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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百五十一話 関係性の更新

 静かに、それでいて淡々と語るアレルの語り口に、ミリアはぐうの音も出ないのか口を噤んでしまっている。それをいい事に、アレルは更に畳み掛ける。


「良いか? ミリアは、何かあったら俺ないしメリルに考えてもらえば良いなんて思ってんのかもしれない。でもな、そんなのはただの怠慢だ。自分は、荒事になった時に剣だけ振っていれば良い。そういう考えでいつまでもいられると、巡り巡ってアリシアとメリルまで危険に晒すんだよ」


 その話し方に、怒気や嘲りが感じられない為か、先程までミリアに対して憤りを感じていたはずのメリルも静かに成り行きを見守っている。だが、そこでミリアの反論が始まる。


「だが、私は考える事が得意ではないッ。そんな私が何を考えたところで、貴様に適う訳なんてないだろッ! そうやって、貴様は私に何度も惨めな思いを味わえと言うのかッ!」


「······その惨めな思いってヤツは、アリシアとメリルよりも大事なのか?」


「────ッ!?」


 アレルの核心を突いた一言に、ミリアは自らが口にした言葉の意味を理解したのか、青褪めた様な酷い表情で絶句する。それでも、そんなミリアを相手にアレルは話を続ける。


「敵わないからって、及ばないからって、そんなのはやらなくて良い理由にはならないだろ。俺だって、剣術だけなら未だミリアにだって遠く及ばないしな。それよりも、俺がいる状況だからこそミリアの考えが足らなくても大丈夫なんだろ? だったら、その状況でこそ色々と考えてみるべきじゃないのか? 俺も、今日は午後からロバートがいる状況に甘えて色々と教えてもらったよ。それで身についた事もあるし、今後の課題も見えてきた。ミリア······お前は、俺の事が気に入らないって言ってるのに、このままだと俺に簡単に追い越されるぞ。ミリアは、それで良いのか?」


 そう言って、アレルはしばらくミリアの答えを待つ。しかし、ミリアは俯いたまま何も返してはこないので、仕方なくアレルは言葉を繋ぐ。


「今日の午後、ミリアはアリシア達と町中を散策したんだよな? そんな時だって、考え方を鍛える事は出来るんだ。もし、町を襲撃されたらどこの建物なら襲撃に耐えられるかとか、立て籠もった後は脱出口は確保出来るのかとか、町から逃げる事になったら何をどう使ってどんな経路で逃げるのが適切かとか、予め万が一に備えて色々と考える事は出来るんだよ」


「あの、アレルさんはいつもそんな事を?」


 そこへ、訊かずにはいられなかったのか、ミリアに代わってメリルが訊ねてくる。


「まあ、いくら考えても上手くいかない時だってあるし、考えるだけ無駄になる事がほとんどだけどな。それでも、使わずに済んだなら御の字って、むしろ無駄になってくれって思いながらも考えてるよ」


「そうだったんですね······」


 それだけ返すと、メリルもまたミリアと同様に黙り込んでしまう。なので、仕方なくアレルは自らの話を続ける。


「俺自身、昨日は自分一人じゃどうにもならずに人の手を借りたよ。それでも、アリシアが機転を利かせて瑠璃を俺の方に寄越してくれてなければ俺は死んでいた。だから、余計に思い知ったんだ。一人で出来るだなんて思い上がりも甚だしいってな。ここまでは、どんな事に対しても必ず抜け道や打開策を考えられるって多少は思っていた。けれど、昨日は俺一人ではそれを見つけられても実行なんて出来なかった。ロバートとラルフだけじゃない。他にも、助けてくれた人がいたから、俺は今ここにいられている。······だからなミリア、ここからは役割分担じゃなくて、協力体制でいけないか?」


 そう、ここから先は必ず通らなければならない国境を目指す事になる。そして、シープヒルで数日を過ごしてしまった以上、国境で目撃情報が出て来なければビットーリオの手の者は待ち伏せに指針を変えているだろう。

 だからこそ、アレルはより厳しくなると考えられる状況に対して、自らの担当だけに努める役割分担ではなく互いの不足を補い合う協力体制でいかないかと提案している。ただ、アレルはそれだけが理由で協力体制の提案をしている訳ではない。


「なあミリア、俺が最初にアリシアから受けた依頼は、私達を助けて下さいって内容だ。私『達』だ。解るだろ? 俺の受けた依頼には、ミリアの事も入ってんだよ。だから、避けようのない戦闘に遭遇した場合は、必ず俺が三人の前に立つ。でも、俺は三人を必ず守ってやるなんて言える程強くはない。下手したら、道半ばで命を落とすなんて事も考えられる。そうなれば、俺はもうアリシア達を守る事は疎か、指示を出す事も先々の対策を考えてやる事すら出来なくなる。······だからなミリア、お前も自分で考えるようにしろ。俺が、いついなくなっても大丈夫な様にな」


