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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百四十七話 素直な気持ち

 瑠璃から聞いていたとはいえ、そんな不意打ち染みた笑顔にアレルは戸惑ってしまう。特に悪い事をした訳ではないのに、その笑顔を見ていると何故か申し訳ない気持ちになってくる。

 それに、こうして笑顔を向けられているのだから瑠璃の言葉は嘘ではなかったのだろう。しかし、先程掛けられた声に滲んでいた憤りも全くの嘘だとはアレルには思えなかった。故に、アレルはその僅かな憤りにどこか責任を感じてしまい頭を下げる事にする。


「その······ごめん」


 だが、そうして謝罪した後でアレルは自身の迂闊さに気が付く。こういった場面では、女性に対して理由も解らずに謝罪するのは最悪の悪手だというのをすっかり忘れていた。


「何で、謝るの?」


 それ故に、スッと真顔になったアリシアに当然の言葉を返されてしまう。ここで何となくなどと答えれば、そこに待っているのは阿鼻叫喚の地獄でしかない。

 そこで、アレルは思考を巡らせるも、寝起きのせいか働きがすこぶる悪い。あと、当然ながらここで視線を泳がせ瑠璃の姿を探すのも駄目だ。そんな事をすれば、地獄巡りフルコースに加えておまけにスペシャルコースまで用意されてしまう。

 なのでアレルは、何がアリシアの怒りを買っているのか探る為に今日の行動を振り返る。そうすると、やはりアリシアの目が無かった午後からの行動に問題があったのだろうとアレルは考える。


(え〜っと、確か中庭にハンカチを届けに来た時に続きはみたいな話をされたよな? でも、それだったらアリシアは自分から話を切り出すはずだ。それなら、原因はやっぱり······)


「その······さ、何ていうか変な寝方していたから、驚かせたし心配させたよな? だから、ごめんって······」


 返ってくるのは、長い沈黙。それでも、ジ〜っとこちらの目を見てくるアリシアの視線からだけは、目を逸らさない様にアレルも耐える。

 そうして、アリシアの視線にしばらく耐えていると、アリシアの方から声を掛けてくる。


「じゃあ、次からは気を付けてくれる?」


「ああ、どうにかするよ」


 そして、再びアレルはアリシアの視線に晒される。こういうのは、やはり普段の行いが災いしてるのか信用がないのだろうとアレルは思う。すると、不意に僅かばかり視線を下げたアリシアがボソリと呟く。


「······いつも、そうやって素直なら良いのに」


「へ?」


 ただ、その一言はあまりにも不意で身構えていたアレルの耳には届いておらず、アレルは何を言われたのかと呆然としてしまう。


「何でもないよっ。そういえばね、お土産があるの」


「お土産?」


 そんなアレルに対して、話題を変えようとアリシアは笑みを浮かべながら誤魔化してくる。先程の呟きを問うのなら、今ここしかない。それでも、アレルは隠そうとするものを無理に聞き出す事もないかとアリシアの話に乗る。


「うん、ミリアが迷路に入ってる間にメリルとお茶してたんだけど、そこのお菓子が美味しかったから買ってきたの。だから、一緒に食べよっ」


「いや、さっき夕食がもうすぐだって言ってなかったか?」


「うん。だから、早くしないと食べる時間ないかなってアレルを起こしたんだよ」


 要は、夕食の後だと食べる気がなくなるかもしれないからその前に起こした訳かと、アレルは自身が起こされた理由に肩を落とす。しかし、そこへ瑠璃がアレルの肩に止まりに来る。


 ──主様に、もう少し素直になって欲しいそうですよ。アリシア様は。


 と、瑠璃はアレルに告げ口してくるも、瑠璃としてはそれがアリシアの望みだからと伝えてきたのだろうとアレルは思う。なんと言えば良いのか、瑠璃は瑠璃なりに良かれと思って行動してくれる。

 もしかしたら、今回は瑠璃の望みと重なる部分もあったからというのもあるのかもしれない。それでも、どんな理由であれアレルには瑠璃の自立心みたいなものが垣間見えた事が嬉しくて、自然と微笑みを浮かべる。


「ああ、ありがとな瑠璃」


「ん? ルリちゃんが、どうかしたの?」


 だが、当然アレルの声はアリシアにも届き、どういう事なのか問われてしまう。


「どうもしないよ。単純に、さっきのやり取りが険悪に見えたのか、俺とアリシアを気遣ってくれただけだよ」


 それは、本当の事ではないがまるっきり嘘という訳ではない。ペンダントの力か女の勘なのかは判らないが、直感でこちらの嘘を見抜いてくるアリシアにはこういった搦め手が有効だろうとアレルは判断する。

 実際、アレルの前にいるアリシアは腑に落ちない様子を見せるも、なし崩し的に納得したのか瑠璃に微笑む。


「ルリちゃん、心配してくれたんだね。ありがとう」


 ──主様、主様みたいな方を女の敵って言うのですか?


