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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 四百話 不可視の術

 頭の回転が悪い、そう自覚したアレルはその根本的な原因を探り始める。

 何故か、今日はどうにもピリッとしない感覚がアレルには感じられていた。アリシアの事に関しても同様で、普段なら不用意に外出させる事なんてなかった。今だって、ここでならある程度気を抜いていても大丈夫な様な、そんな気の緩みとも受け取れる感覚がアレルの中には存在している。

 そこで、やはり今朝の夢が原因なのだろうかと思った瞬間、夢で言われた事がアレルの頭の中でこだまする。


 ──お前なんか、死んじまえッ!


 それに意識が引っ張られたからか、アレルは不意に心にも無い言葉が口をついて出てくる。


「······ヒロ、お前が願わなくてもいつかはそうなる」


 だから憎む事で人生を棒に振るな、とアレルはこの世界にいるならば然程遠くない未来に自分は死ぬという考えの元に、知らない名前の誰かを諭す。

 ただ、そんなアレル自身理解の追いつかない奇行に、輪をかけて理解出来ない人物がアレルの眼の前にはいた。


「アレル様、何を仰られているのですか?」


 ハッとしたアレルは、思わず反射的に右手で自身の口を覆ってしまう。一人の時ならばともかく、異世界人である事を知らないロバートの前で迂闊な事を漏らしてしまったとアレルは焦る。

 しかし、対するロバートは珍しく持ち前の勘の良さがその鋭さを鈍らせる。


「もしや、今朝に見たという夢の話で御座いますか?」


 そもそも、この世界の人間に異世界から人が渡ってくるなんて考え自体がない。それ故に、ロバートは考えうる範囲で思い当たる原因を口にしたのだろうとアレルは思う。

 ただ、完全に的外れとも言えないロバートの言葉に、アレルは乗っかる事にする。


「まあ、そんなとこだな······」


「······失った記憶が、戻りつつあるのでしょうか?」


「どうなんだろな? ただ、そのせいか考えというか、頭の働きが普段よりも悪くてな······タチアナの事も、そんな訳ないのにさ」


 アレルは、自身でも理解出来ない部分に踏み込んで欲しくなくて、タチアナの事を引き合いに話を戻す。対するロバートも、そんなアレルの心情を察してくれたのか、アレルの事には踏み込まずにタチアナの話をし始める。


「そうで御座いますね。あの方の御子息の周りは、一応私も自ら調べてはいるので心配はありませんよ。それより、何故タチアナが蜃気楼なのではないかと思われたのでしょうか?」


「それか······実は、タチアナから旅の途中に生き別れの姉を見掛ける事があれば伝言を伝えてくれって頼まれているんだ。んで、その姉の名前がターニャって言ってさ、俺の知識だとターニャはタチアナの略称とか愛称だったりするから謀られているんじゃってな」


「それで、で御座いますか······」


 ロバートは、フゥっとまるで思い当たる節があるみたいに、軽いため息を吐く。


「なんか知ってるのか?」


「ええ、家族構成とその名前ぐらい調べるのは簡単で御座いますから。結論から言うと、アレル様の心配は杞憂で御座います。タチアナの両親は、姉妹に同じ名前を名付けているのですよ。興味がないにも程がありますが、便宜上姉の方をターニャと呼んでいたのをタチアナはそれが姉の名前だと勘違いしたのでしょう」


 アレルは、タチアナからの話で知った風になっていたが、ロバートからの話を聞いて実際にはもっと酷いものだったのではないかと考える。そんな環境で、唯一の頼りだった姉のいない状況にもめげずに独り立ちして、今では人を愛するまでになっている。

 そこに至るまでに、どれ程苦しんだのだろうか。酷い家庭環境で、血の繋がった家族ですら信じられなかったのだから、最初は他人の事すらも信じられなかっただろう。それにも関わらず、自身みたいな素性の知らない人間に姉への伝言を託せる程の強さを今では持ち得ている。

 それに比べて、たかが夢や失った記憶なんかに振り回されている自分はなんと情けないのだろうとアレルは思う。故に、アレルは自らを奮い立たせて鈍っていた思考に活を入れる。


「本当に、聞いていた以上に酷え両親だな」


「······ご自分で立て直されましたか」


 返す言葉としてはおかしいが、それは朝から無意識下で引きずっていたものを完全に振り切った自身の目を見てのものだろうとアレルは理解する。ただ、それがおかしいのはロバートも承知だった為か、アレルが言葉を返すよりも早く話を続ける。


「では、話を蜃気楼の方へ戻しますが、先程前者と言っていた方が後発と考えられますので後者との間には上下関係があるでしょう。そして、実力主義である暗殺業において、上下関係があるという事はその実力に開きがある事を示して御座います。現に、前者は護衛を無視して標的のみを仕留めるのに対して、後者は護衛の全てを殺してから標的も仕留めていると商会の記録には御座います」


