一章〜非望〜 四百十九話 危うさの理由
ランカークスの守り人、この話を聞いて欲しいとロバートが言ってきたのはエリオット達と話をしていた時だっただろうか。あの時、どこか自身を取り込もうとしていた様にも見えたエリオットに対して、ロバートは敵意とも取れるものを向けていたみたいにアレルは感じていた。
そこへ、今のランカークスの守り人の経緯を踏まえると、アレルは自身も何かに利用されるかもしれないと、ロバートが危惧しているのではないかと考える。アレルは、自身もあまり言い訳が好きではないのを自覚している。そういう自身であるなら、もしもディミトリスと同じ状況に立たされた場合、例え生きていてもそれは違うと声を上げる事なく受け入れてしまうかもしれないと感じる。
何故なら、他者からの見え方を歪められたとしても、自らの意思は誰にも歪める事は出来ないと考えているから。だったら、自身は何も偽らず言い訳もする必要は無い。そうして、自らの考えを確かめたアレルは、意を決してロバートに訊ねる。
「それで、ロバートは俺に何を伝えたかったんだ?」
ロバートは、アレルの言葉に気持ちを落ち着かせる為か一度瞑目して、少ししてから再び目を開ける。
「アレル様、私はあなたとディミトリス様が似ていると言ってきましたが、具体的にどのあたりが似ていると感じているか、判りますか?」
アレルは、質問を質問で返され、話を聞いてみてディミトリスに共感した部分を思い返す。
「······容姿や性格なんかは、当たり前の如く似てないよな。そうなると、物事に対する考え方とか向き合い方とかか?」
その中途半端な返しに、ロバートは少し曖昧にだが小さく首を左右に振る。
「まあ、そういった部分も似ていない訳ではありませんが、最も近しい部分はごく自然に他者へ手を差し伸べてしまうところで御座います。それでいて、あなたはディミトリス様より、ご自身の事を考えずにそれをやられてしまわれる傾向が強い。······パメラ様よりの言伝でも、その辺りを気を付けてあげて欲しいと言われておりました」
「いや、パメラからって、いつの間にそんなやり取りしてたんだよ!?」
「アレル様が、朱羽根を受け取った直ぐ後に御座いますよ。あの方は、ああ見えて人の本質に聡いし面倒見が良い方なのです。······ただ、表向きは商会の仕事に関わっていない私にまで言伝を送ってくるのは、些か異常の様にも思えますがね」
そう言われ、アレルは自身の前で何度か素の一面を晒したり、ロナが異母妹だと明かしたりと、パメラに不審な所があったのを思い出す。なので、アレルは思い切ってロバートに訊ねてみる。
「アイツが、面倒見が良いのは知ってるよ。でもさ、一つだけ気掛かりもあってさ······俺の持ってる朱羽根、もしかしてディミトリスの持っていた物なんじゃないか?」
何となく、そんな予感がアレルにはあった。朱とヴァーミリオンという家名、こちらの世界で同じくヴァーミリオンと名付けられているかは判らないが、日本語ではそれは朱色の事だ。その両者に、関係がないとは思えない。
そして、パメラが無くしたら怒られると口にしていたが、その怒る人物がロバートだと仮定すると合点のいく所も出てくる。その仮定で考えると、今の話からロバートが怒るとするならディミトリス関係でしかなく、詰まる所アレルの所持する朱羽根はディミトリスの遺品の可能性があるのだ。
そんなアレルの推測を裏付けるみたいに、ロバートはその驚きで目を丸くさせている。
「いや······何と言いますか、流石で御座いますね。手掛かりとなる情報は少なかったでしょうに、よくお気付きになられましたね」
「まあ、失くしたら怒られるとか会長と同等の権限があるとか、色々と聞いてたし······だからヴァーミリオン家の直系兄弟で一つずつ、合計で三つあるんじゃないかってロバートの話を聞いて思ったんだ。たぶん、誰かの身に何かあっても会長業を速やかに引き継げる様にする為にさ」
