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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百十三話 悪化する戦況

「さて、確かエリオット様が拉致されたところまでで御座いましたね」


「ああ」


 アレルは返事を返すものの、ロバートが話を再開させようと当時を思い返した際に、僅かだが表情を歪めた事に気が付く。それで、いくら折り合いがついたとは言っても、やはり二十年もの間わだかまりがあったものを直ぐにはどうこう出来ていないのだろうとアレルは思う。

 ただ、アレルにはそれを口に出す気はなく、例えロバートの中に未だ何かが存在していても、それはロバートがまたゆっくりと解きほぐしていけば良いだろうと考える。

 そんなアレルには気付く事なく、ロバートはティエルナ事変の語りに集中する。


「まず、エリオット様の拉致の一報はその護衛を務めていた者から伝えられました。マクシミリアン様が、護衛としてご家族に付けていたのが二人。それも、まさか狙われるなどとは思っていなかったからか、世話係として役割が強かったそうです。拉致の瞬間、その場には奥様もいらしたらしく、賊は最初ナイフを構えて奥様へ向かってきたそうです。当然、護衛の二人は奥様の前に立ち守ろうとしたそうですが、突如賊は方向転換し少し離れていたエリオット様を抱えて逃げていったそうです」


 ロバートは、その護衛の一人が話した内容だからか、自身では見ていない様な話し方で語る。ただ、話を聞いていてアレルは素朴な疑問を抱いてしまう。


「あのさ、四歳って言ってもそれなりに重いだろ? そんなの抱えて、護衛の二人を振り切れたのか?」


「それなら、身体強化でも使えば問題は御座いませんし、事実としてエリオット様は拉致されていますので振り切れたのでしょうね」


「まあ、そうだよな」


 ロバートは、まるでそんな事何か関係がありますかとでも言う様な感じでサラッと答える。それにアレルも、言われてみれば拉致されたという事実の方が重要かと思い直す。


「ただ、拉致されたとはいえルクスタニア側の国境の街には黒羽根も常駐していましたので、どこに向かったのかは直ぐに判明致しました。ですが、その場所が少々厄介でして、賊が逃げ込んだ場所というのがノインシュタット家の別邸だったので御座います。例え、逃げ込んだのが明白でも明らかな証拠もなしに押し入れば、相手は仮にも高位貴族ですからね。無理に押し入った方が、罪とされ首を落とされてしまいます」


「その別邸の場所は?」


「当時の公爵領で、セプルスの橋を渡って直ぐの街で御座います」


 ロバートの返答に、アレルは覚えている現在の地図からその場所を割り出す。


「当時は、カタリナの父親がまだ騎士かなんかやってた頃だし、公国もまだ無かった······って事は、ティエルナから現在のクレイル領を抜けてセプルスの橋を渡れば良いから、それ程離れた場所でもないんだな。今みたいに、国境って訳でもないから橋もすんなり渡れただろうし。でも、なんで公爵領なんかに別邸を買ったんだ?」


「解りませんか? 拉致を計画されたご本人から聞いた話ですが、本来はブルックス領にいるエリオット様を拉致するつもりで購入されたそうですよ。本来の計画では、他にも平民の子供を同時に拉致してどこに誰が運ばれているかを判らなくしてから、エリオット様だけをその別邸に運ぶ算段だったと言われてました。そうして、マクシミリアン様に報告する際には、公爵領で偶然賊を見つけた風を装い賊とエドガー様が通じている様に見せかけ、エドガー様との仲に不和を生じさせようとしたみたいで御座います」


 しれっと話すロバートだったが、そんな計画を立てるのはノインシュタットの前当主しかおらず、そんな事をべらべら話す状況は一つしかないとアレルは思う。しかし、アレルはそこには触れないつもりでいるので、なんとも言えない表情で沈黙を守る。


「そして、この度その計画を大して手を加えずに帝国兵を利用して行ったので御座います。ただ、拉致の首謀者にとって誤算だったのは、帝国兵が真っ直ぐ別邸に向かう程の愚か者であった事と、ディミトリス様がマクシミリアン様の近くにいた事で黒羽根からの情報が直ぐに届いた事でしょうね。まあ、拉致の首謀者の思惑は悉くが潰えた訳ですが、状況は人質が取られた様なもので御座いました。そこへ、更にラガスプにいる帝国側からエリオット様解放の条件を出されたので御座います」


