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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 四十話 優しさと甘さは紙一重

「本当に、あなたって面白い人ねぇ」


 何故か、アレルの身構えた様を見て、再び目を細めたパメラは何事も無かったかの様に振る舞う。

 パメラが一瞬だけ見せた雰囲気に、何かあるのではと思ったアレルだったが、肩透かしを食らって呆然とする。


「いや、お前······まあ、いいか。ちなみに、さっきの言葉がどういう意味か訊いてもいいか?」


「それってぇ、ロナの事じゃなくて、私があなたを面白いって言った事ぉ?」


「いや、どっちみち話したくない事は話す気ないんだろ? 話せる事だけでいい」


 そこまで言ったところで、アレルは自身がパメラに肩透かしを食らった理由を知る。


 アレルは、その視界に捉えたことで気が付けたが、外から帰ったロナが音も立てずに気配すら消して、パメラの死角から近づいていた。

 もし、パメラがロナの接近に気が付いて態度を戻したのだとしたら、元傭兵のそれも暗器使いだったロナの気配にいち早く気付いた事になる。

 そんな、パメラの底知れない部分に触れ、アレルは再び警戒心が鎌首をもたげそうになる。


 だが、そのアレルの心情にすら気付いたのか、パメラがアレルにしか聞こえない程の小声で話し掛ける。


「香水よぉ」


「は?」


「あなたはぁ、男の人だから鈍感かもしれないけど、ロナちゃんには接客の時には必要だってぇ、特別な香水をつけるように言ってあるのぉ」


 それで、アレルはパメラがいち早くロナの接近に気が付いた理由に合点がいく。

 匂いに関して、男性よりも女性の方がかなり敏感で、元々女性は匂いで色々と判断する能力があるが故だと、どこかで聞いた事をアレルは思い出す。

 つまり、パメラは男性だと気付けないが、女性である自分ならば気付ける程度の香気の香水をロナに使わせる事で、本来気付けないロナの接近に気が付ける様にしていたのだった。


 そして、パメラはアレルが納得した気配を感じ取ると、何事もなかったかのように話の続きを始める。


「ん〜とねぇ、人柄は良いのは勿論なんだけどぉ、頭が回るってところも評価が高いわねぇ。後はぁ、結構警戒心が強いのも良いんだけど、変な部分で隙があって無防備なところがあるっていうのがぁ、私の保護欲を刺激してくるって事かしらぁ」


「グッ······」


 ただでさえ、パメラの切り替えの速さに振り回されているのに、自身が気にしている事をからかわれたアレルは思わず歯噛みしてしまう。

 そんな反応に満足しているのか、パメラはニマ〜っとした笑みを浮かべながら、アレルをじっくり観察するみたいに腰を曲げて、その顔を下から覗き込む。

 しかし、アレルの視線はそんなパメラではなく、その後方へと向けられていた。


「······今、頭を上げない方がいいぞ」


「ん〜?」


 そうして、続くアレルの反応を面白がってウキウキした様子を見せていたパメラだったが、予想外の言葉に思わず頭を上げてしまう。

 次の瞬間────


 ──ッコォォォォン!!


