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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百三十一話 積み重ねの果て

 今のところ、判っている変化は瞳の色に加えてアマデウスによる反動の増大の二つだけ。しかし、マスラオによれば枷の方も多少は緩めると言っていたはずなので、その緩んだ分だけ魔力と闘気の扱える量が増えているかもしれない。珍しく、アレルはそうやって楽観的に考えるも、そこで頭を過ったのはマスラオのもう一つの言葉だった。

 成長しても、その増大した力の大半は身体の保護へと使われる。つまりは、アレルの成長とは意識だけとなった際に感じた、あの生み出される力の奔流の成長に他ならないという事であり、それに身体が壊されない為にも力が消費されるという事だ。極論、アレルの成長はアレル自身の力が足枷となり、例えどんなに成長したとしても成果は微々たるものという訳だ。

 そんな考えに、アレルは成長が望めないなら技術で補うしかないかと考えを改めていると、そこへロバートが話し掛けてくる。


「アレル様、マスラオ様からの伝言をお伝えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「ああ、今は身体も動かせないし好きにしてくれ」


 アレルがそう言うと、ロバートは襟首を正してから話を始める。


「もしかしたら、アレル様が勘違いをなさるかもしれないとの事でお預かりした言葉なのですが、アレルの様が成長される事は決して無駄にはならないと申されていました」


「へ? それは、どういう······」


 アレルは、直前まで考えていた事と真逆の事を口にしてくるロバートに対して、混乱の色を示す。

 アレルの反応自体は無理もない。何故なら、成長すればその分だけ身体を守る為に大部分の力を消費するというなら、それを無駄に感じてしまうのが普通だ。

 ただ、その誰もが感じる普通の感覚を、ロバートに預けられたマスラオの言葉が否定してくる。それも、アレルへアレルの成長の欠陥を説いたマスラオ自身の言葉がだ。その矛盾に、アレルは思考が鈍り言葉を失ってしまう。


「マスラオ様によると、アレル様の成長には確かに問題があるそうです。しかし、いずれアレル様の身体がその力の成長に追いついた時、その身体を保護していた力の全てがアレル様のものとなるのだと、だから決して無駄にはならないと、なので研鑽と修練だけは怠るなと仰っていかれました」


「いや、でも身体があんなのに追いつくって、一体いつの話だよ!?」


 アレルは、意識だけで巻き込まれた、激流か竜巻かという力の奔流を思い出しながらロバートへ噛みつく。そんなアレルに、ロバートは穏やかな表情で語り掛けてくる。


「それに関しては、アレル様次第なのかと思います。ですが、アレル様も何かしらのお言葉をもらっているのではありませんか?」


 ──心配せずとも強くなれる。


「ああ······確かにもらってる」


 そう、マスラオは今もアレルと共に在るのだ。こんな時に、アレルが自身の不安定さから自身を追い詰めてしまうのも知っていたのだろう。思えば、最後の言葉はそんなアレルを気遣っての言葉だったようにも思える。


(ったく、雑そうな性格してんのにな)


 枷の事もそうだが、マスラオは大雑把な様に見えて意外と細やかな所も持っている。そんな風に、マスラオの事を感じたアレルは、受け取った言葉を思い出して不思議と落ち着きを得る。


「でもさ、マスラオの言ってる事って結局普通の事で、研鑽や修練の積み重ねでしか強くなれないって事なんじゃないか?」


「良いではありませんか、普通で」


「······だな」


 そう受け答えしつつも、アレルは不意に思ってしまった。もしかしたら、瞳の色の変化もマスラオの言う身体が力に慣れたという証の一つなのではないかと。今後、身体が力に追いつこうとする度に身体の内外で今回の様な変化があるのかもしれない。

 その可能性に、多少の怖さはあるものの、あまり大きく変わってくれないなら別に良いかと、アレルは深刻に捉えるのを止めた。


「······別に、なんて事はないって笑い飛ばせばいいもんな」


「何か?」


「いや、何でもないよ。ただ、身体が成長に追いつけばなんて言うけど、どうしたらそんな風になるのかね?」


「そちらについても、お言葉を承っております」


 即座に、ロバートの言葉に対してアレルは嘘だろと反射的に返してしまいそうになる。だが、その言葉をグッと飲み込んたアレルは心を落ち着かせて改めて訊いてみる。


「······それって、具体的な方法なのか?」


「はい、いくら不明瞭な力とはいえ魔力や闘気と本質的には変わりは御座いません。なので、魔力や闘気を使い続ければ、身体の方が自ずとそれに合わせて成長なさるだろうとの事でした」


