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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百二話 深淵を覗く

 確かに、黒羽根が町中を彷徨いているならば、守備隊が目を光らせているよりも安全だろう。実際、話してみた感じで言うなら東門の律儀な門番や西門のステパンでギリギリ、正直なところザックには任せたくないといった評価だ。こういう時に限り、黒羽根や商会の存在は助かるが、表立ってアリシアの護衛をさせてしまうと保護される場所を喧伝する事と変わらなくなる為に、結局は影に徹してもらう他ない。

 ただ、ロバートは気兼ねなく休んでもらう為にとは言ってるが、実のところはアリシアの為に黒羽根を集めてくれたのではないかとアレルは思う。それでも、考えようによっては巡り巡ってアリシア達に対する心労を軽減してくれたとも考えられるので、アレルはロバートへ素直に感謝の念を抱く。


「それでは、そろそろ投擲術の手解きを始めていきましょうか」


「ああ、頼む」


 しかし、そうして投擲術の手解きを始めようとしたところに、アレルが見た事の無い人物が中庭へ入ってくる。


「筆頭、遅れて申し訳ありません。頼まれていた品物を、お持ち致しました」


 ただ、その見知らぬ人物はロバートの知り合いというよりも話しぶりから黒羽根の様だったので、アレルはロバートが何かしら頼んでいたのだろうと思う。

 そんなアレルは、邪魔にならない様に少し離れて様子を見るが、見知らぬ人物が手にする革製の箱型ポーチの様なものに目がいく。


「筆頭? そんな呼び方は、許した覚えはありませんが?」


「は、はいっ、すみませんでした! こちら、頼まれた品物です」


 見知らぬ人物は、不愉快な呼称で鋭い殺気を放つロバートに対して頭を下げながら両手で箱型ポーチの様なものを差し出す。その様は、アレルとってはさながらヤンキー物かヤクザ物の切り抜き場面の様に見えてしまい、一体何を持ってきたのかが俄然気になってくる。

 しかし、ロバートは差し出された物を直ぐには受け取らずに、しばらく頭を下げたままの見知らぬ人物を睨みつける。


「全く、辞してからそれなりに経っているというのに、嘆かわしいですね」


「いえ、自分は今でも貴方が筆頭だと思っていますので」


 それでも、見知らぬ黒羽根はロバートの事を慕っている様で、一歩も引く気が無さそうだった。その光景に、レイラとジーナの話からロバートは畏怖されてるものだとばかり思っていたアレルは、ロバートの見方が変わる。

 だが、ロバートは見知らぬ黒羽根に対して、珍しく表情を歪ませてまで不快感を露わにする。


「いい加減にしろ。貴様、それでも黒の一員か?」


 ドスの利いた声で、殺気を込めながら威圧するロバートは普段使わない口調で見知らぬ黒羽根を脅す。それで、見知らぬ黒羽根の方も自らの行いの危うさに気付いたのか、顔を青くさせながら頭を下げたまま後退る。

 そんな見知らぬ黒羽根から、ロバートがその手の箱型ポーチを奪う様にして受け取ると見知らぬ黒羽根はようやく頭を上げる。


「でっ、では、私はこれにて失礼させて頂きます」


「ええ、早々に消えなさい」


 頭を下げる見知らぬ黒羽根に対して、本当に嫌そうな表情を浮かべながら嫌悪を込めた言葉を吐き捨てる。そして、見知らぬ黒羽根は速やかにいなくなると思ったアレルだったが、見知らぬ黒羽根は最後にアレルへ向かっても一礼して中庭から去っていった。


「何だ、あれ?」


「一応、あんなのでもアレル様が朱羽根と知っていますからね。······まあ、最後に一礼していかなければ、あの首を捩じ切ってやりましたが」


「いや、確かにしつこいアイツも悪いけど、そんなに嫌なのか? 筆頭って呼ばれるのは」


 すると、アレルが相手だからなのか、ロバートは諦めたみたいにため息を吐く。


「かつての羽根には、私も含めて三人の実力者がいたので御座います。ただ、残りの二人が少し常識を持たない様な人物であった為に、あの様な不本意な呼ばれ方もしていたのですよ」


