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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 三十三話 問屋を求めて

「いいって、そのまま手間賃として受け取ってくれよ。それと、一応言っておくが俺だって誰彼構わず金を預けたりしないからな」


 お釣りとして、アレルが金子袋にしまったのは、銀貨六十五枚と小銀貨七枚に大銅貨二枚。ロナが銀貨一枚持っているので、本来銀貨は六十六枚。

 つまり、支払いと合わせて金貨一枚が銀貨百枚相当。他が、一つ下位の硬貨十枚相当という事になる。

 それに加えて、ロナが呟いていたエクルという通貨単位に換算すると、銀貨一枚が十万エクルとなる。


(つーか、計算している時に僅かに悩んでいる様な気配あったからな、どっかでロナが気持ちだけの値引きしていたのは明白。だから、銀貨一枚ぐらいちょろまかしてくれるぐらいでちょうど良いんだよ)


 そもそも金銭に関して、この世界の硬貨価値観を持ち合わせていないアレルにとって、ゲーム内での金銭と同程度の感覚しかなく、現実味がまだない。

 故に、なんなら金貨でも構わないところだが、それではロナが困惑するだろうと思い、銀貨一枚で引き下がる。


「いや、でもさ······まあ、ここは好意に甘えて受け取っておくよ。そういえば、この後は何か用があるのかい?」


 ロナは、受け取る受け取らないで逡巡していた様だが、何食わぬ顔をしているアレルを見て、受け取る事を決めた様だった。

 それで、このまま終わるのも何かと思ったのか、ロナはアレルにこの後の予定を訊ねる。


「この後······か。そうだな、問屋で三日から五日ぐらいの食料と水の手配と、工業区の方で野営道具の調達をしようかと思っている」


「馬車でもあるのかい? それで、なるべく宿を取らずに野営で通すつもりって事?」


「まあ、可能な限りな」


 アレルの言葉に、ロナはしばらく考え込む。


「······うん、分かった。アタイが一緒に付き合ってあげるよ。知り合いの······まあ、少しクセが強いヤツだけどソイツの店もあるし、場所も案内出来るからね。さすがに手間賃に銀貨は貰いすぎだし、騙されたりはしないだろうけどアレルさんは人が良いから心配だしね」


 ロナは、軽く胸を張ってウインクしながら、アレルの了承を得ずに勝手に決めてしまう。


「いや、確かに不慣れなのは認めるけど、食料と水の必要な人数は──」


「三人分······いや、アレルさんも入れて四人分だろ? 加工の樽が三つだけど、馬車なら一人はねえ?」


 そう言ってロナは、全部言わなくても良いだろうとでも言いたげな笑みを浮かべる。

 樽が三人分、馬車移動で三人が訳ありだと仮定すると、最低一人は御者台にいなければ動かす人間のいない不審な馬車となる。

 要は、隠れる人間が三人いるなら、もう一人馬車に残る人間が必要なのは明白だった。


 大樽の事を話した時点で、これぐらい伝わってしまう事を承知していたアレルは、ロナの指摘を否定したり誤魔化す事はしない。


「そうだ······まあ、もう信頼を預けているから、何を知られようと構わないしな」


「じゃあ、決まりだね。少し待ってて、店を閉めてダニーに言ってくるから」


 言いながら、スタスタとロナは出入り口に向かい、たぶん準備中とでも書かれた札を表に出して、それから扉の施錠を行う。

 そして、直ぐに踵を返してアレルの横を通り過ぎると、首だけでアレルな振り返る。


「じゃ、ダニーに言ってくるから」


 そう言うロナに、アレルは素朴な疑問をぶつける。


「今更だけど、店を閉めても良いのか?」


「ん〜、もう昼は過ぎたし夕時でもないしね、この時間は客足はあまり無いんだよ。装備の新調は、出立前の午前中が多いし、売れ時はとうに過ぎてるんだよ。だから、今の時間帯は一人二人来ればいい方で、後は日暮れに街に入った人とか帰ってきた人が、装備の補修や買い替えをしに来る時間帯に開けとけば良いからね」


 それだけ言って、ロナは再び奥へと歩いて行ってしまう。


「なら、良いけど」


 そんなロナの背中に、アレルは呟く。


(まあ、個人経営だし常に店が開いているなんてのは、日本の常識だしな。というか、ランチタイムが終わると一時的に閉める店もあるし、変でもないんだよな。······ゲームとかだと、剣一本で宿代の百倍とかするのもあったはずだし、そんなに人が来なくても売上は出るんだろうな)


