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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百四十三話 転ばぬ先の何とやら

 体力を使い果たし、特にやる事もないアレルは空を見上げながら考えを巡らせる。現状、剣術と徒手格闘に投擲術、それから幾つかの強化法と魔力の循環が自身の力だけで行える事だ。そこへ、アマデウスという不確定要素が加わる。

 しばらくは使わないと決めたものの、それはあくまで任意でという意味であって不意に出てくるものに関してはどうにもならない。しかも、それがあの気味の悪い声の主だった場合は最悪だ。そう思うアレルは、何かしら対策出来る事はないかと情報を整理する。


(マスラオが言っていた条件······あれを上手く利用すれば、逆に不意な出現を抑える事って出来ないか? あの中で任意に可能なのは、魔力か闘気を巡らせる事と諦めない事だよな。でも、それをやらないってなると、それはそれで難しいな)


 そもそも、魔力の循環を使うなら身体に魔力を巡らせないなんて不可能だ。それに、勝つ事を諦めるなんてのも命懸けの時点で無理な話で、アレルの思いつきは早々に頓挫してしまう。


(なんか、ロバートに色々教えてもらう前より、変な問題が山積みになってないか?)


 そう思うも、アレルは直ぐにどうこう出来ない問題を考え過ぎるのも良くないと感じたので、取り敢えず時間を掛けて一つずつ解決していくしかないのかとため息を吐く。ただ、こんな状況で焦るなとも言われてもいて、なんだかなとドッと疲れを感じてしまうのであった。

 すると、そこへ馬車の荷台へと消えたロバートが何かを手にして戻って来る。


「随分とお疲れのご様子ですが、大丈夫でしょうか?」


「まあ、一応······」


 それでも、八方塞がりでないだけマシかと思うアレルは、アハハと乾いた笑いと共にロバートへ応える。それに、何かを感じたのかは判らないが、ロバートは素知らぬふりして手にしていた物をアレルへ差し出してくる。


「アレル様、こちらの修繕を終わらせておきましたので、お受け取り下さい」


「ああ、そういえば頼んでいたんだよな······悪かったな、任せたっきりで。ありがとな」


 ロバートが差し出してきたのは、アレルが修繕を任せていたレザージャケットで、綺麗に畳まれたものを両手で差し出している。


「礼は不要で御座いますよ、私から言い出した事ですから。ですが、修繕の際に少々手を加えさせて頂いた所がありまして、アレル様は戦闘中利き腕を庇う様な動きがよく見られたので逆の左側へ硬い革を用いた上で、全体的に厚みを増しておきました」


「いや、確かに脇腹に一撃もらった時はそうだったけど、他にも利き腕を庇うみたいな動きをしてたのか?」


「ええ、アレル様は剣を手にしていると攻撃を受ける際、右腕だけは斬られない様に刃をそちらへ僅かに傾けて構えておいでで御座いました。そして、刃で受ける瞬間も右腕を庇いなさるので、左腕の方を前に出す傾向が御座います」


 アレルは、反射的にロバートの言葉を否定しようとするも、無意識に行っている事なので傍から見ていたロバートの方が正しいだろうと開いた口を即座に閉ざす。そんなアレルを無視して、ロバートは更に続ける。


「それで、差し出がましいとも思ったのですが、私から一つ贈り物が御座いますので、ジャケットの下を見ては頂けませんか?」


「ああ」


 言われたアレルは、返事と共に差し出されたままだったジャケットを受け取ると、その下からどこか使い込まれた感じのする武骨な籠手が見えてくる。それは、両腕とも前腕を覆う形のものでありながら手首から先は甲側だけで、掌側は肌が露出して指先も自由に動かせるものだった。


「これは、私が未熟だった頃に使用していた物なのですが、あの頃は私も剣士相手の防御が甘くてこの様な物に頼っていたのですよ。私は投げ技も使うので、手指を覆うのを嫌がってこの様な形の物を選んだ訳ですが、手直しすれば剣を扱うアレル様にも使えると思い用意させて頂きました」


 その説明を聞いて、アレルは色々と思うところがあって一先ず断りを入れてみる。


「いや、そんな思い入れのありそうな物、ああそうかなんて言って受け取れねえよ」


「構いませんよ。これは、どちらかといえば戒めの様な意味合いで持っていた物でして、前へ進むと決心した今では無用の長物で御座います。私のお古で申し訳ないのですが、私の後悔の供養と思って受け取って頂ければ幸いで御座います」


「······一応言っとくけど、俺って結構戦闘中は雑に動くから大事に扱ったところで直ぐに壊れるかもしれない」


「それならば、防具としての役目を全うしたという事でしょう。文字通り、それらも浮かばれる事でしょう」


 フフッ、とロバートはまるで冗談を返すみたいに軽やかに笑う。それで、アレルもロバートが本当に何の未練もなしに差し出してきているのだと察する。

 ただ、ソードクラッシャーを託してきたロナとダニーに続いて、ロバートまでもがこんな物を渡してくる。それにアレルは、自身がそんなに物欲しそうにしているのかと疑問に感じてしまう。