 ガクッと、その瑠璃の言葉にアレルは思わずズッコケそうになるも、アリシアの手前どうにか平静を装う。しかしながら、瑠璃はどこでそんな言葉を覚えてくるんだと疑問に思う。

 ただ、そこは人の心を感じ取る瑠璃の事だ。町中で、色々な人の心に触れる事で様々な事を学んでいるだろうと無理矢理納得する。


(こういう時、アリシアに聞かれない様に言葉を伝える術ってねえのかな?)


 そうは思うも、このまま何も答えずにいる事も出来ないアレルは、アリシアがテーブルに向かう為に背を向けた隙に本当に小さな声で瑠璃に言う。


「······それについては、長くなりそうだから後でな」


 ──はい、分かりました。


 この辺は、素直なだけあって助かるなとアレルは感じる。ただ、同時にアリシアが自身に求めている素直さとはこういう事かとも思う。しかし、根が捻くれている自覚のあるアレルは、瑠璃の様な素直さはどんなに足掻いても身につかないのではないかと考える。


(別に、目標としたり努力したりが出来ない訳じゃない。それでも、瑠璃の素直さの根底にある純心な部分までは真似出来ないからな)


 そう結論づけながら、アレルは床に落ちている外套を拾って壁際に掛け直す。それから、雑に置かれたサイドテーブル上を整理して、身につけたままだった籠手を外す。


「ねえ、そういえばそれってどうしたの?」


 そこへ、アリシアが外している最中の籠手を指差して訊ねてくる。


「ああ、中庭で色々やった後で、やっぱり防御が甘いってロバートが昔使っていたものを譲ってくれたんだ」


「ふ〜ん、そうなんだ」


 プイッと、アリシアは何故かアレルの返答を聞くと、自分から聞いてきたくせに興味が無さそうにそっぽを向く。それに対して、左腕の籠手を外し終えたアレルは首を傾げる。


 ──あの、ルリは主様はもう少しアリシア様の気持ちを考えるべきだと思います。


 と、午後はアリシアと共に行動していた瑠璃が、アリシアの肩を持つ様な発言をしてくる。

 もしかしたら、瑠璃にはアリシアがどうしてそんな反応をするのかが解っているのかもしれない。アレルはそう感じるも、それを訊ねたところで瑠璃も答えはしないだろうと考える。

 そこで、何故アリシアがそんな反応をしたのか自身だけで考え始めるアレルだったが、どう考えてもアリシアが嫌悪感に近い苦手意識をロバートに対して抱いている事ぐらいしか思い付かない。すると、そんなアレルの内心を察したのか、どこか呆れた様子で瑠璃がアレルの肩から離れる。


 ──ルリは、基本的に主様の味方です。でも、ここは敢えてアリシア様風に言わせてもらいます。主様のバカ。


 グサッと、普段そんな言葉を使わない瑠璃からの一言は、深々とアレルの心を抉る。しかし、瑠璃からの言葉はまだ終わらない。


 ──このままだと、主様は気付かないと思うので言いますが、アリシア様は不安なんです。主様が、どこか遠くに行ってしまわないかと。······その気持ちは、ルリにも解りますから。でも、アリシア様は主様がどこに行かれようとも主様の自由だとも理解されてるので、ああして強がっているんです。そういう部分も、主様はちゃんと解ってあげて下さい。


 瑠璃は、それだけ言い残すとヒラヒラとアリシアの方へ飛んでいってしまう。そして、瑠璃はアリシアの前でクルクルと踊るみたいに飛んでみせる。


「えっ、ルリちゃんどうしたの? 何か、良い事でもあったのかな?」


 アリシアは、そんな瑠璃の行動を目にしてパッと表情を明るくさせる。それは、アリシアを元気づけようとした瑠璃の思惑通りの反応だっただろう。

 その一方で、アレルは瑠璃に言われた事を改めて考えてみる。言われてみれば、アリシアが変な感じになるのは、自身がアリシア達以外の人と親しげにしている時ばかりだった気がする。そう思ったアレルは、瑠璃の言う事の正しさを噛み締める。


(成る程、要はそのまま俺がアリシア達の事が嫌になっていなくなるかもって不安だった訳か······そんな事、ある訳ねえのに。でも、これって俺が言葉足らずって事でもあるのか? って事は、機を見てちゃんと言葉にした方が良いって事だよな。······それにしても、瑠璃の成長を喜んで良いのか悲しめば良いのか判らないな)


 アレルは、そう思いながら外した左腕の籠手をサイドテーブルに置き、続いて右腕の籠手も外し始める。ただ、嫌われてる訳じゃないけど、娘に嫌われる父親の気持ちってこんな感じなのかなと、部屋の中で疎外感を感じるアレルは思うのであった。



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