表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
421/1056

一章〜非望〜 四百二十一話 魔力と闘気

 アレルは、両腕にだるさを感じる中で徒手格闘を習う事に不備はないかと思っていたが、そんな事はロバートの方も承知の上で最初に昨夜アレルへ行った拷問めいた柔軟から手解きが始められた。ただ、今回は関節の可動域を拡張する為でなかったからか、普通にだるさを軽減するだけに留まり始めに構えを覚えさせられる。

 それというのも、アレルが無意識に使っていた格闘術はいくつかの格闘術が中途半端に混じり合っていた為、それらを矯正する意味でも一度基本的な構えを覚える必要があった。しかし、それもアレルの中にアマデウスとしての異常強化が存在しているが故に、それが表出した場合も考えてその時の構えなんかもアレルは覚えさせられる。

 続いて行われたのは、片足や片手などのどんな場所が軸になろとも、攻撃が繰り出せる様になる体幹づくりだった。正直、これに関しては反復が必要だと思っていたアレルは、修練法を教えられるのが主だと考えていた。だが、そんなアレルにロバートは意外な事を口にしてきた。


「アレル様、闘気という言葉は知っておられますか?」


「闘気? まあ、聞いた事ぐらいならあるけど」


 アレルは、この世界における闘気がどの様なものか知らないが、共通言語の通訳でそう聞こえるという事は自身が知るものと大差がないだろうと考える。

 ただ、そんなアレルにもロバートは一応の説明を返してくる。


「私から言っておきながら、私もそこまで詳しい訳ではありません。ですが、この世界において全ての力の源とされているのは霊子で御座います。この霊子は、多くの者の魂に宿っているとされ、その魂という器の中を霊子が流動する事で魔力や闘気というものが生み出されているらしいのです」


「えっ······と、つまり誰もが魔力も闘気も持っているって事か?」


 その問いに、ロバートはニヤリと思い通りの言葉が返ってきた事を喜ぶ。


「はい、研究者の理論ではそうなっています。ですが、実際には魔力も闘気も持ち合わせていない者がほとんどで御座います。それは、何故だか判りますか?」


「そうだな······まず、その研究者の理論ってやつが間違っているとか、そもそも生み出してはいるものの観測出来ない程に微量なのか、もしくは生み出すそばから消費されてるか、辺りかな?」


「三つ目が、正解とされております。メルキアの研究者によると、魔力は精神体を活動させる力、闘気は肉体を動かす力と定義されております。それ故、比較的精神体が不安定なヒト種族では魔力はその維持に消費され、また闘気も肉体を動かすのに必要最低限の量しか生み出されない為に、保有していない様に見えるのが現状で御座います」


 正直、精神体なんて説明されてもアレルにはよく解らない。だが、ロバートの説明だと理屈がおかしい点があるので、アレルはそこを指摘する。


「なあ、それだと魔力を保有している奴の説明がつかないと思うんだけど······」


「ええ、その通りで御座います。なので、そこで出てくるのがエルフ族で、彼等はヒト種族だけではなく他の種族と比べても精神体が安定しているのだそうです。それ故に、生み出された魔力が精神体の維持に消費されず、高い魔力を保有出来るので御座います」


「つまり、ヒト種族の中でも精神体が比較的安定している奴が、魔力を保有しているって考えなのか?」


「はい······そもそも、ヒト種族は精神体など意図して動かす事も御座いませんから、元々の消費も少ないのです。そして、闘気の方ですが、こちらで比較対象になるのは獣族で御座います。獣族は、他の種族······まあ、既に絶滅したとされる竜人族を除けばですが、最も肉体強度に優れた種族です。その肉体強度故か、彼等は肉体を動かすのに微量の闘気しか必要とせず、余剰分を戦闘などに用いる事が出来るので御座います。ちなみに申しますと、闘気の肉体を動かす力とは筋力などとは関係ありません。闘気とは、より根源的な力であり獣族の肉体強度もそういった観点での強度で御座います」


 要するに、例え筋肉疲労が全く無い状態であっても、闘気が枯渇してしまえば身体を動かす事が出来ないという事だとアレルは解釈する。それは正しく、気力がないといった言葉通りなのだろうとアレルは思う。

