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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百六話 大陸の病巣

 思えば、まだ一日程度の付き合いしかないが、アレルのロバートへの印象は即断即決即行動といった感じだった。でも、昨日後程話すと口にした事をようやく今になって話すと言う。それにさっきの投擲術に関しても、ロバートの性格ならもっと皮肉があってもおかしくはなかった。にも関わらず、それも無しに大人しくナイフの回収だけに努めていたのは、単純にロバートも悩んでいたのではないかとアレルは思う。

 アレルは触りしか知らないが、今からロバートが話そうとしているのは、ディミトリスが命を落としロバートが辺境伯を憎むに至った話だ。ロバート自身、未だ気持ちの整理がついておらずに、どう話すべきか解っていないのかもしれない。

 そう考えるアレルは、本当に自身がそんな話を聞いて良いのか疑問に感じる。


「あのさ、その話俺なんかが聞いていい話なのか?」


「何故、その様な事を訊かれるのですか?」


 ロバートは、アレルの疑問に質問で返してくる。それに、座り込んだままロバートの顔を見上げているせいか、アレルにはロバートの様子がいつもとは違う様に感じられる。


「いや······なんつうか、無関係の俺が立ち入っていいのかななんて思ってさ」


 その言葉に、顔を僅かにしかめたロバートはどこか遠い目で空を見上げる。


「ディミトリス様は、少々奇特な方でした。ご自身の事なのに、誰かがこうしたいと言ったから、そうしてやりたいと思ったからと、行動する理由に他者の事を持ってくるのですよ。······アレル様は、そういう所が少し似ているので御座います。だからこそ、ディミトリス様の話を聞いて頂きたいのです」


「いや、俺は別に誰かを理由にした事なんて──」


「嘘ですね。アレル様は、今も彼女を守る為に強くなろうとなされていたのではありませんか? まあ、もしかしたらご自身の不甲斐なさなども感じての事かもしれませんが、その根底には彼女がおられるのではありませんか?」


 アレルの言葉を遮り、ロバートはアレルの行動の理由の真ん中にアリシアの存在があるのではと指摘してくる。

 確かに、動機の一つにアリシアの事は関わってるのかもしれない。だけど、誰かを理由に行動する事をその誰かを言い訳にしているみたいに感じるアレルには、ロバートの言葉を否定したい気持ちもある。

 ただ、アリシアへの想いも自覚し始めたアレルはロバートの指摘を完全に否定する事は出来ない。


「······否定はしない」


「あの方は、何も知らない者達からはランカークスの守り人などと英雄として祀り上げられていますが、そんな事は望んでいない方で御座いました。アレル様も、彼女を守って栄達したいという訳ではなく、単に彼女自身の力になってやりたいと思っているとお見受けします」


「······」


 ロバートの言葉に、アレルは何も答えない。それは、言葉にすれば気持ちが軽くなってしまう様な気もするし、何より未だそこまでアリシアに肩入れしている理由をアレル自身がちゃんと理解してはいない。

 ただ、そんなアレルの気持ちを察してか、ロバートは話を別の方向へと進める。


「そういえば、アレル様は記憶喪失という事でしたが、ティエルナ周りの歴史はご存知でしようか?」


「えっと、神都って呼ばれてた頃に侵攻してきた帝国を退ける為に、辺境伯とカタリナの親父さんが戦ってる裏で大公が色々とやっていたなんて話は聞いたけど?」


「では、少し詳しくお教え致しましょう。当時のティエルナの正式名称は神都ティエルナ、そして周辺の渓谷地帯はランカークス領と呼ばれていました。まあ、渓谷と言ってもかなり昔に出来たものなので、今はそれ程渓谷らしさも残っていませんが。ただ、宗教が関わる土地でしたのでどこの国にも支配されない少々特殊な土地柄で御座いました。あと地図からでも解る通り、ランカークスは大陸東方と西方を繋ぐ陸の要衝でした。先程、支配されないと言いましたが、そういう側面もあるので東にとっても西にとってもどこの国にも属さない方が都合が良かったというのもあったのでしょうね」


