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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百三十八話 運用法を探る

 きっと、それはマスラオがわざとそういう詠唱を残したのだろうとアレルは考える。鍛えろと、無理をしてこの程度と口にしたマスラオの事だ。未だ及第点にすら届いていない自身を案じて、能力を発揮させる事よりもその反動を抑える方にこそ重きを置いたのだろう。

 そう考えるアレルは、ロバートに悟られない様に密かに歯噛みする。それでも、頭ではマスラオの気遣いに腹を立てるのは御門違いだと解っている。全ては、自身の未熟が招いている事なんだ。今の身の丈に合ったものを授けられただけだ。

 そう何度も自分に言い聞かせても、心のそこから湧き上がるどうしょうもない悔しさはアレルの中から消えてくれない。なので、アレルは仕方なく悔しさを消す事を早々に諦めて心の奥底にしまい込む。その悔しさを、これからの原動力として利用する為に。


「如何されましたか?」


 そこへ、黙り込んでいるアレルを気にしたのかロバートが声を掛けてくる。


「······告げる、恩寵受けし身で望むのは、だよな? 今、必死で覚えていたんだよ」


「······左様で御座いますか」


 誤魔化すアレルに、何かを察した様子のロバートではあったがそれ以上は何も言ってはこなかった。だが、逆にそれが全てを察した上での行動の様にも思えるアレルは、どこか居た堪れない気分になる。


「では、実際に手合わせでもしながら試してみましょうか?」


「は?」


 何故か、自身の気持ちと折り合いのつけきれないアレルに対して、ロバートはどういうつもりなのか突拍子のない事を口にしてくる。それに、戸惑いを隠せないアレルだったが、ロバートは続けて説明を始める。


「先程も申しましたが、マスラオ様より託されたのはアマデウスに関するものだけでは御座いません。魔力や闘気の扱い方に関しても、色々と聞きましたので今から実戦方式で一つずつお伝えしていきます。マスラオ様も、アレル様はそういったやり方の方が飲み込みが早いだろうと申されていましたので」


「まあ、確かに自分でも身体を動かした方が覚えが良いとは思ってるけどな」


 そう言いつつも、アレルはロバートが随分とマスラオと話していたんだなと感じる。霊子の循環が生み出す力の奔流に、意識だけで触れていた時間は僅かだと思っていたアレルだったが、実際はそれなりの時間が経過していたのかもしれないと考える。

 そこで、ふとアレルは質量を持たない物質などは物理法則に縛られないという与太話を思い出す。それが本当だったなら、意識だけになっていた自身も時間の感覚がズレていたのかもしれないとアレルは考える。

 そもそも、時間なんてものは相対的な概念であって実在してないなんて考えもあるぐらいだ。それが、肉体の感覚から離れていたのだから時間の感覚なんて狂っていて当たり前かとアレルは自身を納得させる。


「では、私も闘気を巡らせるのでアレル様も魔力を巡らせ始めて下さい」


「ああ、解った」


 ロバートの言葉に、アレルは中途半端な思索を放り投げて魔力による身体強化を始める。ここで、アレルは現状最も安定して使える、通常強化による循環で得た低純度の膨張魔力を劣化の補填に当てる方法を選ぶ。


「アレル様、魔力と闘気の扱いを伝え終えたなら、最後は先程のアマデウスの能力を任意に使う方法を試しましょう」


「いや、試す事自体は構わないけど、条件はどうするんだ? 窮地と、強敵か過酷な状況、魔力か闘気が身体を巡ってる事、それから俺が諦めない事······後ろの二つは俺次第だけど、残りの二つは?」


「フフッ、窮地と強敵ならば、私がご用意出来ますので心配は御座いません」


 笑みを浮かべるロバートから、強敵はロバート自身でこれからの手合わせで窮地を作り出そうというのがアレルへと伝わってくる。

 確かに、実際の窮地で一発本番というのは反動の危険性がある為に避けたいとは考えていたし、一度は成功した感覚を覚えておいた方が良いというのも解る。しかし、ルクスタニア流剣術の古流が出た時や双剣術の時の様に、稀に自身の身体の支配がしづらくなる時もある。