 そこまで話すと、部屋の中には沈黙が滞在し始める。アレル側に、もうこれ以上話す事がない様に、ミリアとメリルも何かを口にしたりはしない。

 それでも、アレルはこうして変な空気を作る事になったとしても、ここでミリアに意識を変えてもらう必要があった。記憶喪失が故に、元の人格がどんな人間か判らない事。その上で、自身の中にアマデウスという得体の知れない意識までが紛れ込み、自身の身体を乗っ取り暴走までしてくる事。そうした、自身の意思とは無関係にアリシア達を危険に晒す懸念がある以上、アレルはミリアにしっかりして貰うほか手立てが無い。

 ただ、こうして布石は打った。あとは、それこそ考える時間が必要だろうと思ったアレルは、最後に一言だけ言って部屋を後にしようと考える。


「最後に一つだけ言わせてもらうけど、本当に最後の最後までアリシアの傍に立っているのは俺じゃなくてミリアだろ? そんなお前が、思考を放棄なんてしていたら守れるものも守れない。お前の為じゃない。アリシアの為に、必要な事を身につけろよ」


 それだけ言い残し、アレルはメリル達の部屋を後にする為、重ねていた食器を持って扉へと足を向ける。すると、その背後からアレルを追う様な気配をアレルは感じる。


「あっ、扉くらいはアタシが開けますから」


「ああ、ありがとう」


 そう言ってきたメリルは、急いでアレルを追い越すと扉を開けてアレルが出やすい様に扉を押さえてくれる。そんなメリルに、感謝をしつつ扉を抜けたアレルはこれであとは厨房に向かうだけと思うが、扉が閉まっても部屋の外に人の気配が残っているのに気が付く。


「あの、さっきのは何なんですか? まるで、この先アレルさんがいなくなるみたいな言い方で······この先、それ程までに危険な事が待っているんですか?」


 アレルが振り返ると、部屋の扉の前でどこか不安そうに胸の前で両手を合わせるメリルの姿があった。言われてみれば、自身を信用出来ないあまりそんな言い方になってしまっていたかもしれないとアレルは思う。

 メリルは、一見しっかりしてる様に見えて、意外と打たれ弱い一面がある。それも、アリシアやミリアの手前弱さなんて見せられないと頑張り過ぎた上で、変なところで脆さが露呈する人間だ。

 それを思い出したアレルは、言い方を変えるべきだったかなと思いつつも、あの言い方以外だったらミリアには響かなかったとも思う。


「姉さん、大丈夫だよ。さっきのは、あの馬鹿に考えさせる為にわざとそんな言い方をして不安を煽っただけだから。そうでもしないと、アイツ自省すらしないのは姉さんの方が解ってるだろ?」


「それは······まあ······」


「だから、そんな不安に感じる事はないよ。俺だって、そう何度も死にかけるなんてゴメンだしさ」


 アレルは、わざと明るい言い方をしながらトレイを持ったまま肩を竦めてみせる。その甲斐あってか、ホゥと息を吐いたメリルはゆっくりと胸の前で組んでいた手を下ろす。


「では、アレルさんが急にいなくなるなんて事もないんですね?」


「ああ、アンネに消えてくれとでも言われない限りはな」


 それに、既に不安は消えたのか、メリルはクスッと僅かに笑ってみせる。


「あの娘は、そんな事自分から口にしたりはしませんよ。そ・れ・よ・り、さっきから何なんですか? また姉さん姉さんって、アタシはアレルさんの姉になったつもりはないんですからねっ」


 めっ、と人差し指を立てながら注意してくる姿は、それを真似しているアリシアの姿と重なって見える。それで、メリルの方は大丈夫だろうと思ったアレルは内心安堵する。


「ほら、一応ここは部屋の外だし、でも濁音が混じる名前より姉さんの方が言いやすいしさ」


「何なんですか、それは〜ッ」


 アレルのいい加減さに、メリルは不満からか少し子供っぽい恨めしそうな視線を向けてくる。ただ、このままでは本当に怒られそうだと感じたアレルは話題をすり替える。


「まあ、そんな事よりさ······中のクリスの事を気にかけてやってくれないか? あのまま一人にしておくと、何か変な結論でも出しかねないからさ」


「あっ、そうですね。では、アタシは部屋に戻りますね」


 やはり、そんなところは姉のメリルなのでミリアの事を引き合いに出すと、直ぐ様部屋へ戻ろうと扉に手を掛ける。しかし、そこで顔だけアレルの方へ向けると一言だけ口にする。


「······あまり、無茶も無理もしないでくださいね」


 それだけ言い残すと、メリルはガチャと扉を開けて部屋の中へと逃げるみたいに消えてしまう。その去り際に、もしかしたら自身の不安も少しは悟られていたのかなと、アレルは自らの誤魔化し方を反省するのであった。



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