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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百十四話 その未来を憂いて

 考えている様で、どこか稚拙さと杜撰な所も見られる帝国に、アレルはそれも皇帝がコロコロと変わっているせいなのかとも思う。ただ、そんな帝国のせいで大切な存在を失ったロバートの事を考えると、アレルはあまり迂闊な事は口に出来ないなと感じる。

 しかし、そんな事を思うアレルの事など知らずに、ロバートは話を続ける。


「まあ、それでもマクシミリアン様はどうにか引き伸ばしを試みたのですが、禁戦日は数日続くのが通例ですのでそれも限界が御座いました。ただ、そうして引き伸ばしたのもエドガー様の救援を信じたからこそでもあったのですが、先程話した通りエドガー様の交渉は長引いておりました。そのせいもあって、本来ならノインシュタットよりも高位の貴族の上に領主でもあるエドガー様の強権にて、ノインシュタット家の別邸を強制的に調べる事も出来ませんでした。ですので、マクシミリアン様はいっその事と思い立ち、自領に退くと見せかけてそのまま公爵領のノインシュタットの別邸を強襲なさったのです」


「いやいや、そんな事したら辺境伯とノインシュタットで戦になるだろ?」


 アレルの知識では、貴族社会というのは完全な縦社会で、身分の高い低いがそのまま互いの力関係になる。いくらなんでも、当時子爵の辺境伯が侯爵の屋敷を武装したまま押し入るのは、貴族としての在り方までもを問われる様な大問題に発展しかねない。それが、単なる両者間での諍いで終わればまだマシだが、最悪の場合落としどころを間違えれば貴族社会を崩壊させる国民運動に繫がる可能性すらある。

 しかし、アレルがそれらを危惧しているのにも関わらず、ロバートは淡々と語る。


「結果から申しますと、マクシミリアン様の行動は不問とされます。それというのも、オーギュスト様が自らの父を売ったので御座います。まあ、流石に元々エリオット様を拉致する計画があった事まではご存知ではありませんでしたが、帝国と通じていた売国奴として吊し上げマクシミリアン様の行動の正当性を説いたのです」


「······なんか、裏がありそうな話だな」


「まあ、そちらは追々話すとし

て、時は少し遡ってマクシミリアン様が自領へ退くふりをなさる前の事です。エドガー様の方には、船への渡りをつけるという意味で黒羽根を同行させていましたので、その者を通じて我々とエドガー様で情報のやり取りを致しました。その際に、エドガー様とマクシミリアン様にディミトリス様の御三方でお決めになられたのが、それぞれで機を合わせて難所を乗り越えるという事で御座いました」


 『それぞれで』という事は、既に西側に渡ったエドガーは勿論の事、そこからディミトリスと辺境伯も別行動を取った事が判る。ただ、アレルは通信機や創作物でよくある念話などが無い世界で、どのようにして離れた相手との機を合わせるのだろうと疑問に思う。


「なあ、やっぱり連絡手段は羽根の情報網なのか?」


「ええ、エドガー様には同行した黒羽根が、ディミトリス様はご自身が、そしてマクシミリアン様には私が同行する事で三者間でのやり取りを可能と致しました。まあ、具体的な方法に関しては、羽根と言っている事から想像して頂けると助かります」


 羽根、つまりはそこから連想されるものが連絡手段となっているとロバートは暗に示す。普通ならば鳥を連想するところなのだが、アレルの知識では伝書鳩などはあくまで建物や地形を覚える程に強い帰巣本能があるから可能な訳で、それも巣に帰るだけで個々人の間を行ったり来たりは出来ない。

 ただ、ここは元の世界とは違う常識の異世界だ。馬の品種なども、何種か根本的に異なる種が存在したので、元の世界の常識は捨てた方が良いだろうとアレルは判断する。

 しかし、連絡手段が気にならなくなったアレルは、今度はロバートがディミトリスではなく辺境伯に同行したという話の方に引っ掛かりを覚える。ロバートの性格ならば、頑としてディミトリスから離れる気はしないアレルだったが、当時のロバートが子供だった事と前にロバートが漏らした言葉も踏まえてある推測に辿り着く。


「······無理に答える必要はないんだけどさ、ロバートが辺境伯に同行した理由って······」


「······御三方は、互いに信頼してそこから別行動をお取りになられました。そのお考えとしては、マクシミリアン様が可能な限り移動速度を落としながら機を見て即座に方向転換して公爵領へ入り、エリオット様の救出後その足で再びティエルナまで戻られます。その契機とされたのが、エドガー様の交渉の成果で御座います」