 そんなものの試しを、ロバート相手に行う事に対して、アレルはもしもの時を考えて気が引けてしまう。


「あのさ、一応断っておくけど、俺の意思とは無関係に身体が動く事だってあるんだぞ。大丈夫なのか?」


「ええ、実は私もアレル様が試行錯誤されている間に色々と試しておりまして、循環は難しくともそれなりに扱いには慣れてきました。なので、自らの防御を高める事も可能ですのでご心配は要りません」


「防御を高めるって、マスラオがやっていたみたいのか?」


「いえ、あれは防御ではなく何かしらの攻撃に転用する為のものの様に見えたと申したではありませんか?」


 ロバートの返しに、アレルはすっかり忘れていたと頭を軽く掻きながら、アハハと苦笑しつつ視線を逸らす。そんなアレルの反応に、やれやれと肩を竦めたロバートはおもむろに徒手格闘の構えを取る。


「フゥ······取り敢えず、その辺りは身体を動かしながらお教え致します。それも、マスラオ様から教えて頂いた事ですので」


「ああ、解った」


 ピリッと、一瞬で周囲の空気を変えてきたロバートの気配を感じ取り、アレルは自身も表情を引き締めてロバートに相対する為に構えを取る。


「では、参ります!」


 シュッ、と宣言と共に一瞬にしてアレルの視界からロバートが姿を消し、こういう時は後ろと見せかけて上だと思ったアレルは頭上に視線を向ける。ただ、その結果を確かめる前にアレルの視界は歪み、直後に背後の腰上辺りに掌底を用いた突き入れの衝撃が遅れて伝わる。

 それで、体勢を崩されたアレルだったが左足右足の順で踏ん張り、下肢へ溜めた力を捻転で上半身へ送りながら背後にいるロバートへ右拳の裏拳を繰り出す。しかし、その裏拳は空を切り、アレルの回転と同方向に回り込みアレルの正面に出たロバートは、沈み込みからアレルの顎下を狙って掌底を繰り出してくる。


「アグッ!?」


「目で追っている内は、私の姿を捉える事など出来ませんよ。まずは、私が闘気でやっている様に相手の動きを魔力で感知してみて下さい」


 掌底で、仰け反らされたアレルは再び見失ったロバートの姿を探しながら文句を口にする。


「──ッ、無茶言ってんじゃねえよ。こちとら、言われて直ぐに出来る程器用じゃないんだよッ」


 言いながら、アレルは偶然正面へと戻ってきたロバートへ右拳を繰り出す。ただ、その動きはロバートへ筒抜けで、くるりとアレルへ背を向けたロバートにそのまま肩越しで右腕を取られたアレルは一本背負いの様な形で投げられる。それも、ロバートは途中でアレルの右腕を離す投げっぱなしの形でだ。


「出来るはずで御座います。循環の出来ない私が可能なのですから、循環を身につけたアレル様なら既に出来ていてもおかしくありません」


 投げ終わり、両手を後ろ手で組んだロバートがしれっと言い放つ中、アレルは投げられた勢いを利用して空中で身体を捻って両手両足をつく様な形で着地する。直後、アレルはロバートからの追撃を警戒するも、直立不動のロバートを見てゆっくりと立ち上がる。


「既にお話ししましたが、魔力は精神的、闘気は肉体的、それぞれ特性が御座います。私は、闘気による身体能力の活性化で感知能力を含めた能力の底上げをしています。魔力も闘気も、同様に強化に使えますが、闘気には活性化という特性が御座います。私は、魔力に関しては門外漢ですが、アレル様の魔力の扱い方は既に特殊で御座いますので、ご自分の能力の特性というものを手合わせの中でお掴みなさって下さい」


 特性を掴む、おそらくそれがマスラオからの言伝だったのだろう。ただ、マスラオからの言伝の内容が判ったところで、アレルが自身の魔力の特性を掴もうとしても何の手掛かりも無い。

 それ故に、アレルは結局のところ話は自身の事に帰結すると考え、これ以上はロバートへ訊ねる事なく自らの中に答えを求め始めるのであった。



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