一章〜拠り所〜 三十九話 番要らず
アレルは、パメラの決めポーズに反吐が出そうになりながらも、人の秘密を勝手に誰かに話したりする趣味なんて無いので、頷く事で了承する。
「解ったから、薪の話をしてくれないか?」
そう言うアレルに、パメラは嘘がないかを確かめる様に、アレルの瞳の奥を探るように見詰める。
そうして満足すると、パメラはコホンと小さく咳払いをする。
「え〜、昔々あるところに──」
「気合入れて話し始めたところで悪いとは思うが、手っ取り早くかいつまんで話してくれないか?」
と、長々話そうとしたパメラを遮り、アレルはなるべく情報量が少なく済むように頼む。
すると、パメラは本気ではないのが判る程度に、頬を膨らませて不満げにする。
「ぶぅ〜、せっかくパメラちゃんが、懇切丁寧に言い伝えから話してあげようとしたのにぃ」
「悪いけど、まだこの後にもやらなきゃいけない事があるんだよ」
(そもそも、アリシア達の宿を探し始めたところで、目に入ったロナの店に立ち寄った流れで現在に至る訳で、どちらかといえば宿探しを先にしたい気持ちすらある)
そんな風にアレルが思っていると、パメラが人差し指を口元に当てて視線を上に向ける。
それから、満面の笑みでアレルの事を見る。
「ってな訳でぇ、その薪があれば荷物が減らせるのよぉ」
「は?」
「ん〜? 手短にって言ったのは、あなたでしょ〜?」
つまり、かいつまんでと言われた事に思う所があったパメラは、結論だけを語るという極端な方法でその不満を訴える事にした。
この時、イラつきが先にきたせいでアレルは気付いていないが、ロナの事からも判る通りこんな回りくどい事をわざわざするのは、パメラなりの歓迎とも受け取れる。
結論、色々とあり過ぎて何がどう判断されたのか判らないが、ここに来てようやくアレルはパメラの信用を勝ち得たという訳だった。
「あのなぁ! いくらなんでも端折り過ぎだろ? 出来れば、全体を万遍なく均等に簡潔に頼む。······まったく、何の脈絡もなく俺の時間だけスキップでも食らったのかと思ったじゃねえか」
訂正すると共に、アレルはパメラの突飛な行動に文句を言う。
ただ、ここで大人しく従うパメラではない。
「じゃあ、話すわねぇ。え〜、昔々あるところに──」
「って、オイッ! さっきと同じじゃねえかッ!?」
「ん〜?」
と、パメラはアレルのツッコミに対して、人差し指を口元に当てて小首を傾げる。
そんな、先程のなぞり直しの様なやり取りに嫌気が差したアレルは、パメラに背中を向ける。
「もういい、帰る」
「ダメダメぇ! それされたら、私がロナちゃんに口聞いてもらえなくなるからぁ! ちゃんと説明するから、帰らないでぇ!」
スタスタと、そのまま外に歩いて行こうとしたアレルを、パメラはそう言いながら咄嗟にアレルの腕を引っ張って引き留める。
それに、アレルは嫌々ながらもパメラに振り向く。
「······次、やったら殴るからな」
そう言って、アレルはパメラに見えるように握り拳を作る。
だが、当のパメラはアレルが足を止めた事だけを良しとし、アレルの脅しにはウフフと満面の笑みを返す。
「あらぁ、それは望むところよぉ」
「······なんか、お前と話しているとやけに疲れる」
そういえば、妹に叩かれて喜ぶ変態だったと、アレルはガックリと肩を落とす。
対して、逃げられないようにしっかりとアレルの腕を掴みながら、パメラはニッコリと笑う。
「そう? 私はぁ、楽しいわよぉ」
「だろうなッ!」
そうして、アレルの文句を聞き流したままパメラは元の位置までアレルを引っ張り戻すと、ようやくアレルが聞きたかった話をし始める。
······アレルの腕を掴んだままで。
