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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百四十九話 明日に向けて

 アレル達がフランを食べ終わると、急に瑠璃がアレルの外套のフードへ姿を隠す。それで、夕食が運ばれてきた事を察したアレルは扉を開けてタチアナを迎え入れる。タチアナは驚いていたが、二言三言アレルと言葉を交わすと夕食を部屋へと運び込んでくれる。

 そうして、タチアナが退室した後で瑠璃の蜂蜜水を作ってから、三人で夕食を食べる。いただきますから始まり、談笑しながら食事していたのだが、やはりアリシアの食の進みは少し遅かった。

 それでも、アレルはいつもの様に茶化す事はせずに、自らも敢えて食事をゆっくりにする事でアリシアが気を遣わずに済むようにする。そうやって、アリシアに合わせた食事を終えると、ごちそうさまの後でアレルはいつも通りに食器を片付け始める。


「ねえ、やっぱり今日も片付けに行くの?」


「まあ、今夜でここも最後だしな。朝は、出発の準備でごたつくだろうし、ちゃんと挨拶しとくなら今しかないかとも思うからな」


「そうだよね、アレルは厨房の人達とも仲良くなってるんだもんね」


 表情は変わらないし、態度にも変化は見られない。それでも、そんな言葉の裏にまたも感じきれない不安が隠れていたら嫌だと感じるアレルは言葉を付け足す。


「それもあるけどさ、一番の理由はアリシアだからな」


「えっ?」


 思ってもいなかったのか、意表をつかれた様子のアリシアは驚いた表情のまま固まってしまう。そんなアリシアに、アレルは一旦片付けの手を止めて浴室の扉を指差す。


「俺が部屋にいると、使いづらいだろ? 片付けなんて、部屋を空ける為の口実みたいなもんだ」


 事実、例えアリシアが平気だと口にしても、どんな感じで待っていればいいかアレルには判らない。それ故に、宿の全体はロバートがいるし、部屋には瑠璃が警戒として残ってくれる状況だからこそ、アレルは理由を作って部屋を出ていくのだ。


「そっか······えっと、その······なんかごめんね」


「謝る様な事じゃないだろ、別に」


 照れた様に笑みを向けてくるアリシアは、夕食時には既にフードを脱いでいて、そんな表情を向けられたアレルは気恥ずかしさから視線を逸らす。

 そこへ、気を利かせたのか瑠璃が二人の間に飛んできてアレルに向かって言ってくる。


 ──アリシア様の事は、ルリにお任せ下さい。異変があれば、直ぐに知らせます。


 その言葉に、なんだかんだで自身が一番甘えているのは瑠璃なのかもしれないと、アレルは自嘲する。


「アレル、どうかしたの?」


「いや、瑠璃がアリシアの事は任せてくれってさ」


「それで、何で笑うの?」


「さあ、何でだろうな?」


 片付けをしながらそう口にするアレルに、アリシアはもうッと不満を露わにする。しかし、そこは瑠璃がアリシアの方へ近づく事で、アリシアも自然と笑みを浮かべる。


「さてと、俺は適当に時間潰してくるから、ゆっくり使えよ。場合によっては、明日は野営になる事もあるからさ」


 食器を重ね終えたアレルは、そう言い残して食器の載ったトレイを持ち上げようとするも、理解が及んでいない様子のアリシアと目が合う。


「野営になる事もあるって?」


「あれ? 言ってなかったか? これからは、なるべく宿を取りながら進もうって考えてるって」


「聞いてなかったと思うよ」


 これに関してアレルの方もうろ覚えで、考えていただけかそれとも話したのかが定かではない。それでも、出立前日なのでちゃんと伝えておいた方が良いだろうと判断する。


「じゃあ、今話すよ。まず第一に、ミリアの事があったからな。なんていうか、その······宿に泊まっていないと面倒な事とかあるだろ? 男だけだったならまだしも、女性比率の多い今の状況で野営を中心にっていうのは厳しいかと思ったんだ。アリシア達は、野営自体慣れてないしな」


「うん、でも追われている状況で町に入りたくないって話も解るよ」


「ああ、アリシア達の理解を得られているのは俺も解ってる。でもさ、無理に慣れない事を続けて、今回みたいにいざって時に体調崩していたら本末転倒だろ? それに、馬車は背中が痛いだの、可能なら汗を流したいだの色々と不満があるみたいだしな」