「えっと······つまりは、危険性も踏まえた上で魔力やら闘気をそれなりに使い続けろって事なのか?」


 アレルは、そんな筋トレでいうところの超回復を狙ったみたいな修練だなと感じつつも、確かにそれが一番の近道かもしれないと思い直すが一応の確認もしてみる。すると、ロバートもそのあんまりな方法に呆れていたのか、僅かに肩を竦めながら応える。


「ええ、馬鹿の一つ覚えの様に一日が終わるまでにその日の上限いっぱいまで使い果たすと良いそうで御座います。良かったですね、面倒ではなくて」


 ロバートは、どこか皮肉っぽく言ってくるも、その物言いに妙な違和感を感じたアレルは口を挟む。


「なあ、そんなにマスラオの防御を抜けなかったのが悔しいのか?」


 すると、珍しくロバートは拗ねるみたく顔を背けながらもボソボソと話す。


「······ええ、正直な話私にも驕りがあった事が身に沁みて理解出来ました。その上、アレル様へ残された言葉に比べれば少なく、ほんの二言ぐらいでしたが私にも強くなる為の助言を下さいましたからね。ここまで虚仮にされたのです。私も、自分を鍛え直さねばと思いましたよ」


 ゴゴゴゴと、その背後に燃え盛る炎でも背負っているかの様に、ロバートはその闘志を静かに燃やしながら決意を口にする。

 その姿に、長い間憎しみに囚われていたせいもあるのか、こういった負けず嫌いな部分はロバートも少し精神年齢が幼く感じるなとアレルは思う。


(まあ、俺も人の事言えた義理じゃないけど······)


 そう、負けず嫌いという事にかけてはアレルだって負けてはいない。圧倒的に経験が不足しているのにも関わらず、アレルはミリアやラルフにロバート、それからマスラオなどと自身を比べて自身の実力の無さに歯噛みしていた。

 もし、素直に負けを認めていればそもそも他者と自分を比べず、相手の方が強いのだから仕方ないと考える。なので、比べるという行い自体が負けず嫌いの証なのではないかとアレルは思っている。

 格上と解っている相手と比べるなんて、惨めなだけなのは判り切っているのにわざわざ比べて悔しさに打ちひしがれる。でも、そんな悔しさをバネにして更なる高みへ手を伸ばす。そんな事をしているなんて、被虐嗜好でもあるのかとアレルは自身を罵ってみたりする。


(でも······もしかしたら、俺以上の負けず嫌いが今近くにいるんだよな)


 どんなに突き離しても食らいつき、どんなに傷付ける様な言葉を口にしても言い返してきて、最後は自分が望む形に落ち着くまで決して諦めようとはしない。昨夜、激しい言い争いの中で何度か怯みはしたものの一歩も引く事の無かったアリシアの姿を思い出して、アレルは口元に笑みを浮かべる。

 ただ、その笑みは瞬きの間に不意に消えてしまう。それというのも、マスラオから言われた本質的な部分で相容れないという言葉が頭を過ったからだった。


(どういう意味なんだろうな······)


 自身の本質とアリシアの本質。そのどちらに関しても、今のアレルには見当もつかない話で、マスラオの言葉を肯定も否定も出来ない現状にモヤモヤしたものを感じてしまう。それでも、アリシアに国を取り戻すまでは一緒にいると誓った以上、それだけは守らないといけないとアレルは気持ちを切り替える。

 そこへ、闘志を燃やしていたロバートが話し掛けてくる。


「アレル様、身体が動かせる様になりましたら、少々私にもお付き合い願いますでしょうか? 勿論、その際にはマスラオ様からの教えもお伝え致しますので」


「ああ、俺の方も少し試したい事があるから、俺からも頼む」


「そうですか、有難う御座います。······まだ日は高いですが、動ける様になりそうでしょうか?」


 頭を下げて礼を口にしたロバートは、少し空を見上げた後でそんな事を訊いてくる。

 それにアレルは、プルプルと指先を震わせながらも両手を握ってみせる。そこから、どうやら末端から徐々に身体の自由が戻ってきているとアレルは判断する。


「もう少し掛かりそうだけど、何とかなりそうだ」


「そうで御座いますか。それでは、私は投擲に使用した的などを片付けていますが、椅子などはご用意致しますか? それとも、冷えるようなら毛布などもご用意致しますが?」


 何故か、急に過保護な一面を覗かせてくるロバートに、アレルは我慢出来ずに吹き出してしまう。


「プッ······いや、必要ないよ。今は、こうして寝そべっている方が気分が良いから放っておいてくれて構わない」


「左様で御座いますか。ならば、私は片付けをして参ります」


 アレルは、そう言って一度頭を下げてから離れていくロバートを見送り、しばし心地良い風に吹かれる。そんな中で、アレルはふと考える。

 今、アリシア達は何をしているのだろうと。



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