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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百三十二話 かしまし散歩

 ──一方その頃、町中を歩くアリシア達。


 アレルが加わってから、久しぶりの三人での外出ではあったものの、アリシアは肩から下げる小物入れの中の瑠璃の事を気にしながら歩く。ただ、アリシアは瑠璃が閉塞感を感じないようにと、ローブの影に小物入れを隠して蓋を開けたままにしている。


「ルリちゃん、大丈夫?」


 チカチカと、小物入れから少しだけ身体を覗かせた瑠璃がアリシアへ二度羽を明滅させる。


「えっと、はいかな?」


 アリシアは、こういう時に瑠璃と会話が出来るアレルはやっぱりズルいと思いながらも、瑠璃が苦しい思いをしてなくて良かったと安堵する。ただ、そこへアリシアの後ろを歩くミリアが不満を漏らす。


「アリ······ア、アンネ? あまり、構い過ぎるのもどうかと思います。というか、アイツの連れなんですからアイツが面倒をみるべきではありませんか?」


 それに、小物入れの瑠璃がチカチカチカと羽を激しく明滅させてくるが、アリシアには何を言っているのか解らない。


「あっ、あのね······ルリちゃんごめんね、私じゃちょっと解らない」


 アリシアの謝罪に、瑠璃は五度程羽の明滅を返してからシュンとした様子で小物入れの奥へ入ってしまう。流石に、それは瑠璃が気遣い出来なかった事を謝っているのが解ったアリシアは、ムッとした表情をミリアへ向ける。

 しかし、アリシアが何かを口にする前にその隣を歩くメリルがミリアの行いを咎める。


「クリス、抵抗も出来なければ抗議の声すら上げられない相手を一方的に不快にさせるのがあなたのやり方ですか? アタシは、見損ないました」


「ね、姉さん、それはいつもソイツが──」


「言い訳しない! みっともないですよ」


「うぅ······はい」


 メリルの叱責に、ミリアは納得がいかないながらも反省した様子を見せて項垂れる。

 アリシア達は、宿の中庭でアレルと別れた後、特に目的もなく町中を散策していた。アリシアはいつも通りの格好で、メリルはフードを脱いで歩き、そしてミリアは一人アレルの予備の服を着る事で男装して腰に舶刀を下げている。

 歩きの並びは、アリシアとメリルが横に並び、その二人をミリアが後ろで二人の姿を視界に収めながら前方と左右の警戒をしている。残る後方への警戒は、瑠璃がアリシアの持つ小物入れの中から気配を探って警戒をしている。


「ねえ、クリス······あれ、入ってみない?」


 そうして歩きながらも、瑠璃へ悪態をついたミリアを許せないアリシアは、前方に見える迷路を指さして言う。若干、アレルの口車に乗るみたいで嫌な気もしたアリシアだったが、それよりもミリアを懲らしめてやりたい気持ちが勝る。


「あれは、何ですか?」


「迷路って言うんだって。制限時間内に出口まで辿り着くと、可愛いぬいぐるみが貰えるの。アレルはね、あれで私にそのぬいぐるみをくれたんだよ」


 ニコッと、アリシアは単純なミリアを挑発する為に作り笑顔を向けてみせる。普通なら、そんな判りやすい挑発になんて引っ掛かりはしないのだが、そこは相手がミリアなので簡単に引っ掛かる。


「分かりましたッ、奴に出来て私に出来ない事などありません! ちょっと、行ってきます」


 そう返事を返すと、ミリアは護衛そっちのけでズンズンと大股で迷路の列へと向かっていく。その辺りは、アレルへの対抗心を燃やす単純なミリアらしいと言えばらしいかなと、アリシアはその背中を見送りながら思う。


「私達は、近くを歩いているね」


 ミリアの背中に、アリシアがそう声を掛けるとミリアは振り返りもせずに右腕を上げて応える。ただ、それに呆れた様子のため息を吐くのは隣のメリルだった。


「クリスは単純なんですから、あまり焚き付けないで下さいね」


「エヘヘ、ごめんね。ルリちゃんをいじめるから、つい······」


 眉間にシワを寄せるメリルに、アリシアは申し訳無さそうに身を縮こませて謝る。メリルなら、こうすれば許してくれる事が解っているアリシアは少しズルかったかなと内心反省する。

 ただ、メリルはそんな事はあまり気にせずに、周囲を不安そうにキョロキョロと見渡し始める。


「どうしたの?」


「いや、どうしたのではありませんよ。一応、あれでも護衛なんですから、いないとアタシ達だけで大丈夫なのかと心配になるでしょ?」


 そんなメリルの様子に、アレルと会う前はこんな時でも気丈にしてたのにと、アリシアはメリルの変化を不思議がる。しかし、メリルをそのままにしておくのも良くないと感じたアリシアは、トントンとメリルの肩を軽く指先で叩く。


