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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百五十話 想うからこそ

 ──アレルが出た後の部屋の中。


 アリシアは、アレルが出ていった扉を見詰めながらポツリと呟く。


「······本当に、アレルってバカ」


 言いながら、アリシアは扉を施錠すると再び胸のペンダントに触れる。そこからは、先程アレルがどうせなら楽しんでみろと口にした時の想いが伝わってきていた。

 その想いは、何か一つに偏ったものではなく繁雑で解りにくいものではあったが、その根底にあるものに関してはしっかりと伝わっていた。アリシアを守る、その一点から様々な想いが混じり合い解りづらさを演出していたが、その中にどこか悲壮な覚悟も含まれていた。

 それを、この場で問い詰めようとすれば、アレルは何か答えてくれたかもしれない。それでも、アリシアはそれを耳にするのが怖くて問い詰める事が出来なかった。それ故に、アリシアは敢えてアレルへ笑顔を向けたのであった。


「私だって······助けてくれてるアレルの力になってあげたいのに」


 アリシアは、既にペンダントの能力の助けもあって、アレルが傷付き悩んで、それでも苦しみを乗り越えて自身達の前に立っている事に気付いている。ただ、その悩みも苦しみも滅多な事では口にしてくれないからこそ、アレルのそういった部分に触れるのがアリシアは怖い。

 不用意に触れてしまい、それでアレルが離れて行ってしまうのが怖い。それでなくとも、壁を作られ今の関係が壊れてしまうのも怖い。それ故に、アレルの方から言ってくれるまで待つという選択をアリシアは選ぶしかなかった。

 ただ、その心に触れたいと思いながらも触れられないもどかしさに、アリシアは自らの心を痛めている。


「アレルの······バカ」


 そんなアリシアの呟きを聞いていたのか、近くを飛んでいた瑠璃がアリシアの顔の前まで来て羽をチカチカと明滅させる。正確には、何を言ってるか判らないアリシアだったが、自身を励ますと同時に何かアレルの事を言ってるのだろうなと考える。


「ありがとね、ルリちゃん。たぶんだけど、私を励ましてくれてるんだよね? ごめんね、私がルリちゃんの言う事を判れば良かったのに······でも、いつかルリちゃんとも普通にお話し出来る様になると良いのにね」


 そんなアリシアの願望に、瑠璃は大きく頷くみたいにその体を上下させる。それに、アリシアはニコッと笑顔を返す。


「それじゃ、おバカなアレルが帰ってくる前に浴室使わないとね」


 そう言って、瑠璃に肩に止まるよう促したアリシアは、浴室を使う準備をするのに荷物のあるベッドへと足を向けた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ──同時刻、宿の二階廊下。


 アレルは、一度階段へと足を向けたが、メリル達の食器を回収し忘れた事に気付き来た道を戻っている。しかし、それも暇潰しには丁度良いと思うアレルは、急ぐ事もなくゆっくりとした足取りでメリル達の部屋へと向かう。

 ただ、アレルは先程のアリシアとのやり取りをどこか気にしてしまう。それというのも、昨日の盗賊騒ぎの一件からどうにもアリシアの距離感が落ち着かない感じがしているからだ。何かを探る様に近づいたと思えば、直ぐ様態度を翻して再び距離を取る。それでも、そこまで離れたりはしない。


(何なんだろうな······やっぱり、昨日死にかけたのが変に不安を煽る形になっちまったのかな)


 アリシアの意図が判らないアレルだが、その理由は自身にあるのだろうと考える。それで、どうしたものかなと思っていると、メリル達の部屋の前までやって来てしまう。

 なので、アレルは仕方ないとアリシアについて悩むのを一旦切り上げて、メリル達の部屋の扉をノックする。


「アレルだ。食器を取りに来た」


「はい、今開けますね」


 アレルの声に、メリルが返事を返してくる。なので、アレルはメリルの言葉を信じて待つと、その通りに然程待たずに扉が開けられる。


「どうぞ中へ」


「ああ」


 扉を押さえてくれるメリルに言われ、アレルはそのまま部屋の中へと足を踏み入れる。すると、ゲッとあからさまにアレルを毛嫌いしてる人間の声がベッドの方から聞こえてくる。

 しかし、そこで何か反応を返せばミリアと同じになってしまうと思ったアレルは、澄ました表情でテーブルの上の食器を回収しにいく。何故なら、その場には自身に代わり、妹の態度の悪さを叱るお姉ちゃんがいるのだから。