「アンタは、アタイがいない間に何やってんだい!!」


「いったぁ〜い!?」


 と、軽い金属音の残響とロナの怒号、それとパメラの絶叫が辺りに木霊する。

 さしものパメラでも、香気では正確な位置までは把握出来なかったのか、ミニパン片手に忍び寄るロナには気付いていなかった。

 そして、おそらくアレルとパメラの会話の最後しか聞こえていなかったロナは、パメラがアレルを口説いていると勘違いして迷わずその手のミニパンを振るったのだった。


「ロナぁ〜、酷いよぉ。そんなに何度も頭を叩かれるとぉ、本当にバカになるからやめてぇ」


「そうかい。アンタが、バカになるって言うなら、一周回ってマトモになりそうだからちょうど良いじゃないか」


 頭を叩かれ、その頭を擦りながらへたり込むパメラに、ロナは冷ややかな言葉を吐き捨てる。

 その上、ロナは何ならもう二発ぐらい叩いてやろうかとでも言いたげに、その手のミニパンを素振りする。


 そんな二人の様子に、パメラから異母姉妹と聞いているせいか、アレルにはそれが不思議とただのじゃれあいにしか見えなかった。

 そこに、ふとロナが素振りをしたままアレルに顔を向けてくる。


「それで、必要なものの発注は済んだのかい?」


「ああ、代金をまだ渡していないけど、俺の方で何か不備がなければ······な」


 そう言って、アレルは未だへたり込むパメラに確認の視線を送る。


「大丈夫よぉ。後で何かあっても、私の方で上手くやっておくからぁ。······それにしてもぉ、まだジンジンしてるよぉ」


 受け答えをしながらも、パメラはへたり込んだまま頭を擦り続けた上に、涙目で持続する痛みを訴える。

 その様子から察するに、パメラの妹愛を以てしても、フライパンの攻撃力には耐えきれなかったみたいだった。


「アンタは、本当にしょうがないねぇ。ダニーならビクともしないのに」


「アレと一緒にしないでぇッ

!!」


 どうやら、パメラでも······というか、どこかダニーを嫌っている感じを匂わせるパメラだからこそ、アレルが出会ってから初めて声を荒げて憤慨する。


(ハハ······というか、ダニーはそのフライパンを歪ませて尚、高笑いしていたからな。嫌っている上に、そんなのと一緒にされれば流石に起こるよな)


 パメラの心情を察しながらも、今までパメラにいいようにされたからか、アレルはそんなパメラを気遣う言葉を掛けたりはしない。

 しかし、その報いなのか、アレルの脳裏に笑顔で胸筋をピクつかせるスキンヘッドモンスターが浮かぶ。その時の情景を振り返ったせいだと、アレルはそのイメージを振り払う為に、頭の上を払う様な仕草をする。


「それで、アレルさんはこの後どうするんだい?」


 すると、膨れっ面をして涙目で非難の眼差しを向けているパメラを無視して、ロナがアレルにこの後の予定を訊ねてくる。


「ん? ······そうだな、あとは調理器具やら毛布とか野営に必要な物を揃えに行こうと思ってる」


「その程度ならぁ、ウチでもあつかっているわよぉ。どんなものが欲しいのぉ?」


 アレルの言葉に、ロナではなく未だへたり込んだままのパメラが反応する。


「あ〜······包丁にまな板、鍋にフライパンにそれらを火にかける際に使う······持ち運び出来るかまどみたいな物があれば、それを。それから、蒸籠に······出来れば、気密性が高くて蓋の上に炭を乗せると、中に対して万遍なく熱を加える事が出来る鍋とかないか?」


 その言葉に、パメラは黙り込んで考えている様な仕草をする。

 その代わりに、ロナがアレルの肩をちょんちょんとつつく。


「フライパンなら、持っていくかい?」


 アレルが振り向くと、ロナはパメラを叩いたミニパンをくるくると回しながら、冗談半分で訊いてくる。

 それが視界に入ったのか、パメラは考えながらも自衛の為、自身の頭を庇うように両手で覆い隠す。


「いや、武器として使っているものは流石にな······」


 それに、ロナはそりゃそうかと、笑いながらミニパンを背中に仕舞う。

 そして、アレルはへたり込んだまま思案しているパメラに視線を向ける。


「で、やっぱり駄目か?」


「う〜ん、たぶん似たようなものなら、ウチと契約している工房が作っていたはずよぉ。それでも良いのぉ?」


「まあ、希望が全部通るとは思ってなかったから構わない」


「わかったわぁ。てもぉ、可能な限り要望に添えるように私から工房に伝えておくわねぇ」


「ありがとう、助かるよ」


 アレルは、パメラへの感謝を口にすると、へたり込んだままのパメラにウッカリ手を差し出してしまう。

 すると、ロナがあちゃ〜と手のひらで顔を覆いながら天を仰ぐ。それと同時に、パメラは待ってましたと言わんばかりに目を光らせ、両手でアレルの手を取ると喜々として立ち上がったのだった。


「本当、こういうところよねぇ」


「は?」


「ハァ······アレルさん、パメラの奴はアレルさんならそうして手を差し伸ばしてくれると思って、ずっとへたり込んだままだったんだよ」


 ロナは、状況が掴めずに困惑するアレルに、パメラの思惑を説明する。


「私は違うけどぉ、今みたいな隙······優しさをヘタに見せると容赦なくつけ込んでくる娘もいるから、気をつけなきゃ、ダ・メ・よぉ」


 パメラは、ダメよぉと言うのに合わせて左右に一度ずつ指を振り、最後にアレルにその指先を向ける。

 その言葉に、アレルは自身の隙を突いて妙な提案をしてきた、メリルの顔を思い出して表情を曇らせる。


「······これからは、気を付ける」


「あれ? もしかして──」


「手遅れぇ?」


 ロナにパメラと、アレルの反応を見て、リレーの様に言葉を繋げる。

 当のアレルは、二人の言葉に深いため息を吐いてから、改めて口を開く。


「そうはならないように、祈ってる」


 そうして項垂れるアレルに、ロナとパメラは顔を見合わせてからアハハと揃って苦笑いを浮かべる。

 アレルは、自身の迂闊さに辟易しながらも、この先は本当に気を付けようと心に決めた。


 ただ、こういうものは自身でいくら気を付けようとどうにかなるものではない事を、アレルはまだ知らなかった。



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