「ええ、ご明察の通り当代では朱羽根は三つ存在しております。ただ、現在はディミトリス様に加えてゼノン様もお亡くなりになられてますから、朱羽根を使われる方もおらず幻の羽根みたいな扱いになっていたはずで御座います」
「そういや、カタリナも本当にあったんだ、みたいな事を口にしていたな」
アレルは、レイラとジーナに朱羽根を見せた際のカタリナの感嘆の声を思い出す。ただ、その時のカタリナの言葉で気になっていた事も思い出したアレルは、もののついでにロバートへ訊ねてみる。
「なあ、確かカタリナがパメラの事をパメラ姉とか呼んでた気がするんだけど、朱羽根を持っていた事といいパメラも分家筋だったりするのか?」
すると、ロバートは何故かどこか気不味そうな表情を浮かべるも、気を取り直して咳払いをする。
「······カタリナ様は、止めろと言われた呼び方を未だに続けておられるので御座いますね。それより、パメラ様に関しては明言を避けさせて頂きますが、ディミトリス様の朱羽根をお持ちなのは形見分けをされたからで御座います。それだけ、近しい間柄とお考え下さい」
「という事は、パメラはスカーレット家よりも直系に近い家系って事か」
「は?」
すると、アレルの発言に対してなのか、珍しくロバートから気の抜けた声が漏れる。ただ、その声は馬鹿にされてるとも受け取れたので、アレルは不満を顔に出す。
「なんだよ?」
「いえ······何と申しますか、アレル様はここぞという時には外さないのに、変な所で的を外し······いいえ、話を戻しましょうか」
ロバートは、ついアレルに釣られて本心を語りそうになるも、途中で脱線した話を戻そうと口にしてくる。だが、その割には聞く立場のアレルの返事を聞かないままに、ロバートは話し始める。
「まあ、少しパメラ様の話も交えると、あの方もアレル様の中にディミトリス様に通じるものを感じたからこそ、朱羽根をお預けになられたのかもしれません」
「ああ、だからこそディミトリスの形見を渡してきたって考えると納得は出来るな」
アレルの言葉に、ロバートは静かに頷いて返す。
「······言い忘れておりましたが、ディミトリス様は商人らしくない気質のお方でした。それというのも、商人ならば必ず要求するはずの見返りを要求しない方だったのです。そして、それはアレル様も同様で御座いましょう?」
言われて、アレルは初めて自覚する。確かに、魔神のアンデッド相手に死にかけたにも関わらず自ら報酬を要求してなどいなかった。ましてや、アリシア相手では最早報酬など無くても、可能な限り助けられる所までは助けてやりたいと覚悟を決めている。
それを自覚して、言葉を失うアレルに対して、ロバートは更に続ける。
「本来ならば、どんな事に対しても見返りが釣り合わなければ手を引くのが普通で御座います。しかし、あなた方はそんな考えでは動かない。現に、ディミトリス様は何の見返りも用意されていない事の為に命を落とされました。······普通の方は、そんな事は割に合わないと取り合わないのですよ。それでも、アレル様やディミトリス様の様な方は自らが助けたいと、放ってはおけないと、目を背ける事で失われていくものに対して心や想いで動いてしまわれる。······私は、あなたのそんな所が心配なのですよ。おそらく、パメラ様も」
ロバートの言うそれは、所謂リスクヘッジが出来ていないという事に等しい。例えをだすなら、川で溺れる仔犬を発見した時、普通なら自身も溺れる可能性と見ず知らずの仔犬の命とを天秤にかける。だが、アレルやディミトリスは、そこで考える間もなく川へ飛び込んでいく性質を持っていると、ロバートは言っている。
つまりは、アレルがこれまで危ういと言われたり、周りに散々心配をかけたりしているのも、全てはそういう性質に集約されている。その事実を突きつけられたアレルは、自分はそうじゃない大丈夫だと言いたくても、上手く説明出来る言葉が見つからずにただただ口を閉ざすのであった。