「ねえミリア、今のは何? もしかして、曖気(おくび)か何かかしらぁ?」


 瞬間、メリルが怒っている時の言い終わりが間延びする癖を察知したミリアが、即座に言葉を返そうとする。


「そ、そうで──」


「食後とはいえ、人様の耳に聞こえる程の曖気を出したなら、それはそれで怒るわよ?」


 ピシッと、その言葉でミリアは身体がまるで石像にでもなったかの様に固まってしまう。それを目にするアレルは、曖気って確かゲップの医療用語だったなとか思いながら何食わぬ顔で食器を重ねていく。


「そういや、明日は野営になる事もあるから、今夜は程々にしてしっかり身体を休めておけよ」


「あの、アレルさんの身体の方は大丈夫なんですか? 明日の出発で、問題ない程に回復出来ましたか?」


 そこへ、メリルが医術師としての立場からなのか、そんな事を訊ねてくる。


「ああ、お陰様で前よりも調子が良いぐらいだ。色々とありがとな」


「いえ、それなら良いんです」


 メリルは、アレルの返答に安堵したかの様な笑みを返してくる。その反応に、アレルは本当の事を口にしなくて良かったと心底思う。

 実際は、夕食前まで死んだみたいに寝ていたのだが、それをそのまま伝えてはメリルに心配させるだけだとアレルは思った。確かに、体力面では八割といった具合ではあるものの、引き換えに普通にしていたら得られない経験を積む事も出来た。その中には、連続した戦闘の経験や強敵との戦いに加え、ロバートの手解きにより新たな技術もいくつか身につけられた事がある。

 ただ、逆に露呈した不安要素などもあるのだが、判明したなら一つずつ対処していけば良いとアレルは考える。なので、八割体力が戻った今は医術師であるメリルの助けは要らないと、アレルは余計な心配をさせない様に振る舞う。


「さてと、食器も重ね終えたし俺はそろそろ行くけど、何かあったりするか?」


「いえ、アタシは何も──」


「待て! 私にはあるぞッ」


 何も無いだろうと、そう思いながらも一応訊ねたアレルだったし、その通りに何も無いとメリルは口にしようとしていた。しかし、そこにメリルの言葉に被せてミリアが待ったをかけてくる。


「貴様、あの迷路を攻略したみたいだが、どんな汚い手を使ったんだ? 私にも、それを教えろ」


「ちょっとミリアッ! それが、教えを請う人の態度ですか? もう少し、それなりの態度というものを──」


「いいって、別に」


 ミリアの言い方に、相応の態度を求めようとするメリルをアレルは止める。そして、アレルはミリアへ鋭い視線を向ける。


「んで、それを教えたところで何になるんだ? 自分には出来なかった、答えも判らない、だから教えろ? そんな要求に応じたところで、お前に何が残るんだ?」


「ウグッ······そ、それは」


 何も考えていなかったのか、ミリアはそのまま言い淀んでしまう。ミリアの駄目なところが、こういうところなのだとアレルは考える。

 自分には剣しかないのだと、頭を使う事は出来ないと、自ら可能性を狭めてしまっている。今までは、それで良かったのかもしれない。しかし、今後何らかの不測の事態で別行動を強いられる時だってあるかもしれない。

 それを考えた際、最初から思考を放棄しているミリアの存在が一行の弱点になりかねない。故に、アレルはこの場でミリアにも自らの頭で考える事を身につけさせようと挑発する。


「てか、アリシアにも聞いたよ。何度も迷路に入ったんだってな。だったら、何で一から道順を覚えて再挑戦するっていう地道な方法を取らなかったんだ? それさえ出来れば、あの程度時間内に出てくる事だって出来ただろ?」


「うっ······それは、あんなものにそんな手間をかけられないだろッ」


「その『あんなもの』に、お前は手も足も出なかったんだろ? そんな風に、見下してるから足元を掬われるんだよ」


 あんなとかそんなとか、まるで大した事ではないとでも言いたげに何かを指して口にする人間がいる。ただ、それはそこに存在してる以上誰かが携わっているからこそ成り立っている事や行いのはずだ。

 たかがされどもの話ではないが、その口振りから内心での見下しが感じられる者からは慢心も生じやすい。そして、仲間内に慢心している者がいれば、その者の存在自体が全体の危険に繋がる事もある。

 だが、ミリアはアリシアにとってもメリルにとっても大切な存在だ。切り捨てる事なんて出来る訳もない。それ故に、アレルは良い機会だとこの場でミリアの考えを叩き直そうと画策し始める。



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