一章〜非望〜 四百三十五話 試行錯誤の末
アレルは、強化時の劣化対策で考えていた事の前準備として、身体強化の出力を普段の身体能力の一割増という低出力に抑えて持続させる。この状態で、魔力の循環が行えるのかと少し不安ではあったものの、そもそもが魔力を全身に流す事が強化そのものであるアレルは不慣れで不格好ながらも両立させられた。ただ、それは強化の出力を一定にしないと循環も上手くいかないので、かなりの集中力を要する為にあまり長くは続けられないなとアレルは感じる。
とはいえ、その辺は修練次第でどうとでもなりそうだと考え、アレルは次の段階へと進めてみる。今度は、低出力強化を維持しながら循環で得られた膨張魔力をそのまま貯蔵していく。この際、低出力強化も劣化するかと思っていたアレルだったが、一応強化の最低出力なだけあってそれ以上劣化する事がなかった。
(良し、低出力強化なら循環の方にも意識を向けられるし、一応強化も出来てるから新たに強化をし直す必要もない。······これなら、いけるか?)
アレルは、現状から自身の考えを成功させられる可能性を感じ、多少の不安はあるもののそれを実行に移す。
まず、アレルは魔力の循環の速度を落として膨張魔力の操作に意識を向ける。次に、魔神のアンデッド戦で行った持続している身体強化に魔力を注ぎ込んで出力を維持するという方法を、低出力強化と膨張魔力の二つを使って瞬間的に行ってみる。それも、膨張魔力に溜められた力を解き放ち、その全てを爆発させるみたいに一瞬で使い果たす感覚で。
「ガッ!? ──ッグゥゥ!」
すると、ズドンとそれこそ本当に体内で爆弾が爆発でもしたみたいな衝撃が全身に奔りアレルを苦しめる。それも、それだけに留まらず内部爆発した膨張魔力は、アレルが維持していた低出力強化を吹き飛ばした上で魔力の循環さえも堰き止めてしまった。
ただ、幸いだったのが、自身の闘気を循環させるのに集中していたせいで、ロバートがそんなアレルの状況に気付かなかった事だ。こんな事を説明すれば、また何か小言を言われてしまうとアレルは苦しみながらも内心ホッとする。
そんな中でも、苦しんだ甲斐あってか判った事もある。まず一つ、膨張魔力は循環が止まってもしばらくは溜め込んだ力を維持し続ける事。二つ、低出力強化では膨張魔力を流す為の経路が狭く、逆流を起こした末に魔力が暴発してしまう事。そして最後に、結果的に失敗したものの強化の出力自体は刹那的に上昇する傾向を見せていた事が判った。
(つまりは、色々と必要な事もあるけれど不可能ではないって事だよな)
アレルはそう考えるも、そこで一番の問題になるのが二つ目の膨張魔力を通す為の経路問題だ。これの原因は、おそらく低出力強化をしていた為に元々流れている魔力が少ないが故に、その魔力の通り道自体がそこまで大きくない事だ。そんな所へ、膨張魔力を無理に通そうとすれば逆流もして当然だろう。
かといって、今の練度では低出力強化でなければ魔力の循環は維持出来ないので、予め膨張魔力を通せる高出力強化から始めるのは無理がある。それに、高出力強化も下手をすれば膨張魔力を通せる程の経路を確保出来ない可能性すらある。
そこでアレルは、それならば最初から膨張魔力で強化を施したのなら、自身の考える新たな強化法が可能になるのではと考える。その考えを後押しするのが、膨張魔力は溜め込んだ力をしばらくの間維持するという性質だ。アレルは、この性質を利用して最初は低出力強化を用いて魔力の循環を行い、そうして得た膨張魔力を都合二回に分けて使う事を思いつく。
(さてと、ロバートもまだ上手くいってないみたいだし、思いついたなら早速試すとするか)
そう思い、アレルは低出力強化での魔力の循環を行い、必要になるだろう量の膨張魔力を確保する。続いて、アレルは低出力強化を切って膨張魔力を用いた強化に切り替えようとするが、ここで問題が発生する。
何故か、留まる性質があるはずの膨張魔力が急激に萎む様な感覚が伝わり始めたのだ。なので、焦ったアレルは直ぐ様膨張魔力を強化へ回すが、そこでも問題が起こってしまう。アレルの思惑では、膨張魔力を二回に分けて使うはずが、一度身体に流そうとしただけで堰き止められていた水が決壊するみたいに膨張魔力は一気にアレルの全身へと流れてしまう。
原因としては、考えられる事は二つある。一つは、膨張魔力自体分けて使える様なものではないという事。二つ、マスラオが身体を使った影響で魔力が流れやすくなり、そのせいで膨張魔力が一気に流れてしまうようになったか。アレルは、原因がこのどちらかにあると睨むが、そもそも膨張魔力の留まる性質自体魔力の逆流でそうなっていた可能性にも考えが及ぶ。
(クソ······膨張魔力の強化だと、最高出力は出せるけどその分劣化も早い。通常強化だと、循環の方が疎かになって強化の出力維持が出来る程度の膨張魔力しか作り出せない。かといって、低出力強化で循環の比重を増しても、そうして出来た膨張魔力を運用する術がない。そもそも、俺にとって魔力を身体に流す事と強化が同義のせいで、循環だけに集中するなんて事も出来ない。······にしても、一度で使い切るって弾丸を一発ずつ作っているみたいだな。ん? 待てよ、弾丸······弾丸か)
そこで、アレルは魔力の通り道を銃身に見立てる事で、何かを思い出しそうになる。低出力、通常、膨張と、大きさの違う弾丸を撃ち分ける事の出来る銃身。何かに届きそうなのに、喉元まで出かかってきたそれは中々姿を晒してはくれない。
そうして、しばらく考えても出てこないので、もういいやとアレルが諦めそうになった瞬間にふとそれを思い出す。
(トンプソンコンテンダーだ!)
