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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百二十六話 兆し

 幾度となく繰り返される攻防の中、アレルはようやく掴んだコツを利用しながらロバートの動きについていく。しかし、やはりロバートは一筋縄ではいかずに、アレルの上昇した速度の分だけロバートも速さを増してくる。

 流石のアレルも、加減をされているのは判っていたが、こうも容易く対応されると歯痒さが凄まじい。まるで、マラソンの先導をするバイクに追い付きそうになった瞬間に距離を空けられた時の様に、決して追いつけないのを目の当たりにさせられているみたいだとアレルは思う。

 だが、そんな空虚感に晒されつつもアレルは、身体の使い方以外にももう一つの方の試験運用も開始する。身体全体に行き渡らせた魔力を、一旦出力をそのままに抑えつけるみたいにして力を溜める。それから、ここぞという場面でその抑えから解放する。


「──ッグ!? ······クソ」


 新しい魔力の使い方を利用した右拳は、アレルの狙いの加速はせず逆に魔力を変に使ったせいか、身体の動きを刹那の間硬直させてくる。そこへ、クロスカウンターの様に放たれたロバートの左拳を、アレルは何の防御も出来ずに直撃をもらってしまう。


「アレル様ッ!? まさか直撃するとは思わず、大丈夫でしょうか?」


 ロバートは慌てて訊ねてくるも、当のアレルはそれ程の威力が無かったとはいえものの見事に顎下を揺らされたせいで、膝から力が抜けてその場で膝をついてしまう。


「いや、逆に悪い。少し、失敗した」


「その失敗とは、何でしょうか?」


 失敗と聞き、ロバートはどこか呆れた様子ながらもアレルへ手を差し出してくる。しかし、アレルはそれを断りふらつきながらも自らの力で立ち上がる。


「少し······魔力の、新しい使い方をな。ただ、思いの外上手くいってはくれないな」


「そもそも、魔力を闘気の様にお使いなさっているのですから、上手くいかない事が当たり前なのでは御座いませんか?」


 ロバートは、呆れた様子で言いながら指を二本立てて、アレルに何本に見えるか確認してくる。それに、アレルは馬鹿にしてんのかと思うも、心配はしてくれてるのかと思い直して二本と指を立てて答える。

 ただ、上手くいかないのが当たり前と言われ、本当にそうなのかとアレルは疑問に感じる。そもそも、アレルの身体強化は時間経過と共に徐々に出力が劣化していく。アレルは、そんな自身の特性に今の失敗の理由と、実戦で使用可能なものに仕上げる為の手掛かりがある様な気がしている。

 それでも、そこに明確な解決法などある訳もなく、手当たり次第思いつく事を試していくしかないとアレルは思う。


(そうやって、何かしら方法を見つけたところで、実戦で使える段階まで仕上げるのに時間が必要なんだよな。······でも、それでも······今の時間で、糸口ぐらいは掴んでおかないとな)


 そう決心したアレルは、自身を心配してくるロバートに対して再度構えを取る。


「アレル様?」


「もう一度頼む。つっても、こちとら数回で何かを掴める天才じゃないから、何度付き合わせるか判らないけどな」


 そんな、卑下とも自虐とも受け取れるアレルの言葉に、不意を突かれたロバートはフッと笑う。


「構いませんよ。私としましては、時間が許す限りアレル様にお付き合いする覚悟で御座います」


 そんな事を口にしながら、アレルに対して構えを取るロバートに、その構えた瞬間を狙ってアレルは自ら間合いを詰めていく。ただ、その程度の事に対応出来ないロバートでないのはアレルも解っている。それでも、アレルの方から仕掛けたのは先手を取られた際のロバートの対処を見る為だ。

 ロバートは、必要な助言はしてくれるものの具体的で明確な答えは与えてくれない。だからこそ、アレルは自身が知りたい事をロバートの対応から盗み取る為に、敢えて自ら仕掛ける事でロバートからそれらを引き出そうとしている。だが、当然の如くそんなアレルの意図は、ロバートに筒抜けである。