「えっとぉ、簡潔にで良いのよねぇ?」
「······ああ。一応言っとくけど、お前に対する信用は地に落ちてるからな」
嫌々答えながら、アレルは訝しげな視線でパメラを射抜く。
それに、パメラは少し頬を膨らませながらも、アレルが腕を振り解こうとしているのを感じて、一転して笑顔を取り繕う。
「もう〜、私だってもうやらないわよぉ。始まりは、メルキアの錬金術師の研究がそうだったらしいのぉ」
「お、おう」
突如として始まった話に、アレルはパメラの切り替えの速さに戸惑うも、その隙に掴まれていた腕を振り解く。
それを、すかさず再度掴もうとしたパメラだったが、一拍早くアレルは腕を組んでそれを防ぐ。
それが悔しいのか、アレルをにらむパメラだったが、話だけはそのまま続ける。
「······本当はぁ、別のものが創りたかったらしいんだけど、その錬金術師が創った木はとても燃焼効率が良かったのよぉ。それでもぉ、錬金術師は失敗作としてその木を破棄しようとしていたんだけどぉ、当時のウチの商会がそれを買い取ったのねぇ。それを今はぁ、ある地方で秘密裏に栽培しててぇ、『番要らずの薪』って言って売っているのよぉ」
「番要らず?」
「そうよぉ。一度火に焚べればぁ、新たに薪を足さなくても一晩くらい燃え続ける事から、そう呼ばれているわぁ」
そうして、説明が終わると同時に、パメラはとても残念そうにもう一度アレルの腕を掴む事を諦める。
それと合わせて、商品説明の方もようやく終わったかと、アレルは安堵のため息を吐く。
「······それで、それは売ってもらえるのか?」
「ええ、大丈夫よぉ。ただねぇ、どうしてウチがそれを大々的に売り出さないかぁ、理由判るかしらぁ?」
その問い掛けに、アレルは組んだ腕から右手を顎に伸ばして、思考を巡らせ始める。
(宣伝しない理由か······最初に思い浮かぶのは、知られて困るもの──欠陥品ってことだな。でも、話を聞いた限りそんな欠陥は無い様に感じた。だとすると、欠陥は商品の方ではなくて客側にあるのか? 薪を使う状況······料理人、暖炉、野営······暖炉ならともかく、料理人と野営だと都合が悪い状況もあるな。そうなると、一番の問題は──)
「······そもそもの需要が少ないからか?」
そのアレルの呟きに、パメラはニンマリと笑みを浮かべる。
「どうして、そう思ったのぉ?」
「ああ、薪を使う状況を考えると、都合が良いのが暖炉で使う時か野営の火の番ぐらいしかない。ただ、暖炉は冬にしか使わないだろうし、野営だって一人でなければ使う必要がない。その条件で購入する人間を考えると、護衛も無しに一人で移動している旅商人、それもどこかで野宿する様なヤツで盗賊も恐れない人物。それぐらいかな」
「どうしてぇ、旅商人なのぉ?」
「薪なんて、馬車がなければ持ってかないだろ? そもそも、一人なら馬に乗った方が早い。だから、条件に当てはまるのが旅商人ぐらいしか思いつかなかった」
(料理は、火加減が重要だから燃え続ける薪なんて、邪魔になりかねないからな)
アレルがそう締め括ると、パメラはウンウンと満足そうに頷く。
「ほとんど正解よぉ。凄いわねぇ」
「嘘こけ。本当は、売り物じゃないんだろ? 秘密裏にとか言ってたし、商材としてだとこんな利益の出ない物を抱えている理由がない」
すると、アレルの言葉が真に迫っていたのか、パメラは普段細めている目をゆっくりと見開く。
「······なんか、ロナちゃんがあなたを気に入った理由が解った気がするわ」
何故か、そう言って勝手に納得するパメラに、アレルは変化した雰囲気に呑まれないように身構える。
そうして、アレルはパメラの続く言葉を待った。