「大丈夫だよ、変な人が町中にいたらルリちゃんが教えてくれるから。それに、万が一私達に何かあったらアレルが助けに来てくれるだろうし」


 そんなアリシアの言葉に、小物入れから身を乗り出した瑠璃がアリシアとメリルに対して任せて下さいと胸を張るみたいに羽を動かす。それを見たせいなのか、メリルも少しは安心したみたいに表情を緩ませるも、まだ何か気掛かりがあるみたいにソワソワしている。


「それでも、駄目?」


「あっ、いえ······ルリさんの事は信頼してますけど、アレルさんがまた何か無茶してないかと思ってしまって」


 アリシアは、そんなメリルの言葉にそこまで気に掛けるのも珍しいなと感じる。それでも、アレルの事が気掛かりなのはアリシアもなので、アリシアはメリルの心配に同意する。


「ね〜、アレルって、近くにいないと変な事してないかって落ち着かないよね」


「そうなんです! あの人、直ぐに自分は大丈夫だからって人の事ばかり優先するからッ」


「うん、それはアレルが優しいのもあると思うけど······たぶん、それだけじゃないと思うんだ」


 プンスカと、アレルへの文句を口にするメリルに対して、アリシアは昨夜のアレルの様子を思い出す。

 記憶も無くて、何も知らない世界に一人ぼっちで何かもが不確かなものの中で不安を抱きながらでも、それでも誰かの為に行動が出来てしまうとても危うい人。昨夜の言い争いで、そんなアレルの一面を知ったアリシアは、自身の中にそんなアレルを守ってあげたいと思う気持ちが芽生えている事を自覚している。

 決して強い訳ではないのに、誰かの為に必死になれる······なってしまえる人だからこそ、アリシアは頼ってばかりではいられないとも思う。だからなのか、アリシアはアレルが守ってくれる事を嬉しく思う反面、もう少しだけで良いから自分の事も大切にして欲しいと感じる。


「······本当に、アレルってバカなんだから」


 そう呟きながら、アリシアはその上で他者の心の機微なんかには良く気付くのだから質が悪いなと思う。


「アンネ?」


「ううん、何でもないの。それより、このままどこか行こっ! どうせ、クリスは中々戻ってこられないだろうから」


 アリシアは、首を傾げるメリルに自身の想いを悟られない様に戸惑うメリルの手を引いて駆け出す。


「ア······アンネッ、引っ張らなくても大丈夫ですから! それに、クリスを置いていくのは少し心配なんですけど!」


「大丈夫だよ、クリスが出てくるぐらいに帰ってくれば良いんだから。それより、どこかでお茶でも──」


 瞬間、アリシアがいつも身につけているペンダントから何かピリッとした感覚が伝わってくる。ただ、その感覚は直ぐに途絶えて何も感じなくなり、アリシアは何だったのだろうと足を止めてペンダントに右手で触れる。

 しかし、既に何も感じなくなったペンダントに、アリシアはもしかしたらアレルに何かがあったのかもしれないと考える。実際、昨日アレルが戦っていた時はアレルの心の様なものを一時的に感じ取れていた。でも、今のはほんの一瞬だった為に、アリシア自身も確信が持てない。

 そうして、アリシアがまごついていると、その様子を不審に思ったのかメリルが声を掛けてくる。


「どうかしたんですか?」


「あっ、ううん······少しだけ、クリスに内緒でお茶するのも悪いかなって思っただけ。でも、クリスがいると、静かにお茶も出来ないからやっぱり内緒で行っちゃお」


 ペンダントの事について、メリルにも伝えていないアリシアは、咄嗟にペンダントから手を離して誤魔化す。ただ、あまりにもあからさま過ぎてメリルに疑われるも、アリシアがエヘッと笑ってみせると諦めてため息を返してくる。


「もうっ、深くは訊きませんけど、お茶に行くなら早く行きますよ。どこに行くのか、決めてあるんですか?」


「うん、アレルとお昼食べたお店なんだけど、ティーセットとかもちゃんとしたの置いてあったから大丈夫だと思うの」


 こういう時、メリルは本来の立場の違いを考えてなのか身を引いてくれる。それでも、たまには踏み込んできてくれてもいいのになと、アリシアは僅かに寂しさも感じる。


「それなら、店まで案内してくれますか?」


「うん、任せて」


 ただ、アリシアはそんな寂しさを感じるのも誤魔化すしかなくなったのも全部傍にいないアレルのせいだと思い、帰ったら何があったのか聞き出してやると心に決める。

 そうして、アリシアはメリルとこっそりお茶を楽しんだ後で、迷路の出口で悔しがるミリアを回収してから再び午後の散策を楽しむのであった。



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