トンプソンコンテンダーとは、違う種類の弾丸を撃ち出す為に銃身が取替式になっている銃の名称だ。アレルは、この銃の取替方式を思い出した事で、自身もそれと同様に魔力の通り道を銃身に見立てて通り道だけを置き換える事は出来ないかと考える。ただ、そこで困ったのは心象の構築が上手くいかない事だ。
アレルの場合、強化を行うと同時に魔力の通り道が形成される。その上で、可能な限り一定の出力を保たないと循環で魔力を膨張させる事が出来ない。つまり、アレル自身の魔力関連の構造と銃の構造とが重なり合わず、どの様な想像をすれば魔力の通り道と銃身それぞれの交換の心象を重ねられるのかが判らない。
(銃の方で考えれば、俺は銃弾の製造を薬室の中で行っている様なものだ。そして、その薬室が銃身の役割も担っている。そのせいで、銃身を交換するっていう部分と合わずに混乱している。······いや、でも待てよ。もしかして、魔力の通り道が一つの体に一本なんて固定概念に縛られなくても良いのか?)
と、アレルはまさかの方法を思い付く。そう、魔力の通り道なんて実際には目に見えないものなので、一本などとケチ臭い事を言わずに何本と形成してしまっても良いはずだとアレルは考える。
それ故に、魔力の循環を担う強化と共に形成されるものを薬室とするなら、膨張魔力という弾丸を撃ち出す銃身となる魔力の通り道をアレルは取り急ぎ形成し始める。ただ、それは別に循環を担うものと重なってしまっても構わないし、何なら身体中に行き渡らせる為だけの一方通行のものでも構わない。最悪、膨張魔力を利用出来るなら、その場限りの使い捨てでも良いさえある。
そもそも、膨張魔力は解放したら瞬時に通り道を満たしてしまう様な代物だ。だからこそ、アレルの考える出力劣化の対策の一つとして考えていた方法との相性も良い。そう考えるアレルは、まず手始めに一本だけ血管から枝分かれさせる感覚で新たに魔力の通り道を形成してみる。
(そこに、膨張魔力を撃ち出す感覚でッ)
アレルは、そうして形成した新たな通り道に早速低出力強化の循環で生じた膨張魔力を撃ち出してみる。撃鉄を起こし、薬室に込められた膨張魔力の弾丸を、空っぽの新たな通り道という銃身へトリガーを引いて送り出す。
この場合、銃身から放たれる弾丸の行き先は自分の身体という事になるだろうかとアレルは考える。しかし、そんな呑気な事を考えていたしっぺ返しなのか、急造の銃身では弾丸の威力に耐え切れずに銃身が途中で崩壊してしまう。
しかも、その代償はしっかりとアレルの身体に反り、膨張魔力が逆流した時よりも強い苦痛がアレルを襲う。
「グッ······」
だが、今度ばかりは傾向なんてものではなく、強化出力の爆発的な上昇の確かな手応えが感じられた。つまり、それはやり方自体は間違っていない事の証左であり、アレルは苦痛に耐えながらもニヤリと口角を上げる。
そして、失敗から学べた事もある。いくら急造とはいえ、膨張魔力を受け切れなかったのは、やはり銃身と弾丸が合っていなかったのが原因だった。そもそも、膨張魔力自体溜め込まれた力を均一に出来ていないので、それこそ一回毎に銃身となる魔力の通り道を膨張魔力に合わせて作り直して取り替える必要がある事が判った。
その辺りは、これからの修練で慣れていくしかない部分もあるが、アレルは確かな手応えが得られたと高揚感を覚える。前途多難である事は変わらないが、自身の考えを結実させられる可能性が見えてきた事にアレルは密かに闘志を燃やすのであった。