 アレルが、無理に話さなくて良いと口にしたからか、ロバートは何も聞かなかった事にして話を続ける。


「その時、マクシミリアン様が本当に撤退したかは帝国に監視されておりました。しかし、そのマクシミリアン様が素直に撤退されてしまえば、用済みとなったエリオット様が殺害される可能性も御座いました。なので、マクシミリアン様は馬を休ませながらいつでも公爵領へ馬を進める準備をされながら移動していました。ただ、帝国がマクシミリアン様の動きだけに注視していればその目論見も見破られてしまいます。なので、帝国の尻に火をつける意味でもエドガー様による西側からの包囲に目処がついてから、エリオット様救出の行動に出る計画で御座いました。但し、帝国側の狙いとしてはティエルナの禁戦日の期間中に動き出したいという腹積もりもあったと考えられたので、全てをその禁戦日中に終える必要がありました。ですが、焦れた帝国がマクシミリアン様の撤退を待たずに神都へ侵攻するかもしれないという懸念も御座いました。······なので、ディミトリス様がその時間稼ぎを担ったのです」


 時間稼ぎ、ロバートはそう口にしたものの、アレルの認識ではそれは撤退時の殿と同義で最も危険な役割のはずだった。ディミトリスがそれを担ったという時点で、ロバートが答えなかったアレルの疑問へ答えが与えられる形となった。


「それに、反対した奴はいなかったのか?」


「それは······致しましたよ、危険過ぎると。しかし、マクシミリアン様はその時何も言わずに難しい顔をしているだけに御座いました。なので、私は一人でディミトリス様が考え直して下さる様に説得を試みました。それでも、ディミトリス様は誰かがやるしかないと、それが出来るのは自分しかいないのだと頑なに私の説得を拒みました。その最中、ディミトリス様は私に対して今生の別れみたいな言葉を伝えてきました。······その内容は割愛させて頂きますが、それを伝え終わったディミトリス様はマクシミリアン様へ目配せを致しました。すると、私の背後にいたマクシミリアン様はすまんと一言だけ口にして、私の意識を刈り取りました」


 その謝罪は、ディミトリスへのものだったのか、それともロバートに対するものだったのか判らない。もしかしたら、両者に対して口にしたのかもしれない。しかし、その辺境伯の行動さえなければ、ロバートは意地でもディミトリスと共にいただろうとアレルは思う。

 それ故に、先程のアレルの疑問の答えではないが、やはりディミトリスは年若いロバートを死地に付き合わせる訳にはいかないと、半ば強引に辺境伯の方へ同行させたのだという事が今の話から判る。そして、その片棒を担いだ辺境伯に対して、ロバートは今も消えないわだかまりを抱いている。

 誰も、何も悪い事はしていない。それにも関わらず悲劇に見舞われ、どうしようもない憎しみとわだかまりに捉われたロバートはその人生を大きく歪めてしまった。ただ、そんな中でも先程自身の想いを取り戻したロバートが、ディミトリスの生前に既に商会へ身を置く決意を固めていた事を思い出した。

 それが、誰にとってのものかは判らないが、この話において僅かばかりの救いの様にアレルには感じられた。


「······その後、ロバートはどうしたんだ?」


「私が意識を取り戻した時には、既に国境付近まで退いていたマクシミリアン様の一団の中にいました。一応、無理をすれば自力で戻れない事は御座いませんでした。······それでも、私はディミトリス様の無事を祈って今は任された事に集中しなければと、自らの心を殺して連絡係に努めました。······でも、そうですね。解りやすくお話しするならば、マクシミリアン様のお話から話した方がアレル様には聞きやすいでしょうね」


 当時を思い出すのか、ロバートはどこか悔しげに話していたが、不意にアレルの存在を思い出したのか、ロバートはフッと力を抜いた様子でそんな事を口にしてくる。

 その姿に、もしかしたらディミトリスの事を話す覚悟が未だ揺らいでいるのかもしれないと感じたアレルは、何か言わねばならないと感じるも何も言えずに首を縦に振る。

 しかし、アレルの反応を確認したロバートの方も直ぐには話し始める事なく、またもや不意に空を見上げるのであった。



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