 ロナが店の奥へと消えてから、アレルがそんな事ばかりを考えていると、そこへ再びロナが奥から戻ってくる。


「それじゃ、行こうか」


「ダニーは何て?」


 その言葉に、エプロンを脱いでカウンターに置いていたロナは、深いため息を吐く。


「······アタイが、アレルさんの買い物に付き合ってくるって言ったら、アイツ何て言ったと思う?」


「いや、それを訊いていたんだが?」


 アレルの、当たり前の反応に、ロナは再び深いため息を吐く。


「······おうって、一言だけだよ。そりゃあさ、期待なんてしてなかったけどさ、他の男と買い物に行くってなったらもう少し何かあってもさぁ」


 少しは嫉妬してくれたりを期待していたのか、ロナは実に不満そうにむくれながら拗ねてみせる。

 少なくとも、ダニーのロナを想う気持ちの一端を知るアレルは、多少のフォローはしないとと説得を試みる。


「集中していただけだろ? じゃなければ、妬いているのを悟られたくなくて敢えて素っ気なくしてたんだよ。男のプライドってヤツで」


 アレルは、あくまでも一般的な男の気持ちを代弁するといった体で、ロナに語る。


「むぅ······まあ、いいけど。じゃあ、表は閉めているから勝手口の方へ回ってよ。こっちだから」


 すると、渋々といった感じで体を起こしたロナは、案内する為にアレルを手招きしてカウンターの奥に歩いていく。

 そんなロナについていくと、直ぐに勝手口が見えて、先に出るロナに続いてアレルも勝手口から路地へと出ていく。

 そして、大通りに出た所でアレルが訊ねる。


「それで、どこに行くんだ?」


「アタイ達が、コルトで店を出す時に色々と世話してくれたヤツがいる商会で、そこならマーケットとは違って種類も量も大体揃うと思うよ」


「大通り沿いにあるのか?」


「いや、アタイの店から大通りを挟んで向こうの区画にあるんだよ。ついでに言うと、いまから行くのは商会が持っている倉庫みたいな所かな。······まあ、そこにいるヤツが本当にクセが強くてね。アタイに、接客のやり方を仕込んだのもソイツなんだけど、嫌だと思ったら逃げて良いからね、アレルさん」


「どんな奴なんだよ、それ?」


 ダニーですら、丸ごと愛せてしまうロナが、ここまで言う人物という事でアレルは警戒心を限界まで引き上げる。

 それから、ロナに詳細を訊こうとしたアレルだったが、そのタイミングで邪魔が入る。


「おーいロナちゃん、やっと筋肉バカ見限って、まともな男を捕まえたのか〜?」


 と、商会に向かって歩く二人に、少し離れた店先からロナに声を掛けてくる人物が現れる。

 見ると、茶化しているのはどうやらロナとダニーの夫婦と付き合いがある人物の様で、悪意ではなく挨拶の一種として絡んできたみたいだった。


「違いますよ〜。この人はウチのお客さんで、街の案内を頼まれただけですよ〜。私は、ダニー一筋ですから〜」


 それに対し、ロナは瞬時に表情を柔らかくして、ピョコピョコと可愛らしく跳ねながら応じる。

 アレルは、その変わり身の速さに正直驚く。


「っかあ〜! ほんと、ロナちゃんは男の趣味だけは良くねぇな。なあ、隣の兄ちゃんもそう思うだろ?」


 すると、二人が店の前まで来たところで、知り合いの男はロナでなくアレルに矛先を向ける事で、更にロナに絡もうとしてくる。

 しかし、知り合いの男にとってそれは悪手でしかなかった。


「いや、俺はロナの見る目は確かだと思っているよ」


 少なくとも、アレルはダニーの誠実さと不器用なまでのロナへの想いを知っている。

 だから、こんなところで絡んでくる奴に加担する理由はまるでない。


「はぁ!? 兄ちゃんもかよ!? ······もういいや、行くとこあんなら早く行きな。またな、ロナちゃん」


 当てが外れた男は、アレルが先を急ぐ為にそう答えたのだと勘違いしたのか、まるで追い払うように送り出す。

 しかし、そんな男にもロナは笑顔を絶やす事なく、頭を下げつつ歩いていく。


「はい、それでは失礼しますね〜」


 そんなロナの後ろに続き、アレルは男に対して会釈して通り過ぎる。


「いつもは、あんな感じなのか?」


 アレルは、周りに聞かれないように小さな声で話しかける。


「まあ、元傭兵なんて知られたくないからね。······それより、アレルさんこそ本当はダニーの事、良いだなんて思ってないだろう?」


 ロナは、アレルがダニーと話していた事を知らない為か、アレルが語った事が信じられない様だった。

 だが、アレルは首を横に振る。


「いや、本心だよ。筋肉に関しては何も言いたくはないが、それ以外のところは不器用なりに一本筋が通っていて、俺も見習うべき部分があった。小器用に、色々誤魔化したりするような奴よりよっぽど信頼出来るよ」


 そうして、アレルはただロナの疑いを否定するだけでなく、素直にダニーの本質的な部分を褒める。

 それに、ロナの歩みが僅かに緩む。


「そ、そうかい? なんか、その······ありがと」


 思ってもなかった言葉に、ロナはまるで自分が褒められたかの様に頬を朱に染める。

 ただし、そんなロナを見る事なく、視線を上へと向けたアレルは不意に呟く。


「······それでも、筋肉のマイナスがあまりにもデカ過ぎるんだよな」


「うん······それは、アタイも認めるよ」


 その呟きに、ロナはガックリと項垂れてしまう。

 そうして、歩みまで止めてしまったロナを気にはしつつ、アレルは周囲を見渡す。


 窓に、ハンカチが挟まっている宿はないかと。



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