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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百二十四話 手を合わせる中での気付き

「アレル様、線で捉えられる攻撃はその線の力の方向に対して、真横もしくは上下の何処からか力を加える事で比較的楽に逸らす事が可能で御座います」


「その、比較的って······誰基準だよッ」


 文句を口にしながら、アレルは自身へ真っ直ぐ放たれたロバートの右拳を、その前腕に自身の左前腕を当てる事で押しのける。ただ、その動きはゆっくりながらも、そこに込める力は一切妥協していない為にロバートの攻撃を逸らすのは容易ではない。

 それ故に、アレルは手を出さなければ防戦一方になりかねないと、右拳を下から振り上げてロバートの顎下を狙う。しかし、その動きはゆっくりな為にロバートの方も慌てる事なく対処に動く。

 ロバートは、空いている左手を自らの顎下を防御するみたいに掌を下に向けたまま動かしてくる。ただ、それもアレルの狙い通りで、顎下を狙ったのはあくまでも下肢に力を込めたのを偽装する為だった。そんなアレルは、下肢からの捻転でロバートの右腕を払いつつ、ロバートの顎下を狙った右腕は寸止めして払い除けの動きを利用して自身の内側に巻き込む。

 そして、それと同時に身体を半分程沈み込ませたアレルは、巻き込んだ右腕の肘でロバートの腹に狙いを定める。この際、ロバートの右腕を払った上半身の捻転を下肢で反転させて、再び上半身を捻る力に変える事で肘打ちの原動力とする。


「悪くはありませんが、私には左腕が残っている事をお忘れでは?」


 その言葉に、ハッとしたアレルは視線だけで頭上を確認すると、ロバートが顎下の防御に回した左手が拳を作ってアレルの頭へ振り下ろされつつあった。


「それ、ズルしてないよな?」


「していませんよ。アレル様こそ、お逃げにならないで下さいね」


 お互い、速度は一定のままという縛りでやっているので、それを破ってはいないか、また破るつもりはないかと、牽制し合う。ただ、そうする事で一手先だけでは簡単に防がれてしまう為に、今の攻防の様に最低でも三手先ぐらいまで考えないと攻撃が通らない。それ故に、低速ながらも相手の様子から、次の行動を予測して自らの対処から攻撃に移るまでを考える思考訓練にもなっている。

 そういう訳で、アレルは試行錯誤の上で現在の攻撃まで漕ぎつけたのだが、アレルの肘が先かロバートの左拳が先か微妙な所となっている。そして、アレルの肘がロバートの腹部まであと数cmといった所で、ゴツンとアレルの頭頂部に鈍い音が響く。


「アレル様、肘を選んだ時点で射程の短さが(あだ)になりましたね。あと、アレル様はご自身を守る事に少々無頓着な所が御座います」


「いや、今のどこが無頓着って事になるんだよ?」


 一旦手を止めて一歩下がるロバートに、アレルは不満気な視線を向ける。


「よろしいですか? まず、ご自身の事に無頓着なので防御が疎かになるので御座います。その結果、アレル様は戦闘が長引く程に思考が攻撃方面に偏っていき、自分の身を守る事が頭から抜けて負傷する事になるのです。昨日の怪我も、そうであったはずで御座います」


「······いや、でも······攻撃は最大の防御とも言うじゃないか」


 ロバートの指摘に、アレルはその通りだと感じるも、戦いの状況によっては守りを捨てなければならない事もあるだろうと反論する。しかし、ロバートにはため息で返されてしまう。


「アレル様······確かに、昨日の様な状況ではそうかもしれませんが、そうやって負わずに済む怪我をするのもまた間違いで御座います」


「······言いたい事は、解るけど」


「理解するだけではなく、改善して下さいませ」


 どこか、指摘というよりも説教染みてきたロバートに、アレルはその言い分にも一理あると思うも、せめてもの抵抗で無言で首を縦に振る。すると、ロバートはやれやれと肩を竦めてから再び徒手格闘の構えを取る。


「それでは、反省を踏まえて通常の速度での組手を致しましょうか」


「どういう事なんだ? さっきの繰り返しをするんじゃないのか?」


「本来ならば、そうした方が良いのですがこの度は時間が御座いません。速度を落とした状態での、正確な身体支配に加え力と重心の移動を確認しながらのやり取り。それと、それらを踏まえた通常速度でのやり取り。これを交互に繰り返して、速度を落として学んだ事を短時間で通常戦闘に反映出来るところまで持っていきます」