 アレルが、まるで確信はないけれどという体で口にすると、アリシアはアハハと気不味そうに苦笑する。その様子に、まったくと呟いたアレルは続けて話す。


「まあ、町に入る事に懸念がない訳ではないけど、それだって瑠璃がいてくれるし俺も少し新しい技を身につけたからな。それなりに、解消は出来るはずだ。あとは、なるべく大きい町を選んだりして、宿は安全な所の選び方もロバートから教わったし諸々の対処も出来るだろ」


(まあ、そもそも辺境伯の領地でビットーリオ派の連中が好き勝手出来る訳ないってのもあるんだけど)


 未だ灰色判断ではあるが、辺境伯のそれは限りなく白に近い灰色だ。ロバートから聞いた、ランカークスの守り人の話から考えても、アレルは辺境伯が決して敵ではないと判断する。

 ただ、その辺境伯を排除しようと暗躍している気配が領内には潜んでいる。シープヒルでの、盗賊騒ぎから始まった魔神のアンデッドの召喚もその一つだ。だが、辺境伯側もそういった動きを掴んだ上で、ビットーリオ側に誤情報を流しているみたいにアレルには感じられた。

 水面下で行われている情報戦、アレルの直感ではそこにエリオットの言っていたサリーなる人物が絡んでいるのでないかと睨んでいる。この人物に関しては、本当にどんな人物なのかが判らない。エリオットが、リバッジまで連れてくると言っていたが、果たしてそれが吉と出るか凶と出るか、どちらにしても警戒は今以上にしておくべきだとアレルは思う。


「ねえ、何で大きい町を選ぶの?」


 そこへ、アリシアから唐突に質問が投げ掛けられる。それでアレルは、先々の事を考える事から意識をアリシアへと戻す。


「別に、難しい話じゃないよ。木を隠すなら森の中って言うし、それならアリシアって人を隠すなら人の往来の激しい町の中ってね」


「人混みに紛れるって事?」


「まあ、フードを被ってる人間なんて少ないだろうが、全くいない訳でもない。平然とさえしてれば、案外気付かれないものだったりするからな」


 そこまで言うと、何故かアリシアは伏し目がちになり視線を下へ向けてしまう。ただ、ここまででもアレルはそんな表情をするアリシアを何度か見ていたので、また何か自分のせいでみたいな事を考えているのだろうと察する。


「なあ、アリシアって俺にはバカバカ言うけど、アリシアの方も大概だよな?」


「えっ?」


「他の事でもそう感じる時もあるけど、そんな風に危ない状況で気を遣わせてなんて考えてると、思考が内側にしか向かなくなるだろ? そっちの方が、俺としては厄介なんだ。というか、せっかく王城の外で自由に出来る機会なんだから、どうせなら楽しんでやるぐらいの気概を見せてくれよ。この町で、買い物してる時なんかは良い表情してたんだからさ」


 すると、アリシアはキュッと唇を結んで、右手で胸のペンダントを握る。アリシアは、そうして少しの間固まるも、スッとペンダントから手を離すのと同時に顔を上げる。


「······あのね、私結構我儘だし気分屋な所もあるの。だから、アレルの事振り回しちゃうかもしれないんだけど、それでも良いの?」


「どんな時、どんな状況でも守るのが護衛の仕事だからな。好きにしろよ」


「······うんっ!」


 何がそんなに嬉しいのか、アリシアは朗らかな笑顔をアレルに向けてくる。ただ、そんな表情に安堵したアレルは食器の載ったトレイを持って扉へと歩いていく。


「それじゃ、俺は片付けに行くから、施錠はしっかりしろよ」


 最後に、振り向きざまにアレルはそう言うと、そのアレルの後をパタパタと軽い足取りでアリシアが追ってくる。


「言われなくても、出来る事はちゃんとやるからね。それと、絶対に私よりアレルの方がバカなんだからねっ」


「はいはい。んじゃ、瑠璃もよろしくな」


 ──お任せ下さい!


 どこか、胸を張るみたいな飛び方をする瑠璃の姿を見たアレルは、僅かに口角を上げるとそのまま部屋を後にするのであった。



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