 ロバートが言う事を、アレルは自分なりに解釈する。

 もしも、どこかの国が当時のランカークスを属領にしたのなら、許可証などで人が、関税などで物資が、東西を往来しづらくなる。それに、軍事的にも要衝となる土地柄国境警備には最も力を入れなくてはならなくなる上に、そこには聖地を訪れる巡礼者も多く集まる。その不特定多数の巡礼者に紛れて、他国の間者なども入り込む可能性がある以上身元の判らない者は通せず、そういったティエルナ教徒の不満を溜めやすい。いずれは、暴動なども起きて鎮圧に武力が必要になる事もあっただろう。

 そうなれば、国内の他の場所の警備が薄くなろうとも、ランカークスへ人手を割かなくてはならなくなり、そこを突かれて軍事侵攻でもされたら堪ったもんじゃない。どの国も、そういった危険性を回避しつつ、関税もティエルナ教へのお布施程度で済む状態の方が好ましかったのだろうと、アレルは考える。


「ところが、二十年前に帝国が西の玄関口である街、ラガスプを武力制圧し実効支配したのを皮切りにティエルナ事変へと事態が推移していったので御座います」


「あのさ、何でそれまでなあなあにしてきた土地に帝国は侵攻してきたんだ?」


「それは、百年前の亜人戦争で大きな労働力であった亜人奴隷を失ってかなりの国力を落としましたからね······その国力を再び奴隷で賄おうと、随分と周辺諸国へ戦いを挑んでいたので御座います。ただ、戦争をするにも物資は必要となります。西側で戦ばかりをしていたのですから、反感を買っている西側からだけでは必要な物資を調達するのも難しかったのでしょう。だからこそ、東への侵攻を始めたのだと考えられます」


「戦争する為に戦争を仕掛けるなんて、不毛過ぎるだろ」


 それは本末転倒も甚だしく、血で血を洗うの言葉通り目的と手段の堂々巡りを繰り返すだけだ。そうして呆れるアレルは、そんな感じでは戦費も賄えず各地で略奪なんかもしていたのだろうと思う。ここまで、色んな人物から帝国の話を聞いていたアレルは、ロバートの話から何となく毛嫌いされていた理由の本質を知る。

 そんなアレルの表情から、何を考えているか察した様子のロバートは苦笑しながらも話を続ける。


「まあ、そんな帝国の愚行がティエルナ事変終結時の各国の協力への一要因となったのは、皮肉が効いているとは思いますね」


「つうか、帝国がそんな状態なら賠償金すら巻き上げる事も出来なかったんじゃないか?」


「戦時賠償の事を、仰っておられるのでしょうか? それなら、どの国も当てになどしては御座いません。何故か、お判りになられますか?」


 アレルは、これまで聞いた話から推測を立てていく。各国が当てにしてない、国としての動きが稚拙な帝国、ついでに暗殺が横行している帝室、その三つからアレルはある意味で当たって欲しくない推測を最初に口にする。


「まさかとは思うが、条約を結んだ皇帝が崩御されたから賠償する必要がないって言ってくるとかか?」


「良く、お判りになられましたね」


 アレルは、ロバートの返答に座り込んだまま盛大にため息をついて項垂れる。ロバートの言う事が正しいなら、皇帝の崩御も踏み倒しを意図した暗殺である為、帝国は最早潰した方が良いのではとアレルは心底思う。

 ただ、それも少し前にアリシアから国家間の条約なんかの関係で難しいとも聞いてるので、アレルは再びため息を吐いてから顔を上げる。


「それさ、完全にしらを切る為に国主の首をすげ替えるついでに国名なんかも変えたりしてないか?」


「ええ、しています。だから、何度も名前の変わるあの国を正式名称で呼ぶ者はおらず、単に帝国と一括りに呼んでいるので御座います。名称が変わろうと、国家体制は疎か国の指針までもが変わらないのですから当然だとは思いますがね」


 その返答に、アレルはうげぇと不快感を示す。しかし、ロバートの方はさてとと区切りの意味で咳払いを一つ入れる。


「話を戻しますと、そうして西側の玄関口を不当に占拠した帝国に対して、東側の玄関口を自領とするルクスタニアは何かしらの対応を迫られる状況になりました。それで、いち早く動かれたのが当時公爵であった大公陛下、同じく子爵であった辺境伯様であり······そこに、ディミトリス様と私もいたので御座います」


 ロバートは、そこまで話すと一旦間をおいてそのまま黙り込んでしまう。

 それにアレルは、ロバートが何を思っているかは解らないが、ここからディミトリスの話が始まるのだと心の準備をするのであった。



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