「つまり、後者の方がより厄介な相手って事か」


(ロナとダニーがやり合ったのは、前者の方なんだよな。ロナの口ぶりから察するに、戦う気が無かった所に遭遇したから応戦したという感じだった。それなら、ロナとダニーも本気で戦っていた訳ではないと思うが、それでも二人相手に善戦する様な奴よりも強い奴がもう一人か······厄介なのが増えたもんだな)


 アレルは、最悪なのが蜃気楼が二人同時にアリシアを狙って来た場合だと、その状況になってしまった時も想定する。その場合は、護衛すらも正面から打ち倒す後者をミリアに、搦手が得意そうな前者を自身が受け持つのが妥当かとアレルは考える。

 しかし、戦い方の判っていない後者をミリアに相手させて本当に大丈夫なのかとアレルは自問自答し始める。前者よりも上という事は、前者の使う暗器などにも対応してるかそれ以上に暗器を使いこなしてる可能性がある。別に、ミリアの強さを疑っている訳ではないのだが、ミリアは初見の攻撃に対して対応が遅れる様な所があるのを、アレルは手合わせをしている時に気付いている。シープヒルに入る前夜、体調が思わしくない事も手伝ったがアレルが即座にミリアを負けさせる事が出来たのも、アレルの武器の持ち替えが初見だったというのが大きな要因だ。

 そんな訳で、ミリアに任せるのも気が引けてきたアレルだったが、かといってミリアに暗器を使うのが確定している前者の相手をさせるのも不安が残る。そんなアレルは、更なる不安を抱かずに済むようロバートへ訊ねる。


「なあ、蜃気楼は三人以上いると思うか?」


「いないでしょうね」


 ロバートは、アレルの質問の意図を察してか、ハッキリと断言しながらも続けて理由を話す。


「蜃気楼が使う姿を見えなくする術、昨日もお伝えしましたが私の旧知に似た術を用いる者が御座います。その者が言うには、魔法の適正に加え扱う才覚も必要であり、他にも視覚の問題も御座いますのでそれを補う術も必須となります。なので、それら全ての資質を持ち合わせている者は、世界に三人といないだろうと言っていました。私の旧知に、蜃気楼の二人······これで三人で御座います」


「じゃあ、その話をするきっかけになった、ロバートが宿の前から追い払ったのは何だったんだ?」


 アレルは、ロバートが言う旧知の話をするに至った原因の事を指して訊ねる。盗賊騒ぎを何とかしようと宿を出た際に、先に出ていたロバートが姿の見えない相手を追い払っていた。

 その人物を含めれば、姿を消す術を持つのは四人になるのでないかとアレルは問う。


「······そういえば、いましたね。その様な者も」


「忘れていたのかよ」


「ええ、暗殺者と呼ぶにはあまりにも殺気が薄かったもので、すっかり失念していました。しかし、それで四人となるといい加減それ以上は存在しないでしょうね」


 ロバートは、自らの失念を認めつつも姿を消す術を持つ人間はそれ以上いないと断言する。

 だが、SFなどで光学迷彩などの技術を知るアレルは、何かしらの道具を用いている可能性を口にする。


「なあ、何かしらの魔法が付与された道具を使っている可能性とかってないのか?」


「それは無いですね」


 アレルの質問に、ロバートはほぼ考える時間無しで即座に答える。


「よろしいですか? アレル様の口振りから察するに、アレル様は魔法と魔術の違いをご存知ないと思います」


「ああ」


「先程、アレル様の仰られた何らかの効果を付与された道具というのは確かにありますが、姿を消す術というのは魔法に分類されるもので御座います。一方で、道具という力を媒介させる物質がある時点で、それは魔術に分類されるので御座います」


「つまり、純粋に魔力だけで行えるのが魔法で、何かしらの物質を用いなければ使用出来ないのが魔術って事か?」


 アレルは、ロバートの説明から判る事を口にする。それに、ロバートはフッと笑みを浮かべながら肯定する。


「はい、その通りで御座います。私も詳しい訳では御座いませんが、基本的に魔術の効果は魔法に劣ります。まあ、その分類上魔術に分類される死霊術などの例外も御座いますが、基本的にはという認識でお願いします」


「ああ、昨日のアンデッドなんかも死霊術で骨とかを媒介にしてたから魔術に分類されるけど、魔神のアンデッドの強さは魔法に匹敵してたって事か?」


 その上、周囲に瘴気を振りまいて隷属山羊を出現させ続けるなんて、魔法に劣ると言われているのにチートが過ぎるとアレルは考える。


「ええ、まあ例外の話は置いておくとしまして、基本的に魔法に劣る魔術では姿を消す魔法の再現は不可能です。そうですね、せいぜい可能となって······体の一部、もしくは手にした武器を見えなくする程度かと思います。なので、アレル様の懸念は気にせずともよろしいかと思われます」


「そうか······」


 アレルは、思わぬ所で魔法と魔術の違いを耳にしたが、ロバートの説明では実際の効果を元にしてる分類ではなく、あくまでも発動条件を元にした分類なので例外は思ってる程少なくないかもしれないと考える。

 ただ、それよりも今アレルの頭にあるのは、蜃気楼に対する対抗手段をどうにか用意出来ないかという事だけだった。



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