「そこまで言うなら貰うけど、俺ってそんなに施しをしたくなる様な気配出てるのか?」


「いえ、他の方がどうなのか知りませんが、単にアレル様が心配なだけで御座いますよ。妙な力を持っているのは勿論、その人格の方も危なかっしい方なので。······それより、装備はご自分で出来ますか?」


 どこか子供扱いされてるみたいに感じたアレルは、自身もアリシアに対していつもこうなのかと思いつつも一度試してみる為に一旦ジャケットを膝の上に置く。続いて、ロバートから籠手の左腕の方を受け取り身に着け始める。

 まずは、グローブを嵌めるみたいにして腕を通して、親指以外の指を甲当てにある指通しに通す。その後で、前腕の内側にあるベルト状の固定具で緩みがないようにしっかりと固定する。


「······っと、これで良いのか?」


「はい、それでは右腕の方もどうぞ」


 そう言って、ロバートが差し出してきた右腕の籠手も受け取り、アレルは左腕と同様に身に着けていく。そうやって、両腕に籠手を身に着けたアレルは、両手を開いたり閉じたりしたり腕を上げ下げしたりして装着感を確かめる。


「如何でしょうか?」


「ああ、なんだかんだで違和感があると思っていたけどあまり感じないし、金属を使っているのにそこまで重くもないな」


「私も、自分で使いやすい様にそれなりに弄りましたからね。それと、金属部分も聖銀程ではありませんが、ある程度硬い軽金属を使用していますので」


 使い込まれた感じもあまりせず、それでも良く手入れされてる事がアレルにも解る。ここで、アレルは本当にこの籠手を受け取っていいのかと迷う。

 しかし、ロナとダニーの時と同様にこういう時に物は重要でなく、そこに込められた想いにこそ気を遣うべきだとアレルは思い直す。もし、ここで籠手をロバートへ突き返してしまえば、それはロバートが自身を案ずる気持ちすらも拒絶するに等しい。

 そう感じたアレルは、両腕の籠手をロバートへ見せる様にしながら笑みを浮かべる。


「ありがとな、使い心地も良さそうだ。でも、貰った以上はぶっ壊れるまで使い果たすからな」


「ええ、存分に使い果たして下さいませ」


 それは、アレルがロバートの意を汲んだ事を喜んだのか、アレルの冗談に釣られたのかは判らない。それでも、ロバートの方もアレルと同様に満足そうな笑みを返してくる。

 それに、自身の感じた事に間違いはなかったと思えたアレルは、体力も少し戻った事でレザージャケットを持ったまま木箱から立ち上がる。


「······っと、じゃあこの場はお開きって事なら、そろそろ部屋に戻るよ。本当に、色々とありがとな」


「いえ、感謝をしているのは私の方もで御座います」


 ロバートはそう口にするも、総合的に見れば盗賊騒ぎから数えて、どう考えてもこちらの借りの方がでかいとアレルは感じる。すると、ロバートの方が何やら思い出したかの様な表情をする。


「ロバート?」


「あっ、いえ······明日でも良いかと思いましたが、他の者がいない方が都合が良いのでこの場で伝えさせて頂きます。しばらくは、ここにいながら少しずつ商会の仕事に戻っていくとお伝えしていたと思いますが、アレル様の方で私の力が必要となった際は遠慮なく呼んで下さい。いついかなる時でも、どんな場所であろうとも、必ずお力になってみせますので」


「なんかそれ、レイラとジーナにも言われたな」


 朱羽根は、ディミトリスの形見だと聞いたし、それ以前にアリシア達を公国まで送り届けた後はパメラに返すつもりだった。そんな自分に、なんで揃いも揃ってロバート達はそんな事を言ってくるのだろうと、アレルは不思議に思う。

 ただ、アレルが何を思ったのか察した様子のロバートは首を左右に振る。


「別に、アレル様が朱羽根を返却されたとしても私の気持ちは変わりません。おそらく、不肖の教え子達もそうなのでしょう。まあ、気が引けるお気持ちも解らなくはないので、記憶の片隅にでも覚えておいて下されば結構で御座います」


「······まあ、そういう事なら」


 自分の要件で、誰かを呼びつける様な真似をしたくないアレルは、不承不承ながらもロバートの申し出を受ける。それを確認したロバートは、満足そうに頷くとスタスタとアレルから離れていく。


「では、私は残りの片付けを致しますので、アレル様はお部屋へお戻り下さい。私も、明日はお見送りをさせて頂こうと思ってますので、この場で言い過ぎては明日に伝える言葉が残りませんからね」


 それだけ言い残すと、ロバートは軽やかな足取りで残っていた片付けへと向かってしまう。そうして、その場に残されてしまったアレルは、仕方がないのでソードクラッシャーとサイドポシェットを身につけた上で、ジャケットを脇に抱えて中庭を後にするのであった。



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