 詰まる所、ロバートは修練と実践を交互に繰り返すという手法で、限られた時間の中でアレルの練度を底上げしようと言っているのだ。

 ただ、アレルは思う。短時間で身につけたものは、それだけ失われていくのも早い。それ故に、この場で何を身につけても反復を怠れば何の意味も成さないとアレルは考える。

 しかし、対峙するロバートの目を見ると、あなたはその程度怠る事はないでしょうと言ってるみたいに、信頼に満ちた目を向けてきている。それに応えない訳にはいかないアレルは、ロバートに遅れて徒手格闘の構えを取る。


「全く、信頼が重いんだよ」


「はて、何を仰っているのか判りませんが、いきますよ」


 そう言うと、ロバートは速やかに間合いを詰めてくる。それに、アレルは敢えて手を出さずに防御に徹する。そこへ、先程の復習とばかりにロバートが右拳を真っ直ぐ打ち込んでくる。

 ただ、それは先程とは違って速度がついているからか鋭さが増している。それでも、ロバートが意識的に同じ軌道で打ち込んできたお陰で、アレルはロバートの攻撃に自身の左前腕を合わせる事で何とか防ぐ。


「ああ、言い忘れていましたが、どちらかが攻撃を入れたら再び速度を落としたものに切り替えます。という訳で、攻撃が入った瞬間を切り替えの起点と致します」


「それ、俺が入れても切り替えになるのか?」


「ええ、出来ればの話で御座いますが」


 挑発を挑発で返されたアレルは、先程と同様に左前腕でロバートの右腕を払い除け、顎下を狙った時と同様に下肢へ力を流していく。当然、これにはロバートもなぞり直しを警戒して左手を防御に回す動きを見せるが、今度のアレルは半分ではなくそのまま一気に沈み込み足払いを狙う。


「本当に、こういう事には頭が回りますね」


 ただ、そこはロバートが咄嗟に跳躍してアレルの足払いを躱す。しかし、その僅かに宙へ浮かんだ瞬間を狙っていたアレルは、身体を起こすのと同時に左の拳でロバートを追撃する。


「これでッ」


「まだ、甘いですよ」


 狙いは悪くなかったのか、まだと口にしたロバートは跳躍時に僅かに後方へスウェーの様に重心を傾けていたので、ギリギリの所でアレルの拳は届かない。更に、ロバートはそこからアレルの左腕を手に取り、無理な攻撃で重心が不安定なアレルを払い腰の様にして投げてくる。


「うっ······グッ!?」


「受け身は、取れましたね。では、切り替えです」


「投げ技まで使えるなんて、聞いてねえぞ」


「おや? アレル様が相手になさる方は、自ら手の内を明かす程に甘い方々だけなのでしょうか?」


 背中を地面に預けながら文句を言うアレルに、ロバートは至極当然の事を言って再び挑発してくる。それに、歯噛みするアレルは速やかに立ち上がってロバートを睨むも、投げられた際の疑問をぶつける。


「······まあ、言う事は正しいけど、投げる時やたらと動きが早くなかったか?」


「それは、内勁を使用したからですよ。本来なら、身体能力全般の向上にも使えるのですが、今のは瞬間的に速度のみを上昇させた使い方で御座います」


「速度だけ?」


「はい、少々コツがあるので御座いますが、全身に巡らせた闘気をわざと抑え込む様にした後に、ここぞという時にその枷を外すと瞬間的に出力を上げる事が出来るので御座います」


 そのロバートの説明に、アレルはふと今朝の悩みに解決の糸口を掴めた感覚を覚える。それ故に、アレルは続け様にロバートへ疑問を投げ掛ける。


「なあ、それって速度以外でも可能なのか?」


「ええ、可能ですがアレル様の闘気は······ああ、成る程。そういう事ならば、少し試されますか?」


 アレルの質問に、アレルの闘気では出来ないと口にしようとした様子のロバートだったが、アレルの考えに途中で気付いたのかそんな提案をしてくる。そのロバートに、自身の意図が伝わったと感じたアレルは不敵な笑みを返す。


「ああ、頼む」


 そうして、互いに構え直した二人は徒手格闘の修練を再開させるのであった。



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