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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百十五話 救出作戦

 話の流れが、ランカークスの守り人の核心に近づくにつれ、どこか意識的に話を遠回りさせている様にも感じるロバートの姿に、アレルはこのまま話させて良いものなのかと迷い始める。ロバートが言うには、感性や考え方の様なものがディミトリスと似ているのを案じてくれてるらしいが、結末を聞いていないアレルにはどうにか二つ三つ共感出来る程度のものだ。

 ただ、ロバートも言っていた様に話を聞いたからといって何かが変わるとは限らないし、それならばロバートが辛い思いをしながら話す必要はないのではないかとアレルは考える。それでも、自身に何かを伝えようとしているロバートに対して、こうして話す事がロバートにとっても何か良い方向に繋がる事もあるのかもしれないと、アレルは静かにロバートが話し出すのを待った。


「申し訳ありません、何度も話を止めてしまって」


「いや、気にすんなよ。話す内容が、内容なんだしさ」


 アレルは、空を見上げるのを止めてその顔を向けてきたロバートに言う。ただ、ロバートはそんなアレルに首を横に振ってみせる。


「そういう訳では御座いません。単に、思い出す事すら避けていた事でしたので、アレル様へ話すに当たって不備などかない様に少し記憶を探っていただけに御座います。勘違いさせてしまい、申し訳ありませんでした」


 そう言って、ロバートは一度頭を下げるものの、そこから上げた顔がどこか晴れやかに感じられた事から、アレルは嘘は無いなと判断する。


「それなら、良いんだけどな······」


「それでは······マクシミリアン様を一定の距離を保って追ってきていた帝国の監視役は数人でしたが、隠れている者もいたはずだったので迂闊にその者等に仕掛ける事も出来ませんでした。しかし、そこは流石のマクシミリアン様でして、帝国の要求に従う前に嘘などではなく本当に傷んだ食材を口にして、腹痛を起こしていたので御座います。まあ、当時の私は子供でしたので、そういった行為をふざけているとしか受け取れずに、ディミトリス様を危険に晒しておきながら何をしているんだと憤慨してました。ただ、そういったマクシミリアン様の体を張った行いのお陰で、帝国の監視にも何一つ不審に思われる事なく何度も足を止める事が可能で御座いました」


「まあ、普通は自分の息子の命が掛かっているのにわざと腹痛になるとは思わないだろうな」


 アレルは、それを辺境伯自らが行ったからこそ効果があったんだろうなと考える。だが、一方で他にもやり方はあっただろうと思うも、不審感を抱かせないという意味ではありかと思い直す。


「ええ、その甲斐あってマクシミリアン様の腹痛が治まる頃合いに、エドガー様についていった黒羽根からエドガー様の伝言が届きます。その内容は、準備整う即刻救出へ動かれたし、でした。それを、私が速やかにマクシミリアン様へ伝えると、それまでの情けない姿から一転憤怒の形相になられたマクシミリアン様の号令で部隊は公爵領へと転進致しました。勿論、尾行していた帝国兵は妨害しようとしますが、部隊の後方にいた者達がこれに対処し、私達はまずセプルスを目指しました。馬の事など気にしない全力の行軍でしたので、途中ついてこられず脱落する者もいましたが、一度セプルスで私兵の方達をその場に残して、馬を乗り換えた私とマクシミリアン様だけは休憩などせずにその足で公爵領にあるノインシュタットの別邸へと急ぎました。······今にして思えば、あの時のマクシミリアン様はエリオット様でなく、ディミトリス様を案じてあそこまで焦っておられたのかもしれません」


 確かに、帝国側に商会の情報網以上の伝達手段がある訳ないので、エリオットを監禁している連中に辺境伯の叛意が伝わる前にエリオットが救出出来る可能性は高い。なので、エリオットの安全のみを案じていたならそこまで焦る必要はない。

 それでも、辺境伯がそこまで焦っていたとするなら、理由はたった一人死地に残った恩人でもあるディミトリスの身を案じてのものだったのだろうとロバートは口にする。


「······恩人でもあって、友人でもあるって思っていれば当然だろうな」


 アレルはそう言いながらも、頭では理解していても心だけはどうにもならなかったロバートの事を気に掛ける。

 近くで見ていたなら、辺境伯がディミトリスの事を案じていたかは解るはずだ。ただ、ディミトリスを一人残す起因となったエリオットと、そのエリオットを救出する為に私兵を退かせた辺境伯へ対する憤りはどうにも出来なかったのだろう。