「でも、随分と慕われていたみたいじゃないか。だからこそ、そうやって頼んだ物を持ってきたりしてくれるんじゃないのか?」


 アレルがそう言うも、ロバートは何も解っていませんねと言わんばかりに、やれやれと肩を竦める。


「あれは、慕っている訳では御座いません。ただ、既にいない者に期待などをしている実にくだらない妄執とも呼ぶべきものですよ。それよりも、アレル様こちらをどうぞ」


 不愉快な話は終わりだと、ロバートは見知らぬ黒羽根から受け取った物を、その蓋を開けながらアレルへ差し出す。見ると、その中身はアレルが身につけた投げナイフと同様の物だった。中には、横に五本のナイフが並んだものが縦に三列あり、合計で十五本の投げナイフがそこには入っていた。


「これは?」


「これから先、投擲術を身につけても肝心のナイフが四本では心許無いでしょう。ですから、私からの餞別代わりにご用意致しました」


 ロバートはそう言うものの、ポーチの中から投げナイフを一本取り出して的や重ねた木箱のある方へと歩き出す。


「ロバート?」


「そこからでは投げても当たりませんので、初めは近い場所から教えます」


 言外に、アレルの投擲では無理だと言われているのだが、魔神のアンデッドへロバートの鋲を投げた際に真っ直ぐ投げられなかった為に、アレルは文句を言えずにロバートの背に続く。

 そうして、一番手前にある木箱の前で足を止めたロバートは、その木箱の上にポーチを置いてアレルへ振り返る。


「では、まずは持ち方からで御座います。アレル様も、ご自分でナイフをお持ち下さい」


「ああ」


 言われて、アレルは自身の胸の前に斜め掛けになっているナイフ帯から一本手にする。すると、ロバートはアレルに見やすい様に自身の持つナイフを軽く掲げる。


「よろしいでしょうか? まず持ち方ですが、ナイフの刃を指で挟む持ち方、柄と刃を掌で挟む持ち方、柄を持って刃に指を添わせる持ち方、柄だけを数本の指で挟む持ち方と御座います」


 話しながら、ロバートは自身の持つナイフの持ち方を口にした持ち方に次々と変えて見せる。それらを、アレルは見逃す事なく記憶していくが、同時に抱いた疑問を口にする。


「その中から、自分にあったのを選べって事なのか?」


 そのアレルの質問に、何故かロバートはニヤリとしたり顔で笑みを浮かべる。その瞬間、嫌な予感がしたアレルだったが、何か対抗策を講じる前にロバートに先を越されてしまう。


「いえ、アレル様には全てを両手で習得して頂きます」


「はぁ!? 無理だろ、そんなの!」


「無理だと言われても、習得して頂きます。アレル様ならお解りかと思いますが、これから先必ずしも自らが得意とする状況でばかり戦えるとは限りません。ならば、こちらが出来る事はありとあらゆる状況においても、万事遜色無い行動が出来る様に鍛錬する事のみで御座います。可能であるなら、アレル様には投げたナイフの軌道を曲げるところまで習得して頂く所存です」


 そう言って、恭しく頭を下げるロバートの姿に、アレルはようやく本当の意味でレイラとジーナがロバートを恐れていた理由を実感する。そして、ロバートの口にした内容が半日で終わるとは到底思えないアレルは、軽い気持ちで教えを請うた事を後悔する。


「······今、凄く逃げ出したい気分になったんだが?」


「何を仰っているのですか? 教えて欲しいと言ったのは、アレル様ご自身ではありませんか」


 過去の自身の発言に退路を断たれたアレルは、諦めの境地に至り大人しく無言でナイフ投げを多用するであろう左手から持ち方を覚え始める。そして、ただならぬものを薄々感じ始めているアレルは、内心でここがまだまだ地獄の一丁目ですらないのだろうなと肩を落とすのであった。



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