 但し、それでもロバートはアレルに対して自らの技を包み隠さずに披露してくれる。そこは、やはり教える立場を意識してのものなのだろうとアレルは考える。


「アレル様、初手で不用意に体重を乗せた拳を放つのは悪手で御座います」


 言いながら、ロバートはアレルが間合いを詰めるのと同時に繰り出した右拳を僅かに屈んで躱し、そのままアレルの腕を取ると背負うみたいして投げ飛ばしてくる。対して、宙に投げ飛ばされたアレルは、それなりになってきた重心移動を駆使して不格好ながらもくるりとその身を翻して地面に着地する。

 続けて、膝を曲げた状態で着地したアレルは、膝を伸ばした勢いのまま再びロバートへ間合いを詰めていき右脚でハイキックを繰り出す。それに、ロバートは上体を反らす事により最小限の動きで回避に成功する。

 ハイキックを空振りさせられ体勢の崩れたアレルと、一方で最小限の動きで体勢の整ったロバート。その時点で、最早勝負は決したという意味なのだろう。ロバートは、アレルへ了解を取る事もなく静かに構えを解く。


「アレル様、先程の敗因をお解りでしょうか?」


「······相手の動きの見極めが甘いって事だろ?」


 アレルは、その屈辱的な幕引きに、どこか不貞腐れながら答える。それでも、ロバートはそこについては言及せずに先程のやり取りでの反省点を述べてくる。


「ええ、アレル様は魔力や闘気といった話以前に、そういった事が疎かになる事が御座います。やはり、これも防御よりも攻撃に意識が傾きやすい傾向によるものなのでしょうね」


「ごもっともで」


 ロバートの指摘通り、アレルはこの修練を始めてから、意識が攻撃に傾き過ぎている自覚がある。それというのも、ロバートが相手のせいか自身を傷付ける事が絶対にないという安心感から、どうしてもアレルには攻撃の見極めが甘くなってしまう所がある。

 ただ、そんなアレルの甘えに似た部分にはロバートも気付いているらしく、そこでロバートは一気に放つ気配を冷たいものへと変貌させる。


「······このままでは、アレル様の為にならないので少々本気でお相手致します」


 すると、ロバートはそれだけ宣言して一息にアレルとの間合いを詰めてくる。そして、そのままの勢いでアレルの喉元に貫手を放つ。


「クッ······」


 それを、身体で反応が出来なかったアレルは首を傾ける事でギリギリ躱す。しかし、ロバートは貫手に使った右手でアレルの肩を掴むと同時に左手でも肩を掴み、そのままアレルの鳩尾に膝蹴りをねじ込んでくる。

 膝蹴りを無防備に食らってしまったアレルは、身体をくの字に曲げるもそこにロバートが背中に回ってダブルスレッジハンマーをアレルの背中に叩き込む。


「ガハッ!?」


 アレルは、ロバートの連続攻撃に耐えきれずにうつ伏せの状態で地面に叩きつけられてしまう。それでも、ロバートの攻撃は止まらずにアレルの背中を踏みつけてくる。

 ただ、そのまま踏みつけ続けはせずに足を上げた事で、更なる追撃が来る事を察したアレルは身体を転がせる事で回避を試みる。すると、ダンッと直前までアレルがいた地面にロバートの右脚が振り下ろされる。

 だが、依然ロバートの優位は変わらず追撃を逃れたアレルは速やかに立ち上がるも、そこを狙っていたロバートに左脚のハイキックを放たれる。何とか反応は出来たアレルだったが、防御が不完全で崩されてしまい右側頭部を蹴られてしまう。更に、それで身体の左側へ重心が崩れたアレルに対して、ロバートは右脚のミドルキックで倒れない様に追撃を加える。


(クソッ······多少身体が速く動かせる様になった所で、防戦すらままならねえじゃねえか)


 そう思うアレルに、ロバートは容赦なく上下左右自由自在に連続蹴りを繰り出してくる。精々、三回に一回だけ防御が成功するも、それ以外はロバートに好き勝手にアレルは蹴られてしまう。

 ただ、そうして擬似的に劣勢に立たされた事で、アレルの内の奥深くに潜んでいたものが蠢き始めていた。



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