 そうして、誰かのせいにして恨まなければ、ディミトリスを失った悲しみに耐える事が出来なかったのかもしれないと思うと、アレルはどこかやるせない気持ちになる。


「······そうで、御座いますね。それで、ノインシュタットの別邸の場所へは伝え聞いていた私が案内しましたが、着いた途端にマクシミリアン様は門扉を叩き壊し、屋敷の扉を蹴破って問答無用で中へと押し入りました。その後に続いて、私も中へと入りましたが丁度何事かと顔を出した賊とマクシミリアン様が鉢合わせまして、相手が身構える前にマクシミリアン様が一撃で相手を半死半生に致しました。そうして、開けっ放しとなっていた扉の中で、私達は発見したエリオット様を救出したので御座います。ですが、マクシミリアン様も私もそれでは満足せずに、惨憺たる光景の屋敷をそのままに急ぎ来た道を帰っていきました」


 そこで、アレルは少しロバートを小休止させる意味でも、素朴な疑問を差し挟む。


「なあ、その時エリオットの奴はロバートと会っているんだよな。なら、何でアイツは昨日ロバートに気付かなかったんだ?」


 しかし、ロバートはどこか面食らった様な表情をして戸惑いを見せる。


「あの、アレル様······それは本気で仰っているので御座いますか?」


「へ? ······あっ、そうか。変装しているんだよな、今は」


 それは至極当然の事で、当時のロバートが変装していないのだとしたら、今の姿はエリオットからすれば全くの別人にしか見えない。だからこそ、エリオットはあの場でランカークスの守り人に関わりがある事を指摘され、知るはずのない人物から言われたので激しく動揺した。

 なんと言えば良いのか、アレルはロバートの話に集中するあまり基本的な事が抜け落ちていた事に気が付く。それには、ロバートもやれやれと軽くため息を吐く。


「お気付きになられたなら、話を戻させて頂きます。それから、私達はエリオット様を連れたままセプルスへと戻りマクシミリアン様の私兵の方々と合流致しました。この時、セプルスに残していた私兵の方々には再びティエルナへ引き返す準備をして頂いてました。ただ、往復には馬が少々足りませんでしたので、残る私兵の数人にエリオット様を預けてマクシミリアン様は再びティエルナへと急いだので御座います」


 つまり、セプルスに私兵を残していたのは足手まといなどではなく、少しでも早くディミトリスへ合流する為にとんぼ返りに必要な準備をさせていたからだった。ただ、アレルは頭に思い浮かべた地図から遠回りさせられていた事に舌打ちする。


「監視さえいなければ、ダリアに向かう必要もないから橋を二つも渡らずに今のクレイル領から公爵領に入れたのにな」


「そうは言いますが、当時は今の様に関がある訳では御座いません。なので、馬の替えを用意しなければならない以上、セプルスを通る事は必須で御座いました」


 ロバートの話から、アレルは馬の利用について考える。ティエルナから乗ってきた馬は、大公からの連絡が届いた地点からセプルスまで全速力で使い潰した。そして、セプルスからは取り敢えずロバートと辺境伯の二人だが、セプルスと公爵領の往路になる。使い潰す訳にはいかなかったから、それなりに速度は落とさざるを得なかっただろう。

 そして、最後は私兵を引き連れての移動なのだが、これも速度を緩めながらでないと馬が潰れてしまう。そう考えると、アレルはティエルナから公爵領までの往復に掛かった日数の概算を出す。


「休み無しとは言っても、戦闘するのを考えると飲まず食わずは無理だな。すると、ティエルナに戻るまで一日半から三日ぐらいか?」


「そうですね、どうにか二日掛からなかったぐらいでしたね」


 そう言うロバートは、本当に僅かだけ表情を暗くする。おそらく、その日数では間に合わなかったのだろうとアレルは考える。それでも、アレルはそんな事を口に出来る訳もなく、ロバートが再び語り出すのを静かに待った。



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