリルとミリア、三人の事に気を配りながら追手や国内の動きなどにも警戒をしていかなければならない。自身の事なんかで、悩んでいる余暇などアレルには無い。

 それ故に、一度頭を切り替えて気を引き締め直し、アレルは厨房へと歩を進める。すると、厨房の扉の前辺りに薄明かりの中、何者かの人影があるのをアレルは目にする。


「あっ、アレルさんっ! 今は、こちらに来ては駄目ですっ」


 と、薄明かりに照らされた赤髪とその自身を呼ぶ声で、アレルはそれがタチアナだったと気付く。しかし、来ては駄目とは何なんだと思わず足を止めて首を傾げていたら、その理由がアレルの接近に気付いたのか勢いよく厨房の扉を開けて姿を現す。


「アレェルさぁんッ! 待ってましたよぉ、昨夜は怪我をされたと聞いて遠慮していましたが、今夜こそは何か料理を教えて頂きますよぉ!」


 その、やけに興奮した様子のジェームスの姿に、タチアナはあちゃ~といった様子で顔を覆って俯いてしまう。一方で、うわ出たなと思いつつ、アレルはどうせ言われるだろうと予測はしていたので、別に構わないかと前もって応じる覚悟はしていた。


(······にしてもだ、ディミトリスの遺児って事は一応小国の王族の血を引いてるんだよな。今は、もう存在しない国だけど)


 そう思うと、アレルはやはり人の人格などを形成するのは、血筋よりも環境の方が大きく影響しているのだろうなと考える。


「······まあ、こんなんでも縁は縁か。ロバートの事もあるし、無下にも出来ないか」


 さてとと、自身に言い聞かせるみたいに独り言を呟いたアレルは、そのまま歩いていき興奮しているジェームスは放っておいてタチアナの方へ声を掛ける。


「大丈夫か?」


「あっ、はい······すみません。今夜は、お部屋まで伺ったのですが、返事がなくてもう一方のお連れ様の部屋では厨房へ向かったと言われ、仕方なく厨房に戻ってもアレルさんの姿がなくて注意する事も出来ませんでした」


 察するに、タチアナが部屋に行った時はアリシアも浴室を使っていて、メリルもメリルでミリアの事に集中したかったのかもしれない。そして、タチアナの移動の最中はアレルもロバートと遠回りをしていたので、行き違いになったという事だろうとアレルは理解する。


「なんか、ごめんな。気を遣ってもらったのに」


「いえ、仕事のついででしたから」


 タチアナはそう口にするものの、建前半分といった感じだとアレルは思った。大方、ジェームスの奴にほだされて迷惑にならない様に伺いを立ててくるとでも言ってから来たのだろうとアレルは考える。


「まあ、今夜で最後だからどっちみち挨拶には来てたさ。朝は、顔出してる暇なさそうだし。だから、あんまり気にしなくていいよ」


「はあ、そう言って頂けると助かります」


 アレルは、自身が関わる様になってからジェームスとの間にタチアナが入ってくれる様になって、ジェームスからの圧が減ってかなり助かっている。ただ、タチアナ的にはそれを喜んでやっているみたいに感じられていたが、これはこれで気苦労があるらしいとアレルは感じる。

 そこへ、軽くアレルが無視していた存在が辛抱たまらず割って入ってくる。


「アッレェルゥすわぁん! 私を無視するなんて、酷いではありませんか?」


「うるせえ、アッレェルゥなんて名前のヤツは知らねえよ」


 少し人を小馬鹿にしていると感じられる呼び方に、苛立ちを覚えたアレルは軽く毒づく。だが、ジェームスは料理が絡むと少し人格が歪むので仕方ないかと諦める。


(でも、そこを含めて良いとか言う人間もいるんだよな)


 そう思いながら、アレルは無言で視線をタチアナへと向ける。


「えっ······と、何か?」


 しかし、そんなアレルの内心など判ろうはずもないタチアナは戸惑いの表情を返してくる。


「いや、別に······それよりジェームス、予め下準備なんかは頼んでないから、そこまで凝ったものは教えられないけど良いか?」


「構いませんよ、私は知らない料理を知る事が出来れば良いので」


 本当にコイツはブレないなと、アレルは思いつつ何を教えるかなと考え始める。可能ならば、日本食が良いとは思うのだが、そもそも醤油や味噌が無い時点で大半の和食が作りづらい。そうなると、和食以外のものを日本風に直したものが良いだろうとアレルは判断する。

 しかし、既にオムライスを教えているので洋食では少し面白みに欠けるし、欧州に近い食文化のルクスタニアでは洋食はそれ程珍しくは見えないかもしれない。だとすると、日本食が駄目ならアジア圏の料理か南米もしくはアフリカなんてのもと、アレルは考えるがそもそもそんな料理は作れない。


「······でも、皮から作れば餃子くらいならどうにか作れるか?」


 と、アレルは考える事に集中していたせいか、思いつきが口から漏れてしまう。それを聞き逃さなかったのは、勿論ジェームスだ。


「ギョウザ? 何ですか、それは?」


 聞き返された事で、口に出してしまっていた事に気付いたアレルはしまったと思うが後の祭りで、ジェームスは興味津々に鼻息を荒くしている。その姿に、多少辟易するアレルではあったが、その横で頭をペコペコ下げるタチアナに免じて説明する事にした。


「えっとだな、簡単に説明すると小麦粉で作った皮で、挽き肉に野菜を混ぜた餡を包んで焼いた料理だ。まあ、元は茹でて作る水餃子が主流だったらしいけど」


「水餃子?」


「ああ、だから俺が良く口にしていた方は、それに対して焼き餃子って言うんだよ」


「それでは、小麦粉と挽き肉が必要になりますね」


 そうして、ようやく落ち着きを得た様子のジェームスが必要な食材を確認を頭の中で行う素振りを見せる。しかし、アレルはそこで迂闊にも余計な事を口にしてしまう。


「そういや、蒸し餃子なんてのもあったな。でも、蒸すならやっぱり焼売かな?」


「シューマイ? それは、どの様なもので?」


 キランと、目を輝かせたジェームスはアレルがその迂闊さに気付かぬ様に、言葉少なにさりげなく訊いてくる。それに、アレルも思わず口にしてる為に反射で答えてしまう。


「ああ、餃子の皮は円状の物を使うんだけど、焼売は確か四角い皮を使うんだ。餡も同じ挽き肉なんだど、入れる野菜が少し違ってあとは蒸して火を通すのが違いかな」


 そこまで口にして、アレルはようやくハッとする。そこで、自身が何か余計な琴を口にしてないか確認する為にタチアナへ視線を向けると、アハハと苦笑いを返されてしまう。

 次に、アレルは恐る恐るジェームスへ視線を移すと、案の定目を輝かせながらニマ〜っとイヤらしい笑みを浮かべていた。


「アレルさん!」


「······解ったよ、教えてやる」


 その言葉に、ジェームスは喜びから天を仰ぎ、その傍らでタチアナが申し訳無さそうに頭を下げる中で、アレルは自らの迂闊さに項垂れる。

 ただ、小麦粉と挽き肉から肉まんを連想しておきながら口に出さなかった事と、天ぷらならもう少し簡単だったかもしれないと漏らさなかっただけマシかとアレルは思う事にした。



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