「······いや、そこで自分達がやった事を自ら口にしたのか? 馬鹿なのか? 護衛や、黒羽根からの情報が無ければ、虚言を吐くなって突っぱねられるだけだろ?」


「その通りではあるのですが、状況としては最悪で御座いましたよ」


 アレルは、ロバートの言う最悪な状況というのに、確かにそうだと納得する。

 もし、目の前にエリオットが人質として盾にされていたなら、帝国側はエリオットを殺してしまえば辺境伯を無力化するどころか逆上させてしまう。仮に殺さなくても、辺境伯が一か八かで強引な救出に出るかもしれない緊張感が生まれる。

 だが、実際はエリオットは遠方にて捕らわれており、おそらく戦況を確認して拉致の実行犯に指示を伝える連絡役も戦場近くに潜伏していたのだろう。そのせいで、辺境伯は下手に動く事の出来ない状況に立たされてしまった。つまりは、こちらのエリオット救出の準備が整うまで、大人しく帝国側の要求に従うしかないという状況が作られてしまっている。


「それで、帝国からの条件って何だったんだよ?」


「要求としては、随分と欲のない内容で御座いましたよ。なんせ、マクシミリアン様の部隊を自領まで退かせろという要求だけでしたからね。······その辺りは、帝国側も馬鹿ではありませんでしたね。もし、ここでマクシミリアン様の首でも要求しようものなら、マクシミリアン様は自らの子供より国の防衛を優先し怒り狂いながら帝国兵を皆殺しにしたでしょうから。下手をしたら、マクシミリアン様は、そのまま帝国を滅ぼしに行かれたかもしれません。なので、そういった要求を口にしなかっただけでも、帝国側は利口と言えたでしょうね」


 忌々しいですが、とロバートは言葉尻に呟く。ただ、そこでアレルは一つだけ疑問に思った事があり、それをロバートに訊ねる。


「でも、例え辺境伯が自領まで退いたとしても、まだティエルナの神官騎士が残っているだろ? 一応、計画してただけで実行してなかったんだから、火計を忌避してても流石に自分達を守る為には戦うんじゃないのか?」


「······成る程、アレル様はティエルナ教の禁戦日を知らないので御座いますね」


「禁戦日?」


 聞き覚えのない言葉に、アレルは思わずそのまま訊き返してしまう。しかし、その字面から大体の意味は理解してしまうものの、訊ねたアレルにロバートは丁寧に応える。


「読んで字の如く、ティエルナ教における戦闘行為は疎か武装する事さえも禁ずる日がそう呼ばれて御座います。なんでも、神世の時代に争い合う神々の中最初に不戦を説いたと伝えられるティエルナ神の行いに由来するらしく、敬虔な信徒はその日に教会へ籠り祈りを捧げながら心穏やかに過ごすそうです」


「いやいや、侵略されてるのに心穏やかになんて無理だろ。何考えてんだよ」


 アレルは、自分達の窮地にどこか呑気に感じるティエルナ教徒へ反射的にツッコミを入れてしまう。だが、ロバートはそれを然程気にせずに話を戻してしまう。


「まあ、そういったものが御座いまして、その時運良く禁戦日となった為にマクシミリアン様が退いてしまえば、帝国は神都を攻めるも東側に抜けてルクスタニアを攻めるも自由になるといった具合だったので御座います」


 そこで、ロバートは意味ありげな視線をアレルへと向けてくる。その視線にアレルは、やはり運良くなどと口にしたのはわざとだったのだと思い、自らの直感を口にする。


「解ってるよ。運が良かった訳じゃなくて、帝国はわざわざティエルナの禁戦日を狙って仕掛けてきたんだろ?」


「おそらくではありますがね。ただ、本来なら禁戦日には西側の友好国から神官騎士に代わり神都を防衛する部隊が派遣されるはずなのですが、ラガスプが占領されている為にその部隊は足止めされてしまいます。なので、元々それらを狙った上での進軍だと考えた方が普通かと思われます」


「足止めされるって事は、あくまで建前の部隊であってそこまでの大部隊ではないんだな。全く、帝国って考えてるんだか考えてないんだか、よく判らない国だな」


 もしかしたら、その曖昧さを指して先程のロバートは運良くなどと口にしたのかもしれないと思いつつ、徐々に状況が悪化していく話にアレルは表情を暗くさせるのであった。



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