 ロバートの説明で、何となくではあるが魔力と闘気について概要を掴みつつあるアレルだったが、獣族の説明で少し引っ掛かりを感じてしまう。


「なあ、獣族も亜人だろ? そこまでの戦闘力があるなら、どうして百年前は奴隷なんて状態に甘んじていたんだ?」


「それで御座いますか。まあ、私も文献でしか知りませんが、まず子供を狙ったそうですよ。そうすれば、その親は子供を殺されない様に従わざるを得なくなり、更にその子供も幼い頃から奴隷として扱っていれば従順にもなりましょう?」


「······俺、余計に帝国の事が嫌いになった」


 でしょうね、と項垂れるアレルにロバートは呆れた様にため息を挟む。


「では話を戻しますが、理論上精神体を安定させる為の精神力と強靭な肉体があれば魔力と闘気の同時併用が可能となります。ただ、これは魔力に優れるエルフ族と闘気を保有する獣族には不可能とされております。何故か、お解りになられますか?」


「······あのさ、エルフ族って身体能力とかはどの程度なんだ? あと、獣族の······気性とか?」


「エルフ族の身体能力は、総じてヒト種族より優れております。それと、獣族の方ですが基本的には気性が荒いと言われてますが、それは亜人戦争時のものなので当てにはなりません。まあ、仮にそうだとしても中には穏やかな気性の者も存在してはいると思いますよ」


 そこで、アレルは少し考え込む。魔力と闘気、その二つの性質を考えた場合、ヒト種族より優れたものを持ち合わせているエルフ族と獣族が併用不可能とされる理由が解らない。

 ただ、そう言われるにはどこかしらに問題を抱えていると考えるアレルは、もう一度ロバートから聞いた事を頭の中で反芻させる。霊子の流動による精製、保有量の違い、精神の安定と肉体強度、それらの中で併用が不可能と言われる所以について考える。


「もしかして、どちらか一方に偏るともう一方の精製が極端に少なくなるとかか?」


「ええ、研究者によると元々エルフ族や獣族の魂がそれぞれに一方を生み出しやすいものになっていると言われてましたね」


「それなら、併用の可能性も限りなく低いんじゃないのか?」


 そんなアレルの言葉に、ロバートはしっかりと首を左右に振って否定する。


「いいえ、そこで話はヒト種族に戻るので御座います。先程、ヒト種族は精神体が不安定と申しましたが、その不安定さは魂を根幹とする不安定さなので、ヒト種族のみ魔力と闘気の均衡に個人差が生じているのです。中でも、例外的な人物を挙げるのであればマクシミリアン様で御座います。あの方は、魔力関連の感覚が全く無い代わりに、常時闘気による身体の強化が行われている状態なのだと言われてました。幼い頃は、それで力の調節に苦労なされたと聞いた事も御座います。ですが、それ故に常人離れした膂力をお持ちなのです」


「要は、魂が安定しているエルフ族や獣族は魔力と闘気どちらか一方に優れるけど、魂の不安定なヒト種族に関しては辺境伯みたいなのもいれば逆に魔力特化の人物がいる可能性もあるし、魔力と闘気のどちらも同程度精製出来る人物もいるかもしれないって事か?」


 ロバートの話を理解したアレルの返しに、ロバートは意味ありげな視線をアレルに向けながら満足そうに薄く微笑む。


「その通りで御座います。それで、昨日の戦闘で気が付いたのですが、アレル様は身体強化をお使いのご様子でしたが詠唱や魔法名を唱えている様には見えませんでした。······合っていますでしょうか?」


「ああ、その通りだ。俺の魔力の使い方っておかしいらしくてさ、強化を使う時は魔力を体内で巡らせる感じでやっているんだ」


「成る程······アレル様、それは違って当然で御座います。何故なら、アレル様の魔力運用法は闘気のそれなのですから」


「は?」


 思わず、アレルは間抜けな返事を返してしまうも、同時にかなりの衝撃で身体を硬直させてしまう。魔力の使い方が他の者と違うと、自身はこの世界にとっての異物なのだと嘆いたのはつい最近だ。

 アレルは、その認識を正面から覆すロバートの発言に、何も返す事が出来ずにただただ言葉を失うのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